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#16 見送る風
#16.3 集う風
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月明かりの中、白猫のニャージロウの軌跡が残像のように見えるくらい、素早い動きで、どこかを駆け巡って行きます。いくら風に乗っているといってもニャージロウに付いて行くのが『やっと』のノリコです。それに振り落とされないようにと、ノリコの背中にしがみ付くエリコ、もう目が回りそうです。
月明かりと言っても周りの風景は良く見えません。余所から来たエリコにとってそこは、狭くて暗い世界。でも、何も無いようで本当は全てがそこに在る世界に見え、少しだけプルっとしてしまいます。
同じような感覚はノリコも感じているようです。知っているはずなのに、ヨソヨソしく、受け入れて貰えないような、そんな不安になるような感覚に困惑しているようです。それは、何時も知っているはずのニャージロウが、無茶苦茶に走っているように思えたからかもしれません。それは何時しか、ここはどこなんだろう、という疑問に変わっていくのでした。
そうしてニャージロウを見失わないよう懸命に追いかけていると、フッと草むらの中に消えてしまったニャージロウです。そして、どういう訳か、そこで風が止んでしまい、仕方なく舞い降りたノリコたちです。
しかし、こうなっては小さななノリコたちがニャージロウを見つけるのは至難の技です。それは自分の背よりも高い草に視界を遮られ、ニャージロウどころか、この先がどうなっているのかさえ分からないくらいなのです。
これではもう帰るしかないかな、とノリコが思った時です。目の前の草を分けるように猫さんが出てきたのです。そして、
「おや、わざわざ来てくれたのかい?」と、ニャーでもなく、ニャッニャッでもない、言葉を話す猫さん、それも老齢の猫爺さんです。これにはビックラコンのノリコ、話せる猫さんも居るんだ、と驚いていると、
「こんばんわ」と挨拶するエリコ、お年寄りには親切にするものとペコリです。そんな落ち着いたエリコに格好悪い姿は見せられないと、ビックラコンを仕舞い込んで、
「こんばんわ、です」と言い終わってから気持ちを落ち着かせるノリコ、知らない猫さんは苦手のようです。そして、「あの——」と言ったところで首を傾げる猫爺さんにプルプルしながら、「集会が今夜あるって、そうなんで、それで、その、参加? いえいえ、見に来たんですけど」と、やっとこさで言い終えるノリコです。
「集会? うんまあ~、そんなものかのう。うむ、大勢いた方が賑やかで良かろうて」と、のんびりと答える猫爺さんです。そしてノリコたちに尻尾を向けると、「こっちじゃ、付いて来なさい」と出て来た草むらの中にスポッと入って行く猫爺さん、その後に続くノリコたちです。
草むらを抜けると左右に草が分けられた、猫さんが通るには、ちょうど良い幅の小道が真っ直ぐに続いているのが見えてきました。そこを、ゆらゆらと揺れる猫爺さんの尻尾を目で追いながら付いて行くノリコたちです。
その猫爺さんに近づき尻尾を掴まえようするエリコです。しかし、ユックルと降りてくる尻尾に、あともう少しというところでピョンと跳ね上がってしまい掴み損ねてしまいます。そして今度こそという時、急に立ち止まった猫爺さんです、怒ったのでしょうか。それにハラハラのノリコです。
「今から昔話をするからのう。それを聞いてくれるかのう。まあ、つまらない話じゃが仕来りなもんでな~。歩きながらで良いからのう」と振り向かずに話しかける猫爺さんです。それに、
「はい」と答えたノリコ、やっと尻尾を掴まえたエリコです。そのエリコに、「ダメです、すぐに離して」と注意すると、
「良いよい」と機嫌の良さそうな猫爺さん。ですがそう言いながら、また尻尾をピョンと跳ね上げ、そしてユックルと降ろしてきます。そしてそれをエリコが掴まえる、ということを繰り返しながら歩き始めた猫爺さんです。
◇◇
「ごほん、えーとじゃ、遠い遠い、昔の、ある国でのことじゃ。
