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#2 原始 セリス編
#2.4 神になった男 (1/2)
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翌日。俺は狩人になった。
見晴らしいのいい木の上で獲物を狙う。手にはイリアから取り上げた鋭い槍。準備万端、気合い十分だ。
「ユウキ。槍を刺したら絶対手を離すなよ」
隣の木にはセリスが陣取っている。
「任せとけ!」
「それとな、無理だと思ったら、すぐに獲物から飛び降りるんだぞ」
「分かってるよ」
心臓の鼓動を感じる。
それは、いつもより早いビートを刻んでいるようだ。武者震いで震える体。既に俺は、戦闘態勢に入っている。五感を研ぎ澄まし、次の瞬間に備える。その瞬間こそが生死を分ける分岐点となるだろう。
輝け、俺の命、俺の魂。そして、世界を救え。
獲物が来た合図が交わされる。戦士達はお互いの目を見て、一時の別れの挨拶をする。ここは狩り場。命のやり取りをする場所。生きて帰れる保証はどこにもない。信じられるのは己の腕のみ。
さあ、かかってこい。勝つのはどっちだ。
獲物が見えた。
そして来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た。
誰もが首を横に振る。あれは無理だと。俺には荷が重すぎる。ここで早死にすることは無い。次のチャンスを待とう。そんな諦めのような空気が、場を支配した。
俺は、グッと槍を握りしめ、気持ちを落ち着かせる。俺は運がいい。ここでは死なない。俺の運命は俺が決める。
「ユウキ!」
セリスの合図だ。
「おりゃーーー」
俺は鋭い槍の刃先を獲物に向けて襲いかかった。
「ユウキ! そいつはまだ子供だ!」
「おりゃーーー」
「だから、狩らないぞ! 逃がせ!」
なあ、相棒。俺はもう引き返せない領域に踏み込んじまったんだ。そんな俺の生き様を笑う者がいたとしても、相棒、お前だけは信じているぜ。最後の光を、その輝きを相棒、お前に託す。
俺の槍は獲物に命中し、深く刺さることなくポキッと折れた。この安物がー。勢いよく獲物に飛び乗った俺は、その背中にしがみつくことが出来た。牛くらいの大きさだろうか。獲物にしては確かに小さい。どおりで、誰も狩らない訳だ。セリス。大事なことは、もっと早く言え。帰ったらお仕置きだ。
セリスは、獲物の前方に槍を打ち込む。それに驚いた獲物は、踵を返すように反転し、元来た道を引き返す。
「手を離せ! ユウキ。そこから離れろ」
言うことには一理ある。ごもっともだ。
しかーし、手を離せと聞いた瞬間、俺の体は反逆する。
振り落とされまいと、余計に腕に力がみなぎるのだ。
「手を離せ! ユウキ。死ぬぞ」
良く分かっている。
しかーし、俺の体は聞く耳を持たない。わがままボディだ。
「手を離せ! ユウキ。どこへ行く」
良く聞こえているぜ。
しかーし、風の吹くまま気の向くまま。こいつに聞いてくれないか。
「ユウキ! 戻ってこーい」
あばよ相棒。俺のことは忘れていいぜ。
◇
俺達は森を抜け、草原に到達した。
それは、獲物の足元を見れば分かる。なあ、この辺で降ろしてくれないか? お前も疲れただろう。ここらで休もうぜ。もう誰も、お前を狩ったりしないんだ。戦いは終わったのさ。お前の勝ちだ。誇っていいぜ。たいした奴だな、お前は。
だから、止まれ!
