帰還

Tro

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#17 魔法少女の涙

第13話 魔法少女

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 さてさて、元の世界に帰還した三人組です。任務は失敗、それもヤル気があったのか無かったのか怪しい顛末とあっては、どのツラ下げてみんなの前に姿を現すのやら、と心配して——少しぐらいは心を痛めたことでしょう。

 ところがです、どの世界から見ても三人組が出立してから半年が経っているわけですが、時の経過は彼らを忘れさせるには十分な余韻を与えたのかもしれません。それというのも、彼らの任務、即ち過去に遡り、露見した魔法の存在を世間の記憶から消し去ること、正確には無かったことにするのが使命でした。

 しかし、しかし、……あぁ、そうですね、今にして思えば、今だから言えることですが、美津子が投稿した動画をワザワザ見ようとした暇人はいなかった、すぐにネットの深海に沈み、二度と浮上することは無かった、ということでしょうか。つまり、世間は、世界は何も変化しなかった、影響は全く無かった、ということです。

 ということで、例の魔法一族もこの件については、時も経っていますので殆ど忘れてしまっている、といった具合です。ですから三人組の任務が成功していようといまいと、今となってはどちらでも良い、となっています。——但し、あのオババ様を除いて、の話になります。それは、一族を集めて盛大に執り行われた『儀式』、その威信と権威が揺らいでしまったからなのです。——そう、あれは何だったのか、しなくても良い事を、魔力を浪費してまですることではなかった……等々、みな、口には出しませんでしたが、なんとなく冷たい視線をオババ様、いては族長であるケイコの父親、序でに家族まで向けられた? でもでも、いいえ、そんな感じというか雰囲気が漂う今日この頃なのです。

 このまま世間から白い目を向けられて黙っているオババ様ではありません。沽券こけんを保つため再起動、威信をかけた再挑戦の機会を伺います。そこでまず、ケイコの耳元で、「友達は遠くでは寂しかろう、もっと近くにいれば何時でも遊びに行けて便利さね」とそそのかし、今度は「裏地球」ならぬ「隣の地球」を出現させたのです。それは、前回と同様に半年前の「裏地球」を出現させるところまでは同じですが、それを半年分ググゥゥゥっと移動させ、更に三日戻します。すると三日遅れで地球を追いかけるお隣さんの出来上がりです。つまり、半年と三日前の地球が間近にプカプカと空に浮かんでいる、ということになります。

 これは前回と違い「実体のある地球」であり、概念的とか気分の問題で無視できるようなものではありません。なにせ、我々の地球にあまりにも近いため、見上げる空に月が二つあるようなものなのです。これでは到底、誤魔化すことも隠すこともできません。さあ、どうしましょう、世間が、世界が大騒ぎになって、——ところがです、皆さんそれが当たり前だというのでしょうか、誰一人として疑問を抱かず平穏な日常を送っています。これは、——そうなのです、これが魔法、あれも魔法、全ては魔法の仕業、人の心に魔が差した証なのです。



 第二陣の派遣も、もちろん例の三人組。きっと成功するまで戻ってくることはないでしょう。つまり、最後の機会、失敗は許されない、その命に代えてでも、です。ということで、早速「隣の地球」に飛ばされた三人組、三日前なので、あの時、あの瞬間までの途中は省略し、またまた美津子の車を尾行するところから始まります。

 三人組が乗る車は前回の反省を活かし、レンタカーとなっていますが、何故かまた小さな小さな車です。運転するのはトビ、助手席はタカ、後部座席? でしょうか、僅かなスペースにワカが搭載されています。そして、今度こそはと美津子の車を追い越すことなく、まるで煽っているかのように付き従う小さな車、という構図になります。

「この先を真っ直ぐ行くと、……ほれ、アレのスタンドの脇を通ることになるな」

 小さな車を運転しながら、独り言のように呟くトビです。「アレのスタンド」のアレとはコスプレ魔法少女ことケイコがバイトしている魔王直営ガソリンスタンドのことです。それを「アレ」呼ばわりしているのは訳があって、その昔、例の魔力を噴出させたことにより、魔力は枯渇し魔法は使えなくなったと両親から吹き込まれたケイコ、それ以来、魔法に対する憧れのようなものがフツフツと煮えたぎっていますが、その原因を作った三人組を今も目のかたきにしている、ということです。

