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『手作りカレーと子ども向けアニメ』
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一通り買い物を済ませて帰宅すると、すぐにエリシャが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、レンタ」
「あぁ、ただいま」
リビングに向かいながらルインの様子を聞いてみると、まだ眠っていると教えてくれた。俺は今の内に夕食を作るべきだと考え、三つある買い物袋の内一つの中身をキッチンの上に広げた。
「レンタ、これは何という野菜……? でしょうか」
「これは玉ねぎと人参とじゃがいもだよ。今日作る予定のカレーって料理の具材として、基本的に使われている奴だ」
色や味や食感こそ違うが、ニンジンも玉ねぎも似たような外見の物が異世界にもあった。エリシャも同じ感想だったようで、懐かしむように野菜を眺めていた。
「事前に聞いてれば良かったんだけど、エリシャは辛いの平気だったっけ?」
「はい、多少なら大丈夫です」
「なら良かった、じゃあ早速作っていこう」
服の袖を持ち上げて調理を始めようとすると、エリシャが何か言いたげに俺をじっと見つめていた。その意図を少しだけ考え、直感で俺は「一緒に作るか」と提案してみた。
「はい……! 誠心誠意頑張りますので、ご指導をお願いします」
エリシャは表情をほころばせ、やる気いっぱいでキッチンへと向かった。
エリシャが料理上手だったこともあり、カレーの準備は難なく進んだ。
切った野菜は肉と共に鍋に入れられ、二十分ほどぐつぐつ煮込まれている。良さげなところでエリシャに火を止めるのをお願いし、用意していた甘口のカレールーを中に入れた。おたまでルーを溶かしていくと、エリシャが怪訝そうに鍋を覗き込んだ。
「……すごい色ですね。言い方は悪いですが、土が溶け込んでいるようです」
「確かにそんな感じかもな。でもほら、だんだん良い香りがしてこないか?」
「…………本当ですね。お腹の底から食欲が湧き上がってくるような、そんな不思議な感じがします」
「実際に味も中々のものだよ。きっとエリシャも気に入ると思う」
会話している内にルーが大体溶け、そこでもう一度火を入れ直した。少しすると表面にぷつぷと空気が浮かび、全体が温まったところでおおよそ完成となった。
「後は夕方になるのを待つだけだな」
火を止めてリビングに身体を向けると、寝起きのルインが歩み寄ってきた。どうやらカレーの香りに誘われてきたようで、くんくんと鼻を鳴らして鍋を見つめている。
「おはよう、ルイン」
「パパ、それなぁに? なんだかおいしそう」
「これはカレーっていう食べ物だ。夕食の時間になったらちゃんと食べられるから、楽しみに待ってるといい」
「……んぅ、いまじゃだめなの?」
ルインは指をくわえるように口元に当て、じっと俺を見つめて言った。その可愛いらしい姿に反射で許可しそうになるが、エリシャの手前ここはぐっとこらえた。
「実はカレーって、待てば待つほどほど美味しくなるんだよ。今食べちゃうと、ルインはもったいない思いをすることになる。初めては一番美味しく食べたいだろ?」
「まつとおいしい……一番……、じゃあがまんするね」
悩んだようだが、ルインはちゃんと聞き入れてくれた。
「そっか、じゃあ我慢できたご褒美に、ルインは食べたいだけ食べていいぞ」
「ほんと! やったぁ!」
パアッと表情を明るくし、ルインはリビングの方へと走っていった。それを微笑ましく見つめていると、横にいたエリシャがささやき声で俺に話しかけてきた。
「……さすがです。レンタはきっと良い父親になりますね」
「そんな大したものじゃない。今のは俺の親と妹とのやり取りを真似しただけだ。付け焼刃なりに成功したのは、ルインの素直さが大きいけどな」
「それでも凄いです。私も頑張らないといけません」
そんな会話を二人でしていると、ルインがソファ上から俺たちを呼んでいた。俺はテーブルに置いていた子ども服の袋を持ち、一緒にルインの元へと向かった。
ショッピングセンターで竹田先輩が選んでくれた子ども服には、国民的人気のあるアニメのキャラクターがプリントされていた。当然異世界にそういった感じの絵など存在しなく、エリシャと二人で興味深そうに眺めていた。
