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初めての……
しおりを挟むクシェル様の真っ赤に染まった目が細められ、更に熱を帯びる。と同時にクシェル様の手の力が強まり、顔が近づいてくる。
自分の身体全てが心臓になってしまったのではないかと言うくらいドキドキする。
クシェル様の顔を直視できなくて、目を瞑ってしまう。
すると暗い視界の中クシェル様の影と二人に触れられている熱と自分の鼓動だけを感じ、更に脈が早くなるのを感じる。
「っあ」
影が右にずれたかと思うと首に温かいものを感じた。思わず目を開くと部屋の天井とわたしの首元に綺麗な金茶色の髪が見え、首元に感じる温かいものはクシェル様の舌だということがわかった。
クシェル様はわたしが痛がらないように痛覚麻痺効果のある唾液を塗り込むように念入りにわたしの首元を濡らす。
その度にピチャピチャと卑猥な水音が右耳を侵し、首元がジンワリと熱もるのを感じる。
「は、ぁ……クシェル、様ぁ」
すると、自分の口から自分じゃないみたいな酷くエッチな声が発せられた。その声に戸惑っていると
「……っあ!」
今度は強く吸われた。少し痺れを感じたが、痛覚麻痺の効果がすでに効いているのか、痛みは感じない。
「大丈夫か?」
繋いだ手に力が入っていたようで、ジーク様が左耳元で小さく尋ねる。
ジーク様は純粋にわたしを心配してくれているのに、わたしはその声にすら反応してしまう。
ジーク様の低く身体の芯に響く声が、乾いた吐息が、クシェル様の熱く湿った息と首を濡らす水音がーーわたしの耳を犯す
「じ、ジーク様、ダメ」
「ん?大丈夫かコハク、息が上がっているぞ」
「あ、耳っ……やめっ!」
次は更に強く吸われ、ジーク様の手を力いっぱい握ってしまう。しかし、ジーク様は痛がる素振りは一切ない。
「コハクは耳が弱いのか」
ジーク様の声は独り言だったようで、小さく何を言われたのかは分からなかったが、その声が妙に熱っぽくて、わたしは思わずゾクッと背を震わせた。
「コハク」
首元がヒンヤリとしてクシェル様が離れたんだと分かった。
わたしの顔を覗くクシェル様はさっきより息が荒く、瞳全体が深い赤に変わっていて、薄く開いた口元から牙が見えた。
「クシェル様……っ!」
クシェル様が最後の確認をしているように見えて、わたしは頷いた。と同時に首にクシェル様の牙が触れた。
クシェル様はわたしの様子を伺うように徐々に力を入れていく。
不思議な事に痛みは無いのに皮膚が牙に押され引きつる感覚が妙に生々しい。その感覚は徐々に増していき、ついにはプツっと牙の先が皮膚を破る。
「んっ!」
それでもやはり痛みは無くそのほかの感覚が妙に鮮明に感じる。
繋いだ手に再び力が入っていく。
わたしが痛がって無いと分かるとグッと一気に牙が入ってきた。
周りの皮膚が引っ張られ傷口を押し広げられるなんとも言えない感覚ーー
「……っは」
いつのまにか息を止めていたみたいで、牙が根元まで入ったのが分かると緊張が解けて息が漏れた。
牙が抜かれると一瞬ヒンヤリとしたかと思うと次いでジワジワと生暖かいものが出てくる。
熱く大きな舌が首下から上へ這わされそれを舐め取る。
「ハァ、甘い」
そしてジュルッと吸われ、クシェル様の液体をゴクリと飲む喉の音が聞こえた。
自分の血の匂いは鉄臭くとてもいい匂いとは言い難い。しかし、クシェル様はまるで極上のスープでも味わうようにゴクゴクと飲んでいく。
「コハク、コハク、コハク」
今度はわたしの血によりピチャピチャと卑猥な音がなる。
「く、クシェル様」
繋いだ手に力が入るとジーク様がわたしの強張りを解くため優しい言葉をかけてくれ、わたしを支える腕に力が込められる。
「良い子だ、コハクもう少し頑張ろうなぁ」
「うん、ジーク様ぁ」
わたしは支えてくれているジーク様の腕に無意識に爪を立ててしまう。しかし、ジーク様は痛がることも怒ることもなく、ただただ優しくわたしを励ましてくれる。
「大丈夫か?無理するなよ」
「うん、大丈っ?!」
クシェル様が一旦離れ舐められたかと思うと今までで一番強く吸われた。
「クシェル、様っ……あ、待っ」
すると段々身体が冷えていき、頭が少しずつボンヤリしてくる。
ーーこのままじゃマズイ、貧血になってる気がする!
しかし、クシェル様は止める気配がない。
ジーク様と繋いだ手に力が入らなくなってきた。
「もう……っと、止めて」
「クシェルやめろ!」
ジーク様が慌ててクシェル様を引き剥がしてくれた。
クシェル様は一瞬ジーク様を睨んだが、わたしと目が合うと熱が一気に冷めたみたいにサーと血の気が引いていった。
「す、すまないコハク!」
「美味しかった、ですか?」
「え⁈あ、あーとても」
ーー美味しかったなら、喜んでくれたなら
「良かった……」
わたしはそのまま意識を手放した。
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