その国の王様は、とても臆病で用心深い人じゃったそうじゃ。でもな、臆病ということは、それだけ他国の脅威を知っていた、ということでもあるんじゃ。だから国境を、とても高い城壁で囲っていたんじゃ。
勿論それだけではのうて、強い軍隊も作ったのじゃ。その御蔭で国は他国から攻められることなく、長く平和が続いたそうな。
しかし、その代わりに国の民は裕福ではなかったのじゃ。それもそうじゃろう。沢山のお金を国の守りに注ぎ込んのじゃからな。それで生活は貧しく厳しかったようじゃが、それでも争いの無い平和な時だったからな、皆、逞しく生きておったのじゃよ。
ところでじゃ、わしの話はここまでじゃ。この続きは次の者がするでな」
話が終わったのと同時に立ち止まった猫爺さんです。その後ろをトボトボと歩いていたノリコたちは話を聞いていなかったので、そのまま猫爺さんに打つかってしまいました。すると、前を歩くようにと催促され、猫爺さんの前を歩くことになったノリコたちです。
そこには既に次なる猫さんが控えていて、大きな欠伸をしながらノリコたちを迎えました。
「おや、可愛いお客さんだこと」
次の話し手は猫婆さんのようです。その猫婆さんにジロジロと舐めるように、いえ、本当に舐められたノリコたちは先程の猫爺さんの時のように、猫婆さんの後を歩いて行きます。その後ろに役目を終えてホッとしている猫爺さんが続きます。そうして猫婆さんが話し始めようとすると、
「婆さんや、この子たちは若いでな。優しく言わんと分からんかもしれん」と注文を付ける猫爺さんです。それに、
「あんたの話し方が下手なんだよ、要領が悪いんだから」と跳ね返す猫婆さん、尻尾をフリフリです。そうして歩き始めると、猫婆さんの話も始まるようです。
「うほん、ある国の王様ね。私は、その王様の息子の話からだね。
その息子は父親である王様とは全然違って、とても優しい子だったようだよ。誰にでも親切で、身分に関係なく態度を変えることが無かったそうだよ。
でもね、悪く言えば『お人好し』とも言えるくらい人を信じやすい人だったのよ。
まあ、それは置いとくとして、その息子が父親から王様を受け継ぐとね、今までの王様と違い、国を豊かにすることに頑張ったそうよ。一応、それまでは平和が続いてたんだけどね、生活自体は貧しかった、そうよ。それでそれをなんとかしようとね、余所の国と交易を発展させようとしたのよ。
でも、それをするにはね、国境の扉を開けて、人の出入りを自由にしなくちゃならなかったのよ。なんせそれまでずっと硬く扉を閉じたままだったからね、それは怖いことでもあったでしょう。
そこで王様は余所の国とね、とにかく話し合うことにしたそうなのよ。今では普通のことだけどね、昔は話し合うよりも、力で押しつぶしてしまう方が多かったのよ。力があれば何でも出来た時代だから、逆に力が無ければ奪われるだけ、そんな時代よね。
まあ、こんなところかな。私の話は、ここでお終い」
話し終えたところで立ち止まった猫婆さんです。ということは、そこで前に出なければならないのでしょう、ノリコたちはそのまま猫婆さんの前に出ました。すると前と同じように、今度は猫おじさんが待ち構えていました。そこで歩き出すと、ノリコたちの後を猫婆さんと猫爺さんが付いてきます。このお話がどこまで続くかは分かりませんが、こうやって猫の隊列が出来ていくのでしょう。
「今度は私の番か、参ったなぁ」と首をフリフリしながら、本当に困っている様子です。それでも咳払いの後、話し始めるようなので、その後に付いて行くノリコたちです。
「えっと、どこまで話したんだ? まあ、いいか。とにかく、王様の国はナンダカンダで繁盛しましたよってことだな。余所の国からも人が大勢来たみたいだし、とにかく、それで国は結構、潤ったそうだ。それに、良いことは続くもんでな、王様も結婚して順風満帆な、そうだな、一番幸せな時だったろう。
だけど、全部が全部、上手くいった訳じゃない。国が豊かになり余所の国とも商売を上手くやっていたんだが、どうも、その余所の国の人は不満があったらしい。それはなんでも、仲が良くなったんだから国の守りを、そんなに強くしなくても良いだろうって言ってきたんだ。