「パパ、これなぁに?」
「それはドーナツマンってアニメのキャラで……って、言っても分かんないか。アニメっていうのは動く絵で、その絵の人は物語に登場して活躍するんだ」
「うごくえ……? ルイン、それみてみたい!」
「私も気になります。動く絵までなら魔法にも近い物があるので分かりますけど、物語とはどのように作られているのでしょう?」
どうやらエリシャも興味を持ってくれたようで、三人でドーナツマンのアニメを見ることにした。今からレンタルビデオ店に行くのは時間が掛かり過ぎるので、仕事とネット巡回兼用のノートパソコンを使うことにした。
さくっと有料配信サービスに登録し、第一話の再生ボタンをクリックした。少しの待ち時間のあとに動画が再生され、なじみ深いキャラが懐かしいプロローグと共に姿を現した。
『――――友情爆裂! ドーナツマン!』
俺たちの会話はすべて異世界の共通言語を使っており、俺以外はキャラが何を言っているのかは理解できない。だけど二人とも画面に流れる映像をじっと見つめ、一話が終わる十五分の間は一切会話をしなかった。
エンディングの曲が流れ終わり画面が暗転すると、ほぅという息づかいが聞こえてきた。それはエリシャとルイン二人のもので、すぐに興奮した眼差しで俺の方を見た。
「レンタ、すぐにこの世界の言語を勉強したいです。何か良い方法はないですか?」
「日本語の勉強かぁ……、となるとやっぱり絵本とかから始めた方がいいのかな。近くに図書館があった気がするし、明日皆で行ってみようか」
早速明日の予定が決まり、ささっと図書館の場所を検索してみた。さほど遠くもないので、ここならルインを連れて行くこともできそうだ。
「パパ、ママ! ルインいまのアニメっていうのもっとみたい!」
「よし、それじゃあ夕飯までの時間潰しとしてもう少し見るか」
俺がそう言うと、ルインは座ったまま嬉しそうにポンポンとおしりで跳ねた。
言葉が分からなくても面白いものかと感心したが、妹も物心つく前にアニメをよく見ていたと思い出した。それはきっと俺の幼児時代も同じで、だからこそこんなに人気なのだと改めて気づかされた。
「ママ、この子かわいいね!」
「どことなく悪魔っぽい見た目ですね。敵役なのでしょうか……?」
第二話を楽しむ二人を眺め、さすが国民的アニメだなと感心した。
「おかえりなさい、レンタ」
「あぁ、ただいま」
リビングに向かいながらルインの様子を聞いてみると、まだ眠っていると教えてくれた。俺は今の内に夕食を作るべきだと考え、三つある買い物袋の内一つの中身をキッチンの上に広げた。
「レンタ、これは何という野菜……? でしょうか」
「これは玉ねぎと人参とじゃがいもだよ。今日作る予定のカレーって料理の具材として、基本的に使われている奴だ」
色や味や食感こそ違うが、ニンジンも玉ねぎも似たような外見の物が異世界にもあった。エリシャも同じ感想だったようで、懐かしむように野菜を眺めていた。
「事前に聞いてれば良かったんだけど、エリシャは辛いの平気だったっけ?」
「はい、多少なら大丈夫です」
「なら良かった、じゃあ早速作っていこう」
服の袖を持ち上げて調理を始めようとすると、エリシャが何か言いたげに俺をじっと見つめていた。その意図を少しだけ考え、直感で俺は「一緒に作るか」と提案してみた。
「はい……! 誠心誠意頑張りますので、ご指導をお願いします」
エリシャは表情をほころばせ、やる気いっぱいでキッチンへと向かった。
エリシャが料理上手だったこともあり、カレーの準備は難なく進んだ。
切った野菜は肉と共に鍋に入れられ、二十分ほどぐつぐつ煮込まれている。良さげなところでエリシャに火を止めるのをお願いし、用意していた甘口のカレールーを中に入れた。おたまでルーを溶かしていくと、エリシャが怪訝そうに鍋を覗き込んだ。
「……すごい色ですね。言い方は悪いですが、土が溶け込んでいるようです」
「確かにそんな感じかもな。でもほら、だんだん良い香りがしてこないか?」
「…………本当ですね。お腹の底から食欲が湧き上がってくるような、そんな不思議な感じがします」
「実際に味も中々のものだよ。きっとエリシャも気に入ると思う」
会話している内にルーが大体溶け、そこでもう一度火を入れ直した。少しすると表面にぷつぷと空気が浮かび、全体が温まったところでおおよそ完成となった。
