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#4 未来 イオナ編
#4.1 機械仕掛けの人形 (1/2)
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ホワイトルーム。
気が付けば、そんな言い方が相応しい場所にいた。床、天井、壁、全てが白く、広い? 部屋。自分の影が微かに映る所が、床だと分かる程度。照明のようなものは無い。それでも、ちょうど良いくらいの明るさがある。
椅子に座っている感じがするのに、その椅子が見えない。宙に浮かんでいる訳ではないのに、確かに座っている。試しに横になってみる。固くも柔らかくもない。ちょうどいい感じがする。ならばと、寝てみる。
おおー、今まで寝たことのある、どんなベットより快適だ。うつ伏せになると、そのまま床が見える。
これは凄い!
なんだか楽しくなってきた。俺は、そこらじゅうでゴロゴロしてみた。あんまり快適すぎて、笑いが止まらない。
「いらっしゃいませ、ようこそ”ツアーレ”へ」
突然の声に、俺は固まってしまった。俺の所業を見られてしまったのか? 恥ずかしい。
声の主は、空中に浮かぶ映像からのようだ。三次元の映像ではなく、ちょうどテレビが浮かんでいる感じ。そこに映るお姉さんは、実写なのかCGなのか区別がつかない。
その映像の前に座り直した俺は、恥ずかしくて赤くなった顔が、変に誤解されていないかと心配した。それを見かねた お姉さんが続けた。
「ユウキ様ですね。私は担当のセイコと申します。宜しくお願い致します」
「お願いします。あの~、見てました?」
「見てま……せんよ。何のことでしょうか?」
「いえ、いいんです。それと、いつもと違う感じがするんですけど」
「はい。ここ、”未来 科学万能の街”は、特定の世界がありませんので」
「ということは、この部屋の外には、何も無いということですか?」
「いいえ~。違いますよ。では、説明いたしますね。
”未来 科学万能の街”は、その名の通り、科学万能の街となっております。お客様のご希望に沿った世界を、街自身が構築して、ご提供することが可能です。よって、お客様ごとに世界が違うことになりますので、決まった世界が無い、という意味になります」
「うーん。わかんないです」
「例を挙げてみますね。
例えば、大企業の社長に成りたいとしますと、そのような世界になります。美女に囲まれて過ごす世界、大金持ちになって豪遊する世界、秘境を探検し財宝を見つける世界、その他殆どの世界を、ユウキ様のご要望を可能な限り実現した世界をご提供できますよ」
「うーん。まだ、わかんないです」
「それでは、ユウキ様が、今一番実現したい夢は何ですか?」
「夢ですか? うーん。何でもいいんですか?」
「はい。殆ど何でも」
困った。いきなり夢と言われても困る。一番したいこと、俺が今まで出来なかったこと。でも、それが実現すれば……
「あの、ちょっと恥ずかしいんですけど、いいですか?」
「恥ずかしい事ですね。どんな恥ずかしい事ですか?」
「いや、そういう意味ではなくて、その、デートがしてみたいんですけど」
「おう! やだ! 大変失礼をしました。てっきり、てっきり、そういうお客様が大勢いらしたものですから、勘違いしてしまいました。失礼しました。もちろん、可能ですよ」
「じゃじゃ、そそ、それでお願いします」
恥ずかしい事も出来たのか!
