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静かに目を閉じると...
雪がしんしんと振る音と
愛しい足音が聞こえてくる。

私の胸の高鳴りと同じ様に、大きくなって近付いて来る。

「お待たせ!」

白い息を吐きながら彼は言う。

この瞬間が私は好きだった。

「今日はどこへ行く?」
「そうだなぁ...。」

電車に乗り込み、手を繋ぎ...寄り添って座る。
彼の熱で私の冷えた手が溶かされていく...。

私には行き先なんて何処でも良かった。
彼と一緒なら何処でも良かったのだ。

何度こうやって寄り添って、手を繋いだだろう?
過ぎ行く景色をどれだけ眺めただろう?

...でも同じ駅、同じ電車に乗っても...
彼はもう居ない。
あのセリフも足音すら聞こえない...。

私はずっと彼を待っている。
私に会う途中で命が尽きても...
ずっと待っている。


...でももう疲れてしまった。
雪はその事を知らない。

最後の電車に乗り、いつもの席へと座る。
彼と見た景色もだいぶ変わってしまった。
2人の思い出が行ったり来たり...するだけ。

あの雪を溶かす様なぬくもりも忘れた。

カバンの中から粒状のモノを取り出す。
彼のもとへと行ける切符。

やっとこの、深く長い悲しみから解放される...。
彼に会える...今度は私が言うからね。
「お待たせ!」と。

切符を飲もうとした時、窓からキラキラ輝いて見える雪が見えた。

彼の言葉を思い出す。


「あっ雪だ!」
「今年初めてだね。」

「雪がキラキラ輝いている様に見える。」
「キレイ!」

「雪子もキレイだよ。この雪の様にいつも笑って輝いていて欲しい。」  

...いつも...笑って欲しい?

『ごめんね、雪子。僕をもう待たなくていいよ。生きて笑って欲しい。』
...そう耳元で聞こえた気がした。

笑顔で泣きながら...私は呟いた。


「生きよう。」
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