要は、剣を向けられたままじゃ本当に仲良くは出来ない、だからそれを収めてくれってことだな。というのも、王様は先代の言付けを守って軍隊をどんどん大きくしていったんだ。それも国が豊かになればなるほど、それは強固なものになった。
まあ、それが気に入らなかった、というか気になっていたんだろう。その頃の王様の国と余所の国とでは、随分と差があったらしいから、余所の国が気にするのも分かる。
しかし、人の良い王様でも『はいそうですか』とは言えない問題だ。もし余所の国から攻められたりしたら大変だろう。そこで王様は考えに考えた。そして考えた、考えた……、あれっ、それからどうしたんだっけ。まあいいか、続き、頼むよ」
こうして猫おじさんの話はブツッと切れ、次は猫おばさんの出番となりました。急に話を振られた猫おばさんは、まだ心の準備が出来ていなかったのでカンカンです。
「ちょっとおおお、あんたねえええ」と、お冠の様子ですが、既に恐縮仕切っている猫おじさんです。そこで『後で小言を言いますからね』ビームを放つと、プイッと前に向き直して歩き始めました。
「王様は考えた、てところからよね。えーっとね、結局、余所の国の提案を少しだけ受け入れることにしたのよ。それはね、軍隊の数を減らしてね、その代わりに余所の国の人も王様の国に住んでもいいよってことにしたのよ。
そうすれば余所の国の人も居る訳だし、まさかね、攻めて来るなんてしないでしょう、って王様は考えたのよ。それにお互い商売をしていたしね。だから、その相手を滅ぼしでもしたら商売が出来なくなるじゃないのよ。良い考えだと思った訳よね、その時は。
そして実際、それは上手くいったのよ、暫くは。人も増えて国は大繁盛、国同士の争いも起きなかったしね。めでたし、めでたしよね」
これで話し終えたのでしょう。立ち止まった猫おばさんは、まるで瞑想でもするかのように目を閉じると、ゆっくりと顔をツンツンさせました。それはノリコたちに前を歩くように、という合図のようです。
そうして次は猫兄さんが控えていました。猫兄さんはシャイなのか、何も言わずに歩き始めると、ボソボソ声で話し始めるのでした。
「めでたし、めでたし……か。それで終われば世界も終わりよ。
ふふっ、いいかい? 世の中、そんなに甘くはないんだぜ、へへっ、これからが本番よ。いいかい、国中にヨソ者がわんさかと入ってきたんだぜ。それは、例えば体中にバイ菌が一杯ってことだよ。
だけどな、そのバイ菌、最初は大人しくしてるんだよ。何故って、最初は右も左も分かんないだろう。それで慣れるまでは大人しくしてるんだよ。でもなあ、何時かは本性を現す時が来るんだよ。それまで、じっくり、ゆっくりとお昼寝さ。
そうして気が付いた時には手遅れってもんさ。体中、隅から隅までバイ菌に侵されて、バーンンン……」と言い終わった後、目と口を目いっぱい開いてノリコたちに振り向いた猫兄さんです。そこに、
スタスタ、バチバチバチ、ババーンンン。
前から走ってきた猫姉さんに猫パンチの連打を浴びた猫兄さんです。そして、
「アホなのぉぉぉ、怖がっているじゃないのよぉぉぉ」の怒号で完全ノックアウトの猫兄さん、その場でゴロニャンです。その様子に、話を聞いていなかったノリコたちはキョトンとするばかり。それよりも怒った顔の猫姉さんの方が怖かったりします。
「ごめんね、このアホが言ったことは忘れてね。いやいや、忘れたら困るのかぁ。まあ、いいや。続きは私から話すからね」と言うと、スッと前を向いて歩き出したので、今度は猫姉さんの番のようです。
「でもねぇ、ここから先のお話はね、ちょっと悲しいお話になるのよねぇ。だからねぇ、気を付けて聞いてね。
それじゃあねぇ、そうそう、王様の国がピンチ・大変なのよ。人の良い王様だからね、ヨソの国の人でもね、頑張っている人はどんどん重要な役を任せたのよ。そうしたらどうよ、何時の間にかにね、誰も王様の話を聞かなくなったのよ。
それは何故かって? だってほら、もう王様の周りの人って言えば、気が付いた時にはね、ヨソの国の人だらけになってたのよ。そう、余りにも人を信用し過ぎた結果、とでも言うの? まあ、それはともかく、もう王様は名ばかりの王様になってしまったのよ。そうそう、裸の王様みたいな感じ?
