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#10 未来 ヨーコ編
#10.3 海ゆかば
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最終ステージ。
奥義中の奥義。必殺技の炸裂、セリス、セイコに彼女、ヨーコを加えて、無敵艦隊の出来上がりだ。俺の野望の達成まであと一歩。と言いたいが、お姉さん達の殺気だった気配が尋常じゃない。早く優勝して、その空腹を満たさなければ、俺の未来が危ない。
ステージに立つや否や、観衆のどよめきと歓声が沸き起こる。無理もない。これ以上ない布陣だ。ディナータイムのカウントダウンが始まる。見事なハーモニーと、美しさの共演。誰もがこの光景にノックアウトされた。これは、結果を待つまでもないだろう。
続いてチーム・ケンジ。
センターを失ったチームは総崩れとなり、見るも聞くも悲惨、とまでは言わないが、散々たるパフォーマンスとなった。
この結果、発表を待つまでもないことは明らか。俺の腹も鳴り始める。ざわめく審査員達。何をそんなに戸惑っているのか、なかなか発表しない。その審査員達の近くに、おっさんがいるのが気になるが。
やっと結果発表となると、俺は何を食べようかしか、頭になかった。しかし、結果は俺達の負けとなった。当然、この結果に観衆はブーイングをしたが、途中でヨーコが対戦相手のチームに入ったことで、それを反則と判断されてしまった。俺の野望は吹き飛び、海の藻屑と化す。
◇
勝負に勝って試合に負け、ショックでのたうち回る俺。しかし、希望は残されていた。準優勝の賞金、1万だ。これだけあれば、少なくとも俺だけは十分な食事にありつける。これを持って逃げてしまおうかと、一瞬だけ思ってしまった。
俺は、そんな自分を恥じた。次々と浮かんでくる彼女達の笑顔。持ち逃げするのも、悪い考えじゃないかもしれない。
そんな悪魔の囁きに耳を傾けていると、急に船が減速し始めた。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。
本船は”彼等”より停船命令を受けました。”彼等”は彼等と和解していない者の引き渡しを要求しております。該当される方は、速やかに出頭してください。”彼等”の要求に従わない場合は、本船を攻撃すると警告しております。彼等と和解せよ』
「リリスさん、どうしましょう」
「このぼけなすが! 今は隊長だ! 黙っていればバレるはずがない」
「ここにいます! 彼等と和解せよ」
「クミコ! 誰かクミコを黙らせろ」
「ここにいます! 彼等と…」
世間の目が冷たい。きっと海の水も冷たいのだろう。だが、まだ確定した訳じゃない。俺達は、黙りを決め込む。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。無駄な抵抗は止め、彼等と和解せよ』
「隊長! 左舷前方に何かが」
「おお、あれは、キャット・サブマリン・イエローだ」
隊長がいつの間にか、双眼鏡で覗いている。用意のいい人だ。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。”彼等”は気が短い。彼等と和解せよ』
「隊長! 何だかバレバレのような気がします」
「静かに! 余計に怪しまれる」
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。もう待てないニャ。彼等と和解せよ』
船内での反応は、人それぞれだ。俺達を睨む者、説得する者、呆れる者、冗談を言う者。海の向こうを見ては泳ぎたがっている顔。釣りを楽しむ方々。飲んで歌って、とにかく騒ぐ人。そんな人達で賑わっていた。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。攻撃するニャ。責任とってよね』
船内放送の直後、船にガツーンと衝撃が走る。地球製の武器と違って、奴らの武器は、ドカーンではなくガツーンだ。技術レベルが相当に違うことを思い知らせられる。
あっという間に傾き始めた船は、逃げ惑う人で行列ができた。その最後尾は20分待ち。特に救命ボートが大人気だ。
『女・子供が優先だ!』
カツミが、誰かに抱えられ救命ボートに乗り込んだ。
『残念な子を優先しろ!』
誰かがイリアとイズナを攫い救命ボートに放り込んだ。
『美人薄命だ!』
お姉さんとヨーコが自力で救命ボートに乗り込んだ。
『巨乳は人類の宝だ!』
セリスとクミコが、近寄る男達を倒し救命ボートに乗り込んだ。
『電子機器は水に濡らすな!』
イオナが電源を切った。
「ユウキ! お前も退艦しろ!」
「隊長こそ、お先に」
「生き伸びろよ!」
「あ! 俺も一緒に」
隊長が救命ボートに乗り込むと、あっという間にボートが降ろされてしまった。それを見送る俺。とりあえず敬礼。いい人達だったような気がする。俺も、思い出にならないよう、さっさと逃げよう。
ガツーン x 3
全く、容赦がない。これが、和解を拒否した者の代償なのか。全く、額の狭い奴らだ。
船の沈没まで、後僅か。出払った救命ボートに、俺の順番は回ってこない。やむなし。俺は海に飛び込む。そしてプカプカと、浮いては沈んだ。
「ユウキ!」
たまたま通りかかったセリスが、救命胴衣を投げてくれた。これを、今の体制で装着するのは難しい。それにしがみ付く。
「ユウキ! これにつかまって!」
たまたま通りかかったイリアが、オールを持ち上げて叫ぶ。そのオールの先端が、すごい勢いで俺に向かってくる。
