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#12 近代 ウララ編
#12.1 巡る季節 (2/2)
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病院に着いた。果たしてここが目的地なのかは、分からない。中に入ると、そわそわした おばさんが近寄って来る。
『よく来てくれたわ。さあ、こっちよ』
俺を連行するおばさん。動機は何だ?
病室に導かれた俺は、一人の少女と、出会う。おばさんは、”二人きりで”っと言い残し、姿をくらました。さて、この少女は……ウララだ。じゃあ、俺は誰だ? その答えを握る少女が、ベットから起き上がり、語りだす。
「ごめんね、ユウキ。私、もう、ユウキに会えないかもって。だから、お母さんに頼んで呼んで貰ったの」
ここまで来て今更、”君は誰ですか”なんて野暮なことは聞かない。目の前にいる、この薄幸の美少女に、そんな辛い現実を見せる必要はない。ここは適当に話を合わせるのが、俺の役目なんだろう。
君はやっと俺に会えたんだ。どこで、どうやって俺を知ったのか、俺とどんな関係を求めているのか。そんな疑問は、あのおばさんを、後で尋問すればいい。
「大丈夫だよ。ほら、こうして会えたじゃないか。君の為なら、俺はいつでも飛んでくるよ」
「ありがとう。ユウキ。私、私……」
泣き出してしまった。困る、困るぞ。俺は、ズボンのポケットにあったハンカチ……いや、タオルで彼女の涙を拭った。このタオルは綺麗なのだろうか?
泣いている彼女に、話す言葉が無い。当然だ。今初めて会ったのだから。
彼女の後ろに、写真立てが見える。そこに写る、彼女と……俺? 誰が撮ったのか、合成したのか、中々手が込んでいる。これは、もしかして、ドッキリか?
俺の心を読んだのか、彼女が写真の思い出を語り出した。
「二人で行った旅行。楽しかったよね。また二人で行きたかったな」
「また、行けるさ。行こう。二人で」
どこの話だ? 俺はどこへ行ったんだ?
『ごめんない。ユウキさん。ちょっと』
おばさんが割って入った。話が続きそうもなかったから、ちょうど良いタイミングだ。
『先生がお話があるっていうから、ユウキさんも一緒に』
家族でもない俺で良いのか?
◇◇
病室を出て廊下に出ると、看護師さんんが、おばさんと俺を待っていた。あーん? イリア? よく似ている。というか本人だよ。
看護師さんに連れられ廊下を歩く。
「イリア、イリア」
俺は小さな声でイリアに声をかけた。全くの無視だった。違うのか? 演技なのか? バカなのか?
イリア似の看護師さんが、とある部屋の前で立ち止まった。
「先生! ケンジ先生! お連れしましたよ」
イリア似の看護師さんんが、扉を開け、中に入るように催促する。どうやら、何かの診察室のようだ。俺達が中に入ると、白衣を着たケンジ先生は、何かをスプーンで食べている最中だった。”ケンジ先生”? やな予感しかしない。ケンジ先生は、俺達を見て慌てたのか、持っていたスプーンを落としてしまった。もしかして、もう、匙を投げたのか?
「ウララさんの、お母さんですね」
「はい、ウララの母です」
おい、ケンジ先生。まだ口の中に入ったままだぞ。その口を、手で拭いて良いのか? 医者だろう? ヤブか?
「彼は、誰ですか? いいんですか? ご一緒で」
「はい。彼はウララとは、もう、……」
「分かりました。それでは話しましょう」
何が分かったんだ? ”もう”って、その続きが気になってしょうがない。
「ウララさんですが、あと一週間、保つかどうか……」
語尾を濁さないでくれ。”あと一週間” で、どうなるっていうんだ?
