不幸と幸福の反覆

三毛猫マン

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居候

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私の祖父母の家、父親の実家である。

私と姉は学校が夏休みに入ると祖父母に預けられることになった。



他人の家ではないのだが、私からしてみると「ほぼ他人」といえるほど面識がさほどなかった。



その家で一か月すむことになったわけだが、初日から私には嬉しいことが訪れる。

ご飯が自動的に用意されているのだ。



その夜の献立は手作り餃子、味噌汁、あとは付け合わせ。

私はおそらく初めて餃子というものを食べた。



その美味しさに喜びしかなかった。



夜ご飯を食べていると一本の電話が入る。

祖母が私を呼びに来て「お母さんからだよ」と受話器を手渡す。



その時間は母も仕事に行く前のご飯の時間だ。



母は電話の向こう側で泣いているようだ。

「ご飯炊いてくれてありがとう」

それが母からの電話だった。



私は毎日欠かさず母親が起きる前にお風呂を沸かし、ご飯か菓子パンを準備をし、お茶を入れ母を起こすという家事をしていた。



その習慣で祖父母の家に来る前にご飯を炊いてきたのだ。

このことを祖父母に話をすると少し空気が悪くなった気がした。



おそらく母も父もご飯すら作らずに放置していると感じ取ったのだろう。

このことが後の悲劇につながるきっかけになったと思う。



祖母はとにかく働き者で母とは真逆の人だった。

どんなに忙しくとも朝食を作り、昼は仕事なので塩むすびとカップラーメン、100円のお小遣いを残していった。

朝早くから仕事に行き、夜には必ず手作り料理を振舞ってくれた。



祖父はといえば働き者とは言えない感じだったように記憶しているが、祖母よりは家にいる時間は長かった。



父は4人兄弟で姉、妹、弟がいたのだが、弟の為に家を買っていた。

父は実家をそのうち継ぐことになるけど、弟には家がないことを不憫に思ったのだろう。弟のためになることなら何でもした形跡もある。



応接間には英語のカセットテープの教材がずらりと並び、辞書や専門書まである。

なんでも買ってあげたようだ。



私の父親は高校を中退して家出同然で東京に行ったので、おそらく弟にはしっかりと勉強させるつもりだったのだろう。



ところが弟は中卒で専門学校という学歴で終わった。

曽祖父は全く働かず、朝まで酒を飲んで馬車で帰ってくるような人だったらしいのだが、祖父もあまり働かず、父は居酒屋。



そして私がこの家を継ぐ4代目になるのだが、祖母からの期待は私に注がれていく。

「おまえはこの家の跡取りで御曹司なんだよ」と刷り込まれ、「いい学校に入り、将来は公務員になるんだよ」が口癖だった。



祖母は当時50代だったと思うが80歳を過ぎたころ、祖母は「読み書き」が出来ないことを知った。



だから学業の重要性が身に染みていたのだろう。



祖父母の家はとにかく広い。

庭には池があり錦鯉が何匹もいて畑もある。

庭師が来てお手入れするような立派な庭だ。



祖母が休みの時には買ってもらった自転車に乗り、大人の足で30~40分の場所にある畑に出かけ大自然で遊んだ。



数日すると祖母が男の子を自宅に連れてきた。

私の従兄弟で年も同じ。



後に驚いたことだが、その従兄弟の父親は祖父の弟の息子だった。

私の父は24歳ぐらいの時に姉が生まれているので早婚だが、それと比べるとずいぶん晩婚だ思う。



この家に来てから自由ではあったが暇だったので遊び友達になれると思っていたら従妹は外で遊ぶことと人と交わることを嫌った。



姉も外で遊ぶような子供ではなかったので仕方なく一人で毎日探検をした。

ある日、祖父が大工作業をしていたのを一日中眺めていた。



大工道具の「のこぎり」が気に入った私はその辺から木材を拾ってきてヒーローが使うような剣を作った。ペンキも塗り自分のお気に入りの道具が出来た。



当時は自転車以外の娯楽などはなかった私には、手作りの剣ですら宝物なのだ。



ご飯の心配はない、お菓子もある、そしてなんといってもお小遣いまである。

私はお小遣いなんてこの家に来るまで一度ももらったことはない。



一日のお小遣い100円。

近所の駄菓子屋さんに毎日通った。



夜になると私は祖父と一緒に寝て、姉は祖母と寝た。

楽しい日々ではあったが「おねしょ」をしてしまう。



祖父にはしょっちゅう怒られた。

どうにもおねしょが治らない。



一か月はあっという間に終えるが、それからは土日祝日は祖父母の家に毎週引き取られるようになった。
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