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#6 中世 イズナ編
#6.1 魔法入門 (2/2)
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俺の魔法入門は、続く。
「(”水の魔法”
水の分子を激しく振動させる。これ、すなわち”お湯”なり。水漏れ注意。と書いてあります)」
「これって、おかしくない? 魔法じゃないよね」
「(次は、ちゃんと書いてあるようですよ。
水の分子を整列させ、それを一方向に向けよ。そして、水の分子の前に水の分子を、更に水の分子を連鎖させ移動させる。これ、すなわち、水流となる。水漏れ注意。と書いてあります)」
イオナの声がだんだん、子守唄のように聞こえてきた。あと5分、休憩してからにしよう。いやあと10分、15分、1時間。いや、明日から本格的に始めよう。ここに来たばっかりだし。急いでもしょうがない………………
……クマさんが雲の上を笑いながら走ってる。目の周りにクマ作って、どうした? お前も寝不足なのかい? なら、寝ちゃえ。うん、うん。寝ていいよ。
「もしもし、そこの方」
その声で夢から覚めてしまった。体がだるい。
「ああ、さっきの魔法使いさん。何?」
「あの、どうしても諦めきれなくて、その」
「この本が欲しいと。でも、俺もこの本で勉強してるから、これが無いと俺も困るんだ」
「そうですか」
初心者じゃなくて、せめて中級者ぐらいなら、逆にこっちが教わりたいぐらいだ。
「(だったら、試してみてはどうですか? 案外、上級者かもしれませんよ)」
「そうかな~」
「今、何か?」
「いや。独り言。じゃあ、どうだろう。君がどのくらいの魔法が使えるか、見せて貰えるかな。それによっては、そうだな~。この本、貸してもいいかも」
「僕を試すんですか?」
「うーん、まあ。もし君が俺より凄かったら、逆に俺の方が君に教わりたいぐらいなんだ」
「僕はまだ、修行の身。人様に見せられる程ではないんです」
「じゃあ、仕方ないね」
「そうですか」
「そういうこと」
「そうですか」
「そう」
「そうですか」
「だよ」
「そうですか」
「だ」
「そうですか! 分かりました。やります」
「やるのね?」
「やります」
参ったな。なんか面倒くさい子のようだ。
「何をすればいいですか?」
「そうだね。うーん。そうだ。あの噴水、水がチョロチョロだよね。あれを、ドバーと、上の方にスーって、シャーってのはどう?」
「ドバーと、スーって、シャーですか?」
「そうそう」
「では、やってみます。ただし、絶対、僕を見て笑わないでくださいよ」
「大丈夫、笑ったりしないよ。多分」
「それでは行きます」
魔法使いは噴水に向かって、右手を伸ばす。まさしく、そのポーズ。修行の身とはいえ、俺の一歩、いや二歩先を行く者。その御手前、見せてもらおう。
「アイヤー、トォー、アアア。
水、水水水水水水水よ、水さん。初めまして、今晩は。
水を司る水道屋さん。支払いは、ちょっと待ってください。
それは、僕の願い。それは、世界の声。水は天下の回りもの。
誰の物でもありません。
水水水水水水水よ。たまには僕のお願いを聞いてよ。
お願い! ドバー、スー、シャー」
ちょっと湿気った空気が暑苦しい夕方。あの雲は、アンパンに似ている気がする。食べてみたいな~。
「済みません! まだ、僕! 水魔法の呪文が上手く言えなくて!」
魔法使いは、がっくりと膝を落とし、満身創痍と化す。何か、可哀想なことをしてしまった。上手く言えないとか、そんなレベルを遥かに超えているのは十分わかった。俺の心が傷む。俺こそ、済まない。
「だけど」
まだ、続けるというのか? その心意気だけでお腹一杯だ。
「だけど、詠唱を省略すれば、こんな感じなんです」
「ああ!」
俺は叫んだ。開いた口が塞がらないとは、このことか。
噴水の水が、天高く昇っていく。今まで見た噴水の、どれよりも高く吹き上げる。ついでに、噴水の下に溜まっていた水が踊るように跳ね始めた。これが魔法。これが奇跡。これが……なんだろう?
「済みません、魔法じゃなくて。やっぱり、ダメ、ですよね?」
「あれが魔法じゃない?」
「ええ。詠唱しない魔法なんて、ありませんから」
詠唱なんて、どうでもいい。知りたい! どうやるんだ? 俺にも出来るかな?
「(ユウキ。あれは魔法や魔術ではなくて……)」
「師匠! 俺を弟子にしてくれー、してください!」
俺は、すがれるものが有れば、すがってみるタイプだ。
「ええ? 僕はただ本が」
俺は立ち上げって、魔法使いに握手を求めた。絶対、Yesと言え。
「(ユウキ!、もう)」
俺の指が魔法使いの指に触れる寸前、バシーンと静電気が起こる。そのせいか、魔法使いは一歩下がり、その大きな三角帽子がずり落ちた。
おおー。夕日も眩しいが、君も眩しい。その、驚いた顔も、開きっぱばしの口元もいい。
「あなたは!? 独り言のような詠唱で、雷の魔法を使うとは!