草原の匂いがする。
森と違って見晴らしがいい。視界を邪魔するものは何も無い。どこまでも続くような、地平線が、見えたらいいな。開けた視界に、いつしか俺の心も、解き離れたがっている。それなのに、お前の鼻息が、匂うぞ。
晴れ渡る空に、無数の矢が降ってくる。
晴れ時々、矢の雨。
ヒューという軽快な音の和音が、洪水のように襲いかかってくる。もうだめだ。お前には付き合っていられない。俺はそのまま手を離し、草の上を転がり続けた。その直後、アイツの最後の鳴き声を聞いた。
「おい! お前。どこのもんだ?」
お休み中の俺に尋ねる奴がいる。多分、ハラッパ族だな。
「おい! 立て!」
俺は寝起きが悪いんだ。勘弁してほしい。ハラッパ族は危険で最低の奴らとの情報を得ている。ここは素直に従っておこう。
「何だ? お前。さては余所もんだな? どこから来た?」
質問の多い奴だ。俺は素直に、天を指差してみせた。これでバッチリだ。
「何?」
作戦通り、ハラッパ族は一歩、いや二歩下がった。
「ガハハハハ。これは愉快だ。天から落ちて来たとでも言うのか?」
ハラッパ族は大笑いだ。いや、そこ。笑うとこ違うから。
ハラッパ族の集落。
モリモリ族の洞窟と違って、いくつかテントが張ってある。俺はそのテントとテントの間の柱に、括り付けられていた。日が暮れ、俺の命の炎も暮れかかった時、長老らしきジジイがやって来た。
「お前さん、モリモリの森の方から来たそうじゃないか。
モリモリ族の関係者かい? 旅人さん」
「俺のことを知っているのか? ジジ…爺さん」
「知らん」
この、おとぼけジジイが。
「バチがあたるぞ。俺をこんな目に合わせて」
「ほお~。バチか。そういえば、お前さん。天から来たそうじゃな」
「そうだよ。そういうことにしてくれ」
「お前さんこそ、バチが当たるぞ。神様を語るとは、35分早いわ」
35分? 気でも触れているのか、このジジイ。ん? 待てよ。時間の概念が分かるのか?
「爺さん。今、何時だ?」
「知らん」
ボケてるのか。
「だったら、誰かに聞いてくれ。大事なことなんだ」
「知らん」
これは、絶対、認知症だな。
「おーい、誰かー、今、何時ですか~」
『うるさいぞー、ボケー、8時だー』
時間、ゲットだぜ。
「おい、爺さん。9時半になったら出直して来い」
「やじゃ」
「そうしたら、俺が神である証拠を見せてやる」
ジジイは一歩、いや二歩下がった。
「オーホホホ。これは愉快じゃ。まだ、そんな絵空事をホザクとはの。その前に、お前さんは処分されるのじゃ。残念じゃったの」
やばい。俺の手に乗ってこない。ここは、いつも軽蔑していた先輩の手を使うか。
「そんなことをしたら、一生後悔するぞ。いいのか? 良いわけ無いよな」
最後の誘導する言い回しが大切…大っ嫌いだ。
「ホー、強気じゃの。まあ、気が変わっらたな。それまでそこで、大人しゅうしとれ。オーホホホ」
見晴らしいのいい木の上で獲物を狙う。手にはイリアから取り上げた鋭い槍。準備万端、気合い十分だ。
「ユウキ。槍を刺したら絶対手を離すなよ」
隣の木にはセリスが陣取っている。
「任せとけ!」
「それとな、無理だと思ったら、すぐに獲物から飛び降りるんだぞ」
「分かってるよ」
心臓の鼓動を感じる。
それは、いつもより早いビートを刻んでいるようだ。武者震いで震える体。既に俺は、戦闘態勢に入っている。五感を研ぎ澄まし、次の瞬間に備える。その瞬間こそが生死を分ける分岐点となるだろう。
輝け、俺の命、俺の魂。そして、世界を救え。
獲物が来た合図が交わされる。戦士達はお互いの目を見て、一時の別れの挨拶をする。ここは狩り場。命のやり取りをする場所。生きて帰れる保証はどこにもない。信じられるのは己の腕のみ。
さあ、かかってこい。勝つのはどっちだ。
獲物が見えた。
そして来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た。
誰もが首を横に振る。あれは無理だと。俺には荷が重すぎる。ここで早死にすることは無い。次のチャンスを待とう。そんな諦めのような空気が、場を支配した。
俺は、グッと槍を握りしめ、気持ちを落ち着かせる。俺は運がいい。ここでは死なない。俺の運命は俺が決める。
「ユウキ!」
セリスの合図だ。
「おりゃーーー」
俺は鋭い槍の刃先を獲物に向けて襲いかかった。
「ユウキ! そいつはまだ子供だ!」
「おりゃーーー」
「だから、狩らないぞ! 逃がせ!」
なあ、相棒。俺はもう引き返せない領域に踏み込んじまったんだ。そんな俺の生き様を笑う者がいたとしても、相棒、お前だけは信じているぜ。最後の光を、その輝きを相棒、お前に託す。
俺の槍は獲物に命中し、深く刺さることなくポキッと折れた。この安物がー。勢いよく獲物に飛び乗った俺は、その背中にしがみつくことが出来た。牛くらいの大きさだろうか。獲物にしては確かに小さい。どおりで、誰も狩らない訳だ。セリス。大事なことは、もっと早く言え。帰ったらお仕置きだ。
セリスは、獲物の前方に槍を打ち込む。それに驚いた獲物は、踵を返すように反転し、元来た道を引き返す。
「手を離せ! ユウキ。そこから離れろ」
言うことには一理ある。ごもっともだ。
しかーし、手を離せと聞いた瞬間、俺の体は反逆する。
振り落とされまいと、余計に腕に力がみなぎるのだ。
「手を離せ! ユウキ。死ぬぞ」
良く分かっている。
しかーし、俺の体は聞く耳を持たない。わがままボディだ。
「手を離せ! ユウキ。どこへ行く」
良く聞こえているぜ。
しかーし、風の吹くまま気の向くまま。こいつに聞いてくれないか。
「ユウキ! 戻ってこーい」
あばよ相棒。俺のことは忘れていいぜ。
◇
俺達は森を抜け、草原に到達した。
それは、獲物の足元を見れば分かる。なあ、この辺で降ろしてくれないか? お前も疲れただろう。ここらで休もうぜ。もう誰も、お前を狩ったりしないんだ。戦いは終わったのさ。お前の勝ちだ。誇っていいぜ。たいした奴だな、お前は。
だから、止まれ!
