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固定観念

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 起きて目を開けると全て夢でしたーー

 なんて事はなく、豪勢な刺繍が施された天蓋と、ふかふかのベッドが昨日のことは現実なのだとわたしに思い知らせて来る。

 泣き出したわたしのせいであの場は御開きとなり、団長様に案内された部屋は客室とは思えない豪華さで、細かい刺繍が施されたソファや布団、棚や鏡にも細かな飾り細工が施されていた。まさにお嬢様のお部屋という感じだった。いや、テレビや漫画でしか見た事ないけど、多分そんな感じ。

 場所も最上階の角部屋だし、絶対客室じゃない。団長様に確認したけど問題ないの一言で、押し切られた。

 も、もしかしたら御偉いさん専用の客室とか?

「おはようございますシイナ様」
「おっお、おはようございます!」

 体を起こし部屋の中を見渡していると急にドアが開き、人が入ってきたから驚いた。
 その人はロングスカートにエプロンといったシンプルなメイド姿の女性だった。

「魔王様がお待ちです」

 メイドさんはそう言うと困惑しているわたしに早く身だしなみを整えるようにと言い残しすぐに寝室から出て行ってしまった。

「……え」

 み、身だしなみって言われても、替えの服は勿論歯ブラシとかも持ってないんですけどー!

 どうしようかと再び部屋中をキョロキョロと見渡す。と、壁ににかけてある時計が目に入り、それは昼近くをさしていてた。

 っえーー!もうこんな時間なの!も、もし魔王様が朝から私を呼んでいたとしたら、や、ヤバいよ!不敬罪確定⁈

「い、急がなきゃ……可愛い」

 『これ以上魔王様を待たせるわけにはいかない』と慌ててベッドから降りようとしたら、足元にピンクのふわふわスリッパが置かれているのが目に入った。

 もしかしたら団長様が手配してくれたのかな?昨晩もわたしの足のことを心配してくれてたし。有難いけど、これは可愛すぎるというか、団長様がこれを選んだと思うとちょっと恥ずかしい。

 団長様にとってわたしってこういうイメージなのかな?ってスリッパをまじまじ見ている暇はないんだった!

 スリッパを履いて大急ぎで部屋を出た。

 メイドさんもなんでもっと早く起こしてくれなかったの!


「お、おはようございます。お待たせしてしまい申し訳ございません!」

 メイドさんに案内された部屋は昨日と同じ、魔王様専用の執務室だった。

「あぁ、おはよ。昨日はよく眠れたか?」
「は、はい、おかげさまで」

 魔王様が怒っていなくて安心した。
 魔王様は仕事机から離れ、昨日話をした応接用の席に座って手招きする。
 わたしは一礼して魔王様の向かいの席に座った。

「食事は取ったか?」
「いえ…」

 魔王様は「…そうか」と眉を寄せるとわたしをここまで連れて来てくれたメイドさんにわたしの分の食事を持ってくるように指示を出す。

「俺が起きたら、なんて指示したから……すまない」
「い、いえそんな」

 そもそもわたしが昼まで寝ていたから、メイドさんも『これ以上魔王様を待たせるわけにはいかない』と急いだんだろうし悪いのはわたしだ。
 というか、わたしを起こさないように言ってくれたのは魔王様だったのかーー

「昨日はわたしのせいで話を中断させてしまいすみませんでした」

 昨晩あの後団長様には頭を下げたけど、魔王様にはこの件について謝れていなかった。改めて、(昨晩会話中に立って謝ったら話しづらいと言われたので座ったまま)頭を下げる。

 すると、魔王様も団長様同様わたしを責める事なくあの状況では仕方ないと許してくれた。


 そうこうしていると料理が運ばれてくる。
 魔王の前で自分だけ食事をとるという状況に戸惑っていると、魔王様から「冷めないうちに早く食べろ」と言われてしまった。

 食事の内容はフレンチトーストと野菜スープとハムだった。野菜スープの具材は見たことないものもあったけど、ほぼ元の世界の料理と同じ味だった。

「美味しい、です。こちらの料理もあっちの世界のとあまり変わらないんですね」
「これらは今まで来た異世界人が広めたものだ。口にあって良かった」

 そう言い、魔王様は微笑む。

 つまり、魔王様がわざわざ異世界人のわたしのために用意してくれたメニューだったということだ。

 ま、魔王ってこんな優しいものなの⁈
 しかもわたしって敵種族なんだよね?
 
 魔王って人を人とも思ってない、なんならその辺の石ころくらいにしか思っていなくて、少しでも気にいらないことがあったら平気で人を殺してしまうような人だと思ってた。

 ホント固定観念て怖い!

 その後わたしが食べ終わるまで魔王様は微笑ましいものでも見るような目で、急かすことなく待ってくれていた。

 そんな見られていると逆に食べづらい

 わたしは見苦しくない程度に急いで食べた。

「ご馳走様でした」

 わたしが食べ終わると魔王様は食器を下げさせ、今度は二人分のティーセットを用意させる。

「あ、ありがとうございます」

 魔王様と準備してくれたメイドさんに礼を言うと、魔王様は笑顔を返してくれたけど、メイドさんは無反応で、仕事が終わるとすぐに部屋から出て行ってしまった。
 わたし、メイドさんに嫌われてる?

「おい」
「は、はい!」

 メイドさんが去ったドアの方を見たまま固まっていたら魔王様に呼ばれた。
 慌てて魔王様の方に向き直ると、魔王様はさっきまでの笑顔は消え、俯き暗い顔をしていた。

「魔王様?」

 心配になり声をかけるが、魔王様は俯いたままだ。

「話の続きだが…」
「は、はい」
「……昨日言っていたことは本当か?」

 昨日言っていたこととは、どのことを指しているんだろう?年齢のことだろうか、それともまだ勇者ではないかと疑われているのだろうか。

 わたしは首を傾げる。

「昨日、俺の目が綺麗だと言っただろ。あれは本心か?それとも…」

 魔王様の伏せられていた瞳がわたしを捉え、微かに揺れる。

 もしかしたら、魔王様は自分の瞳にコンプレックスを持っているのかもしれない。確かに二つの色が重なった瞳なんて初めて見た。とても綺麗な瞳だけど、魔王様は周りとは違う自分の瞳が好きではないのかもしれない。
 わたしも自分の体型にコンプレックスがあり、クラスメイトに小さくて可愛いねとか、胸が大きくていいなぁとか言われても全然嬉しくなんかなかった。

「す、すみません。その、魔王様の瞳がわたしの好きな空に似ていて、とても綺麗だなぁって…」
「その空とはどんな空なんだ?」
「え?」

 まさかの食い気味な返しに魔王様を見ると、魔王様はまっすぐわたしを見据えていた。

「この目を綺麗だと言われたのは初めてで、お前が綺麗だと、好きだというその空が気になってな」

 魔王様は悲しく笑う。

 魔王様は自分の瞳を人と違うから好きになれないんじゃない。きっと、その瞳のせいで何か辛い目にあったんだ。
 どうして?こんなに綺麗な瞳なのに、なんて思ったけどそれはわたしの主観で、この世界では違うのかもしれない。例えば、二色の瞳は悪魔の瞳だとか、呪われし者の瞳だ、とか。

 わたしは何があったかは聞かない方がいいと判断し、それに気付かないフリであえて笑顔でその空について語った。

 少しでも自分の瞳を好きなって欲しくて、そんな悲しい顔をして欲しくなくて…。

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