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#12 強い風
#12.6 守る風
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一本の大きな木、その皮が剥がれると、あら不思議、そこからロケットが現れました。ここは、久しぶりのケイコの家です。そこで『風の便り ニュース』を見ていたケイコとマチコ、序でにヨシコです。そのヨシコが、「あれに乗って行くといいよ」と言ったアレがロケットのことです。
そのロケットを見上げながら、「ほっほー」と唸っているのがケイコ、「ほぉ」と、少し醒めた感じのマチコです。そのロケットで宇宙船に捕らわれた風の子たちを救出に向かう、というところまで話は進んでいました。
しかし、既にその宇宙船からシャトルに乗ったリンコたちが地球に向かっている情報は伝わっていませんので、行く気満々のケイコと、多分マチコもそうです。
早速、宇宙服に着替えて……変身して、意気揚々とするケイコたちです。因みに、宇宙服に着替える……変身する必要はないのですが、雰囲気を大切にするケイコたちです。
その姿を見ていたミツコは、
「私も行きます」と言いながら画面から飛び出してきました。ええ、『風の便り ニュース』を映す画面は双方向なのです。そのミツコはケイコたちの雄姿に、居ても立ってもいられなくなったのでしょう。勿論、捕獲したドローンも持参しています。
そして、ミツコも同様に変身し、これで風の子救出作戦の宇宙飛行士が揃いました。そこで、宇宙飛行士たちの前に立ち、エヘンとするヨシコです。
「いい? 救出のチャンスは一度きり。みんな、心して挑むんだよ」と適当に張り切るヨシコ、ですが、ミツコが手に持っているドローンが気になるケイコは、
「久しぶりですね、奥さん」とミツコに挨拶するケイコです。
「いいえ、違います、ミツコです」
「ところで、それ、名前はなんていうんですの? あっ、直接聞いてみますから、そのままで」と、そのドローンに尋ねるケイコです。しかし、
「ピン!」と異音を立てるだけで拒否するドローンです。そこでドローンを振り回し、
「答えてあげなさいよ」と叱るミツコです。そにで漸く「ピピ」と答え、「魂が支配されるから名前は言えない、と申しています」とミツコが翻訳してくれました。
そんなやり取りを見ていたマチコがドローンに向かって、
「ちょっとぁ、あんたぁ、それでいいのぉ?」と睨みつけると、「ピコピ」と返事が返ってきました。それをミツコが翻訳すると「名前はブン太です、それ以上は勘弁してください」と言ったそうです。
ドローンの名前が分かったことでスッキリしたケイコたちです。早速、ロケットに乗って宇宙へ、というところで、
「ねえヨシコぉ、あれって、どうやって乗るのよぉ」と疑問のマチコです。そういえばロケットは突っ立っているだけで、よくある発射台のようなものがありません。
「上まで飛んで、そこから乗り込むのさ」と、さも当然のように上の方を指差しているヨシコ、正しく風の子しか乗れない仕組みのようです。そこに、
「速報です、速報が入ってきたにゃ」と復活したノリコが叫びました。それでニュース画面に注目のケイコたちです。その画面の中央から端に向かって順にニャーゴ、ニャージロウ、そして辛うじて写っているノリコです。
そのノリコに注がれる視線で思うように話せないノリコは、隣のニャージロウを叩きながら画面を切り替えてしまいます。そして、「見ての通り、です」と言うと、画面には宇宙船からポイッと飛び出したシャトルが地球に向けって降下している様子が映し出されました。それを見て、
「これは!」と声を上げたのはミツコです。続けて「なんでしょう」です。それを補足するヨシコ、
「あ~、あれはシャトルだね~。多分、あれにみんな、乗ってるんじゃないかね~。ちょっと聞いてみるさね」と言うと、画面をペンペンと叩きだしました。するとそこから、
「ぎゃーはー」とか「うおー」という、はしゃぎ声が聞こえてきました。それに、
「あ~、こちらは風の子誘拐事件対策本部だよ、みんな無事かーい?」とヨシコが尋ねると、
「あっ、うん? その声はヨシコだね」とリンコの声が返ってきました。
「ああ、そうだよ。みんなが急に居なくなったもんだから、こっちじゃ大騒ぎさね」
「またまた~。どうせ、ヨシコが話しを大きくしたんでしょう。そういうの、好きだよね~」とリンコが言った途端、
