12☆ワールド征服旅行記

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#10 未来 ヨーコ編

#10.1 抗議団体

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どんぶらこ、どんぶらこ。船は出て行く、煙は残る。遠くに見える街の明かりが、星のように瞬いて見える。本物の星も、夜空に輝いている。

しかしその中に、この地球を侵略した星が含まれていることを思うと、複雑だ。せめてあの星だけには、願わないで欲しい。和解させられるぞ。

『皆様~、ご乗船有難う御座います。
本船は、”彼等と和解せよ”より”彼等と和解せよ” へ向けて出港致しました。”彼等と和解せよ”までは、およそ12時間で到着する予定になっております。ごゆっくりと船旅をお楽しみください』

船内は既に侵略済みのようだ。俺の希望も侵略されそうだ。

「隊長! この船は何処に向かっているのですか?」
「行き先が伏せられているから、分からないニャ~」
「隊長!」

「大丈夫ニャ、大丈夫だ。それよりも、他の者達は? せっかく呼び寄せたのに、とんだ誤算だった」

「みんなは、船内を散策しているようです」

「まるで旅行気分だな。深刻な事態だというのに。でもまあ、この海の上なら、一先づ安心だよ~」

『ご乗船の皆様にお知らせ致します。
今夜も、本船慣例の”ディレクターズ・グランプリ”の開催を予定しております。今回の優勝賞金は、なんと100万、そして副賞として、旅行者には嬉しい”特殊能力券(非売品)”となっております。奮ってのご参加をお待ちしております。彼等と和解せよ』

”特殊能力券” 俺の喉から手が出た。

「隊長! ディレクターズ・グランプリって何ですか?」
「隊長は休戦中だよ~。リリスだよ~」
「じゃあ、リリス」
「このぼけなすが! リリスさんだ!」

どうしてこうも、面倒くさい人達ばかりなんだ。

「リリスさん、あれは?」
「ユウキには無理だよ~」
「いきなりですか?」

「そうだよ~。だって、ディレクターズ・グランプリってさ~、アイドルのコンテストみたいなもんだからさ~」

「アイドル?」

「そうだよ~。ディレクター、つまり監督がアイドルを集めてやる競技なんだよ~。監督がアイドルをスカウトしてチームを結成して、そのチームが歌って踊るのさ~。そんでもって、チームの優劣を決めて勝敗が決まるのさ~。だから監督が、どれだけいい人材をスカウト出来るかで勝敗が決まるって言ってもいいよね~」

「だったら、俺だって」
「無理無理~。ユウキには、魅力も財力も無いじゃん」
「俺の魅力? それは未知数無限大。で、財力って?」

「いい子には、お金が掛かるに決まってるじゃん。タダでそんな余興、誰もしないよ~。監督にすごい魅力があれば別だけど~」

「お金を出すのか~」

『ご乗船の皆様にお知らせ致します。
只今より、”ディレクターズ・グランプリ” のエントリーを開始致します。出場を予定される方はお急ぎください。彼等と和解せよ』

「リリスさん、俺のチームに入ってくれませんか? タダで」
「いいよ~」

なんだ。意外と人が良さそうだ。見損なっていたぞ。

「じゃあ、ちょっと歌ってみて貰えませんか?」
「聞きたいの~。惚れたらダメだよ~。もう、仕方ないな~ ♪♪♪♪♪♪♪♪」
「失礼しましたー」

◇◇

事は急を要す。彼女達に協力して貰おう。このために、お金をつぎ込んできたんだ。一人ずつ説得していては時間が無い。誰かにリーダーになって貰おう。

俺の頭の中で、ルーレットが回り始める。
イリア、自己中。評価は低い。
セリス、可能性大。野生の統率力。
カツミ、人前に立つとアガる。
イオナ、可憐で綺麗で美しい。
セイコ、性格が悪い。
イズナ、魔法が使える。全然関係無い。
フーコ、自分の世界が一番。
クミコ、和解せよ、対象外。

