51 / 54
『拓郎との約束とルインのダンス』
しおりを挟む
魔王との決戦が終幕し、勝ち取った平穏を享受し少し経ったころ。俺のスマホへと一つのラインが届いた。
『煉太、そろそろ動画制作しようぜ!』
見て見ぬフリをしそうになったが、送り主の拓郎には返しきれない借りがある。仕事が始まればどのみち手伝えないので、今のうちに協力しておくのが吉だろう。
今日中にでも可能なのかと返信すると、すぐに既読がついて「おう!」と勢いのいい返事がきた。今は午前の九時ぐらいなので、上手く立ち回れば昼食時に切り上げることも可能だろう。
「エリシャ、ルイン。急だけどちょっと拓郎のとこに行ってくる」
一緒に日本語学習していた二人に言い、俺は外着へと着替えていった。すると玄関口の方までルインが来て、拓郎の元で何をやるのか質問してきた。
「たぶんだけど、前見た創作ダンス撮影とかじゃねぇかな。ほら、初めて図書館に行った時に金髪の奴がくねくね踊ってただろ?」
「ダンス撮影……、ルインも見に行っていい?」
「うーん。ダメってことはないけど、たぶんルインにはつまらないぞ?」
「いいよ。それに拓郎さんに、まだ感謝を伝えてなかったから」
雪の日の救出劇の時は、ルインは疲れて眠ってしまっていた。そういうことならばと、俺はルインも連れて行くことにした。
(まぁ、今日の撮影場所は前回見た図書館の敷地らしいから。飽きたらルインにはそっちで時間を潰してもらうのも一応可能だしな)
念のためエリシャにも詳しい事情を相談し、最終的に皆で出かけることになった。拓郎からのラインは「ギャラリーは大歓迎だぜ!」というもので、むしろ大人数の方が嬉しそうだった。
「それじゃあ終わったら、今日こそ喫茶店で美味しいものを食べるか」
「うん!」
嬉しそうなルインと手を繋ぎ、俺たちは三人で外へと繰り出した。
俺たちが図書館前に到着すると、拓郎はすでに準備を済ませて待っていた。
「よう、煉太! こっちだこっち!」
拓郎は歩いてくる俺たちへ向け、元気よく腕をブンブン振るっていた。近くまで行くとセットしていたカメラから離れ、何故か俺の隣にいるエリシャを見てピタリと止まった。
「やばっ……、昼間に見るエリシャさんめっちゃ綺麗やん……」
急に髪をセットし始め、顔に冷や汗を浮かべ、拓郎はギクシャクした動きで近づいてきた。
「おっ……、おはようございます。エリシャさんの方も……、ご機嫌麗しゅう」
大げさに腕を振り上げ、それを恭しいお辞儀と共に振り下ろしていた。身体のぎこちなさも相まってかなり変な動きで、俺は初めて見る拓郎のキモイ姿に「突然どうした」と疑問を投げた。
「……いやさ、改めて見てみると美人過ぎて、変なテンションになっちまった。俺も異世界に行けば、あんの子をモノにできるのか?」
「頑張り次第だな。分かってると思うが、エリシャは俺の嫁だから色目は使うなよ」
「うげ、自信ねぇ……」
顔を突き合わせてヒソヒソ話をしていると、エリシャとルインが不思議そうに俺たちを見ていた。一旦話し合いを打ち切り、本題の撮影をすることに決めた。
「それじゃあ俺は、そこのカメラでお前を撮ればいいのか?」
拓郎が用意していたビデオカメラは結構デカい奴で、相場に詳しくない俺でも高そうだと分かった。話を聞くと値段は十万越えしているらしく、想像以上に配信業へ力を入れているのだなと感心した。
(こんな立派な奴だと、なんかやる気が湧いてくるな)
子供心的な思いがくすぐられ、俺は早速拓郎にカメラの使い方を聞いた。だが返ってきた返答は、俺の湧き上がってきたやる気を一瞬で元に戻すものだった。
「……まぁ、それは持ってきただけで、今日は使わないだよね」
「は?」
「いやぁ、買ったはいいんだけど。操作が複雑でまだ使い方がよく分かってないんだよねぇ。おいおい使えるようにするから、今日はスマホでやろうぜ!」
ポカンとする俺の手に、拓郎のスマホがポンと置かれた。俺は横目で高級感溢れるビデオカメラを見つめ、もう一度手元のスマホに視線を戻した。
(…………うん、まぁ。別にいいけどさ)
そもそも何故持ってきたのだという疑問はあったが、理由はただ自慢したかっただけだろうと察し辞めた。
エリシャとルインは木陰にレジャーシートを広げ、少し離れた位置で俺たちを見守ってくれていた。俺と拓郎は二人や通りすがりの人たちに見られながら、目的だったダンス撮影を開始することとなった。
「―――どうだ、煉太! 今のめっちゃ決まってただろ⁉」
「うーん……たぶん」
「あっ、でももう一回やりたくなってきた! 悪いけどもう一回撮影頼むぜ!」
「…………おう」
一通りダンスが終わり、拓郎はビシッと決めポーズを取った。俺は「いいんじゃないか」と精いっぱいの返事をし、内心でこれまでと今のダンスのことを考えた。
(……なんだこのダンスは? 盆尾通り? パラパラ? フラダンス? なんですべて動きに、くねくねした動作があるんだ……?)