草原の匂いがする。
森と違って見晴らしがいい。視界を邪魔するものは何も無い。どこまでも続くような、地平線が、見えたらいいな。開けた視界に、いつしか俺の心も、解き離れたがっている。それなのに、お前の鼻息が、匂うぞ。
晴れ渡る空に、無数の矢が降ってくる。
晴れ時々、矢の雨。
ヒューという軽快な音の和音が、洪水のように襲いかかってくる。もうだめだ。お前には付き合っていられない。俺はそのまま手を離し、草の上を転がり続けた。その直後、アイツの最後の鳴き声を聞いた。
「おい! お前。どこのもんだ?」
お休み中の俺に尋ねる奴がいる。多分、ハラッパ族だな。
「おい! 立て!」
俺は寝起きが悪いんだ。勘弁してほしい。ハラッパ族は危険で最低の奴らとの情報を得ている。ここは素直に従っておこう。
「何だ? お前。さては余所もんだな? どこから来た?」
質問の多い奴だ。俺は素直に、天を指差してみせた。これでバッチリだ。
「何?」
作戦通り、ハラッパ族は一歩、いや二歩下がった。
「ガハハハハ。これは愉快だ。天から落ちて来たとでも言うのか?」
ハラッパ族は大笑いだ。いや、そこ。笑うとこ違うから。
ハラッパ族の集落。
モリモリ族の洞窟と違って、いくつかテントが張ってある。俺はそのテントとテントの間の柱に、括り付けられていた。日が暮れ、俺の命の炎も暮れかかった時、長老らしきジジイがやって来た。
「お前さん、モリモリの森の方から来たそうじゃないか。
モリモリ族の関係者かい? 旅人さん」
「俺のことを知っているのか? ジジ…爺さん」
「知らん」
この、おとぼけジジイが。
「バチがあたるぞ。俺をこんな目に合わせて」
「ほお~。バチか。そういえば、お前さん。天から来たそうじゃな」
「そうだよ。そういうことにしてくれ」
「お前さんこそ、バチが当たるぞ。神様を語るとは、35分早いわ」
35分? 気でも触れているのか、このジジイ。ん? 待てよ。時間の概念が分かるのか?
「爺さん。今、何時だ?」
「知らん」
ボケてるのか。
「だったら、誰かに聞いてくれ。大事なことなんだ」
「知らん」
これは、絶対、認知症だな。
「おーい、誰かー、今、何時ですか~」
『うるさいぞー、ボケー、8時だー』
時間、ゲットだぜ。
「おい、爺さん。9時半になったら出直して来い」
「やじゃ」
「そうしたら、俺が神である証拠を見せてやる」
ジジイは一歩、いや二歩下がった。
「オーホホホ。これは愉快じゃ。まだ、そんな絵空事をホザクとはの。その前に、お前さんは処分されるのじゃ。残念じゃったの」
やばい。俺の手に乗ってこない。ここは、いつも軽蔑していた先輩の手を使うか。
「そんなことをしたら、一生後悔するぞ。いいのか? 良いわけ無いよな」
最後の誘導する言い回しが大切…大っ嫌いだ。
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