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#3 近代 カツミ編
#3.4 A Sea of Diva (3/3)
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「さて――」
ケンジが言いかけて、椅子を少しイリアに近づけた。俺も負けじと、椅子を少しイリアに近づけた。
「――違う世界の、俺の話だったな。しょうがないな。お前、異世界を渡り歩いているんだろう? それじゃあ、いくら時間があっても足りなくなるぞ。時間ってのは、有効に使わなきゃあ意味が無い。無だ無だ無だ。俺はな、忙しいんだ。そう何度も旅行ってわけにもいかない。そこでだ。俺は同時に異世界を堪能するために複数の俺がいるんだ。わかるか? そうすれば一回で複数の異世界を旅行出来るって訳だ。そして、旅行の最後に、複数の俺の記憶をマージすれば完璧さ。まあ、お前には無理だろうがな」
良く分かんないが、とにかく、金をつぎ込めば何でも有りってことか。この旅行。意外と金が掛かる。俺にはむいてないようだ。
イリアの食事が運ばれて来た。こんなに嬉しそうな顔のイリアは、久し振りのような気がする。苦労を掛けたな、イリア……何か違う気がする。
食べ始めたイリア。
俺はイリアの足を蹴って、俺にも食わせろと合図した。イリアは、餌を取られた獣のような目で、俺を睨み付けた。何も、全部とは言っていない。少しでいいんだ。
人間性をかろうじて残していたイリアは、ホークの先に、本当に少しだけ肉を刺し、俺の方に差し出した。そのまま食えと言うのか? 仕方あるまい。俺は椅子を、少しイリアに近づけ、ホークに口を近づけた。そう、後は口を閉じるだけと言う時、ケンジがホークを持つイリアの手を掴んだ。
「レディー、俺にも食べさせてくれないか?」
ケンジは半ば強引に、イリアの手を自分の方に引き寄せる…イリアの手は微動だにしない。浅ましい戦いが繰り広げられた。そんなことはどうでもいいから、俺にくれ。
決着はイリアの勝利に終わった。イリアは、取られるのならと、自分で食べてしまった。それ以降、俺にはチャンスは巡っては来なかった。
満腹になったイリアは眠くなった。それもそうだ。殺害予告の0時は近い。それなのにここは、夜遊び大好きな大人達がゴロゴロといる。俺とケンジは無言のままだ。時々ケンジは酒を飲む。俺は時々、息を飲む。水もタダじゃない。
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。三等客室のダンス大会で優勝したセリスが歌い始めました。とても上手いです。注目を集めています」
結局俺は、イリアの鞄持ちをしている。
◇◇
午前零時の鐘が鳴る。
1回、2回、3回、4回、5回、6回……12回。
突然、明かりが消えた。
キター、仕事の時間だ。
寝ていたイリアが急に立ち上がった。
そして何かの呪文を唱えている。探知魔法か? それとも寝ぼけているのか? 立っていたイリアが、ユルユルと体を揺らして座る?…テーブルを思いっきり叩いて、ひっくり返した
さあ、何故だか始まった銃撃戦。
と言っても、こっちは防戦一方だ。ケンジがたまに撃ち返す。何処狙っているだ、ボケ。俺は心の中に”勇気”を充填する。イリアは……ドレスの裾《すそ》を上げている。なにやってるんだ?
イリアの右足に”M1927.9 サブマシンガン”が張り付いていた。
「エッチー」
イリアは、そう叫ぶと、それを乱射し始めた。しかし、弾はすぐ無くなる。どうする? すると今度は左足に張り付いている予備の弾倉を取り出し、また乱射を始める。イリア。君は一体誰なんだ。
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。セリスの歌で、乗客が泣いています。私も感動で涙が出そうです。上の方が、少し騒がしいようですが、問題ないと判断しました。それよりも、こちらの方が大変な事態です。ですが、心配無用です。こちらに任せてください」
イリアの相棒は黙りを決め込んだ。ケンジも弾切れだ。この玉無し野郎! 遠くで男の勝ち誇った笑い声が聞こえる。適当に、そこらを銃で撃ちながら近寄って来る。さあ、俺の”勇気”が試される時だ。
イリアは俺からバッグを取り上げ、中身をぶちまけた。化粧品ばかり。一体何時、どうやって、それを集めた? そんだけ必要なのか? イリアは化粧品を、片っ端から開封し始めた。とうとう、観念して死に化粧をするのか? それ以上、綺麗になれないぞ。
男は撃つのを止め、足音だけが鮮明に聞こえてくる。イリアは化粧品と格闘している。ケンジは……いいや、どうでも。
男の足音が止まった。
多分、テーブルを挟んで立っている。俺の”勇気”が空回りする。このテーブルを起こせば、男を阻止できるか? 火事場の馬鹿力、今こそ出番だ。
イリアが急に立ち上がった。
俺も立ち上がった。俺の”勇気”がイリアを守れと、勝手に動いた。イリアの手には俺の相棒が握られていた。そして、無言でトリガーを引いた。男は足を撃たれ、その痛さで、のたうち回る。
「撃つわよ!」
イリアの声が響き渡った。イリア。お前はもう、撃っている。
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。セリスがアンコールに応えて、歌っています。みんな、泣いています。私も泣いています。歌姫様の降臨と、乗客が騒いいますが問題ありません。心配は無用です。こちらに任せてください」
