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【クシェル】天使なのかもしれない

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「ニヤニヤして、何か良いことでもあったのか?」


 コハクが俺の瞳と似ていると言う空について語り、こんな俺のことを優しい魔王なんて言ってくれたあの場面を何度も頭の中で繰り返し再生し、幸せに浸っているとジークの声がして、我にかえる。

 外を見ると空は赤く染まり、いつのまにか夕方の空になっていた。
 随分長い時間トリップしていたようだ。
 机の上を見ると書類の束は昼間の状態から半分も減っていない。が、まぁそんな事よりも!

「聞いてくれジーク!なんとコハクが俺のこの目を一番好きな空に似て、神秘的でとても綺麗だと言ってくれたんだ。母さんの赤は暖かく親父の青は涼やかな色だと、その空を見ると優しい気持ちになれて、俺みたいなんだって!俺のことを優しい魔王って!」

 この喜びを早く語りたかった。
 他でもない、俺の数少ない理解者で心から信頼出来る親友のジークに。
 俺が語りながら、声を震わせて涙目になっているのを見てジークも「良かったな」って目を潤ませて、まるで自分の事のように一緒に喜んでくれた。

 魔王は代々金髪青眼であり、身体が大きいほど強き偉大な魔王と言われる。
 しかし、俺の髪は金茶色で、目も青に赤が混じり、身体も平均くらいしかない。

 ーー醜く、燻んだ出来損ないの望まれない存在。

 コハクが俺の瞳を綺麗だと言ってくれたのは、コハクが異世界人で、こちらの世界とは常識や価値観が違うからだと分かっている。でも、それでもコハクの言葉と笑顔にーー何か許された気がしたんだ。

 もしかしたらコハクは神が俺の元に遣わしてくれた天使『救い』なのかもしれない!

「良い子だな」
「あぁ、それでなあの小さな口で一生懸命に食事を頬張る姿がまた可愛いんだ!」
「ーーん?」
「もともと少しぷにっとした柔らかそうな可愛い頰が更に膨らんでまるで小動物のようで突きたい衝動を抑えるのが大変だった」

 ジークの表情が固まり、目をそらされたが気にせずに語る。

「クシェルと呼んで欲しいと頼んだら一度だけ「クシェル?」なんて小首を傾げながらあどけなく呼んでくれたんだ。可愛かったなぁ…。その後は敬称を付けられてしまったが、困ったように上目遣いで俺の名前を呼ぶコハクもたまらなく可愛かった!つい抱きしめたくなってしまった」

 あそこで冷静に衝動を押さえ込んだ自分を褒めてやりたい。きっと今の俺はコハクに見せられない顔をしているはずだ。
 息が上がり、表情筋が緩みきっているのが自分でも分かる。

「好きなものを語るコハクも可愛かったなぁ」
「よ、良かったな」

 好きなものを語る時コハクは目を輝かせて楽しそうに話す。本当に好きなのが伝わってきて、聞いているこっちまで楽しい気持ちになれる。

 コハクは自然の風景が好きで、趣味は食べることだと言っていた。こちらの料理も好きになってくれたら、この世界を好きになってくれるかもしれない!

 そしたら帰りたいなんて思わなくなるかもーー

「夕食を共にする約束をしたんだ。迎えに行くからコハクの部屋へ案内してくれ!」



 ジークに案内されて着いた部屋は最上階の角部屋。

「おい、ジークここはっ!「彼女の安全のためだ」

 言われて気づく。
 昼間の使用人のコハクへの態度を見るに、人族というだけでコハクの命を狙う奴がいてもおかしくない。早くにそれに思い至ったジークは客室ではなくこの部屋にコハクを案内したのだ。
 この部屋は部屋の主人に危害を与えようとする者は入れないような結界が張ってある。
ちなみに俺の部屋は俺の許可した者しか入れないようになっている。

 つまり、この部屋は俺の部屋の次に安全な部屋ということだ。
 もしコハクをなんの結界も張ってない客室に案内していたら今頃どうなっていたかーー

「良い判断だジーク!よくやった」


 扉をノックするとコハク付きの使用人が扉を開き俺たちを中へと案内する。

「お、遅くなってすみません」

 と、そこには森の妖精がいた。
 淡い緑のワンピースに身を包んだコハクはまるで自然を愛する森の妖精のようで……可憐だ。
 しかし、急遽子供服を用意したらしくサイズが合っていない。ワンピースの長さは良さそうだが、少し胸のあたりがキツそうに見える。

 明日にでも仕立て屋を呼ばないとな。

「いや、こちらが時間前に来ただけだ気にするな」

 慌てて頭を下げようとするコハクを止めるジーク。それを見て使用人は眉をひそめるが、俺はあえてコハクの手を引く。

「一緒に食堂に行こうと思ってな、迎えに来た」

 これで馬鹿でも分かるだろう。俺たちはコハクを気に入っている。これ以上コハクを蔑視し続けるなら

 ーーどうなるか、分かるだろ?

 視線をやっただけで震えだす使用人を置いて部屋を出る。
 そいつの怯える姿がコハクの目に入らないようにさり気なくコハクの後ろに回るジーク。


 さり気ないフォロー、流石だ。
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