勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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【ジーク】何故そう自分を卑下するんだ?

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 生理中はクシェルにコハクを近づけるわけにはいかない。それがお互いのためだ。そのため生理中、コハクには俺の部屋で生活してもらう事になった。
 コハクにそれを伝えると、クシェルに申し訳ないという。

 コハクは何故か自分自身を軽く扱うところがある。何かにつけて「申し訳ない」「迷惑がかかる」「わたしのせいで」と謝って、遠慮して、何かを望もうとしない。

 俺はそれがーー気に食わない

 思わず眉間にシワが寄ってしまった。

 風呂上がり俺はクシェルみたいに魔法で髪を乾かしてやる事はできないため、魔道具でコハクの髪を乾かす。それが気持ち良いのかウツラウツラとしだすコハク。

「もう寝るか?」

 まだ寝る時間には少し早いが無理に起きておく必要もない。

「…うん」

 コハクは目をこすりながら頷く。
 コハクをベッドへ運ぶために抱きかかえようとすると、俺の腕の中へ手を伸ばし自ら収まるコハク。

 ーー今日はやけに素直だ

 ベッドにコハクを寝かせると俺は入れ替わる様に風呂へと向かう。

 風呂から上がるとコハクは「ゔ~」と布団の中で身を丸めて苦しげに唸っていた。

「コハク大丈夫か?」

 唸るだけで返答はない。
 コハクが下腹部を押さえているのに気づき、俺は後ろからコハクを包み込むように横になり、コハクのお腹に手を添えてみる。
 するとコハクは手を下腹部から俺の手の上に重ね直した。

「っコハク⁈」

 コハクの唸りが止み、息が整っていく。
 痛みが和らいだのだろう。

「…良いのか?」
「うん、あったかい……気持ちぃ」
「グっ!ーー!」

 お、おおお落ち着け、俺。
 いやしかし、この体勢でそのセリフは想像するなって方が、反応するなって方がおかしいだろ!
 俺はコハクが完全に眠った後もう一度バスルームへと向かう羽目になった。


 コハクは眠たいと素直になるらしい。
 

 次の日コハクは更に具合が悪そうで、俺は仕事を休み1日コハクのそばにいる事にした。
 風呂やトイレに抱いて運ぼうとしたら、さすがに拒否されたが、出来ることは全てやった。
 夜、昨晩のようにお腹をさすろうとしたら、顔を真っ赤にして軽く抵抗されたが押し切ってさすっているといつのまにか体の強張りもとけ規則的な寝息が聞こえてきた。

 ーーやはり、素直なのは眠たい時限定らしい。

 そしてその日は俺もそのまま眠りについた。

次の日

 今日は朝食も残さず食べて、顔色も良い。もう腹痛も軽くなったようだ。
 今日は一人でも大丈夫かな(部屋の前にはもちろん護衛付き)と思っているとタイミングよく新しいメイドが到着したと報告が入り、すぐにこの部屋に来るように伝えた。
 新しいメイド、サアニャはあの学者の姪で種族間の偏見もなく異世界人への理解もある。


 これで俺たち(男性)には言えない事も大丈夫だな。
 俺はコハクの事をサアニャに任せて、仕事場へ向かった。

 しかし、大丈夫ではなかった。
 昼過ぎに「シイナ様の食欲が無く、元気が無い」という連絡がサアニャから入る。

 夕食は今朝と同じようにモグモグと頬張り食欲がないようには見えない。

「昼は食欲が無かったみたいだが、まだ具合が悪いのか?」

 俺がそう聞くとコハクはシュンとして「一人では食欲が湧かない」と言う。

 それって俺たちが居なくて寂しかったということか⁈それで元気が無かったのか⁈
 俺たちがそばに居なくて寂しくてシュンとするコハクーー可愛い。想像だけで可愛い!

 こんな事で喜んではいけない。緩む口元をコハクにバレないように手で隠し、つい目を逸らしてしまう。

 ーーよし、明日から食事の時はコハクの側にいるようにしよう、コハクも喜んでくれるはずだ

「え⁈でも忙しいのに」

 昼の時間くらい少し訓練の時間を短縮すれば済む。そんな気を使わなくて良いんだが。

「わたしなんかのために」

 ーーーーはあ?

「わたし、なんか?」

 これは謙虚や気づかいという言葉では片付けられない。

「じ、ジーク様?」

 俺がいきなり険しい顔をしたためコハクは戸惑い俺の名前を呼ぶ。
 今更、様付けにコハクに一線を引かれているように感じて怒りが湧く。
 コハクに手を伸ばすと今の俺が怖いのかビクつくコハク、それを謝り目をそらすコハク。
 更に怒りが募る。何故そうすぐに謝る、コハクが悪いわけでは無いのに。

「コハクは何故そう自分を卑下するんだ?」

 目を合わせるように促し、怒りを抑え尋ねる。

「わ、わたしには何もないから」

 弱々しくそう答えるコハク。

 ーーーーはあ?

