12☆ワールド征服旅行記

Tro

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#1 中世 イリア編

#1.1 受付のお姉さんは綺麗に見える (2/2)

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今から1時間前。俺は異世界旅行社”ツアーレ”の扉を開いた。初任給を貰った最初の金曜日。まだ一ヶ月しか経っていないというのに、もう辞めたくなってしまった。単純で、簡単で、バカバカしくて、つまらない。
そんな時、先輩からここを紹介された。何でも、仮想現実で憂さ晴らしが出来るらしい。成りたい主人公になって異世界を旅することが出来るという。そこでストレスを発散してこいと。きっと病み付きになるから、それだけは気をつけろとも言われた。もし、行った先の異世界が気に入らなかったら、違う異世界に変えられるそうだ。そんな夢見たいな話に引っかかって、ここに来てしまった。

「いらっしゃいませ、ようこそ”ツアーレ”へ」
スーツを着た綺麗なお姉さんが案内してくれた。

「私、イリアと申します。宜しくお願い致します」
”イリア”って外人さん? そうには見えないけれど……。

「お客様は初めてのご利用ですか?」
「はい、そうです」

「私どもの名前は、ここだけの通り名になっていますので。本名ではないんですよ」

「そうですか。ちょっと、びっくり…そんなものなんですね」
「お客様、失礼ですが、年齢を確認しても宜しいですか」
「18です。名前は」

「お名前は結構ですよ。後ほどお聞きしますので。当社規定により、ご利用には年齢制限がありまして、18歳未満の方はご遠慮させて頂いております。お客様は大丈夫ですね」年齢制限があるとは知らなかった。もしかしてヤバイのか。

「はい、では早速、当社のシステムをご案内いたします。よろしいですか?」
「はい、お願いします」

「当社では異世界への旅行を提供しております。旅行と言いましても、実際に現地に向かうのではなく、仮想的に異世界を体験していただくことが出来るようになっています。よって、旅行の準備とかご用意する必要はありませんよ」このお姉さん、綺麗で声もいい。いいなあ~。こんな人と…

「ここまで、何かご質問等はございますか?」
「ああ、大丈夫です」

「では、続けさせて頂きます。旅行の所要時間は約12時間。異世界では1年に相当することになります」

「えーと」
「はい、何でしょうか?」
「12時間と言うと」

「はい、今がちょうど午後の8時ですので、今の待ち時間、1時間ほどを見越して、午後の9時頃から開始して、翌日の午前9時頃に終了となります」

「あの、そうすると、その間、ずっと起きていることになるんですか?」

「説明がまだでしたね。お客様が異世界にいる間は睡眠を摂ることができます。そして、現実でのお客様はご旅行中の12時間は眠った状態になりますので、ご心配はありません。良い朝をお迎えください」

「それで、この時間まで営業しているんですね」
「左様でございます」
「それは良かった。初めてなものですから」
「いえいえ、説明が足りず、申し訳ありません」
「いや、こちらこそって」

「それでは、旅行プランについて説明をいたします」
「はい」

「いくつかご質問いたしますの、それでプランを作っていくことになります。まず最初に行き先を決めます。この中から、お好きな異世界をお選びください」

いろんな異世界があって、どれを選んでいいか分からなくなってきた。

「あのー、お勧めみたいのって、あります?」

「ただいま好評を頂いているのは、こちら”異世界中世ヨーロッパへの旅”ですね」
これだ。異世界の王道、中世ヨーロッパ。

「これで、お願いします」

「かしこまりました、”異世界中世ヨーロッパへの旅”ですね。続きまして、ここで料金のご説明を致します。基本料金が1000円になります。これには全ての異世界への旅行が含まれています。”全ての”というのは、時間内であれば他の行き先に変更できる、という意味です。つまり、お客様が先程お選びになったのは、最初の行き先ということになります。時間が許す限り、一箇所に留まってご活躍されても、他の異世界へ移動することも可能です」

悩む必要はなかったようだ。

「それで、この料金は安いですね」
「はい、皆様にご好評を頂いております」
なんだ、こんなに安いんだったら、もっと早く来ればよかった。

「続きまして、その他の費用についてですが、この中からお好きなものを選ぶことができます。これは必須ではないので、お選びにならなくてもいいですよ」

基本料金が安かったから、オプションぐらい付けてもいいだろう。

「これは、どんなものなんですか?」

「こちらの、”お持ち帰り券”ですね。それは、異世界へ移動する場合、一つだけ、お好きなアイテムを次の異世界に引き継げる機能になっています。これをお付けしますと、異世界の旅行が断然有利になりますよ」

”有利になる”この言葉の破壊力は侮れない。

「おいくらになりますか?」
「こちらは、1万円になります」
たっかー。どうりで基本料金が安いわけだ。

「どうなさいます? 殆どの方がお付けになっておりますが」
みんな付けているのか。まあ、有利になるってのはチートみたいなもんか。

「じゃあ、お願いします」
3万くらいまでなら、いいだろう。最初からそのつもりだったし。

「有り難うございます。他はございませんか?」


さあ、どんどん行こう。

「この”特殊能力券”というのは?」

「”特殊能力券”というのは、異世界特有の能力、魔法、驚異的な身体能力、最強の運、人心掌握、種族の変更、知略などを行使できる機能のことです。こちらは、それぞの特殊能力ごとに加算されることになっております。最低、3万円からのご提供となります。いかがいたしますか?」

3万円から! 無理、無理だわ。そこまで出せねー。

「こちらも、皆様、よくお付けになられてますね。特に魔法は、とても派手で非現実的、一度やると辞められない爽快感が得られるとご評価を頂いております」
無理だよー。俺を誘惑しないでくれー。

「ちょっと、無理っぽいですね。残念ですが」

「分かりました。それでは、お客様は今回が初めてのご利用とのことですので、こちら、”基本能力券”を無料でお付けしますね」

「えー、いいですか?」

「初めての旅行ですので、楽しんで来てください。その方が私も嬉しいですから」
「有り難うございます」

「最後にお名前をお聞きします。
これは本名ではなくて、異世界で名乗る名前になります」

何にしようかな。悩むなー、うーん、そうだ」

「”ユウキ”でお願いします」
「”ユウキ”様ですね。かしこまりました。これで手続きは終了です。良い旅を」



彼女について行くと八百屋の店先のような場所で立ち止まった。
ここが終点らしい。

「ただいま。お父さん」
「おお、イリア。お代は貰ったかい? ってまたか?」

イリア? どこかで聞いたような。

「そうよ、お父さん。また無一文よ」
また? ”また”とはどういうことだ?

「なんだ、そういうことか。なら、しょうがないな。じゃあ、ほれ」
そのお父さんが俺に、エプロンのようなものを投げてきた。

「ほら、お前さん。金がないんだろう。なら、ここで働いて返しな」
なんで俺が働かないといけないだ!?

「あのー。これ返しますから」
「何だって! そんな傷もん、売れる訳がないだろう。今晩のおかずだな」

そういえば、彼女のパンチが俺のカボチャに炸裂していたような。
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