35 / 119
【クシェル】引くわ!
しおりを挟むコハクが目を覚ましたのは次の日の朝だった。
体調もすっかり良くなったようで、良かった。朝食を済ませると今日は三人で執務室へと向かう。
「今日はジーク様も一緒なんですね」
執務室に着くと、コハクは嬉しそうにジークに笑いかけた。
「あー…お兄ちゃんとは呼んでくれないのか?」
「え⁈あ、あれはその場の勢いというか、つい調子に乗ってしまったというか、わ、忘れてください!」
赤面しアワアワと顔を隠すコハク
「可愛かったのに…もう呼んでくれないのか?」
それにわざとらしく眉を下げて悲しげに呟くジーク、何だその表情!コハクの良心に訴えようって魂胆か⁈引くわ!
「え⁈あ、でも…えと、じ、ジーク、おにぃ」
『コンコン』
タイミングよくドアが鳴る。
コハクはドアの音にビックリして言葉を止め、慌ててドアの方を向いてしまう。
そして現れたのは勿論俺が呼んだ奴らだ。
「「失礼します!」」
呼ばれたから来ただけなのにジーク(上司)から睨まれる二人。二人の顔に緊張が走る。
「もう知ってると思うが、部下のアレクとグレンだ。今日から二人を護衛に付ける」
そう、今日ジークも執務室に来てもらったのはこの話をするためだ。
実は昨日帰りの馬車に乗り込む前再び母さんに俺だけ呼び止められていた。
「クシェル、コハクちゃんの事なんだけど」
「ん?」
「見張らせるのがいつもの事だっていうけど他には変な事して無いでしょうね?」
「変な事?コハクが何をしているか、困っていないか、何かされてないかと心配するのは当たり前だろ?」
「だからっていつも監視まがいなことしてるなんて普通じゃ無いわよ!される方の事を考えたことある?」
ーー考えた事、無かった。
「そんな事されてるって知ったらコハクちゃん傷つくわよ、そしたらクシェル、あなた……」
そしたら…き、嫌われる?
「クシェル様がそんな人だったなんて…」
「ち、違うんだ俺はコハクの事が心配で」
「ち、近づかないで下さい!クシェル様なんて嫌いです!」
「許してくれもうしないから!」
「信じられません!ーー帰りたい、もうこんな人の側になんて居たく無い」
なんて事にーー嫌だ嫌だ嫌だ!
「お、俺はどうすれば!!」
今までのコハクへの対応について他に変な事がないか一から母さんに話した。
寝るのは三人同じ部屋であることは、「普通では無いが今のところコハクちゃんを守るためには仕方ない」と了承を得た。食事はいつも俺とジークどちらかが与える事もやはり普通では無い。しかし、コハクが受け入れているため今更直さなくていい。
授業は俺の居る隣の部屋でルークの監視付き、昼食は俺の居る部屋、授業がない時も俺の居る部屋で、ジークを待って三人で夕食、後は俺の部屋で過ごし(風呂も俺の部屋のを交代で使用する)次の日も同じように…
「バっ、それじゃ軟禁じゃない!何してるの!」
な、軟禁の自覚は無かった。確かに思い返してみるとーーコハクの行動を制限し過ぎている。
「よくコハクちゃんも反抗しないわね……」
「コハクが気にして無いなら別にこのままでも」
「いいわけないでしょ!兎に角、コハクちゃんを城の中に閉じ込めるのはやめなさい!今はいいかも知れないけどそのうち、今の生活に飽きが来て不満が出てくるわ!てか、コハクちゃんの健康に良くないわ!身体的にも精神的にも!」
「わ、分かった」
「あと、監視は今すぐやめなさい!その代わり護衛を付けて堂々と見張りなさい!多分コハクちゃんなら護衛を嫌がったりしないから、いいわね!」
「は、はい」
ということで、早速今日からコハクに護衛をつけることにした。
「ご、護衛⁈」
「城内の者にはコハクが俺の婚約者であることを伝えた、これで危険性も減っただろうし、コハクも室内ばかりじゃ退屈だろう?」
正確には外どころか室内も満足に歩けてないが、すまん。
「とは言っても、油断は出来ない!室内外共に俺がいない所でコハクに危害を加えようとする者がいないとも限らない、そこで護衛をつける事にした!城の外は、まだ無理だがーーすまない」
本当はこのままずっと俺の側にいて欲しいが、コハクの為だと言われたら仕方ない。庭には庭園や噴水、広い芝生、様々な木々がある。取り敢えずこれでいっときは退屈しないだろう。
「い、いえ、ありがとうございます!えと、城内だったらどこに行ってもいいんですか?」
すごく嬉しそうだ!すでに、不自由な代り映えのしない生活に飽きていたのか!
「そうだな、騎士寮や使用人の居住区など人の多い所は避けて欲しいがーー基本自由にしてもらって構わない」
「訓練場は?」
訓練場⁈コハクはそういうのは苦手だと思っていたが、あちらでは戦いが身近では無かったと言っていたし、逆に興味があるのか?
「か、構わないが」
目を輝かせてテンションが上がるコハク
「わたし、ジーク様の仕事姿も見てみたかったんです!」
どうやら戦いそのものや騎士たちに興味があったわけではないようだ。
「ジーク様は魔法剣士なんですよね?剣に魔法を付与して戦うんですか?炎を纏った剣とか切っただけで相手を凍らせる剣とか!」
「いや、魔法を使いながら剣を振るう」
それを聞き残念そうにするコハク。
ジークは基本(身体強化して)剣を振るい、魔法は敵の攻撃を防いだり、離れた敵を倒すのに使う。
「や、やったことはないが、出来なくはないと思う!今度試してみよう!」
ジークは慌ててフォローを入れる。
ーー必死か!引くわ!
「はい!是非!」
目に輝きが戻る。可愛い!
「クシェル様は?光魔法?以外は使えるんですよね、雷の虎とか出せますか?魔力波を打ったり!こう何々バスターみたいな!」
雷のトラ⁈何々バスターて何だ⁈まぁやろうと思えばで、出来なくは無い、かな?
「あ、あーそんな感じだ」
「す、凄い!」
痛い程の期待の眼差しーーマズい取り敢えず、練習しよう!
やめてくれ、そんな哀れな者を見るような目で見ないでくれ!「必死か!引くわー」とか思ってすまなかった!
俺はジークと目を合わすことが出来なかった。
今日はこのまま午前中は自由に城内をみてわまる事にして、午後は授業だ。
コハクが城内を散策している間に俺にはやらなければならないことが出来た!
「ルーク、あの学者を呼べ!」
20
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ義父に執着されて困ってます!
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が公爵である義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?


義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる