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模擬戦

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 小休憩を挟み、次は二人の模擬戦が始まる。
 二人は訓練場の中心に向かい合って立ち、わたし達は二人から数百メートル離れたところから観戦する。

 イダル先生から魔法の解説を受けながら見ているのだが、二人の動きが早すぎて解説が追いつかない。

 はじめ、中距離からクシェル様がジークお兄ちゃんに向かって雷撃や高圧の水を放つが、ジークお兄ちゃんはそれを身体強化魔法で耐久と素早さを上げ避ける。
 次いでクシェル様はサッカーボール大の複数の火の玉を放ち、それらは地面に当たると同時に爆裂する。それを全て避けるのは無理だと判断したジークお兄ちゃんは火の玉に氷の塊をぶつけることで対抗する。
 火の玉と氷がぶつかることで氷が一瞬にして気化し、水蒸気で視界が悪くなり、二人の姿が見えなくなる。
 霧が晴れると、ジークお兄ちゃんがクシェル様に剣を振り下ろしているところが見えた。
 クシェル様はジークお兄ちゃんに足元を凍らされて逃げることが出来ない。

「クシェル様!」

 しかし、振り下ろした剣はクシェル様の手前で何かに弾かれ空を舞う。

「おそらく身の周りに風の壁を張ったんだろう、決着がついたな。剣士が剣を失ったら終わりだ」

 イダル先生から決闘の終わりが告げられ、クシェル様の勝利だと誰もが思った瞬間

「まだだ!」

 グレンさんが叫ぶ。

 二人に意識を戻すと、ジークお兄ちゃんが氷の刃をクシェル様に向かって振りかぶっていた。
 その刃はクシェル様の首に触れそうになるがその直前蒸気となり消える。
 すると、ジークお兄ちゃんは風の魔法ですぐに距離を取り剣の回収に向かう。
 しかし、クシェル様が雷撃で剣を弾きそれを防ぐ。身体強化しているとはいえ、雷撃よりも早く移動する事は出来ない。

「参った、降参だ」

 ジークお兄ちゃんが手を上げた。
 剣も手に出来ず、氷の刃も一瞬にして溶かされては剣士として打つ手がない。

「コハクにはカッコ悪いところを見せてしまった。やはりクシェルには敵わないな」

 ジークお兄ちゃんは汗を拭きながらハハハと笑い飛ばす。

「そんな事ないです!二人とも凄くカッコ良かったです。圧倒されてしまいました」
「そ、そうか?」

 照れる二人、あれだけ激しい戦いを繰り広げた人達とは思えない程、和やかな雰囲気だ。

「何で本気で戦ってくれなかったんですか!」

 そんな中グレンさんの声が響く。

 え?あれで本気出してなかったの⁈

「チッまたお前か」 

 舌打ちー⁈

 鬱陶しそうにグレンさんに近づいて行くクシェル様。それを制するかのようにジークお兄ちゃんが割って入る。

「これは決闘ではない、コハクに俺たちの戦い方を見せれればそれでいい」
「しかし」
「確かにジークなら風の壁ごと力技で叩っ斬る事も出来ただろ」
「そうだなこれが殺し合いならそうしていた。しかし、それだと二人とも何らかの怪我を負ってしまう」

 グレンさんは納得いっていないようで「怪我?」と眉間にシワを寄せる。
 しかし、わたしはここまで聞いて二人の気遣いに気づいた。

「コハクは痛いのも痛いのを見るのも嫌いだからなぁ」
「俺が手の平をちょっと切っただけで真っ青になっていたしな」

 そう、二人はわたしのために手を抜いたのだ。

「いや、あれはちょっとってレベルじゃなかったですよ!流血でしたよ!」

 しかしジークお兄ちゃん曰く「翌日には塞がる傷は怪我のうちに入らない」らしい。


 訓練場にはシャワールームも併設されていて、二人がシャワーから帰ってくるのを待って夕食へ向かう。
 食事中二人からさっきの魔法についてより詳しい説明も聞けた。
 爆裂する火の玉はただの火の塊ではなく、それも周りに風の壁を作り熱を圧縮させたものらしい。

「凄い…つまり、外的衝撃を受けると風の流れに歪みが生じ、圧縮された熱が暴発するという事ですね。更に乱された風の影響で、周りの空気を巻き込みながら燃焼し、広範囲に炎が広がるという事ですね!なるほど、魔法も色々な属性を掛け合わせる事でバリエーションが増やせる。あ!ジークお兄ちゃんが氷を火の玉にぶつける事で水蒸気を発生させたのも、クシェル様の目を眩ませるだけでなく、クシェル様を氷付けにしやすくするためだったんですね!」

 さっきの戦いはただ魔法をぶつけ合うものではなく考え抜かれたものだったんだ!

「凄い!魔法って面白いですね!」

 今わたしの目は今までにない程輝いている事だろう。しかし、二人はポカーンとして、わたしの感動が伝わっていないようだ。

「すみません、二人にとっては当たり前の事ですよね」
「いや、少なくとも俺はそこまで考えてなかった…凄いなクシェル」
「いやいやいや俺もそんな事思いつきもしなかった。風の壁も火を閉じ込める事で投げやすくしただけだ」
「ーーえ?」
「コハクは凄いな」


 後日イダル先生にこの話をしたら、イダル先生にも驚かれた。

 え?燃焼に空気(酸素)が必要なのも周囲に蒸気があればそれを用いる事で氷を形成しやすくなることも常識じゃないかな?

「燃焼の原理を知らずに火を出すことって出来るんですか?」

 イダル先生曰く、魔法は想像力と魔力が必要だが、現象を具体的に想像出来なくても魔力でゴリ押しできるらしい。
 現にクシェル様が雷の虎を作った時、雷の原理を知らないのに無理に形のある雷を作ろうとしてたためかなりの魔力を消費していたらしい。

 という事は原理を知れば必要な魔力を抑えられるんじゃないかな?

 それをイダル先生に伝えると興味を持ってくれて、今度色々と試してみる事になった。
 もしかしたらわたしの知識がクシェル様達の役に立てるかもしれない!



 この時サアニャだけがいい顔をしていなかった事にわたしは気付いていなかった。


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