勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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【ジーク】コハクは寂しがりやなんだ

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 夕食後俺たちはコハクのいなくなったクシェルの部屋のリビングでだべっていた。

「あれは反則だろ正式な婚約すらまだなのに」

 自らの魔力で生成した魔石ならばたしかに高純度で、製作者の魔力属性全てを込めることが出来るため何かと便利ではあるが、それは結婚の誓いで交換するものだ。
 
 俺は自重したというのにーー

「羨ましい」
「ふん、良いだろう」

 ドヤ顔なクシェル。しかし、すぐに緩みきった顔へと変わる。
 大方『俺の魔力を纏うコハク最高!』とか『離れていても俺(の魔力)がコハクを助けている…最高!』とか考えているのだろう。
実に羨ましい…。
 が、クシェルの魔力がある今俺が同じ事をしても意味がない。それこそ本来の意味を意識し、クシェルに対抗していると思われるだけだ。
 ここは大人しく引き下がるしかない。

「にしても、よくサアニャの申し出を受け入れたな」

 実はサアニャをコハクに付けた次の日、サアニャからいくつかのお願いがあった。

「あー、コハクの寝室を別にする件と肌に触れる件か?」
「お前の事だから許可しないと思っていたが」
「それがコハクのためだと言われたら仕方ない、メイド曰く四六時中異性といるのも何かと気疲れするものらしく、女性は一人の時間が欲しいものらしい、コハクの肌に彼奴が触れる件はコハクを輝かせるために必要な事らしい」
「輝かせる?」
「やけに熱く語っていたが…毎日のケアというものを行う事で今以上に可愛く、美しくなるらしい!!」
「今以上に⁈」
「あー、俺には今でも充分コハクは可愛く存在自体が神々しく思えるのだが…この上があるらしい!」

 コハクは今でも髪はふわふわでほっぺもぷにぷにスベスベで、完璧だというのに天使はこれ以上に可愛くなるだと!


『コンコンコン』
 
 今後の話も終わり自分の部屋へ戻ろうとした時、(コハクがこの部屋で生活しない以上俺もこの部屋で寝る必要はない)扉を叩く音が響き、扉を開くとそこには寝間着姿のコハクが居た。

「どうした、何かあったのか⁈」
「いえ、あの…」

 俺の背中で姿は見えないはずだが、声でコハクだと分かったのかクシェルも扉の方へ来る。
 俺は取り敢えずコハクを寝室へと通し、ベッドへ座らせた。

「どうしたコハク、怖い夢でも見たのか?」

 その隣にクシェルも座る。

「いえ、そういうわけじゃないんですけど…」

 申し訳なさそうに俯くコハク。
 気のせいかコハクの髪がいつもに増してツヤがあるように見える。早速サアニャの『毎日のケア』の成果が⁈

「もしかして…寂しかった、とかか?」

 この間も昼、一人では寂しくて食欲がわかないということがあった。
 こんな時間にわざわざこの部屋を訪ねてきたという事はーーそ、そういうことでは⁈
 そうだったら嬉しいーーというか、可愛い過ぎるんだが!

 コハクは俺の言葉にバッと真っ赤になった顔を上げたかと思うと再び視線を落とし、手を組む。 

 ーーまさか、本当に寂しかったのか⁈

 期待のせいか数秒の沈黙がとても長く感じる。

 数秒の沈黙の後のコハクの言葉は小さく弱々しいものだった。

「い、一緒に寝ちゃダメですか?」

 しかし、その破壊力は凄まじく、更に赤い頰に不安げな瞳で上目遣い!小首をコテンとか、可愛過ぎかっ!
 俺は顔がデレ~とならないように口元に力を込める。クシェルも俺と同じ衝撃を受けたようで天を仰ぎ震えている。

「ご、ごめんなさい忘れてください!」

 俺たちのそのわけのわからない反応にコハクは拒否されたと勘違いしてしまい、立ち上がりこの場から去ろうとする。

「待て、違う!」

 その手を咄嗟に握り止める。
 せっかく頑張ってコハクから甘えようとしてくれたのに、俺は馬鹿か!