ケンジが言いかけて、椅子を少しイリアに近づけた。俺も負けじと、椅子を少しイリアに近づけた。
「――違う世界の、俺の話だったな。しょうがないな。お前、異世界を渡り歩いているんだろう? それじゃあ、いくら時間があっても足りなくなるぞ。時間ってのは、有効に使わなきゃあ意味が無い。無だ無だ無だ。俺はな、忙しいんだ。そう何度も旅行ってわけにもいかない。そこでだ。俺は同時に異世界を堪能するために複数の俺がいるんだ。わかるか? そうすれば一回で複数の異世界を旅行出来るって訳だ。そして、旅行の最後に、複数の俺の記憶をマージすれば完璧さ。まあ、お前には無理だろうがな」
良く分かんないが、とにかく、金をつぎ込めば何でも有りってことか。この旅行。意外と金が掛かる。俺にはむいてないようだ。
イリアの食事が運ばれて来た。こんなに嬉しそうな顔のイリアは、久し振りのような気がする。苦労を掛けたな、イリア……何か違う気がする。
食べ始めたイリア。
俺はイリアの足を蹴って、俺にも食わせろと合図した。イリアは、餌を取られた獣のような目で、俺を睨み付けた。何も、全部とは言っていない。少しでいいんだ。
人間性をかろうじて残していたイリアは、ホークの先に、本当に少しだけ肉を刺し、俺の方に差し出した。そのまま食えと言うのか? 仕方あるまい。俺は椅子を、少しイリアに近づけ、ホークに口を近づけた。そう、後は口を閉じるだけと言う時、ケンジがホークを持つイリアの手を掴んだ。
「レディー、俺にも食べさせてくれないか?」
ケンジは半ば強引に、イリアの手を自分の方に引き寄せる…イリアの手は微動だにしない。浅ましい戦いが繰り広げられた。そんなことはどうでもいいから、俺にくれ。
決着はイリアの勝利に終わった。イリアは、取られるのならと、自分で食べてしまった。それ以降、俺にはチャンスは巡っては来なかった。
満腹になったイリアは眠くなった。それもそうだ。殺害予告の0時は近い。それなのにここは、夜遊び大好きな大人達がゴロゴロといる。俺とケンジは無言のままだ。時々ケンジは酒を飲む。俺は時々、息を飲む。水もタダじゃない。
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。三等客室のダンス大会で優勝したセリスが歌い始めました。とても上手いです。注目を集めています」
結局俺は、イリアの鞄持ちをしている。
◇◇
午前零時の鐘が鳴る。
1回、2回、3回、4回、5回、6回……12回。
突然、明かりが消えた。
キター、仕事の時間だ。
寝ていたイリアが急に立ち上がった。
そして何かの呪文を唱えている。探知魔法か? それとも寝ぼけているのか? 立っていたイリアが、ユルユルと体を揺らして座る?…テーブルを思いっきり叩いて、ひっくり返した
さあ、何故だか始まった銃撃戦。
と言っても、こっちは防戦一方だ。ケンジがたまに撃ち返す。何処狙っているだ、ボケ。俺は心の中に”勇気”を充填する。イリアは……ドレスの裾《すそ》を上げている。なにやってるんだ?
イリアの右足に”M1927.9 サブマシンガン”が張り付いていた。
「エッチー」
イリアは、そう叫ぶと、それを乱射し始めた。しかし、弾はすぐ無くなる。どうする? すると今度は左足に張り付いている予備の弾倉を取り出し、また乱射を始める。イリア。君は一体誰なんだ。
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。セリスの歌で、乗客が泣いています。私も感動で涙が出そうです。上の方が、少し騒がしいようですが、問題ないと判断しました。それよりも、こちらの方が大変な事態です。ですが、心配無用です。こちらに任せてください」
イリアの相棒は黙りを決め込んだ。ケンジも弾切れだ。この玉無し野郎! 遠くで男の勝ち誇った笑い声が聞こえる。適当に、そこらを銃で撃ちながら近寄って来る。さあ、俺の”勇気”が試される時だ。
イリアは俺からバッグを取り上げ、中身をぶちまけた。化粧品ばかり。一体何時、どうやって、それを集めた? そんだけ必要なのか? イリアは化粧品を、片っ端から開封し始めた。とうとう、観念して死に化粧をするのか? それ以上、綺麗になれないぞ。
男は撃つのを止め、足音だけが鮮明に聞こえてくる。イリアは化粧品と格闘している。ケンジは……いいや、どうでも。
男の足音が止まった。
多分、テーブルを挟んで立っている。俺の”勇気”が空回りする。このテーブルを起こせば、男を阻止できるか? 火事場の馬鹿力、今こそ出番だ。
イリアが急に立ち上がった。
俺も立ち上がった。俺の”勇気”がイリアを守れと、勝手に動いた。イリアの手には俺の相棒が握られていた。そして、無言でトリガーを引いた。男は足を撃たれ、その痛さで、のたうち回る。
「撃つわよ!」
イリアの声が響き渡った。イリア。お前はもう、撃っている。
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。セリスがアンコールに応えて、歌っています。みんな、泣いています。私も泣いています。歌姫様の降臨と、乗客が騒いいますが問題ありません。心配は無用です。こちらに任せてください」
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