勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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なんて真っ直ぐした目なの

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 結論から言うと『ジークお兄ちゃんに避けられていた』というのはわたしの勝手な勘違いだった。

 なんと、あの時ジークお兄ちゃんは部下の人から、廊下で見かけたわたしの顔色が優れない様子だったと聞いて、わざわざ様子を見に来てくれたらしく、わたしが疑問を声にするより先にジークお兄ちゃんからその理由について問われた。

 そして、わたしがその問いに「ジークお兄ちゃんはわたしのこと避けてたんじゃないの?」と抱えていた疑問を言葉にする形で答えると、ジークお兄ちゃんはすぐにそのことを完全に否定してくれた。

 のだがーー

「……俺のせい、だったのか」

 ジークお兄ちゃんに自分を責める言葉を言わせることになってしまった。

「ち、違う!わたしが勝手に勘違いして不安になってただけでジークお兄ちゃんのせいなんかじゃ」
「いや、勘違いさせるような事をした俺が悪い。すまなかった」

 すぐにその言葉を否定するが、ジークお兄ちゃんに納得してはもらえず、逆に頭まで下げさせてしまった。

 違うのに。本当にジークお兄ちゃんのせいなんかじゃないのに。ジークお兄ちゃんは何も悪い事はしていないのに!

 ジークお兄ちゃんはきっと気まずかったんだ。だから思わずわたしから距離をとってしまった。多分きっとそう!わたしだって泣き顔を見られた後すぐいつも通りになんて無理だもん。恥ずかしくて顔を合わせ辛くなる。うん、絶対そうだ!

 こんな単純なことに思い至らなかったわたしが悪い。なんでもすぐに悪い方に考えて、勝手に不安になるわたしが悪い!
 二人は皆んなとは違うって分かってるはずなのに、どうしても今までのクセが抜けない。人の好意を疑って、自分の非を疑って、他人を信じる事が出来ないわたしが悪い。

「不安にさせてしまうくらいなら」
「へぁ⁈」

 頭の中で自分の悪い所を上げ、また勝手に気落ちしていると、急に左手を指を絡ませるように握られ、腰を引き寄せられた。

 それに驚き顔を上げるとーー

「え?ジーク、お兄ちゃん?」

 何故か、真剣な目でわたしを見つめるジークお兄ちゃんの顔が赤く染まっていた。

「その、コハクに幻滅されたくなくて隠していたんだが……今朝俺があんな態度を取ったのは、無駄にたっ、昂ったコハクへの想いを落ち着かせていたからなんだ!」

 最初は迷いが見られたものの、後半は力のこもった声で、わたしの腰を抱く腕と握られた手にも力が込められ、何か強い覚悟を持っての告白であることが伝わってきた。
 でも、残念ながら頭の弱いわたしにはその内容を正しく理解することは出来なかった。

「たか、ぶった?」

 昂ったわたしへの想いってどういうものだろう?雰囲気からして怒りや憎悪といったマイナスなものではないと思うけど……じ、じゃあもしかして好きとか愛してるとかそういう?んー、でもだとしたらこんな悪い事のように言うはずないよね?

「あー……つまり、こういう事をしたい気持ちをって事なんだが」

 そう言ってジークお兄ちゃんはわたしの手を口元まで引き寄せると、その指先にキスを落とした。

「っ!な、なるほど!…………でもなんで?」

 確信した。やっぱりジークお兄ちゃんの言う昂った想いというのは、わたしへの愛ということだったんだ!
 しかし、そうなると益々分からなくなる。

 無駄にって何?なんで落ち着かせないといけないの?なんで今更、その事を知ったらわたしが幻滅すると思うの?

「何故って……好きな女に耳元であんなお願いされて、その気にならない男は居ないだろ」

 な、なんて真っ直ぐした目なのーー

「って、そっちじゃなくて!」
「そして今も……」
「ひぁ!……ぁ」

 腰を抱く腕にグッと力が込められ、握られた手の指先に軽く歯を立てられた。勿論痛みはない。でも、沈黙と共に向けられるジークお兄ちゃんの瞳が、わたしの胸を締め付ける。
 何かを切望する切なくも熱を帯びた、ジークお兄ちゃんがわたしを求める時の瞳。しかし今はその瞳に迷いが見える。

 嗚呼怖いんだ。自分の想いが相手にとって負担になるのではないか、相手が思い描いているであろう理想の自分とは違う姿に幻滅され、嫌われるのではないかと恐怖しているんだ。

 分かるよ。わたしもずっとそうだったから。

 そして、その想いの強さにわたしがまた怖気付いて逃げるのではないかと怯えてるんだ。 
 
 だからこんなにも力強くわたしのことをーー

「大丈夫だよ」
「……え?」
「前にも言ったでしょ?何をされても絶対嫌ったりしない。逃げないって、全部受け止めるって」

 そうあの日に誓ったんだ。初めてジークお兄ちゃんに全てを曝け出したあの日に。結局その日は全てを受け入れることは出来なかったけど、でも今はーー

「だから安心して。ジークお兄ちゃんのその想いに無駄なんてない。落ち着かせる必要もない。全部わたしにぶつけて良いんだよ?」

 今のわたしには、それが出来る。ちゃんと最後まで出来るんだ!

「だってわたしはジークお兄ちゃんのものなんだから」

 わたしの身体にはその証が数多く残されている。それら全てがわたしの誇りであり、宝物だ。

「お兄ちゃんの好きにして良いんだよ?」

 それらを思い浮かべるだけで自然と笑みが溢れる。

「っ!……はぁ、人がせっかく自制してんのに」
「え……っ⁈」

 呆れたようにため息をつかれ、あんなに強く握ってくれていた手を名残おしげもなく簡単に解かれてしまった。
 しかし、その事にショックを受け俯く暇もなく、顎を指に乗せるようにして持ち上げられ、顔を近づかされた。

 本日二度目の顎クイだ。しかし、前回のようなトキメキはない。あるのは戸惑いだけ。

 だって分からないよ。わたしはただジークお兄ちゃんの望みを叶えたいって、受け止めるよって、だから安心して、わたしのこと好きにして良いよって言っただけ。なのに、なんでーー

「いい加減本気で……(狂いそうだ)」

 なんでそんな目でわたしを見るの?

「じ、ジークっん!!」

 わたしを求める熱と苛立ちを含んだ、昨夜と同じ、わたしを責める時の目だ。
 その目と共に音の無い言葉を形作られ、訳もわからないまま口を塞がれた。

 なんで、今はジークお兄ちゃんのことしか見てないし、他の人の名前なんて呼んでない。考えてすらいないのに!


 そして長いキスの後ーー

「コハクならそれすら受け入れそうで、怖いな」

 ジークお兄ちゃんは、わたしをあの目で見下ろしながらまた何かを呟いた。
 しかし、ジークお兄ちゃんからのキスで惚けた今のわたしの頭にはその言葉は響かず、理解する前に過ぎて行ってしまった。


 そして再び口を塞がれ、解放される頃にはーー

 ため息をつかれ、言葉を意図的に隠された事に対する戸惑いなんてものは、完全に掻き消されてしまっていた。

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