「おも~い!」
オールの先端が、俺の頭を直撃。目から火花が出るとは、このことか。
さようなら、みなさん。また会う日まで。
奥義中の奥義。必殺技の炸裂、セリス、セイコに彼女、ヨーコを加えて、無敵艦隊の出来上がりだ。俺の野望の達成まであと一歩。と言いたいが、お姉さん達の殺気だった気配が尋常じゃない。早く優勝して、その空腹を満たさなければ、俺の未来が危ない。
ステージに立つや否や、観衆のどよめきと歓声が沸き起こる。無理もない。これ以上ない布陣だ。ディナータイムのカウントダウンが始まる。見事なハーモニーと、美しさの共演。誰もがこの光景にノックアウトされた。これは、結果を待つまでもないだろう。
続いてチーム・ケンジ。
センターを失ったチームは総崩れとなり、見るも聞くも悲惨、とまでは言わないが、散々たるパフォーマンスとなった。
この結果、発表を待つまでもないことは明らか。俺の腹も鳴り始める。ざわめく審査員達。何をそんなに戸惑っているのか、なかなか発表しない。その審査員達の近くに、おっさんがいるのが気になるが。
やっと結果発表となると、俺は何を食べようかしか、頭になかった。しかし、結果は俺達の負けとなった。当然、この結果に観衆はブーイングをしたが、途中でヨーコが対戦相手のチームに入ったことで、それを反則と判断されてしまった。俺の野望は吹き飛び、海の藻屑と化す。
◇
勝負に勝って試合に負け、ショックでのたうち回る俺。しかし、希望は残されていた。準優勝の賞金、1万だ。これだけあれば、少なくとも俺だけは十分な食事にありつける。これを持って逃げてしまおうかと、一瞬だけ思ってしまった。
俺は、そんな自分を恥じた。次々と浮かんでくる彼女達の笑顔。持ち逃げするのも、悪い考えじゃないかもしれない。
そんな悪魔の囁きに耳を傾けていると、急に船が減速し始めた。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。
本船は”彼等”より停船命令を受けました。”彼等”は彼等と和解していない者の引き渡しを要求しております。該当される方は、速やかに出頭してください。”彼等”の要求に従わない場合は、本船を攻撃すると警告しております。彼等と和解せよ』
「リリスさん、どうしましょう」
「このぼけなすが! 今は隊長だ! 黙っていればバレるはずがない」
「ここにいます! 彼等と和解せよ」
「クミコ! 誰かクミコを黙らせろ」
「ここにいます! 彼等と…」
世間の目が冷たい。きっと海の水も冷たいのだろう。だが、まだ確定した訳じゃない。俺達は、黙りを決め込む。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。無駄な抵抗は止め、彼等と和解せよ』
「隊長! 左舷前方に何かが」
「おお、あれは、キャット・サブマリン・イエローだ」
隊長がいつの間にか、双眼鏡で覗いている。用意のいい人だ。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。”彼等”は気が短い。彼等と和解せよ』
「隊長! 何だかバレバレのような気がします」
「静かに! 余計に怪しまれる」
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。もう待てないニャ。彼等と和解せよ』
船内での反応は、人それぞれだ。俺達を睨む者、説得する者、呆れる者、冗談を言う者。海の向こうを見ては泳ぎたがっている顔。釣りを楽しむ方々。飲んで歌って、とにかく騒ぐ人。そんな人達で賑わっていた。
『ご乗船の皆様にお知らせ致します。攻撃するニャ。責任とってよね』
船内放送の直後、船にガツーンと衝撃が走る。地球製の武器と違って、奴らの武器は、ドカーンではなくガツーンだ。技術レベルが相当に違うことを思い知らせられる。
あっという間に傾き始めた船は、逃げ惑う人で行列ができた。その最後尾は20分待ち。特に救命ボートが大人気だ。
『女・子供が優先だ!』
カツミが、誰かに抱えられ救命ボートに乗り込んだ。
『残念な子を優先しろ!』
誰かがイリアとイズナを攫い救命ボートに放り込んだ。
『美人薄命だ!』
お姉さんとヨーコが自力で救命ボートに乗り込んだ。
『巨乳は人類の宝だ!』
セリスとクミコが、近寄る男達を倒し救命ボートに乗り込んだ。
『電子機器は水に濡らすな!』
イオナが電源を切った。
「ユウキ! お前も退艦しろ!」
「隊長こそ、お先に」
「生き伸びろよ!」
「あ! 俺も一緒に」
隊長が救命ボートに乗り込むと、あっという間にボートが降ろされてしまった。それを見送る俺。とりあえず敬礼。いい人達だったような気がする。俺も、思い出にならないよう、さっさと逃げよう。
ガツーン x 3
全く、容赦がない。これが、和解を拒否した者の代償なのか。全く、額の狭い奴らだ。
船の沈没まで、後僅か。出払った救命ボートに、俺の順番は回ってこない。やむなし。俺は海に飛び込む。そしてプカプカと、浮いては沈んだ。
「ユウキ!」
たまたま通りかかったセリスが、救命胴衣を投げてくれた。これを、今の体制で装着するのは難しい。それにしがみ付く。
「ユウキ! これにつかまって!」
たまたま通りかかったイリアが、オールを持ち上げて叫ぶ。そのオールの先端が、すごい勢いで俺に向かってくる。
「おも~い!」
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