やはり常人には理解しえないものなのだろうか。
一つだけ凄いと思ったのは、一見バラバラな動きにちゃんと連続性のようなものが見い出せたことだ。拓郎が創作ダンスを始めたのは中学生ごろかららしいので、本人的には完成したものなのかもしれない。
困惑しつつもまた撮影を進めていくと、俺の近くにルインが歩み寄ってきた。そして服の袖をクイと引き、じっとくねくねする拓郎を見て恐ろしいことを口にした。
「パパ、タクロウさんの動き……凄いね」
「……?」
「ここが日本じゃなかったら、とんでもないことになっていたと思う。あんな稀代の才能を持つ人が近くにいるなんて、さすがはパパだね」
「…………??」
ルインが何を言っているのか分からず、俺は終始頭に疑問符が浮かんでいた。あのダンスにどういう意味があるのか聞いても、「分かってるくせに」と理解顔で言われてしまった。
困惑で撮影の手が止まっていると、ルインは拓郎へと近づいていった。そして創作ダンスの内容を聞き、一緒に踊りの練習を始めてしまった。
ルインがくねくね踊る姿は愛らしかったが、相変わらず俺は置いてけぼりだ。諦めてルインの姿を撮影していると、エリシャも俺たちの方に歩いてきた。
「……拓郎さんの踊りには、高度な魔法式に通ずるものがありますね。私としても参考になります」
「???」
結局理解できぬまま、拓郎と一緒の撮影会は終わった。
……ちなみに今回の動画は、再生数が短い期間で一万回を超えた。
理由はメインで踊っているルインが可愛かったからというもので、ダンスそのものについては「変な動き」とか「理解不能」とか「男どっかいけ」という感じのが多数だった。
(俺がおかしいのかとも思ってたけど、違ったようで良かった……)
もし拓郎が異世界に行っていれば、ダンスで世界を取っていたかもしれない。そんな冗談……かもしれないことを考え、俺はルインが踊っている動画を閉じた。
『煉太、そろそろ動画制作しようぜ!』
見て見ぬフリをしそうになったが、送り主の拓郎には返しきれない借りがある。仕事が始まればどのみち手伝えないので、今のうちに協力しておくのが吉だろう。
今日中にでも可能なのかと返信すると、すぐに既読がついて「おう!」と勢いのいい返事がきた。今は午前の九時ぐらいなので、上手く立ち回れば昼食時に切り上げることも可能だろう。
「エリシャ、ルイン。急だけどちょっと拓郎のとこに行ってくる」
一緒に日本語学習していた二人に言い、俺は外着へと着替えていった。すると玄関口の方までルインが来て、拓郎の元で何をやるのか質問してきた。
「たぶんだけど、前見た創作ダンス撮影とかじゃねぇかな。ほら、初めて図書館に行った時に金髪の奴がくねくね踊ってただろ?」
「ダンス撮影……、ルインも見に行っていい?」
「うーん。ダメってことはないけど、たぶんルインにはつまらないぞ?」
「いいよ。それに拓郎さんに、まだ感謝を伝えてなかったから」
雪の日の救出劇の時は、ルインは疲れて眠ってしまっていた。そういうことならばと、俺はルインも連れて行くことにした。
(まぁ、今日の撮影場所は前回見た図書館の敷地らしいから。飽きたらルインにはそっちで時間を潰してもらうのも一応可能だしな)
念のためエリシャにも詳しい事情を相談し、最終的に皆で出かけることになった。拓郎からのラインは「ギャラリーは大歓迎だぜ!」というもので、むしろ大人数の方が嬉しそうだった。
「それじゃあ終わったら、今日こそ喫茶店で美味しいものを食べるか」
「うん!」
嬉しそうなルインと手を繋ぎ、俺たちは三人で外へと繰り出した。
俺たちが図書館前に到着すると、拓郎はすでに準備を済ませて待っていた。
「よう、煉太! こっちだこっち!」
拓郎は歩いてくる俺たちへ向け、元気よく腕をブンブン振るっていた。近くまで行くとセットしていたカメラから離れ、何故か俺の隣にいるエリシャを見てピタリと止まった。
「やばっ……、昼間に見るエリシャさんめっちゃ綺麗やん……」
急に髪をセットし始め、顔に冷や汗を浮かべ、拓郎はギクシャクした動きで近づいてきた。
「おっ……、おはようございます。エリシャさんの方も……、ご機嫌麗しゅう」
大げさに腕を振り上げ、それを恭しいお辞儀と共に振り下ろしていた。身体のぎこちなさも相まってかなり変な動きで、俺は初めて見る拓郎のキモイ姿に「突然どうした」と疑問を投げた。
「……いやさ、改めて見てみると美人過ぎて、変なテンションになっちまった。俺も異世界に行けば、あんの子をモノにできるのか?」
