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婚約者を妹に奪われた結果、本命との恋が叶いました
後編
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「ラルド王子との婚約おめでとう、フィアナ」
パーティーを終えた夜。
自室に戻ったサリーネが満面の笑みで妹を祝福する。だが、先程まで幸せそうだったフィアナは何故か美貌を陰らせた。
嬉しくないのだろうか?と不思議顔で小首を傾げるサリーネに、フィアナは心配そうな声音で問う。
「本当に宜しいの?サリーネお姉様」
「何が?」
「だから、辺境伯との婚約の事ですわよ!」
フィアナが身を乗り出して叫ぶ。ローゼルト伯爵家のご令嬢がはしたない、と眉を顰められそうな振る舞いだが、幸いにもこの部屋には姉妹しかいない。
「でも、わたくしの婚約が解消されたお陰で貴女はラルド王子と婚約出来たでしょう?」
「それはそうですけれど・・・・・・」
フィアナは口ごもりながら青い目を逸らす。しばらくせわしなく視線を彷徨わせていたフィアナは、おもむろに姉の手を取った。
「サリーネお姉様のアドバイス通り王子に接近して、婚約者の取り替えを提案して、『お姉様の新たな婚約者にはエルラム辺境伯がお似合いですわ』と進言して……私は王子との婚約を取り付けたけれど、その所為でお姉様が・・・・・・」
「貴女が気に病む事は何もないのよ、フィアナ」
妹の手を掬い上げて包み込み、サリーネは優しく諭す。
そう、全てはサリーネの画策だった。
ラルド王子の元へ妹を送り込み、妹にラルド王子を略奪させた。
婚約解消に憤って見せたのも、半獣人伯との婚約を命じられて怖がって見せたのも演技。細心の注意を払って臨んだ甲斐あって、王子も貴族達も見事に騙されてくれた。
そこまでしてサリーネがラルド王子との婚約を解消したかったのは何故なのかと言えば。
「だって貴女好みなのでしょう?第六王子は」
「えぇ、そうですわ」
青い双眸をきらきら輝かせて、フィアナは力いっぱい頷く。
「王族で手玉に取りやすくて美形、未婚の王子の中では一番お買い得ですもの!」
「可愛い妹の恋が実って、姉として本当に嬉しいわ」
心底そう思っているから、曇りの無い笑顔で喜ぶ。しかし力説していたフィアナはジト目になった。
「でも王子より半獣人伯爵の方がお好みなのですわよね?サリーネお姉様は」
今度はサリーネが喜色を露わにした。頬を薔薇色に染め、己の体を抱き締めて熱に浮かされた様に捲し立てる。
「えぇ、そうよ。八年前にパーティー会場でお会いした瞬間に心を奪われたの。厳つい面立ちには不釣り合いな獣耳がとても愛らしくて、十七歳の若さながら既に辺境を守るに相応しい風格を備えておいでだったわ」
「で、その時に緊張と不安で倒れかけたところを優しく介抱して下さって……惚れ込んでしまわれたのですわよね、お姉様は」
何度も聞かされた馴れ初めなので、フィアナはすっかり内容を覚えてしまっている。
「『エルラム様は騎士様みたいに格好良いですね』と言ったら、『オレを怖がらず、そんな風に言ってくれた女性は初めてだ』と照れていらしたの。それがとても魅力的で」
サリーネはうっとりした眼差しで当時を回想する。
呆れ顔の妹は眼中に無いのか、サリーネの話は止まらない。
「去年お見掛けした時には、人間離れした筋肉を身につけた逞しいお体になっておられて……あぁ、あの見事な体毛に覆われた太い腕に抱き締められる日を想像しただけで、わたくしは、もう・・・・・・っ」
身をくねらせて妄想を全開にするサリーネに、フィアナの冷たい視線が突き刺さる。
「お姉様の趣味は理解不能ですわ」
「わたくしには貴女の趣味が信じられません。あんななよなよした優男が良いだなんて」
「金髪美形王子は乙女の憧れですもの!」
青い瞳同士が火花を散らす。しばし睨み合った後、姉妹は同時に小さく笑った。
「でも、そのお陰でわたくし達は理想の相手と婚約する事が出来た」
「ですわね」
姉妹はお互いの手を取り、指を絡め合う。額を寄せて微笑み合った。