俺の人選は決まった。と思ったら、向こうから烏合の衆がやってきた。飛んで火に入る夏の虫だ。

「お腹すいたー」x 7
自分で何とかして欲しい。

「諸君! 今夜は俺のおごりだ~」
「ユウキー、当然だー」x 7

「諸君! その前に、アイドルに、なりたくないかー」
「……」x 7
「アイドルに、なりたくないかー」
「……」x 7
「(ユウキ。いいですよ、私は)」
「さすがは、イオナだー」
「他に、アイドルに、なりたい者はいないかー」
「……」x 7
「お願いでーす。アイドルに、なってください」

「君。どうした? 訳を言いたまえ」
「かくかくしかじか、です」
「すまんが、君の私利私欲では、誰も動かんだろう」
「それの、どこがいけないんですか?」
「あきらめたまえ」
「お姉さん。いつまでその巫女さんの格好をしてるんですか?」
「君。それよりも宿のツケが残っているのだが」

「ユウキ」
「なんだ? イリア」
「お金。もう無いんだけど」
「どうして? あんなにあったのに?」
「落としちゃった、かも」
「どうやって、落とせるんだ?」

「まあ、ユウキ。仕方ないじゃ無いか」
「セリス。何か知っているのか? イリアと一緒だったし」
「コンビニって、便利だよな」
「そりゃあ、便利だよ」

「師匠!」
「おお、イズナ」
「僕も、歌ってもいいですか?」
「いいとも! ちょっと軽く歌ってみて」
「はい。さ、、く、、らららら、サクッとな」
「もう、お腹いっぱいです」

「おい! ユウキ」
「クミコ。歌ってくれるのか?」
「責任を取れ! 白ニャンを返せ! 彼等と和解せよ」

◇◇

「遅刻しておいて、俺に挨拶しに来ないとは、どういうことだ!」

俺達の後ろでおっさんが、若い子を怒鳴っていた。理由は何であれ、それは見苦しいぞ、おっさん。

「すみません」

「なんだ? ”すみません”だあ? そんな謝り方があるか!
少しぐらい見た目がいいからって、調子に乗ってるのか!」

「すみません」

謝る少女に、調子に乗りまくるおっさん。なぜ、怒鳴りながらニヤニヤ出来るんだ?

おっさんが、いきなり少女の頬を叩き、パチーンと乾いた音が響いた。

「”申し訳ありません”だろうが!」
「申し訳ありません。ケンジさん」

「ケンジ?」x 9

「心が籠ってないんだよ。心がさ~。これだからアイドルってやつはよ~。よく、そんな態度で食っていけるよな~。楽なもんだ」

いつの間にか俺は、自分の右手を握り締めていた。理由なんて関係ない。手を上げる奴にロクな奴はいない。

「おっさ…」

俺が言いかけた時、イリア達8人が、おっさんを取り囲んでいた。烏合の衆から抗議団体へと変わった瞬間である。

「おじさん! ちょっとそれ、酷くない?」
「オメー、それでも男か!」
「それは犯罪です」
「(酷いわ)」
「おっさん!」
「許せません!」
「パワハラだ」
「貴様! 彼等と和解せよ」

おっさん、彼女達の口撃に怯んでやがる。俺も加勢するぞ。

「なんだ! お前達は。もういい。ちゃんと準備しておけ! いいな!」

おっさんは捨て台詞を吐きながら、逃げるように去っていった。我々の勝利である。

「君。大丈夫か?」
「はい。有り難う御座います」

お姉さん、それは俺の役目…にしたかった。

少女は、みんなにお礼(俺を除く)を言うと、静かに去ってしまった。一件落着の余韻も冷めぬまま、何故か俺に視線が集まる。

そんなに俺を見つめないでくれ。照れるじゃないか。

「お腹すいたー」x 8
何だか一人、多い気がする。

「リリスさん! お金が無いんです。救世軍の力で俺達を救ってください」
「はあ? あんな状況で資金を持ち逃げできるわけないじゃ~ん」
「じゃあ、ここにいる皆んな、浮浪者ですかー」
「海に浮いえてるからね~。そうかも~」
「嘘だー。じゃあ、どうやってこの船に乗れたんですか!」
「それは~、軍事機密だよ~」

「お腹すいたー」x 8
ピーチクパーチクと、うるさい連中だ。

「じゃあ、食べに行こう! その前にグランプリだー」
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