「分かりました先生。私どもは、もう、覚悟しておりますので」
「そうですか。分かりました。でも、とても残念です。あの薬を試すことが出来れば良かったのですが」
「いいえ、先生。私どもには、とても手の届かないことですから。こればっかりは、運命と思っています」
「そうですか。それではもう、私からは何も言うことはありません。あとは、ウララさんを見守ってあげてください」
「有り難う御座います、先生、有り難う御座います……」
感極まったおばさんは、泣くのを堪えきれず、『失礼します』と言って、診察室を出て行ってしまった。
「あん? 君も行っていいよ。話は終わったから」
ケンジ先生が、壁に向かって言った。俺はそっちじゃないが。
診察室を出ると、少し離れた所に、さっきのイリア似の看護師さんんが、俺に手招きをしている。やっぱり、イリアじゃないのか?
その看護師さんが、こっそりと俺に耳打ちした。
「ケンジ先生。製薬会社とつるんで、わざと高額の薬を勧めてくるのよ。もっと安い薬もあるのにね」
そう言うと、おばさんに駆け寄った看護師さんは、背中をさすりながら一緒に歩いた。
ケンジ先生。まさしく、あの”ケンジ”だ。こんな所で、お医者さんゴッコをしているとは。情けない奴め。
◇◇
病室に入ったおばさんが、悲鳴に近い声で叫んだ。すぐさま、看護師さんが先生を呼びに走る。俺は病室に駆け込み、彼女を見ると、とても苦しそうに、荒い息をしている。それでも、俺を見つけた彼女は、手招きで俺を呼び続ける。それを見かねたおばさんが、俺の背中を押した。
「行ってあげて」
俺は彼女のベットの横で膝をつき、彼女の手を握った。彼女は、苦しくても、俺に話し掛けようとしている。
「ごめんね、ユウキ。一緒に行けなくて。ごめんね」
一週間は大丈夫じゃなかったのか!?
俺は、彼女の名前が出てこなかった。その代わり、彼女の手を握りしめた。彼女への返事として、強く握った。
その手は、握り返してこない。そして、大きく息を吸うと吐いて……吐いて…………
医者はまだか! ここは病院だぞ! なぜ、すぐに来ない!
なんでだろう。会ったばかりなのに、なんでだろう。俺は、大泣きしながら、彼女の手を握り締めた。
◇
『よく来てくれたわ。さあ、こっちよ』
俺を連行するおばさん。動機は何だ?
病室に導かれた俺は、一人の少女と、出会う。おばさんは、”二人きりで”っと言い残し、姿をくらました。さて、この少女は……ウララだ。じゃあ、俺は誰だ? その答えを握る少女が、ベットから起き上がり、語りだす。
「ごめんね、ユウキ。私、もう、ユウキに会えないかもって。だから、お母さんに頼んで呼んで貰ったの」
ここまで来て今更、”君は誰ですか”なんて野暮なことは聞かない。目の前にいる、この薄幸の美少女に、そんな辛い現実を見せる必要はない。ここは適当に話を合わせるのが、俺の役目なんだろう。
君はやっと俺に会えたんだ。どこで、どうやって俺を知ったのか、俺とどんな関係を求めているのか。そんな疑問は、あのおばさんを、後で尋問すればいい。
「大丈夫だよ。ほら、こうして会えたじゃないか。君の為なら、俺はいつでも飛んでくるよ」
「ありがとう。ユウキ。私、私……」
泣き出してしまった。困る、困るぞ。俺は、ズボンのポケットにあったハンカチ……いや、タオルで彼女の涙を拭った。このタオルは綺麗なのだろうか?
泣いている彼女に、話す言葉が無い。当然だ。今初めて会ったのだから。
彼女の後ろに、写真立てが見える。そこに写る、彼女と……俺? 誰が撮ったのか、合成したのか、中々手が込んでいる。これは、もしかして、ドッキリか?
俺の心を読んだのか、彼女が写真の思い出を語り出した。
「二人で行った旅行。楽しかったよね。また二人で行きたかったな」
「また、行けるさ。行こう。二人で」
どこの話だ? 俺はどこへ行ったんだ?