「誰かにそう言われたのか?」

 いつも「申し訳ない」とか「迷惑がかかる」とか言っていたのは単に気づかいや謙遜から来たものではなく…

 コハクは小さく首を横に振り否定する。

「じゃあ、何故ーー」

 そう自分自身の価値を貶めるような事を言うのか。

「それが、事実だからです」

 その言葉には迷いは感じられない。

 ーー何が誰がコハクにそう思わせているのか、前の世界で何かあったのか?いや、一般的な渡り人ならありえるが、コハクは不自由なく幸せに暮らしていて、夢もあったと言っていた。自分の価値を否定されるような環境ではなかったはずだ。ではやはり、この世界のせいか?

「ッコハク⁈」

 コハクの頰に添えた手が濡れる感覚がしてコハクを見ると目から大粒の涙を流していた。

「ご、ごめんなさい」

 俺と目が合うと慌てて謝る。

「すまない、怖かったな、コハクを責めているわけじゃないんだ」

 コハクがこんな風に泣くのは初めてでどうして良いかわからず、ついあやすような形になってしまった。
 膝の上に横抱きにするとコハクはしがみ付き頭をグリグリと押し当ててきた。

 ーーこれは甘えている、のか?

「コハクはもっと甘えて良いんだ、一昨日も言っただろう」

 俺はもっとコハクに甘えて欲しい。わがままを言って欲しい。
 コハクはコクコクと頷く。

 コハクは一人っ子ではあるが、家族は父親だけだと聞いた。誰かに甘えた事があまり無かったのかもしれない。甘えるのに慣れてなくて、寂しさも我慢するのが当たり前になってしまっていたのかもしれない。それがこっちの世界に来て俺たちに囲われて、必要以上に、寂しさを感じる暇もない程構われてーー月経という不安定な時期にふと寂しさを思い出し、不安になってしまったのかもしれない。

「不満や不安な事があったら言って欲しい」

 安心して欲しくて、強く抱きしめ頭を撫でる。

「ごめん、なさい、わたし二人が居なくて…寂しくて不安で…役に立てなくて、負担しかかけてなくて、二人が居ないと、こ、こんなにも不安定で…こんなんじゃいつか、二人にも愛想…つ、尽かされっ、て思ったら」

 コハクは言葉に詰まりながらも、どうにか伝えようとしてくれる。俺は途中出かかった言葉を飲み込み、コハクの言葉に耳を傾ける。
 しかし、最後のはさすがに耐えられなかった。

 俺たちがコハクに愛想を尽かす?

「そんな訳ないだろ?」

 またコハクを怖がらせないように優しい声を意識して言葉を発する。

 ーー愛想を尽かされるとしたら、俺たちの方だ。コハクが無垢で優しい事をいいことにこっちの要求を押し付けて、騙すような事もした。

「ごめんなさい」

 何故コハクが謝るーー責めているわけじゃないんだ。

「コハク?」

 どうしたら伝わる?どれほどコハクが大切で愛しくてたまらないのか、俺たちがどれほどコハクに助けられているか。

「役に立つ立たないじゃないだろ?」

 そんな自分を道具のように、駒のように言わないでくれ。

「コハクの事を負担に思ったことはない」

 コハクには俺たちの愛情が伝わって無かったのか?コハクを守るのも必要以上に世話をしてしまうのもコハクが大切で愛しいからだ。

「ジーク様」

 コハクがゆっくりと顔を上げ、俺を呼ぶ。

「ん?」

 少しでも伝わっただろうか。

「ありがとうジークお兄ちゃん、大好き」
『ギュー』

 ーーなっ!?なななな何が起きた!ジークお兄ちゃんって言わなかったか?お兄ちゃんって!で、で、大好きって…大好きって『ギュー』てぇ?ふぁ?

 俺はあまりの衝撃に固まってしまう。

 俺の気持ちがコハクに伝わったのだろうか。俺の言葉を信じて、甘えてみようとしてくれている、のか?

 俺に抱きつく力が弱まる。
 コハクを見ると不安げに俺を見つめていた。

 あー間違いない、俺を信じて甘えようとしてくれたんだ。それで、反応が無かったから不安になってしまったんだな。
 すまない、不安にさせて。大丈夫だぞ甘えて、俺が全て受け止めてやるから。
 そう思いを込めて笑いかけるとコハクは安心したようにふわりと微笑んだ。



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