◇◇
「それでは、失礼のお詫びという事で、最上級のデート環境をご提供させて頂きますね」
デートにも上中下があるのか。
「では、ユウキ様のデート相手をご用意いたします」
お姉さんがそう言うと、床から円筒形の筒のようなもが浮かび上がってきた。それは2mくらいの高さがあって、周りをガラスで覆われていた。その中身は……マネキンだ。
で、周りのガラスがなくなると、はっきり見える。裸のマネキン。でも、ただのマネキンだ。
今度はテーブルが急に出現し、その上に小さな箱がある。
「ユウキ様。テーブルの箱に鍵が二つ入っています。そのうちの一つ、どちらでも構いせんので、お持ちになってから、その人形に抱きついて頂けますか?」
「はあ? 抱きつくんですか? ええ?」
「はい。これが最上級のみに許された機能になります。ユウキ様が接触されることで、その情報をもとに理想の相手を構築致します。ですから、必要な作業なんですよ」
作業? なんというシュールで恥ずかしい作業。
「では、やりますので、あの、見てないですよね」
「はい、見てま……せんよ」
俺は鍵を持って、マネキンの前に立った。
これはマネキンです。これはマネキンです。これはマネキンです。
俺は、マネキンに抱きついた。
冷たい。
それが、徐々に暖かくなっていく。これで俺の生気、いや情報を吸い取っているのか。マネキンの姿は、特に変わらない。なんというシュール。なんという恥ずかしい格好。でも、悪くない気がする。
「はい、ユウキ様。設定は終了しました」
俺がマネキンから離れようとすると、さらに指示が。
「次に、そのままの姿勢で、人形の首に手を回してください」
「見てないですよね」
「はい、見てま……せんよ」
「次に、首のところに鍵を挿すところがありますので、先程の鍵を入れて回してください」
「これって、抱きついたままでなくても、よくないですか?」
「はい、サービスになっております」
サービス? 取り敢えず鍵を挿して回した。
「ではユウキ様。もう離れて結構ですよ」
◇◇
俺は見てしまった!
普通の少女が、魔法少女に変身するような輝きを。
俺は、やってしまった!
これは夢なのか? 否。これは夢ではない。
繰り返す。これは夢ではない。
これを夢に見たか? 否。夢をも超えた。
俺の目は、嘘をついているか?
俺の頭は、狂っているのか?
俺の耳は、ついているか?
俺の口は、開いているか?
光の中から、無垢のマネキンが、俺の理想に変わる。
俺は、両手を広げて、ただただ、感謝するしかなかった。
究・極・美・少・女・の・降・臨・だー。
◇◇
気が付けば、そんな言い方が相応しい場所にいた。床、天井、壁、全てが白く、広い? 部屋。自分の影が微かに映る所が、床だと分かる程度。照明のようなものは無い。それでも、ちょうど良いくらいの明るさがある。
椅子に座っている感じがするのに、その椅子が見えない。宙に浮かんでいる訳ではないのに、確かに座っている。試しに横になってみる。固くも柔らかくもない。ちょうどいい感じがする。ならばと、寝てみる。
おおー、今まで寝たことのある、どんなベットより快適だ。うつ伏せになると、そのまま床が見える。
これは凄い!
なんだか楽しくなってきた。俺は、そこらじゅうでゴロゴロしてみた。あんまり快適すぎて、笑いが止まらない。
「いらっしゃいませ、ようこそ”ツアーレ”へ」
突然の声に、俺は固まってしまった。俺の所業を見られてしまったのか? 恥ずかしい。
声の主は、空中に浮かぶ映像からのようだ。三次元の映像ではなく、ちょうどテレビが浮かんでいる感じ。そこに映るお姉さんは、実写なのかCGなのか区別がつかない。
その映像の前に座り直した俺は、恥ずかしくて赤くなった顔が、変に誤解されていないかと心配した。それを見かねた お姉さんが続けた。
「ユウキ様ですね。私は担当のセイコと申します。宜しくお願い致します」
「お願いします。あの~、見てました?」
「見てま……せんよ。何のことでしょうか?」
「いえ、いいんです。それと、いつもと違う感じがするんですけど」
「はい。ここ、”未来 科学万能の街”は、特定の世界がありませんので」
「ということは、この部屋の外には、何も無いということですか?」
