12☆ワールド征服旅行記

Tro

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#5 古代 セイコ編

#5.3 伝説の剣 (2/2)

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満腹のイリアを連れて、森の中を彷徨う。エルフの里に入るのは難しいが、出るのは簡単だ。それはいいが、どこに向かえばいいんだ? それは多分、人のいる所だ。街に向かおう。

剣が重い。折れているとはいえ、伝説の剣はその装飾からして、さぞ、名のある剣であることは間違いない。そうでなくては、俺が持っている意味がないではないか。俺は、その伝説を引き継ぎ、新たな伝説を書き加えていく。

ヒュンという音が聞こえた。その音の後、じわじわと右腕が痛む。俺は持っていた剣を離してしまった。振り向くと、後ろの木に矢が刺さっている。

「逃げろ! イリア」
「どこに?!」

”どこに?” それは、どっかに決まっている。

コンビニ袋を振り回して逃げ惑うイリア。しかし俺達は既に囲まれていたようだ。弓矢を構えた、強面の人達が近寄ってくる。

「お前達、どこへ行く?」
「……」

ちょっと街まで散歩、何てジョークが通じるとは思えない。

「お前、ハンターの一味だな」
「違います」
「聞いてるぞ。ハンターの奴と顔見知りだって」

ケンジってのは、最悪の奴だな。巻き込みやがって。

「違うって」

「何が違う? それにお前、今朝、ドラゴンをこの森に呼び寄せているのを見た者がいる。ハンター達が森に仕掛けをしているのを知っているだろう。それで、森にドラゴンを呼び寄せておいて、関係無いとは言わせないぞ」

「それは誤解だ。セイコに聞いてくれ。そうすれば、すぐ分かるよ」
「嘘を吐くな! 里に戻るぞ。話はそこで聞く」

「それは駄目だ。里長に止められるだけだ。ここで始末しよう」
誰れだ? せっかくの提案を無下にする奴は!

「そうだな、そうしよう」
そいつの口車に乗ってはいけない!

「ちょっと待ったー。話せばわかる、はず」
「悪いが、そういうことだ」

悪いと思った時が、その時だぞ。思い直せ。


目の前の男が弓を引き始める。この距離で弓なのか? 刺さったら痛いじゃ無いか!

弓を引く男の顔に、白い物がぶつかった。イリアが、大切なコンビニ袋を投げつけたようだ。そして、俺が落とした剣を拾って、俺の前に立ち塞がる。

「おも~い」
俺の伝説の剣を持ち上げるイリア。

「ユウキは、殺させないわ」

イリア! そこまで俺のことを。でも、女の子に守って貰うわけには、いかない! 立ち上がれ! 俺!

「おい、娘。どけ! 用があるのは、こいつだけだ。女はやらん」
「へえ?」

イリアが一瞬、怯んだ隙に、再度、男が弓を引き始める。それを見たイリアが『エイヤー』と伝説の剣を振りかざす。その足元は、フラフラだ。

「ダメ! ユウキが死んだら、誰が私の為に、お金を稼ぐのよー」
こんな時に、お前って奴は。

「どけー。どかないとお前も……」
「ダメーーー」

イリアが叫んだ時、俺達と男達の間に、ドパコーンと衝撃音が轟いた。それが、二回、三回と続く。雷だ、多分。
稲妻は見えないが、空がゴロゴロと唸っている。雷はまるで、銃で地面を撃っているような感じだ。慌てた男達が、俺達と距離を取る。イリアは、振り上げた剣でバランスを取りながら、フラフラと立っている。

「イリア! 剣を降ろせ。雷に撃たれるぞ!」
「重いのよ~。降ろしたら私も倒れそう~」
「いいから! 降ろせ!」


俺は、見てしまった。空に蓄えた電気エネルギーを、一気に吐き出す様を。一瞬にして天と地上を結ぶ、無数の棘のある光が、伝説の剣に届き、なかった剣先を形作っている。そこからまた、無数の歪な光が、この場にいた男達に降り注ぐ。

それは、一瞬の出来事。雷に打たれた男達が、バッタバッタと倒れていく。ついでに、剣を掲げたまま後ろに倒れるイリア。

「イリア! 大丈夫か?」
「へへ、やっつけちゃった。逃げよう、ユウキ」
「ああ。お前って奴は……」

食って寝て、金使って、大口を叩いているだけじゃ無かったんだな。

しかし、電撃が弱かったのか、倒れていた男達が、ムクムクと起き上がってくる。さっきまでの、ゴロゴロ空は快晴。ぶっ倒れているイリアを担いで逃げるのは至難の技だ。万事休すか?

起き上がった男達が、何やら相談を始めたようだ。

「おい! 見たか?」
「ああ、見た」
「そう言えば、あの娘、イリアと呼ばれていたな」
「イリア……まさか?」
「間違いない!」

相談は終わったようだ。さあ、どっからでも、かかってこいや。降参だ。

男が一人、近寄ってくる。

「あなた様はもしや、雷神イリア様なのですか?」
「私はー、イリアよー」

「みんなー、今確認したー。確かに、雷神イリア様だ!」
何だ? また神になったのか?

「失礼しました、雷神イリア様。奇跡を示されては、疑う余地はありません。どうか、これまでの無礼をお許しください」

「だったら、起こしてよー」
「は! ただいま」

起き上がったイリアは、服を叩き、ひれ伏す男達を見下ろす。

「雷神イリア様。里に戻りましょう。知らぬ事とはいえ、我らの歓迎をお受けください。そこのお供の君も、一緒に」

どこまでいっても俺の地位は、向上しないようだ。

◇◇

ひと安心したとこで、また空から、バタバタと音が聞こえる。大きなバッタかヘリコプターか、はたまたUFOか?

それは、すごい風を伴って舞い降りた。ドラゴンだ。その背中にセイコが乗っている。

「何かありましたか? 大きな光が見えたのですが」
「セイコか。ここにいる雷神イリア様が奇跡を示されたのだ」
「ええ!」

イリアをチラ見していたセイコの態度が、一変する。どうして、どいつもこいつも騙されるんだ?
ドラゴンの背中から飛び降りたセイコが、イリアに膝をつく。

「まさか、あなた様が。どうりで、初めてお会いした時から、普通ではないと思っていました」

確かに、普通ではないな。

「ところで、セイコ。ドラゴンの方はどうなっている?」
「はい。半分くらいですが、森に近づかないよう注意してきました」
「半分か。先ほど、里にドラゴンが落下してきたんだ。それも大怪我をして」
「そのドランゴは? 大丈夫ですか?」
「いいや、残念なことになった」
「ハンターの奴ら!」
「我々は里に戻る。お前はどうする?」
「はい、まだこの辺にドラゴンがいますので、説得を続けます」
「そうか。気をつけろよ」
「はい」

「では、行きましょう、イリア様」
男はそう言うと、伝説の剣を軽々と片手で持ち上げた。

「その剣は……」
”俺のものだ”という前に男が解説を始めてしまった。

「この剣は、まさしく雷神剣」
「何で折れているんですか?」

「ん? これは折れているんじゃない。雷神剣とは、そう言うものだ。里長は折れた剣と言っているが、雷神剣は雷と一体になって始めて剣となる。これは、雷神様だけが扱える代物だ」

俺の伝説の剣が……返して貰えそうにない。伝説の剣は、俺の中で、伝説となった。

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