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だってクシェル様が※
しおりを挟むピチャンーー
「先程はすまなかった。ジークを羨むばかりで、配慮に欠けていた」
「そ、そんなっ、わ、わたしこそ初めからちゃんと断っていれば」
中途半端な覚悟で、安易に「分かりました」なんて言わなければよかった。それか、ここまでは大丈夫だけどここからはダメだとか、初めから折衷案を出しておけばよかったんだ。今みたいに!
まぁ今まさにその自分で出した案に悩まされているところだけどーー
ここの浴槽は王妃用のものよりも深く、わたしが座って入ろうとすると溺れる。また、クシェル様の隣に並んでとなると、色々と気になって落ち着かない。
勿論お湯の中でもお互いタオルは付けてるよ!でもさ、それでもやっぱり色々見えちゃうし分かっちゃうじゃん?身体のこと以外にもお互いの視線だったり表情だったり色々。
だからわたしは、浴槽の深さだけを理由にして、クシェル様に膝の上に座らせてもらえるようにお願いした。
目に見えるのは揺れる水面とその底に重なる二組の脚。思惑通り視覚からの刺激は少ない。更にこの体勢ならクシェル様からもわたしのことはあまり見えていないはずで、視線を気にする必要もない。
フフ、我ながら中々良いアイディアだったのでは?と最初は浮かれていた。のだがーー
「言い訳のように聞こえるかもしれないが、俺には風呂場で裸を見られる恥ずかしさも、洗われる恥ずかしさもよく分からないんだ」
うぅ~っ!そ、そんなにくっ付かれると背中に暖かいクシェル様の肌の感触が!硬い筋肉の凹凸が!そして、何よりお腹に回されたクシェル様の力強い腕がぁあ!
先に散々目にしたせいだろうか、見えていないのに感覚だけで分かってしまう。クシェル様の何処がどう自分に触れているのか。いや、むしろ見えていない分余計に生々しいっ!
そんな雑念を振り払うためにも、わたしは必死にクシェル様の言葉に耳を傾けた。
「なるほど……え?分からない⁈」
「今は違うが、子供の頃はそれが当たり前だった。だから……」
あ、そうかクシェル様は王族だから。子供の頃はきっとメイドさんに身体を洗ってもらっていたんだ。それが当たり前のこと過ぎて、クシェル様は風呂場で他人に裸を見られ、身体を洗われることになんの感情も湧かない。だから、それらを恥ずかしがって嫌がるわたしの気持ちを理解出来なかったんだ。
初めはあんなに抵抗感があったのに、今ではすっかりサアニャから受ける毎日のケアに慣れてしまっている自分を思い返して、妙に納得してしまった。
「て、こんなもの言い訳にもならないな」
「いえ、話してくれて嬉しいです。おかげで疑問が一つ晴れました」
不思議だったんだ。なんでクシェル様はわたしの裸を見てもあんなにも平然としていられたのか。それこそ、初めの頃は大人の女性として見られてないのかな?赤子くらいにしか思われていないのかな?とも思ったけど……今の関係でそれはない、はずでしょ?
「お風呂場だったからなんですね」
きっとクシェル様にとってわたしの身体を洗って一緒にお風呂に入るという行為は純粋に、お世話や甘やかしの一つに過ぎないんだ。エッチぃ事なんて微塵も考えていないんだ。
まぁ、だからってわたしにとってそれらが、とても恥ずかしい行為であることに変わりはないんだけど。
「そういえば、俺はあの時初めてコハクへの吸血衝動を自覚したんだよなぁ」
「あの時?」
「覚えてないか?コハクが初めてここを使用した日のことだ」
「え!そうだったんですか⁈」
そんなに早くからわたしのことを想ってくれて……ん?吸血って、愛を求める意味が、つまりはそういう行為を連想させるような欲も含まれているって話じゃなかったけ?あれ?