そこでね、なんとかしようとしたんだけどね、時すでに遅しってやつ? 最後は王様自身が国を追われる羽目になったのよ、残念よねぇ、悔しいよねぇ。
そこで王様は考えたのよ、自分達はもうダメかもしれないからってね。それでもね、まだ生まれて間もない一人娘だけでもね、国の外に逃がそうとしたのよ。
それでね、まだ王様を慕ってくれる兵士に頼んでね、小さな籠に一人娘を入れて馬で逃げて貰ったのよ。だけど、それもすぐにバレてしまって、他の兵士に追われることになったのよ。
それでも、必死で雨の降る中を逃げたそうよ、パカッパカッって馬を走らせてね。それで……その先のことは、どうなったかは分からないのよ。無事に逃げられたのか、それとも、ね」
これで話し終えたのでしょう、立ち止まった猫姉さんです。それで猫姉さんの前に歩き出たノリコたちの前にニャージロウが待っていました。その姿を見るや否やニャージロウに駆け寄るノリコたちです。
◇◇
月明かりと言っても周りの風景は良く見えません。余所から来たエリコにとってそこは、狭くて暗い世界。でも、何も無いようで本当は全てがそこに在る世界に見え、少しだけプルっとしてしまいます。
同じような感覚はノリコも感じているようです。知っているはずなのに、ヨソヨソしく、受け入れて貰えないような、そんな不安になるような感覚に困惑しているようです。それは、何時も知っているはずのニャージロウが、無茶苦茶に走っているように思えたからかもしれません。それは何時しか、ここはどこなんだろう、という疑問に変わっていくのでした。
そうしてニャージロウを見失わないよう懸命に追いかけていると、フッと草むらの中に消えてしまったニャージロウです。そして、どういう訳か、そこで風が止んでしまい、仕方なく舞い降りたノリコたちです。
しかし、こうなっては小さななノリコたちがニャージロウを見つけるのは至難の技です。それは自分の背よりも高い草に視界を遮られ、ニャージロウどころか、この先がどうなっているのかさえ分からないくらいなのです。
これではもう帰るしかないかな、とノリコが思った時です。目の前の草を分けるように猫さんが出てきたのです。そして、
「おや、わざわざ来てくれたのかい?」と、ニャーでもなく、ニャッニャッでもない、言葉を話す猫さん、それも老齢の猫爺さんです。これにはビックラコンのノリコ、話せる猫さんも居るんだ、と驚いていると、
「こんばんわ」と挨拶するエリコ、お年寄りには親切にするものとペコリです。そんな落ち着いたエリコに格好悪い姿は見せられないと、ビックラコンを仕舞い込んで、
「こんばんわ、です」と言い終わってから気持ちを落ち着かせるノリコ、知らない猫さんは苦手のようです。そして、「あの——」と言ったところで首を傾げる猫爺さんにプルプルしながら、「集会が今夜あるって、そうなんで、それで、その、参加? いえいえ、見に来たんですけど」と、やっとこさで言い終えるノリコです。
「集会? うんまあ~、そんなものかのう。うむ、大勢いた方が賑やかで良かろうて」と、のんびりと答える猫爺さんです。そしてノリコたちに尻尾を向けると、「こっちじゃ、付いて来なさい」と出て来た草むらの中にスポッと入って行く猫爺さん、その後に続くノリコたちです。
草むらを抜けると左右に草が分けられた、猫さんが通るには、ちょうど良い幅の小道が真っ直ぐに続いているのが見えてきました。そこを、ゆらゆらと揺れる猫爺さんの尻尾を目で追いながら付いて行くノリコたちです。