師匠! そう呼んでもいいですか?」
「いいとも!」
「師匠!」
「師匠!」
さっきの静電気を警戒してか、俺達は手を後ろに組んで自己紹介をする。
「俺はユウキだ。宜しく」
「僕はイズナです。師匠」
「「アハハハ」」
きっと、側から見ると、大きなペンギンが2匹。大声て笑っているような、滑稽な姿に見えていただろう。
こうして、師匠が二人、誕生した。
「(”水の魔法”
水の分子を激しく振動させる。これ、すなわち”お湯”なり。水漏れ注意。と書いてあります)」
「これって、おかしくない? 魔法じゃないよね」
「(次は、ちゃんと書いてあるようですよ。
水の分子を整列させ、それを一方向に向けよ。そして、水の分子の前に水の分子を、更に水の分子を連鎖させ移動させる。これ、すなわち、水流となる。水漏れ注意。と書いてあります)」
イオナの声がだんだん、子守唄のように聞こえてきた。あと5分、休憩してからにしよう。いやあと10分、15分、1時間。いや、明日から本格的に始めよう。ここに来たばっかりだし。急いでもしょうがない………………
……クマさんが雲の上を笑いながら走ってる。目の周りにクマ作って、どうした? お前も寝不足なのかい? なら、寝ちゃえ。うん、うん。寝ていいよ。
「もしもし、そこの方」
その声で夢から覚めてしまった。体がだるい。
「ああ、さっきの魔法使いさん。何?」
「あの、どうしても諦めきれなくて、その」
「この本が欲しいと。でも、俺もこの本で勉強してるから、これが無いと俺も困るんだ」
「そうですか」
初心者じゃなくて、せめて中級者ぐらいなら、逆にこっちが教わりたいぐらいだ。
「(だったら、試してみてはどうですか? 案外、上級者かもしれませんよ)」
「そうかな~」
「今、何か?」
「いや。独り言。じゃあ、どうだろう。君がどのくらいの魔法が使えるか、見せて貰えるかな。それによっては、そうだな~。この本、貸してもいいかも」
「僕を試すんですか?」
「うーん、まあ。もし君が俺より凄かったら、逆に俺の方が君に教わりたいぐらいなんだ」
「僕はまだ、修行の身。人様に見せられる程ではないんです」
「じゃあ、仕方ないね」
「そうですか」
「そういうこと」
「そうですか」
「そう」
「そうですか」
「だよ」
「そうですか」
「だ」
「そうですか! 分かりました。やります」
「やるのね?」
「やります」
参ったな。なんか面倒くさい子のようだ。
「何をすればいいですか?」
「そうだね。うーん。そうだ。あの噴水、水がチョロチョロだよね。あれを、ドバーと、上の方にスーって、シャーってのはどう?」
「ドバーと、スーって、シャーですか?」
「そうそう」
「では、やってみます。ただし、絶対、僕を見て笑わないでくださいよ」
「大丈夫、笑ったりしないよ。多分」
「それでは行きます」
魔法使いは噴水に向かって、右手を伸ばす。まさしく、そのポーズ。修行の身とはいえ、俺の一歩、いや二歩先を行く者。その御手前、見せてもらおう。
「アイヤー、トォー、アアア。
水、水水水水水水水よ、水さん。初めまして、今晩は。
水を司る水道屋さん。支払いは、ちょっと待ってください。
それは、僕の願い。それは、世界の声。水は天下の回りもの。
誰の物でもありません。
水水水水水水水よ。たまには僕のお願いを聞いてよ。
お願い! ドバー、スー、シャー」
ちょっと湿気った空気が暑苦しい夕方。あの雲は、アンパンに似ている気がする。食べてみたいな~。
「済みません! まだ、僕! 水魔法の呪文が上手く言えなくて!」
魔法使いは、がっくりと膝を落とし、満身創痍と化す。何か、可哀想なことをしてしまった。上手く言えないとか、そんなレベルを遥かに超えているのは十分わかった。俺の心が傷む。俺こそ、済まない。
「だけど」
まだ、続けるというのか? その心意気だけでお腹一杯だ。
「だけど、詠唱を省略すれば、こんな感じなんです」
「ああ!」
俺は叫んだ。開いた口が塞がらないとは、このことか。
噴水の水が、天高く昇っていく。今まで見た噴水の、どれよりも高く吹き上げる。ついでに、噴水の下に溜まっていた水が踊るように跳ね始めた。これが魔法。これが奇跡。これが……なんだろう?
「済みません、魔法じゃなくて。やっぱり、ダメ、ですよね?」
「あれが魔法じゃない?」
「ええ。詠唱しない魔法なんて、ありませんから」
詠唱なんて、どうでもいい。知りたい! どうやるんだ? 俺にも出来るかな?
「(ユウキ。あれは魔法や魔術ではなくて……)」
「師匠! 俺を弟子にしてくれー、してください!」
俺は、すがれるものが有れば、すがってみるタイプだ。
「ええ? 僕はただ本が」
俺は立ち上げって、魔法使いに握手を求めた。絶対、Yesと言え。
「(ユウキ!、もう)」
俺の指が魔法使いの指に触れる寸前、バシーンと静電気が起こる。そのせいか、魔法使いは一歩下がり、その大きな三角帽子がずり落ちた。
おおー。夕日も眩しいが、君も眩しい。その、驚いた顔も、開きっぱばしの口元もいい。
「あなたは!? 独り言のような詠唱で、雷の魔法を使うとは!
師匠! そう呼んでもいいですか?」
「いいとも!」
「師匠!」
「師匠!」
さっきの静電気を警戒してか、俺達は手を後ろに組んで自己紹介をする。
「俺はユウキだ。宜しく」
「僕はイズナです。師匠」
「「アハハハ」」
きっと、側から見ると、大きなペンギンが2匹。大声て笑っているような、滑稽な姿に見えていただろう。
こうして、師匠が二人、誕生した。
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