「えと……なんで今その話を?」
なんだか嫌な予感がした。先程の自分の仮説が大きく覆される、そんな予感が。出来れば勘違いであってほしい。たまたまであってほしい。わたしはそう願いながら、恐る恐る上を見上げた。
「っ!……なんで。い、いつから」
すると、予想通りわたしを見つめるクシェル様の瞳は赤一色に染まっていた。
なんで⁈そんな素振り全然……そもそもこれはクシェル様にとっては当たり前の事で、エッチぃ事を連想するような行為じゃなかったはずだ。だからこそ今までずっと平然とーー
「コハクが可愛く甘えて来てくれた時から?」
「あ、甘ぇっ⁈」
「あんなやり取りがあった後なのに、俺の膝に乗りたいなんて言って……身を預けて来てくれただろう?」
「っ!」
頬を撫でられ、そのまま支えるようにして視線の先を固定される。
そして、わたしの瞳を見つめる赤い瞳が細められーー
「凄く嬉しかった」
クシェル様の愛おしげな声と共に、わたしのお腹に回されたクシェル様の腕がキツく絞められ、視線が首筋の方へと落とされる。
「んっ……の、飲むんですか?」
「……いや、ジークと約束したからな」
クシェル様はそう自分に言い聞かせるかのように、ゆっくりと瞬きをするとーー
「だがその代わり、別のモノを貰う。良いか?」
わたしの目をじっと見つめ直し、親指でわたしの唇を撫でた。
「っ……はい」
好きな人にそんな熱い瞳を向けられて、そんな強く抱きしめられて、大切そうに撫でられて「イヤ」なんて思うわけがない。
その後、クシェル様はわたしをお姫様抱っこで抱え上げると、魔法で二人の髪を乾かしながら寝室へと向かった。
ベッドの上にわたしを下ろしたクシェル様はわたしの背中と頭を支え、抱き寄せ何度も唇を重ねた。
キスが深くなるにつれ頭に添えられていた手が下へと移動し、髪を後ろにかき上げるようにまとめられ、露わになった首筋に唇が触れる。
「んっ!あ、そこはダメ!」
その瞬間項にピリッと小さな痛みが走った。恐らく髪を上げる際に、クシェル様の指先がそこに触れたのだ。故意じゃない。分かってる。でも……その痛みでジークお兄ちゃんとの約束を思い出したわたしは咄嗟に声を上げてしまっていた。
「そこ?あぁ、アイツに言われたのか」
「ぅ、す、すみません」
「コハクが謝る事じゃないだろう……だが、やはり妬けるな」
「んぃっ!ぁ……っはぁ」
クシェル様の不機嫌な声が聞こえたその次の瞬間、首筋にチクリとした痛みが走った。恐らくクシェル様が強めに吸い上げたのだ。噛まれた痛みではない。
しかし、その場所と今の状況のせいで、あの日の恐怖が、前準備もなく首に牙を突き立てられた時の痛みと悲しみがフラッシュバックしそうになる。が、その直後労わるかのように優しく舐め上げられ、安堵のため息が漏れた。
その後も同じように吸っては舐めてを繰り返され、小さな痛みと優しい温もりを交互に与えられ、翻弄される。
その刺激が首元、鎖骨、胸へと降りて行きーーその先に辿り着く頃には息が上がってしまっていた。
「んぅう~っ!!」
「コハクは、強く吸われるのが好きなのか?」
一度吸われた胸の先を口に含んだまま舌で転がすように舐められ、そして再び強く吸われたわたしは恥ずかしい声を上げ、背を仰け反らせていた。
わたしのその反応にクシェル様は慌ててそこから口を離すと、呆気に取られた顔でとんでもない事を聞いてきた。
「ぅえ⁈ち、違う!だってクシェル様がっ」
「俺が?」
クシェル様が痛くするのにすぐ優しくするから。優しくしたのにまた痛くして、と思ったらまた優しくして痛くして優しくして、またーー
「怒ってないのに痛くするから!」
「へ?」
痛いのは嫌いだ。だって、痛いことをされるということは何かに対する罰を受けているということだ。相手を不快な気持ちにさせて、怒らせたということだ。嫌われる前兆だ。だから怖い。信じた人に痛いことをされるのは恐ろしくてたまらない。
でも、わたしは知った。好きな人から与えられる痛みが必ずしも怒りからくるものではないと、愛するが故に傷つけてしまうことがあると、ジークお兄ちゃんから教わった。