その猫爺さんに近づき尻尾を掴まえようするエリコです。しかし、ユックルと降りてくる尻尾に、あともう少しというところでピョンと跳ね上がってしまい掴み損ねてしまいます。そして今度こそという時、急に立ち止まった猫爺さんです、怒ったのでしょうか。それにハラハラのノリコです。
「今から昔話をするからのう。それを聞いてくれるかのう。まあ、つまらない話じゃが仕来りなもんでな~。歩きながらで良いからのう」と振り向かずに話しかける猫爺さんです。それに、
「はい」と答えたノリコ、やっと尻尾を掴まえたエリコです。そのエリコに、「ダメです、すぐに離して」と注意すると、
「良いよい」と機嫌の良さそうな猫爺さん。ですがそう言いながら、また尻尾をピョンと跳ね上げ、そしてユックルと降ろしてきます。そしてそれをエリコが掴まえる、ということを繰り返しながら歩き始めた猫爺さんです。
◇◇
「ごほん、えーとじゃ、遠い遠い、昔の、ある国でのことじゃ。
その国の王様は、とても臆病で用心深い人じゃったそうじゃ。でもな、臆病ということは、それだけ他国の脅威を知っていた、ということでもあるんじゃ。だから国境を、とても高い城壁で囲っていたんじゃ。
勿論それだけではのうて、強い軍隊も作ったのじゃ。その御蔭で国は他国から攻められることなく、長く平和が続いたそうな。
しかし、その代わりに国の民は裕福ではなかったのじゃ。それもそうじゃろう。沢山のお金を国の守りに注ぎ込んのじゃからな。それで生活は貧しく厳しかったようじゃが、それでも争いの無い平和な時だったからな、皆、逞しく生きておったのじゃよ。
ところでじゃ、わしの話はここまでじゃ。この続きは次の者がするでな」
話が終わったのと同時に立ち止まった猫爺さんです。その後ろをトボトボと歩いていたノリコたちは話を聞いていなかったので、そのまま猫爺さんに打つかってしまいました。すると、前を歩くようにと催促され、猫爺さんの前を歩くことになったノリコたちです。
そこには既に次なる猫さんが控えていて、大きな欠伸をしながらノリコたちを迎えました。
「おや、可愛いお客さんだこと」
次の話し手は猫婆さんのようです。その猫婆さんにジロジロと舐めるように、いえ、本当に舐められたノリコたちは先程の猫爺さんの時のように、猫婆さんの後を歩いて行きます。その後ろに役目を終えてホッとしている猫爺さんが続きます。そうして猫婆さんが話し始めようとすると、
「婆さんや、この子たちは若いでな。優しく言わんと分からんかもしれん」と注文を付ける猫爺さんです。それに、
「あんたの話し方が下手なんだよ、要領が悪いんだから」と跳ね返す猫婆さん、尻尾をフリフリです。そうして歩き始めると、猫婆さんの話も始まるようです。
「うほん、ある国の王様ね。私は、その王様の息子の話からだね。
その息子は父親である王様とは全然違って、とても優しい子だったようだよ。誰にでも親切で、身分に関係なく態度を変えることが無かったそうだよ。
でもね、悪く言えば『お人好し』とも言えるくらい人を信じやすい人だったのよ。
まあ、それは置いとくとして、その息子が父親から王様を受け継ぐとね、今までの王様と違い、国を豊かにすることに頑張ったそうよ。一応、それまでは平和が続いてたんだけどね、生活自体は貧しかった、そうよ。それでそれをなんとかしようとね、余所の国と交易を発展させようとしたのよ。
でも、それをするにはね、国境の扉を開けて、人の出入りを自由にしなくちゃならなかったのよ。なんせそれまでずっと硬く扉を閉じたままだったからね、それは怖いことでもあったでしょう。
