12☆ワールド征服旅行記

Tro

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#1 中世 イリア編

#1.3 限界を超える時 (2/3)

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旅行中だという事をすっかり忘れて、日々、労働に励んでいた。

「おやっさん!」
「おう!、ユウキ」

こんな感じで充実した毎日を送っている。いつの間にか家族同然の扱いを受け、居心地の良さに満たされていた。俺は、何にしに、ここに来たんだ? ところで、イリアの母親は何故登場しないのかっていうと、実は、5年前に流行り病で…じゃなくて、おやっさんに愛想が尽きて出て行ったそうだ。そんなおやっさんをイリアが見捨てなかったのは不思議なことだ。

何となく順風満帆な日々が続くんだろうなと思っていたが、この時には既に、見えない”イベント”が発生していたらしい。商品の仕入れ価格高騰。俺が来てからというもの、仕入れ価格がずっと上り続けている。そのせいもあってか、売り上げは減るばかり。おやっさんのボヤキも最近、多くなってきた。

「どうなってやがんだろうな。みんな、勇者ケンジ様とお姫様の結婚話で世間は浮かれっぱなしだっていうのに、うちには、その恩恵の一つもありゃしない。これじゃあ、ユウキの賃金も払えやしないよな。なあ、ユウキ?」

「訴えてやる」


確かに、ここ最近は暇でしょうがない。日が暮れる前に店を閉めることが多くなったが、それはそれで楽でいい。何となく、俺がここに来てから売上が減ったような気がする。もしかして俺は、貧乏神なのか? まさか、俺にそんな能力があったとは。


「タッちゃん」
隣の店の店主、ミヨさんだ。

「やあ、ミヨちゃん」
二人は、こんな仲だ。

「タッちゃん、新しいお店を出すの?」
「ええ? こっちは、そんな余裕はないけど、何で?」

「あら、やっぱりね。おかしいと思ったのよ。ほら、このひと区画先に新しくお店ができるらしいんだけど、それが、タッちゃんとこと同じ商売をするらしいの」

「何だって! それは、どこのどいつが始めようってんだい?」

「それがね。まだ噂なんだけど、今度新しく貴族になられたケンジ様の親戚が始めるそうなのよ」

「何? ケンジ様が……そうか。あいつの…」

「そうなのよ。でも噂だからね。あら、イリアちゃん。一段と美人になったわね」

「ミヨさん、それ、昨日も言ってた」

「あら? そうだったかしら。でも美人になったことは確かよね。それと、えーと、ユウキは、相変わらずね」

俺には”ちゃん”を付けてくれないのか。

イリアは、どこか不機嫌そうだ。どうも。ミヨさんとのやり取りを見ていると余り、いい感じではないようだ。普段は相手もしない俺に話を振るなて。

珍しく悩んでいる、おやっさん。

「それで、ミヨちゃん。その店はいつ開店なんだい?」
「明日よ。ちょっと待ってて…ほら、チラシがあるわ」

おやっさん、食い入る様にチラシを見る。それは食べられないぞっと。

「イリア、明日、この店を見に行ってくれないか」
「いいわよ。それで何を偵察してくればいいの?」
「値段だ。この大特価ってのが気になってな」
「いいわよ。じゃあ、明日行ってくるわ」
「そうだ、ユウキ。お前もイリアに付いてってくれ」
「店の方は? おやっさん一人で大丈夫かい?」
「見ての通りだ。それよりイリアの方が心配だ。頼む」

おやっさんが俺に頼み事をするとは、何が心配なんだ?

「任してくれ、お父さん」
「俺はお前の父さんじゃない。まだ早いぜ、小僧」



開店初日は命がけ。
人が一杯いる。こんな大勢、この街にいたのか? 開店まで時間があるっていうのに、何て暇な人達だ。だが、ここにいる全員、何気に殺気立っている。これから戰が始まるのか?

「ユウキ。はぐれたら先に帰っていいわよ」
「いやいや、イリ…お嬢様。お父様に守るよう、言付かっておりますので」
「あ、そう。なら、私に、死ぬ気で付いてきなさいよ」

死ぬ気って、大袈裟な。

店はかなり大きい。
と言うより、うちと比べる方が恥ずかしくなるほど大きい。これはまるでスーパーだ。
『まもなく開店の時間です。順序良く前の方からお願いします』スーパーの店員は、群衆の心に火をつけてしまったようだ。集まった人達が、その声を合図に前進を始め、僕達はもみくちゃにされた。隣にいたイリアがどんどん離れていく。俺はとっさにイリアの腕を掴んだ。
『開店です。急ぐ必要はありません。商品は十分用意してあります』スタートの合図で群衆は店の入り口に押し寄せた。

「イリアー」
「ユウキー」

そうして俺達は群衆の波にのまれ遭難した。

広い店内を歩き回ると、一際、賑わっているところがある。何だろうと覗いてみると、見世物はイリアだった。何やら定員に食ってかかっている。これか、おやっさんが心配していたことは。

「ちょっと! 何よ、この値段。おかしいじゃないの。責任者を呼んで!」

イリアが強気なのは俺だけじゃなかったようだ。彼女をなだめる店員が可哀想に見えてくる。この世界でも”責任者出てこーい”技があることに感心した。これは全世界共通の技なのだろう。暫く、高みの見物である。

「あらあら、お客様。大きな声をお出しになって、如何されました?」

責任者の出番だ。と言っても俺と同じ歳くらいの少女だ。それに、随分とゴージャスな出で立ちだ。

「あなたは?」
「私はここの主人ですわ。何かご不満でも?」
「そうよ! この値段は何なの? 安す過ぎるじゃないの!」

「あらあら、お客様。そんなことをおっしゃるとは、珍しい方ですのね。商品が低価格で手に入る、それのどこが不満ですの? それで、誰が困るとでも言うのでしょうか」

周囲から同意の笑い声が聞こえてくる。

「この値段じゃ、利益が出せないでしょう? 赤字で商いをしている方が変よ!」

イリアも負けていないようだ。

「あらあら、あなた。もしかして、同業者の方かしら。それなら、あなたの言い分も分からなくもないわね。けれど、商売は競争ではなくて? 良い商いをした方が生き残る世界じゃありませんか? もし、あなたがここで、泣き言を言うのであれば、あなた! お辞めになった方が良いかと進言いたしますわ」

周囲から納得の頷く声が聞こえてきそうだ。

グーの音も出ないイリアは、手もグーにして悔しがっている。俺はリングにタオルを投げ込んだ。

「行こうイリア」

イリアの手を引いて退場しようとすると、トドメの一撃が襲いかかってきた。

「お客様~。またのご来店をお待ちしておりますわ」

その声を聞いた瞬間、イリアは立ち止まり俺の手を離した。
おお、やるのか? やり返すのか? リベンジか? 勝算はあるのか?

「こんな店! 二度と来るか! バッキャヤロー」

イリアは走り去りながら、言い残していった。
さて、セコンドの俺は、どうしたらいい?

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