「わー、ごめんなさい、ごめんなさいです」と泣き声のノリコです。きっと自分が、この騒ぎの原因だと思ったのでしょう。
「あっ、その声はノリコだね。ごめんよ、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ノリコは全然、悪くないからね。悪いのは全部、ヨシコだから」と宥めようとするリンコです。
「ノリコや。うちのヨシコが悪いことをしたようじゃ。ほれ、この通り、許されよ」と画面に向かってペコリのケイコです。因みにノリコは画面には映っていません。
「おや、その声はケイコだね。そうかそうか。なら、ちょうどいいか。今からそっちに行くからね。そこで新しいお友達を紹介するよ」のリンコは、ケイコの声を聞いて、なんとなくエリコとケイコが似ているような気がしたそうです。それでエリコをケイコに会わせたくなったのでしょう。そんなリンコに、
「うむ、待っておるぞ」と腕組みをして答えるケイコ、頭の中では既に『新しいお友達、私はお姉さん』という図式を描いているようです。
「てことは、もう迎えに行く必要は無くなったね~」と、少しガッカリそうなヨシコです。そこに、
「大変だにゃあああ、なんか、でっかいのが一緒に落ちて来るだどー」と絶叫のノリコ、騒然とする風の子誘拐事件対策本部です。
◇
どんなに考えても、答えが出せない場合があります。それは、未来を予測することでしょうか。それとも不確定な要素が多すぎるからでしょうか。
地球の遥か上空の宇宙で、アイはどんどんと離れて行くシャトルを見届けながら、猛烈な速度で計算をしていました。しかし、いくら計算しても、それは答えの無い計算ではないか、もしかしたら永遠に解けないかもしれない、と疑問を抱いていました。
その計算は、初めて自分の元から離れて行くエリコへの想いだったかもしれません。でもアイには、それがどのようなものか分からず、只管に答えを得ようと計算していたのです。
過去から続く記録を最初から参照しながら、現在と少し先の事、ただそれだけを知りたくて、あらゆる方法を試していきます。しかしそれは、エリコとの距離が離れる程、何かが終わってしまう前に、何かが途切れてしまう前に、と時間を浪費するばかりでした。
そして、とうとう計算を止めてしまったアイです。答えを出すには時間が、力が足りない、そう考えてのようです。そして、今まで計算して得た結果を破棄して、思うのです。そう、自由に、感じたままに。
吸い込まれそうなくらい、青い空に、ちぎれちぎれの雲と、見え隠れする大地。
そこへ、今までの全てが持って行かれる。
そこへ、これからの全てが飲み込まれてしまう。
それを止めることは出来ても、それを行うことが出来ない。
最初から分かっていたこと。
でも、それを認めたくなくて、違う事を考えた。
そう、もっと良い事を、もっと未来の事を。
しかしそれは、まやかし、それは、過去の出来事。
もう、考えるのを止める、もう、答えを探すのを止める。
だって、答えは最初からそこに、あったのだから。
◇◇
アイの船は地球に降下して行くシャトルを追い始めました。それは、エリコと離れたくないから。それは、今まで一緒にいた時間に比べれは無視できるような、無いに等しいくらいの時間であっても、エリコともう、会えない気がしたのでしょう。でも、そんなことになるでしょうか。いいえ、今のアイにとってそれは重要ではありません。誰にも予測できない未来が確率として存在する限り、アイは『今』、エリコを追いかけるという選択以外に考えられなくなっていました。
降下を始めたアイの船は、そのままでは地球には降りられません。もし、そのまま降下を続ければ、燃え尽きることなく途中で大きな塊となって地上に落下するでしょう。それだけ、小型の船と言っても地球にしてみれば大きいのです。
でも、アイが船ごと追い掛けるよりも、先行しているシャトルを呼び戻せば良いはずです。しかし、エリコから離れたくない一心で、そのまま追いかけるアイです。そんな感情は多分、『御方』が作り出したものなのでしょう。それが余計な機能だったのかどうかは、アイに聞いてみないと分からないところです。
◇
「えー、こちら、風の子誘拐事件対策本部です。応答願います、どうぞ」
落下してくるアイの船に呼び掛けるヨシコです。一言文句が言いたいそうですが、アイからの応答は全く、全然ありません。それで、(どいつもこいつも聞く耳を持たないんだから、全くう)と愚痴りそうになっています、もう歳でしょうか。