『ごめんない。ユウキさん。ちょっと』
おばさんが割って入った。話が続きそうもなかったから、ちょうど良いタイミングだ。
『先生がお話があるっていうから、ユウキさんも一緒に』
家族でもない俺で良いのか?
◇◇
病室を出て廊下に出ると、看護師さんんが、おばさんと俺を待っていた。あーん? イリア? よく似ている。というか本人だよ。
看護師さんに連れられ廊下を歩く。
「イリア、イリア」
俺は小さな声でイリアに声をかけた。全くの無視だった。違うのか? 演技なのか? バカなのか?
イリア似の看護師さんが、とある部屋の前で立ち止まった。
「先生! ケンジ先生! お連れしましたよ」
イリア似の看護師さんんが、扉を開け、中に入るように催促する。どうやら、何かの診察室のようだ。俺達が中に入ると、白衣を着たケンジ先生は、何かをスプーンで食べている最中だった。”ケンジ先生”? やな予感しかしない。ケンジ先生は、俺達を見て慌てたのか、持っていたスプーンを落としてしまった。もしかして、もう、匙を投げたのか?
「ウララさんの、お母さんですね」
「はい、ウララの母です」
おい、ケンジ先生。まだ口の中に入ったままだぞ。その口を、手で拭いて良いのか? 医者だろう? ヤブか?
「彼は、誰ですか? いいんですか? ご一緒で」
「はい。彼はウララとは、もう、……」
「分かりました。それでは話しましょう」
何が分かったんだ? ”もう”って、その続きが気になってしょうがない。
「ウララさんですが、あと一週間、保つかどうか……」
語尾を濁さないでくれ。”あと一週間” で、どうなるっていうんだ?
「分かりました先生。私どもは、もう、覚悟しておりますので」
「そうですか。分かりました。でも、とても残念です。あの薬を試すことが出来れば良かったのですが」
「いいえ、先生。私どもには、とても手の届かないことですから。こればっかりは、運命と思っています」
「そうですか。それではもう、私からは何も言うことはありません。あとは、ウララさんを見守ってあげてください」
「有り難う御座います、先生、有り難う御座います……」
感極まったおばさんは、泣くのを堪えきれず、『失礼します』と言って、診察室を出て行ってしまった。
「あん? 君も行っていいよ。話は終わったから」
ケンジ先生が、壁に向かって言った。俺はそっちじゃないが。
診察室を出ると、少し離れた所に、さっきのイリア似の看護師さんんが、俺に手招きをしている。やっぱり、イリアじゃないのか?
その看護師さんが、こっそりと俺に耳打ちした。
「ケンジ先生。製薬会社とつるんで、わざと高額の薬を勧めてくるのよ。もっと安い薬もあるのにね」
そう言うと、おばさんに駆け寄った看護師さんは、背中をさすりながら一緒に歩いた。
ケンジ先生。まさしく、あの”ケンジ”だ。こんな所で、お医者さんゴッコをしているとは。情けない奴め。
◇◇
病室に入ったおばさんが、悲鳴に近い声で叫んだ。すぐさま、看護師さんが先生を呼びに走る。俺は病室に駆け込み、彼女を見ると、とても苦しそうに、荒い息をしている。それでも、俺を見つけた彼女は、手招きで俺を呼び続ける。それを見かねたおばさんが、俺の背中を押した。
「行ってあげて」
俺は彼女のベットの横で膝をつき、彼女の手を握った。彼女は、苦しくても、俺に話し掛けようとしている。
「ごめんね、ユウキ。一緒に行けなくて。ごめんね」
一週間は大丈夫じゃなかったのか!?
俺は、彼女の名前が出てこなかった。その代わり、彼女の手を握りしめた。彼女への返事として、強く握った。
その手は、握り返してこない。そして、大きく息を吸うと吐いて……吐いて…………
医者はまだか! ここは病院だぞ! なぜ、すぐに来ない!
なんでだろう。会ったばかりなのに、なんでだろう。俺は、大泣きしながら、彼女の手を握り締めた。
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