「頑張り次第だな。分かってると思うが、エリシャは俺の嫁だから色目は使うなよ」
「うげ、自信ねぇ……」
顔を突き合わせてヒソヒソ話をしていると、エリシャとルインが不思議そうに俺たちを見ていた。一旦話し合いを打ち切り、本題の撮影をすることに決めた。
「それじゃあ俺は、そこのカメラでお前を撮ればいいのか?」
拓郎が用意していたビデオカメラは結構デカい奴で、相場に詳しくない俺でも高そうだと分かった。話を聞くと値段は十万越えしているらしく、想像以上に配信業へ力を入れているのだなと感心した。
(こんな立派な奴だと、なんかやる気が湧いてくるな)
子供心的な思いがくすぐられ、俺は早速拓郎にカメラの使い方を聞いた。だが返ってきた返答は、俺の湧き上がってきたやる気を一瞬で元に戻すものだった。
「……まぁ、それは持ってきただけで、今日は使わないだよね」
「は?」
「いやぁ、買ったはいいんだけど。操作が複雑でまだ使い方がよく分かってないんだよねぇ。おいおい使えるようにするから、今日はスマホでやろうぜ!」
ポカンとする俺の手に、拓郎のスマホがポンと置かれた。俺は横目で高級感溢れるビデオカメラを見つめ、もう一度手元のスマホに視線を戻した。
(…………うん、まぁ。別にいいけどさ)
そもそも何故持ってきたのだという疑問はあったが、理由はただ自慢したかっただけだろうと察し辞めた。
エリシャとルインは木陰にレジャーシートを広げ、少し離れた位置で俺たちを見守ってくれていた。俺と拓郎は二人や通りすがりの人たちに見られながら、目的だったダンス撮影を開始することとなった。
「―――どうだ、煉太! 今のめっちゃ決まってただろ⁉」
「うーん……たぶん」
「あっ、でももう一回やりたくなってきた! 悪いけどもう一回撮影頼むぜ!」
「…………おう」
一通りダンスが終わり、拓郎はビシッと決めポーズを取った。俺は「いいんじゃないか」と精いっぱいの返事をし、内心でこれまでと今のダンスのことを考えた。
(……なんだこのダンスは? 盆尾通り? パラパラ? フラダンス? なんですべて動きに、くねくねした動作があるんだ……?)
やはり常人には理解しえないものなのだろうか。
一つだけ凄いと思ったのは、一見バラバラな動きにちゃんと連続性のようなものが見い出せたことだ。拓郎が創作ダンスを始めたのは中学生ごろかららしいので、本人的には完成したものなのかもしれない。
困惑しつつもまた撮影を進めていくと、俺の近くにルインが歩み寄ってきた。そして服の袖をクイと引き、じっとくねくねする拓郎を見て恐ろしいことを口にした。
「パパ、タクロウさんの動き……凄いね」
「……?」
「ここが日本じゃなかったら、とんでもないことになっていたと思う。あんな稀代の才能を持つ人が近くにいるなんて、さすがはパパだね」
「…………??」
ルインが何を言っているのか分からず、俺は終始頭に疑問符が浮かんでいた。あのダンスにどういう意味があるのか聞いても、「分かってるくせに」と理解顔で言われてしまった。
困惑で撮影の手が止まっていると、ルインは拓郎へと近づいていった。そして創作ダンスの内容を聞き、一緒に踊りの練習を始めてしまった。
ルインがくねくね踊る姿は愛らしかったが、相変わらず俺は置いてけぼりだ。諦めてルインの姿を撮影していると、エリシャも俺たちの方に歩いてきた。
「……拓郎さんの踊りには、高度な魔法式に通ずるものがありますね。私としても参考になります」
「???」
結局理解できぬまま、拓郎と一緒の撮影会は終わった。
……ちなみに今回の動画は、再生数が短い期間で一万回を超えた。
理由はメインで踊っているルインが可愛かったからというもので、ダンスそのものについては「変な動き」とか「理解不能」とか「男どっかいけ」という感じのが多数だった。
(俺がおかしいのかとも思ってたけど、違ったようで良かった……)
もし拓郎が異世界に行っていれば、ダンスで世界を取っていたかもしれない。そんな冗談……かもしれないことを考え、俺はルインが踊っている動画を閉じた。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!
さこゼロ
ファンタジー
「ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双」のif設定の後日譚です。
時期外れにやってきた転校生ルー=リースは、どこか不思議な感じのする少女でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる