勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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普通言わないよね!

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「あなたがコハクちゃんのメイドね」

 少し遅い昼食の後、フレイヤ様とシェーンハイト様がわたし付きのメイドと護衛の二人と話しがしたいと言うので、いつもの勉強部屋でお茶を飲みつつ話をすることになった。

 勿論クシェル様とジークお兄ちゃんも同席したがったが、フレイヤ様に断られ渋々仕事に向かった。

「はい、数日前よりシイナ様付きのメイドの任を授かりました、サアニャと申します」

 因みに、わたしはお二人の対面に座り、サアニャと護衛の二人はそのわたしの後ろに立っている。そして、サアニャはフレイヤ様に声をかけられると深く一礼し、真っ直ぐフレイヤ様と目を合わせた。

「うん、良い子そうね」

 フレイヤ様はそう言うと、次いで護衛の二人に視線を向ける。それに気づいたアレクさんがすかさず笑顔で自己紹介をする。

「シイナ様の護衛をさせていただいておりますアレクと申します」
「同じく、護衛のグレンです」

 つられるようにグレンさんも名のる。

「…クシェルは何でこんなのをコハクちゃんに付けてるの?」

 この場が一瞬にして凍りつく。

「アイツらはコハクちゃんを嫌ってるのか?」

 シェーンハイト様がフレイヤ様に尋ねる。
 フレイヤ様はヴァンパイアである為、目の力で人の感情を見ることが出来る。
 サアニャと護衛の二人と話したいと言ったのはこの為だったのかな。

「えー、殺意まではないけど…気に入らないわね」

 お二人の顔が怖い!護衛の二人を殺しそうな勢いだよ!

「恐れながら、フレイヤ様」

 そんな中サアニャがフレイヤ様に断りを入れる。と、フレイヤ様は一旦怒りを鎮め「何?」と発言を許す。

「護衛のお二人はグランツ様の直属の部下であるためグランツ様を裏切るような事はないと考えてのことだと思います。また、実力も…」
「なるほど、コレで妥協したという事ね」

 わたしにいい感情を持っていなくても、仕事はきちんとこなしてくれるはず、という事?で、妥協?

「それに、シイナ様を誤解しているようなんです」
「だろうな!じゃないとコハクちゃんを嫌うわけがない!」

 強く頷き、言い切るシェーンハイト様。
 いやいや、わたしそんな大層な人間じゃないですよ!

「そうね、この際だから腹を割って話しましょう」

 フレイヤ様は取り繕っても無駄よと言うかのように二人に睨みをきかせた。

 数秒の沈黙の後、わたしはシェーンハイト様に手招きをされて、お二人の間へと場所を移した。サアニャもわたしの後ろに立ち、テーブルを挟んで護衛の二人は元の位置に立ったままだ。

「で、まず二人はコハクちゃんをどう誤解しているのかな?」

 シェーンハイト様がサアニャに尋ねる。

「はい、二人はシイナ様がちんちくりんで、グランツ様に相応しくない、グランツ様をお兄ちゃん呼びなんて図に乗るな、婚約の件も嘘なんだろ。また、シイナ様が魔王様に媚びて、自らの体と血で誘惑し泣きついたなどともおっしゃっていました」
「さ、サアニャ⁈その事は」
「魔王様とグランツ様には伝えていませんよ?」

 うん、確かにわたしはクシェル様とジーク様には伝えないでと言っただけで、誰にも言わないでとまでは言ってないけど!けど、普通言わないよね!

「あ、更には役立たずの脆弱種族と魔族が未来なんか誓えるわけがないだろともおっしゃっていました!」
「ちょっとサアニャ!」

 もうほぼ全部言っちゃた。

「ほぉー……」

 完全にお怒りモードなフレイヤ様とシェーンハイト様。フレイヤ様は怒りで声も出ない様子。

「そ、それは僕じゃない!」

 慌てて否定するアレクさん。
 それに比べグレンさんは口を閉ざし否定も肯定もしない。いや、恐怖で口を開くことが出来ないのかもしれない。
 わたしも怖くてお二人の顔を直視出来ない。

「どの発言がどっちのものかなんて関係ないんだよ」

 普段からは想像も出来ないほど低く冷たいシェーンハイト様の声がアレクさんを黙らせる。
 わたしに向けられたものじゃないのに、恐怖で息が苦しい。
 
 そんなわたしに気づいたシェーンハイト様は「あんな事を言われて辛かったよな、もう大丈夫だぞ」と、わたしの震えている手をそっと包んでくれる。
 そ、そうだけど、違う。今わたしが震えているのはーー

「あなたのせいでしょ!コハクちゃんを怖がらせてどうするの!」
「え⁈ご、ごめんねぇコハクちゃん」

 フレイヤ様に注意されてアワアワと「こ、怖くないよー」とおどけて見せるシェーンハイト様。と思ったらハッと何かに気づいて、慌ててわたしの手を離す。
 自分(怖い人)に触れられる事をわたしが嫌に思うと考えたのかもしれない。
 わたしはその手をとっさに追っていた。

「コハクちゃん⁈」
「あ、あの、わたしのために怒ってくれてるのに、怖がったりしてすみません」
「いや、そんな事は」

 自分の手に添えられたわたしの手を凝視したまま答えるシェーンハイト様。

「大丈夫です、シェーンハイト様に触れられるのは怖くないです、嫌じゃないです!」

 空いている手で口元を押さえ天を仰ぎ、何かを呟くシェーンハイト様。

「シェーン、ハイト様?」
「ありがとうコハクちゃん。だが、君に触れたらクシェルに……だから、すまない!!」

 シェーンハイト様は何かに耐えるように歯をくいしばり、涙を浮かべながらわたしの手をそっと剥がした。

 え?あ、もしかしてわたし勘違いでとても大胆な事をしでかした⁈
 あの時シェーンハイト様はわたしが怖がらないように手を離したんじゃなくて、クシェル様の言いつけを思い出して慌てて手を離したんじゃ⁈いや、絶対そうだ。
 だとするとわたし、お、思い上がりもいいとこだ。わたしのためを思って手を離してくれたなんて勘違いして、「大丈夫、嫌じゃない」なんて偉そうな事を言って、挙句にはシェーンハイト様を困らせて……恥ずかしい


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