「いいえ~。違いますよ。では、説明いたしますね。
”未来 科学万能の街”は、その名の通り、科学万能の街となっております。お客様のご希望に沿った世界を、街自身が構築して、ご提供することが可能です。よって、お客様ごとに世界が違うことになりますので、決まった世界が無い、という意味になります」
「うーん。わかんないです」
「例を挙げてみますね。
例えば、大企業の社長に成りたいとしますと、そのような世界になります。美女に囲まれて過ごす世界、大金持ちになって豪遊する世界、秘境を探検し財宝を見つける世界、その他殆どの世界を、ユウキ様のご要望を可能な限り実現した世界をご提供できますよ」
「うーん。まだ、わかんないです」
「それでは、ユウキ様が、今一番実現したい夢は何ですか?」
「夢ですか? うーん。何でもいいんですか?」
「はい。殆ど何でも」
困った。いきなり夢と言われても困る。一番したいこと、俺が今まで出来なかったこと。でも、それが実現すれば……
「あの、ちょっと恥ずかしいんですけど、いいですか?」
「恥ずかしい事ですね。どんな恥ずかしい事ですか?」
「いや、そういう意味ではなくて、その、デートがしてみたいんですけど」
「おう! やだ! 大変失礼をしました。てっきり、てっきり、そういうお客様が大勢いらしたものですから、勘違いしてしまいました。失礼しました。もちろん、可能ですよ」
「じゃじゃ、そそ、それでお願いします」
恥ずかしい事も出来たのか!
◇◇
「それでは、失礼のお詫びという事で、最上級のデート環境をご提供させて頂きますね」
デートにも上中下があるのか。
「では、ユウキ様のデート相手をご用意いたします」
お姉さんがそう言うと、床から円筒形の筒のようなもが浮かび上がってきた。それは2mくらいの高さがあって、周りをガラスで覆われていた。その中身は……マネキンだ。
で、周りのガラスがなくなると、はっきり見える。裸のマネキン。でも、ただのマネキンだ。
今度はテーブルが急に出現し、その上に小さな箱がある。
「ユウキ様。テーブルの箱に鍵が二つ入っています。そのうちの一つ、どちらでも構いせんので、お持ちになってから、その人形に抱きついて頂けますか?」
「はあ? 抱きつくんですか? ええ?」
「はい。これが最上級のみに許された機能になります。ユウキ様が接触されることで、その情報をもとに理想の相手を構築致します。ですから、必要な作業なんですよ」
作業? なんというシュールで恥ずかしい作業。
「では、やりますので、あの、見てないですよね」
「はい、見てま……せんよ」
俺は鍵を持って、マネキンの前に立った。
これはマネキンです。これはマネキンです。これはマネキンです。
俺は、マネキンに抱きついた。
冷たい。
それが、徐々に暖かくなっていく。これで俺の生気、いや情報を吸い取っているのか。マネキンの姿は、特に変わらない。なんというシュール。なんという恥ずかしい格好。でも、悪くない気がする。
「はい、ユウキ様。設定は終了しました」
俺がマネキンから離れようとすると、さらに指示が。
「次に、そのままの姿勢で、人形の首に手を回してください」
「見てないですよね」
「はい、見てま……せんよ」
「次に、首のところに鍵を挿すところがありますので、先程の鍵を入れて回してください」
「これって、抱きついたままでなくても、よくないですか?」
「はい、サービスになっております」
サービス? 取り敢えず鍵を挿して回した。
「ではユウキ様。もう離れて結構ですよ」
◇◇
俺は見てしまった!
普通の少女が、魔法少女に変身するような輝きを。
俺は、やってしまった!
これは夢なのか? 否。これは夢ではない。
繰り返す。これは夢ではない。
これを夢に見たか? 否。夢をも超えた。
俺の目は、嘘をついているか?
俺の頭は、狂っているのか?
俺の耳は、ついているか?
俺の口は、開いているか?
光の中から、無垢のマネキンが、俺の理想に変わる。
俺は、両手を広げて、ただただ、感謝するしかなかった。
究・極・美・少・女・の・降・臨・だー。
◇◇
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