「貴女の幸せを祈っているわ、フィアナ」
「私もですわ。どうぞお幸せに、サリーネお姉様」
パーティーを終えた夜。
自室に戻ったサリーネが満面の笑みで妹を祝福する。だが、先程まで幸せそうだったフィアナは何故か美貌を陰らせた。
嬉しくないのだろうか?と不思議顔で小首を傾げるサリーネに、フィアナは心配そうな声音で問う。
「本当に宜しいの?サリーネお姉様」
「何が?」
「だから、辺境伯との婚約の事ですわよ!」
フィアナが身を乗り出して叫ぶ。ローゼルト伯爵家のご令嬢がはしたない、と眉を顰められそうな振る舞いだが、幸いにもこの部屋には姉妹しかいない。
「でも、わたくしの婚約が解消されたお陰で貴女はラルド王子と婚約出来たでしょう?」
「それはそうですけれど・・・・・・」
フィアナは口ごもりながら青い目を逸らす。しばらくせわしなく視線を彷徨わせていたフィアナは、おもむろに姉の手を取った。
「サリーネお姉様のアドバイス通り王子に接近して、婚約者の取り替えを提案して、『お姉様の新たな婚約者にはエルラム辺境伯がお似合いですわ』と進言して……私は王子との婚約を取り付けたけれど、その所為でお姉様が・・・・・・」
「貴女が気に病む事は何もないのよ、フィアナ」
妹の手を掬い上げて包み込み、サリーネは優しく諭す。
そう、全てはサリーネの画策だった。
ラルド王子の元へ妹を送り込み、妹にラルド王子を略奪させた。
婚約解消に憤って見せたのも、半獣人伯との婚約を命じられて怖がって見せたのも演技。細心の注意を払って臨んだ甲斐あって、王子も貴族達も見事に騙されてくれた。
そこまでしてサリーネがラルド王子との婚約を解消したかったのは何故なのかと言えば。
「だって貴女好みなのでしょう?第六王子は」
「えぇ、そうですわ」
青い双眸をきらきら輝かせて、フィアナは力いっぱい頷く。
「王族で手玉に取りやすくて美形、未婚の王子の中では一番お買い得ですもの!」
「可愛い妹の恋が実って、姉として本当に嬉しいわ」
心底そう思っているから、曇りの無い笑顔で喜ぶ。しかし力説していたフィアナはジト目になった。
「でも王子より半獣人伯爵の方がお好みなのですわよね?サリーネお姉様は」
今度はサリーネが喜色を露わにした。頬を薔薇色に染め、己の体を抱き締めて熱に浮かされた様に捲し立てる。
「えぇ、そうよ。八年前にパーティー会場でお会いした瞬間に心を奪われたの。厳つい面立ちには不釣り合いな獣耳がとても愛らしくて、十七歳の若さながら既に辺境を守るに相応しい風格を備えておいでだったわ」
「で、その時に緊張と不安で倒れかけたところを優しく介抱して下さって……惚れ込んでしまわれたのですわよね、お姉様は」
何度も聞かされた馴れ初めなので、フィアナはすっかり内容を覚えてしまっている。
「『エルラム様は騎士様みたいに格好良いですね』と言ったら、『オレを怖がらず、そんな風に言ってくれた女性は初めてだ』と照れていらしたの。それがとても魅力的で」
サリーネはうっとりした眼差しで当時を回想する。
呆れ顔の妹は眼中に無いのか、サリーネの話は止まらない。
「去年お見掛けした時には、人間離れした筋肉を身につけた逞しいお体になっておられて……あぁ、あの見事な体毛に覆われた太い腕に抱き締められる日を想像しただけで、わたくしは、もう・・・・・・っ」
身をくねらせて妄想を全開にするサリーネに、フィアナの冷たい視線が突き刺さる。
「お姉様の趣味は理解不能ですわ」
「わたくしには貴女の趣味が信じられません。あんななよなよした優男が良いだなんて」
「金髪美形王子は乙女の憧れですもの!」
青い瞳同士が火花を散らす。しばし睨み合った後、姉妹は同時に小さく笑った。
「でも、そのお陰でわたくし達は理想の相手と婚約する事が出来た」
「ですわね」
姉妹はお互いの手を取り、指を絡め合う。額を寄せて微笑み合った。
「貴女の幸せを祈っているわ、フィアナ」
「私もですわ。どうぞお幸せに、サリーネお姉様」
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