 ですが、それだけならまだしもタカには苦い思い出がありました。それは、ちょっとした切っ掛けで、ケイコに魔法をかけられ一週間ほど犬にされたことがあったことです。勿論ケイコには魔法を掛けたという自覚はありませんでしたが、「犬にでもなればいいのに」という一言で、気がついてみればワンワンと吠えていたようです。そしてその犬がタカだと誰も気が付かず一週間ほど過ぎた辺り、辛うじてトビが「もしかして」と魔法を解いた経緯があります。それからというもの、ケイコには近づかないと誓ったタカであります。

「通り過ぎるだけだから、関係ない」

 そう言いつつ、あらぬ方向に視線を向けるタカ、とにかく目を合わせるだけでもヤバイ、と、言ったこととは裏腹に顔をしかめていました。しかし、定められた運命はタカの心情なぞ考慮しないのです。

「ウィンカー、出してるよね。……入る気かな」

 後部座席? から顔だけ覗かせたワカの声に、

「へんっ、左に曲がるだけだって」

 と運命を打ち消そうとするタカですが、それは飽く迄タカの思い、希望であります。美津子の車はガス欠のピンチから脱しようとスタンドに狙いを定めています。このままだと……。

 ——おっと、ちょっと話が変わっていませんか? あの日あの時、スタンドの照明は消えており、そこを素通り、道に迷った美津子が山中で例の三人組と遭遇した、というのが過去であります。それなのに、煌々と照明に照らされたスタンドの出現。これは、まさか! ——いいえ、単純に一日早いだけです。美津子は二日連続で外出、一日目に魔法少女ケイコと出会い、二日目に三人組と遭遇しています。よって、……そうです、彼らは日付を一日間違えているのです。でも、ほぼ同時刻、二日に渡って出掛けていては、どっちがどっち? なので、ここまま彼らを見守って行くことにしましょう。では、続きから。

「なんで今頃スタンドに寄るんだよ」

 とは、タカを応援しようと放ったトビですが、

「ガソリン、無いんでしょう」

 と、ポロリのワカです。

 それにイラつくタカが「何とかしろよ、お前ら」と、何気にボソッと言ったような。そこでワカが仕方ないという風に、手と口をゴニョゴニョ。するとどうでしょう、美津子の車に異変が起こりました。——という程ではありませんが、そっとガソリンの容量がスッと満タンになったような感じです。ええ、飽く迄そんな感じ・・なので本当にガソリンが一杯になったわけではありません。

 嘘か本当かはともかく、ガソリンスタンドを目指す美津子の車、その高級車ぶりが発揮され、「給油は不要です」とスタンド行きを中止するように促してきます。さすがは高級車、といったところですが、それに耳を傾ける美津子ではありません。それに、今更決めたことをやめるなど到底不可能、無理な注文となりました。

「おいっ!」

 ワカの魔法が効かず、このままでは……というところでタカが大きな声をあげました。それは自分ではどうして良いのか何も思い付かなかったのもあったでしょう。そこで今度はトビが目を閉じて何やら念仏のようなものを唱え始めました。もちろん運転中ではありますが、数秒後、かぁぁぁっ! と目を見開くとそこからビームのような——ものは出ませんでしたが、気合いというか気迫のようなものを感じました。すると、あらっ不思議、ガソリンスタンドの照明がパチンッと消えたではないですか。それ即ち営業終了の他にありません。但し、これも裏があって、照明が消えたように見えるのはスタンドの外から、つまり、スタンドにいるケイコにとっては何ら変化の無い日常が続いているのです。

 となれば、閉店した店に行く訳にはいかなくなった美津子です。ブレーキを掛けてスタンドへの侵入を諦めます。しかしそこで困った顔を見せましたが、ふっとメーターを見ると満タンのサインが。これで心も満たされた美津子は何かの勘違いと思い、帰路に向けて走り続けることになりました、とさ。

 これで美津子はケイコのいるスタンドに寄らず、結果、道を間違えることなく、そして当然、例の三人組とも出会うことなく、幸運にもガス欠も回避され無事、自宅に帰ることが出来ました。よって、「隣の地球」での歴史は変わり、それが私たちの地球に反映、全ては丸く収まったのでした、めでたしです。



 ところで、今日もスタンドで魔法少女姿のケイコですが、あの日あの時、近づいて来た車が急に進路を変え、素通りして行った車を見ていたケイコです。そこに美津子がいたことを未来からの啓示なのか、それとも魔法なのか定かではありませんが知っていた節があります。それは、

「あの人は、困ったらまた来るよね。……たぶん、困ると思う」

 と言ったようです。それは予言か予知なのでしょうか。いいえ、それは確実に起こる未来なのです。何故なら、ケイコが口にしたことは必ず起こる、それはケイコが本当の魔法少女だからでしょう。
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