そこで王様は余所の国とね、とにかく話し合うことにしたそうなのよ。今では普通のことだけどね、昔は話し合うよりも、力で押しつぶしてしまう方が多かったのよ。力があれば何でも出来た時代だから、逆に力が無ければ奪われるだけ、そんな時代よね。
まあ、こんなところかな。私の話は、ここでお終い」
話し終えたところで立ち止まった猫婆さんです。ということは、そこで前に出なければならないのでしょう、ノリコたちはそのまま猫婆さんの前に出ました。すると前と同じように、今度は猫おじさんが待ち構えていました。そこで歩き出すと、ノリコたちの後を猫婆さんと猫爺さんが付いてきます。このお話がどこまで続くかは分かりませんが、こうやって猫の隊列が出来ていくのでしょう。
「今度は私の番か、参ったなぁ」と首をフリフリしながら、本当に困っている様子です。それでも咳払いの後、話し始めるようなので、その後に付いて行くノリコたちです。
「えっと、どこまで話したんだ? まあ、いいか。とにかく、王様の国はナンダカンダで繁盛しましたよってことだな。余所の国からも人が大勢来たみたいだし、とにかく、それで国は結構、潤ったそうだ。それに、良いことは続くもんでな、王様も結婚して順風満帆な、そうだな、一番幸せな時だったろう。
だけど、全部が全部、上手くいった訳じゃない。国が豊かになり余所の国とも商売を上手くやっていたんだが、どうも、その余所の国の人は不満があったらしい。それはなんでも、仲が良くなったんだから国の守りを、そんなに強くしなくても良いだろうって言ってきたんだ。
要は、剣を向けられたままじゃ本当に仲良くは出来ない、だからそれを収めてくれってことだな。というのも、王様は先代の言付けを守って軍隊をどんどん大きくしていったんだ。それも国が豊かになればなるほど、それは強固なものになった。
まあ、それが気に入らなかった、というか気になっていたんだろう。その頃の王様の国と余所の国とでは、随分と差があったらしいから、余所の国が気にするのも分かる。
しかし、人の良い王様でも『はいそうですか』とは言えない問題だ。もし余所の国から攻められたりしたら大変だろう。そこで王様は考えに考えた。そして考えた、考えた……、あれっ、それからどうしたんだっけ。まあいいか、続き、頼むよ」
こうして猫おじさんの話はブツッと切れ、次は猫おばさんの出番となりました。急に話を振られた猫おばさんは、まだ心の準備が出来ていなかったのでカンカンです。
「ちょっとおおお、あんたねえええ」と、お冠の様子ですが、既に恐縮仕切っている猫おじさんです。そこで『後で小言を言いますからね』ビームを放つと、プイッと前に向き直して歩き始めました。
「王様は考えた、てところからよね。えーっとね、結局、余所の国の提案を少しだけ受け入れることにしたのよ。それはね、軍隊の数を減らしてね、その代わりに余所の国の人も王様の国に住んでもいいよってことにしたのよ。
そうすれば余所の国の人も居る訳だし、まさかね、攻めて来るなんてしないでしょう、って王様は考えたのよ。それにお互い商売をしていたしね。だから、その相手を滅ぼしでもしたら商売が出来なくなるじゃないのよ。良い考えだと思った訳よね、その時は。
そして実際、それは上手くいったのよ、暫くは。人も増えて国は大繁盛、国同士の争いも起きなかったしね。めでたし、めでたしよね」