「そ、そうだ今のはコハクがあまりにも可愛くて悶えてただけだ!」

 クシェル、言葉の選択が直球過ぎないか?
 それではコハクに引かれるのではと思ったが、コハクは引くどころか、ますます顔を赤くしてアワアワと可愛く戸惑いを見せる。

「か、可愛…萌え⁈」

 俺たちはまだ風呂に入っていなかったので、コハクを寝室に残し急いで風呂へ向かった。

「ジーク!あれは何だ、どういうことだ!俺の天使が可愛い過ぎるんだが!」

 脱衣所に入るや否やクシェルに詰め寄られる。

 そうか、クシェルは自分から甘えるコハクを見るのは初めてなのか。なら先ほどのは俺以上の衝撃を受けたことだろう。

「コハクは寂しがりやなんだ」

 俺はコハクが昼食時一人だと食欲がわかないと言っていたことをクシェルに伝える。
 するとクシェルは再び悶え始める。

「こ、コハクもあの時寂しいと思ってくれていたのか!でも俺のために我慢してくれていたんだな。甘え下手で寂しがりやとか、どれだけ俺を惚れ込ませるつもりだ俺の天使はっ!ッハァ~可愛い!!」

 ご乱心のようだ。
 俺もコハクバカな自覚はあるが、クシェル程ではないと思う。
 早く風呂を済ませてコハクの元へ行きたいので、俺はご乱心なクシェルを置いて浴室へ向かった。

「甘えるきっかけを作ったのがジークというのは納得いかないが……ジークのおかげとも言える。よくやったジーク!ーーあれ?」


 その日から就寝時になるとコハクがこちらの部屋に来て、三人で寝るようになった。
 俺たちはコハクが来るまでにそれぞれ風呂を済ませてクシェルの寝室でコハクを待つ。

『コンコンコン』

 コハクは礼儀正しく、毎回扉を叩いてうかがいを立てる。

「勝手に入って来ていいんだぞ?」

 今日はクシェルが扉まで迎えに向かう。

「着替え中とかだったら、悪いので」
「ん?俺は構わないぞ」
「わ、わたしは構うんです!」

 異性との生活での気疲れとはこういうところかもしれない。特にクシェルはこういう事には疎いからな。

 コハクは俺がやったブレスレットとクシェルから貰ったネックレスをベッド横の引き出しに大事そうに蔵い、ベッドへと入る。
 コハクは風呂に入る時と就寝時以外は常にブレスレットとネックレスを付けてくれている。

「コハク……その、ヒートではないんだが」

 愛しいものの血はヒート時でなくても欲しくなるらしく、クシェルの目が赤く染まりつつある。
 コハクもそれに気づく。

「あ…の、飲みますか?」
「良いのか⁈」
「は、はい」

 吸血の為にコハクを俺の膝の間に座らせ、クシェルがコハクと向かい合う形に座る。
 コハクは片手をクシェルと組み、空いている方の手を腹部に回された俺の腕に添える。
 その手からコハクの緊張が伝わる。
 コハクは今だにこの行為に慣れないらしい。そういうところも可愛く思う。

 まぁ、他人から首を舐められ、噛まれたり吸われたりするわけだから慣れなくて当然だと思うが。それにしても、この時のコハクは酷く官能的だ。

「あ…っぅん……んっ!」

 時々漏れる声は甘く、クシェルが少し強めに吸うとコハクの手に力が入り身体がヒクリと小さく跳ねる。
 感じているようにも見えて、そういう行為ではないと分かっているのに堪らなくなって来る。

 マズい!!
 俺は下半身の主張がバレないように、慌ててコハクから距離を取ろうとした。
 すると、コハクを抱いている腕が動き指がコハクの横腹をかすめた。

「ひゃっ!」
「すまん!」
「い、痛くしてしまったか⁈」

 コハクは思わず声が出てしまったという様子で何が起こったのか分からず戸惑っているようだ。クシェルもコハクの今までにない声の原因が分からず戸惑っている。

「い、いえ大丈夫です」

 いやいやいや、これは確実にそういう意味で感じている声だろ!

 それに気づいていないコハクとクシェル。
 もうこれは、そういう事に疎いとか鈍いとかいうレベルじゃない、純粋無垢か!

 その後吸血は再開され、クシェルの衝動が治ると、コハクの首を軽く手当てし、三人で布団に入る。
 俺は二人が眠りにつくのを待ってトイレへと向かった。トイレで自分を慰めながら、自己嫌悪へ陥る。

 自分だけが酷く汚れているように感じる。

「しかし、コハクは耳だけでなく横腹も弱いのか…」

 俺のつぶやきは静かな部屋に虚しく響いた。

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