そしてまた教えられた。
恐怖や不安を伴わない痛みは、愛だと知って受ける優しい痛みは時に、痺れるような強い快感をもたらす。そうクシェル様に何度も繰り返し、教えられた。
「クシェル様のせいです」
クシェル様にまた、自分の中の常識を覆された。クシェル様のせいでまた、知らない自分を引き出された。
「……つまりコハクは、俺のせいで痛くされるのが好きになった、ということか?」
「ひぅっ!ち、違っ!」
クシェル様は先程と変わらぬ純粋な目でわたしを見つめ、確かめるかのようにもう一方の胸の先を摘んだ。
わたしはその刺激に声を漏らしながらも、咄嗟にクシェル様の言葉を否定した。しかしーー
「違うのか?でも……」
わたしの反応からかそれとも目を見たら分かるのか、クシェル様はわたしの言葉を嘘だと見抜き、そこを更に強く摘み、同時にもう一方も一際強く吸い上げた。
「うきゅっ~~ぅ!!」
その瞬間、両方の胸から痛みと共に頭が痺れるほどの快感が走って、再び恥ずかしい声を上げながら背を仰け反らせることとなった。
そして痛みの後はまた、優しく舐められて、撫でられてーー
「んぁ、あぁ……は、ぅ」
わたしは甘い快感に生理的な涙を流し、身体を震わせた。
「…………なるほど」
「な、何を」
「俺はアイツと違って、こういうことに関する知識と経験があまり……というかほぼ無いからな、コハクを満足させてやれるか不安だったんだ」
クシェル様はそんな明け透けな事を言いながら、わたしを静かにベッドへと寝かせた。
「ま、満足?……ちっ、違う!誤解です!わたしは痛いのが好きなんじゃない!ヤダ!痛いのだけは」
「分かっている。ちゃんと理解した。だから、安心して俺に身を預けろ」
そう言うとクシェル様は恐怖に震えるわたしの手を取り優しく指を絡め、涙で濡れた目尻にキスをしてくれた。
「コハク気持ち良いか?」
「ぅんんっ!ぁ……気持ちぃ、いい」
「良かった。じゃあこれは?どうだ?気持ち良いか?」
「ちゅよっ!つよいっ、ぃんっ、んぁ……はぁ」
クシェル様は色んな刺激の仕方を試しては気持ち良いか尋ねてきて、わたしの反応を探る。そして強過ぎたと分かればすぐに優しく労って、わたしの頭をおかしくさせる。
吸われて舐められて、摘まれて撫でられて、噛まれて吸われて、捏ね回されて爪で引っ掻かれて、口の中で転がされたわたしのそこは赤く熱持ち、クシェル様に触れられるだけでジンジンと甘い痺れがもたらされる程になってしまった。
こんなことは初めてだ。そもそも今までそこをこんなにも長く、沢山刺激された事はなかった。
「く、クシェル様。もぅっ」
「すっ、すまない!嫌だったか⁈無理をさせたか?」
クシェル様は慌ててそこから顔を上げると、今にも泣きそうな顔でわたしを見る。
「違う……そうじゃなくて」
胸がそんな状態なら勿論下はーー
もう限界だった。クシェル様にはしたない子って思われたくない。でも、もう我慢出来ない。そこが切なくて仕方ない。苦し紛れに脚を擦り合わせてみるが、足りない。そこが、中が、奥が疼いて仕方ない。
触ってほしい。その長く綺麗な指で撫でて摩って、奥まで愛して、イかせてほしい。
それをクシェル様にお願いするの?自分の浅ましい欲のためだけに?
「コハク?どうした?俺にダメなとこがあったのなら正直に言ってくれ。何を言われても怒ったりしない。傷付いたりしないから」
そう言って微笑み、優しく頬を撫でてくれるクシェル様。
そんな人にわたしはーー
「っ……く、して」
「ん?」
「しっ、下も……気持ち良く、してっ、ください」
言ってしまった。頼んでしまった。はしたなく自分からその先を求めてしまった。
泣きたい。恥ずかしくて、申し訳なくて、クシェル様にこんなことお願いしている自分が情けなくて、クシェル様の顔を見れなかった。
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