これで話し終えたのでしょう。立ち止まった猫おばさんは、まるで瞑想でもするかのように目を閉じると、ゆっくりと顔をツンツンさせました。それはノリコたちに前を歩くように、という合図のようです。
そうして次は猫兄さんが控えていました。猫兄さんはシャイなのか、何も言わずに歩き始めると、ボソボソ声で話し始めるのでした。
「めでたし、めでたし……か。それで終われば世界も終わりよ。
ふふっ、いいかい? 世の中、そんなに甘くはないんだぜ、へへっ、これからが本番よ。いいかい、国中にヨソ者がわんさかと入ってきたんだぜ。それは、例えば体中にバイ菌が一杯ってことだよ。
だけどな、そのバイ菌、最初は大人しくしてるんだよ。何故って、最初は右も左も分かんないだろう。それで慣れるまでは大人しくしてるんだよ。でもなあ、何時かは本性を現す時が来るんだよ。それまで、じっくり、ゆっくりとお昼寝さ。
そうして気が付いた時には手遅れってもんさ。体中、隅から隅までバイ菌に侵されて、バーンンン……」と言い終わった後、目と口を目いっぱい開いてノリコたちに振り向いた猫兄さんです。そこに、
スタスタ、バチバチバチ、ババーンンン。
前から走ってきた猫姉さんに猫パンチの連打を浴びた猫兄さんです。そして、
「アホなのぉぉぉ、怖がっているじゃないのよぉぉぉ」の怒号で完全ノックアウトの猫兄さん、その場でゴロニャンです。その様子に、話を聞いていなかったノリコたちはキョトンとするばかり。それよりも怒った顔の猫姉さんの方が怖かったりします。
「ごめんね、このアホが言ったことは忘れてね。いやいや、忘れたら困るのかぁ。まあ、いいや。続きは私から話すからね」と言うと、スッと前を向いて歩き出したので、今度は猫姉さんの番のようです。
「でもねぇ、ここから先のお話はね、ちょっと悲しいお話になるのよねぇ。だからねぇ、気を付けて聞いてね。
それじゃあねぇ、そうそう、王様の国がピンチ・大変なのよ。人の良い王様だからね、ヨソの国の人でもね、頑張っている人はどんどん重要な役を任せたのよ。そうしたらどうよ、何時の間にかにね、誰も王様の話を聞かなくなったのよ。
それは何故かって? だってほら、もう王様の周りの人って言えば、気が付いた時にはね、ヨソの国の人だらけになってたのよ。そう、余りにも人を信用し過ぎた結果、とでも言うの? まあ、それはともかく、もう王様は名ばかりの王様になってしまったのよ。そうそう、裸の王様みたいな感じ?
そこでね、なんとかしようとしたんだけどね、時すでに遅しってやつ? 最後は王様自身が国を追われる羽目になったのよ、残念よねぇ、悔しいよねぇ。
そこで王様は考えたのよ、自分達はもうダメかもしれないからってね。それでもね、まだ生まれて間もない一人娘だけでもね、国の外に逃がそうとしたのよ。
それでね、まだ王様を慕ってくれる兵士に頼んでね、小さな籠に一人娘を入れて馬で逃げて貰ったのよ。だけど、それもすぐにバレてしまって、他の兵士に追われることになったのよ。
それでも、必死で雨の降る中を逃げたそうよ、パカッパカッって馬を走らせてね。それで……その先のことは、どうなったかは分からないのよ。無事に逃げられたのか、それとも、ね」
これで話し終えたのでしょう、立ち止まった猫姉さんです。それで猫姉さんの前に歩き出たノリコたちの前にニャージロウが待っていました。その姿を見るや否やニャージロウに駆け寄るノリコたちです。
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