「後は夕方になるのを待つだけだな」
火を止めてリビングに身体を向けると、寝起きのルインが歩み寄ってきた。どうやらカレーの香りに誘われてきたようで、くんくんと鼻を鳴らして鍋を見つめている。
「おはよう、ルイン」
「パパ、それなぁに? なんだかおいしそう」
「これはカレーっていう食べ物だ。夕食の時間になったらちゃんと食べられるから、楽しみに待ってるといい」
「……んぅ、いまじゃだめなの?」
ルインは指をくわえるように口元に当て、じっと俺を見つめて言った。その可愛いらしい姿に反射で許可しそうになるが、エリシャの手前ここはぐっとこらえた。
「実はカレーって、待てば待つほどほど美味しくなるんだよ。今食べちゃうと、ルインはもったいない思いをすることになる。初めては一番美味しく食べたいだろ?」
「まつとおいしい……一番……、じゃあがまんするね」
悩んだようだが、ルインはちゃんと聞き入れてくれた。
「そっか、じゃあ我慢できたご褒美に、ルインは食べたいだけ食べていいぞ」
「ほんと! やったぁ!」
パアッと表情を明るくし、ルインはリビングの方へと走っていった。それを微笑ましく見つめていると、横にいたエリシャがささやき声で俺に話しかけてきた。
「……さすがです。レンタはきっと良い父親になりますね」
「そんな大したものじゃない。今のは俺の親と妹とのやり取りを真似しただけだ。付け焼刃なりに成功したのは、ルインの素直さが大きいけどな」
「それでも凄いです。私も頑張らないといけません」
そんな会話を二人でしていると、ルインがソファ上から俺たちを呼んでいた。俺はテーブルに置いていた子ども服の袋を持ち、一緒にルインの元へと向かった。
ショッピングセンターで竹田先輩が選んでくれた子ども服には、国民的人気のあるアニメのキャラクターがプリントされていた。当然異世界にそういった感じの絵など存在しなく、エリシャと二人で興味深そうに眺めていた。
「パパ、これなぁに?」
「それはドーナツマンってアニメのキャラで……って、言っても分かんないか。アニメっていうのは動く絵で、その絵の人は物語に登場して活躍するんだ」
「うごくえ……? ルイン、それみてみたい!」
「私も気になります。動く絵までなら魔法にも近い物があるので分かりますけど、物語とはどのように作られているのでしょう?」
どうやらエリシャも興味を持ってくれたようで、三人でドーナツマンのアニメを見ることにした。今からレンタルビデオ店に行くのは時間が掛かり過ぎるので、仕事とネット巡回兼用のノートパソコンを使うことにした。
さくっと有料配信サービスに登録し、第一話の再生ボタンをクリックした。少しの待ち時間のあとに動画が再生され、なじみ深いキャラが懐かしいプロローグと共に姿を現した。
『――――友情爆裂! ドーナツマン!』
俺たちの会話はすべて異世界の共通言語を使っており、俺以外はキャラが何を言っているのかは理解できない。だけど二人とも画面に流れる映像をじっと見つめ、一話が終わる十五分の間は一切会話をしなかった。
エンディングの曲が流れ終わり画面が暗転すると、ほぅという息づかいが聞こえてきた。それはエリシャとルイン二人のもので、すぐに興奮した眼差しで俺の方を見た。
「レンタ、すぐにこの世界の言語を勉強したいです。何か良い方法はないですか?」
「日本語の勉強かぁ……、となるとやっぱり絵本とかから始めた方がいいのかな。近くに図書館があった気がするし、明日皆で行ってみようか」
早速明日の予定が決まり、ささっと図書館の場所を検索してみた。さほど遠くもないので、ここならルインを連れて行くこともできそうだ。
「パパ、ママ! ルインいまのアニメっていうのもっとみたい!」
「よし、それじゃあ夕飯までの時間潰しとしてもう少し見るか」
俺がそう言うと、ルインは座ったまま嬉しそうにポンポンとおしりで跳ねた。
言葉が分からなくても面白いものかと感心したが、妹も物心つく前にアニメをよく見ていたと思い出した。それはきっと俺の幼児時代も同じで、だからこそこんなに人気なのだと改めて気づかされた。
「ママ、この子かわいいね!」
「どことなく悪魔っぽい見た目ですね。敵役なのでしょうか……?」
第二話を楽しむ二人を眺め、さすが国民的アニメだなと感心した。
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