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【クシェル】母さんからの助言
しおりを挟むジークが居るとはいえコハクを親父と同じ部屋に残して来たのは不安だ。
「くそ、ルークさえ居れば」
ルークに監視させられるのに。
いや、無理か。親父に透明化魔法は通じない。それに監視させられたにしてもその情報を遠くの者に送受信する術はない。
だから結局は報告待ちになる。
「クシェルまさかそんな事いつもしてるわけじゃないわよね」
母さんが怪訝そうに尋ねてくる。
そんな事とはルークにコハクを見張らせて、報告させていることだろうか?
「いつもの事だが?」
何か問題があるのだろうか?
何故か頭をおさえる母さん。
「急にどうした、具合でも悪いのか?」
「いえ大丈夫よ、そうね分かったわ、そういう感じね」
何か納得したようだ。俺はさっぱり分からない。
「そうかーーで、話したい事とは?」
わざわざ俺だけを呼び出したって事はコハクには聞かせたくない話なのだろう。
「ーーコハクちゃんの事愛してるのね」
「……」
コハクの身に関わることかとそれなりに構えていたのだが、母さんからのまさかの指摘に一瞬思考が停止してしまった。
「まさか自覚無し⁈」
「いや、自覚はしているが……?」
何故今更そんな当たり前のことを聞いてくるのか。と、反応に困る。
ヴァンパイアは定期的に強い吸血衝動(ヒート)に襲われ、それは他者の血を飲むまで治らず我慢すればするだけ悪化し、最後には理性をなくす。それは大体月一の周期で訪れるのだが、これには例外が一つある。それは愛する者の血だ。愛する者の血はヒート関係なく欲しくなり、それは相手を強く思えば思うほど強くなる。それとは別にヴァンパイアには愛する者の全てを喰らい尽くしたいという本能的部分もある。
つまり、血の味が嫌いな俺がヒートでもないのにコハクの血が欲しくなったのは、俺がコハクの事を愛しているからで、 コハクの血を飲んで暴走したのもそれが原因だ。
あそこまでやらかしておいて、俺がコハクを『愛してない』なんてある訳がないし、俺自身それを自覚していない訳がない。
「コハクも俺の吸血欲を受け止めてくれているし何の問題もーーあ!次からは暴走しないように気をつける!」
今度からはコハクに負担がかからない程度に抑えないとな。
昨日の暴走は、初めて覚えた強い欲求を「一生手に入らないもの」だと思い、我慢して我慢してーー初めて味わう「愛しい者の血」だったからだと思う。自覚した今ならある程度抑制は可能なはず!
おそらくそのことについて、釘を刺しておきたかったのだろうーーと思ったが母さんの反応はイマイチで……
「クシェル、コハクちゃんと婚約しなさい!」
数秒の沈黙の後母さんは何かを決心したかのようにまっすぐ俺を見てそう宣言した。
「コハクとの結婚を許可してくれるのか!しかし、コハクは俺をそういう意味で好きと言ってくれたわけでは……コハクの気持ちを無視することは出来ない!」
俺はコハクの事が愛しくて全てが欲しいと思うし、そ、そういう行為も想像しないこともなくは無いわけで!でも、コハクは多分俺たちの事を親切な人ーーお義父さんの様にしか思っていない。未だに俺たちからの愛情は受け入れてくれるが、コハクから甘えては来てくれないし、俺たちを全く警戒しない。信頼してくれているのは嬉しいのだが、つまり、それは異性として見られてないという事でーー年齢差が大きいのがいけないのか?
「そのくらいの常識はあるのね」
母さんが何かを呟いたが考え事をしていた俺には聞こえてなかった。
「これはコハクちゃんを守るためでもあるの」
「どういう事だ!!」
母さん曰く、魔王の婚約者となれば下手に手を出して来る者も減り、他国に連れて行かれた時も助けやすいらしい。
コハクに害を加えようとした者、コハクを奪おうとした者は鏖殺してしはえばいいのでは?と思ったが、「魔王の婚約者」という肩書きは、周りへの牽制だけでなく、コハクに俺をそういう対象として意識させるきっかけにもなるらしいーーよし!分かった今すぐ婚約しよう!
とりあえず今はコハクが結婚するまで仮の婚約ということにするらしい。
まー、コハクに他の男を選ばせる気は無いがな!
俺はすぐにコハクの元へ急いだ。
扉の前に着くと中から親父の声が聞こえてきた。
「コハクちゃんには何かと危険や負担をしいる事になってしまう」
何の話をしているんだ?何か良くない流れのように感じる。しかし親父のその一言だけでは話の流れが掴めず、俺はコハクの答えを待った。
そして、コハクが少し考えた後に出した答えは俺たちの側に居たいというものだった。
確かに言った!「側に居たい」と、「ダメ、ですか?」だと?ダメな訳あるか!コハクのことは俺が守る!安心して側に居ると良い!よし、その為にも今すぐ婚約しよう!
「そ、そんなこと出来ません!」
やはり、いきなり婚約というのは無理があったかーーしかし、ここで引くわけには行かない!
「俺と婚約するのは形だけでも、嫌か?」
今は「形だけ」だからと説得にかかる。
「い、嫌ってわけじゃーーでも、それじゃクシェル様に迷惑が…」
ーー嫌じゃない?ーー俺に迷惑が?
つまり、俺に迷惑がかかると思って断ったのか⁈迷惑に思うわけ無いだろー!!むしろ出来ることなら今すぐ結婚して、一生二人っきりで生きていきたいくらいなのに!
自分の安全よりも俺の事を気遣ってくれるなんて、どこまで優しいんだ!謙虚で素直で優しくて可愛い可愛い俺の天使!
「迷惑じゃない!!俺にコハクを守らせてくれ」
その後みんなでコハクの説得へ力を尽くす。
しかし、コハクはなかなか首を縦には振ってくれない。何故だ!コハクは何が気がかりなんだ!どうすればコハクは俺と婚約してくれるんだ!
「お兄ちゃん!!」
俺がどう説得しようかと頭を抱えていると急にコハクの声が弾んだ。
ななな、何だそのキラキラした目は!何故そんな目でジークを見ている⁈
「わたしずっとお兄ちゃんに憧れてたんです!」
そうか、コハクはお兄ちゃんが欲しかったのか!
そして、終いには、ジークに撫でられて頬を染めて天使の微笑みを見せる。
可愛いーー!ずるいぞジーク!俺だってお兄ちゃんくらいなれる!さぁおいで~お兄ちゃん、いや、にぃにが思う存分甘やかしてやるぞー
昔、年の離れた仲のいい兄妹の妹が兄に「にぃにだいしゅき~」と言って抱きついていたのを見た事がある。
「クシェルは婚約者でしょ?」
「グッ…じ、じゃぁ、にぃに兼婚約者ということで!」
「それ犯罪じゃない?」
「………」
結局「にぃに、だいしゅきー」とはいかなかった。
その後、コハクの体調がいささか不安ではあったが、ロリコン変態親父の変態度が増してウザかったので、婚約発表とか面倒なことは両親に押し付けて帰還を急いだ。
しかし、町による気は無かったので早めの昼食を済ませてから出発した。
出発して10分もしないうちにコハクはウトウトとし始める。
「寝てていいぞ、着いたら起こしてやるから」
「はい、すみません」
そう言ってコハクは俺の腕へもたれかかった。
ーー左腕が幸せ
コハクは普段こんなに、素直に甘えてくることはない。やはり体調が本調子では無いようだ。
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