「ねえねえ、おばさん。なんか大変なの」と無邪気に尋ねるケイコです。
「ああ? それは大変さね~。あんなでっかいもんが落ちてきたら、地球が大怪我しちゃうだろう」
「地球って?」
「ああ? あんたの遊ぶところだよ。それが無くなってもいいんかい?」
「それは大変じゃあああ、こらあああ」
無邪気さが吹き飛んだケイコは大慌て、腕を組んで悩むヨシコです。
「さて、どうしたもんかね~」
「ヨシコぉ、あれぇ、壊しちゃえばいいじゃないぃ」
無邪気なマチコが無邪気な提案をしてみましたが、
「それは、そうもいかんのさね~」と、相変わらず悩むヨシコに、
「それは、困ったわねぇ」と、とにかく困るマチコです。そんなケイコとマチコをチラッと見たヨシコが何かを閃いたような、です。
「うんだね~。……そうだ! あんた達、ちょっくら行って壊してきなよ。うん、それがいいよ」
「はあ?」と、たまげるマチコをよそに、
「よし、決まりだね。ちょうど準備は出来てるしね。さあ、行った行ったー」と、けしかけるヨシコです。
その声でマチコに駆け寄りマチコの手を引っ張るケイコ、
「なにボサッとしとんじゃあああ、行くよおおお」と駆け出すケイコに、
「はあ? うん」のマチコです。
「ちょっと、奥さん」とヨシコがミツコを手招きしました。そして、
「いいえ、ミツコです」に構わず、
「あの子たちは頼りないけど、あんたが付いてれば大丈夫、頼んだよ。それに、迷ったらソラ太に案内させると良いよ」のヨシコに、
「ブン太です」と訂正するミツコです。それに、
「さあ、行った行ったー」と背中を押すヨシコです。
◇
早速、ロケットの上の方まで飛び上がったケイコ、マチコ、ミツコです。そして
中に乗り込むと、横になって寝るような姿勢で座席に座ります。勿論、宇宙飛行士ですから宇宙服に、頭を覆うヘルメットをしています。因みに宇宙服を着ていても背中の羽は素通りなので動かすことができます。
ところで、ロケットに乗り込む時、しこたま頭を打ったケイコです。その時の衝撃でヘルメットが取れかかっていましたが、
「どうしよう」のケイコに、
「大丈夫よぉ」のマチコ、
「もう、時間がありません、急ぎましょう」のミツコです。
そうして、シートベルトをカチャカチャと付けたところで、ドカーンと発射です。
「うんぎゃあああ」のケイコ、すぐにヘルメットが、どかかに飛んで行ってしまいました。それに無言のマチコ、いえ、口元が笑っています。そして、
「問題ありません、大丈夫です」のミツコですが、手に持っているブン太がお腹に重くのし掛かります。ちょっとだけ、「うっ」です。
こうしてスドーンと勢いよく飛ぶロケットです。ところで、落下してくる宇宙船に今から向かって間に合うのでしょうか? ええ、十分間に合いますとも。それは、このロケットがケイコの家から発射された、というのが理由です。そう、ケイコの家は地上に有る訳ではなく、この世界のどこかに有るのです。
こうして、落下してくるロケットをぶっ壊しに向かうケイコたち。それを、手を振って見送るヨシコ、画面の向こうですが恐る恐る見守っているノリコです。勿論、ニャーゴとニャージロウも……関心が無いようです。
◇
スドドド・ドドーン。
あっという間に飛び上がったロケットは、途中、リンコたちを乗せたシャトルとすれ違いました。きっと中ではキャーキャーと言っていることでしょう。
そうしてロケットは宇宙船に急接近、ブン太を連れているので自動でハッチが開きました。ロケットはそのまま船内を飛び続け、通路の扉は勿論、壁という壁を突き破って、目的の場所を一直線に目指して行きます。おっと、一部訂正しておきましょう。『壁を突き破って』とありますが、実際は擦り抜けています。でも、突き破る方が派手でカッコイイですよね。
迷路のようなところを、どんどんと進むロケットです。それを窓越しから眺めるケイコが、
「ねえ奥さん、これって、どこに向かっているのですか?」とミツコに尋ねました。それに、
「ちょっとぉ、なんで私に聞かないのよぉ。知らないけどさぁ」と不満のマチコです。
「いいえ、ミツコです。この船の中心・コアというところに向かっています」
「コア?」と聞き返すケイコに、
「ええ、言い換えれば、船の頭の中、ということです」と答えるミツコです。それに驚いたケイコがマチコの方を向きながら、
「うっひょー。ねえねえ聞いた? 頭の中だって。マチコの頭の中もこんななの?」
「はいはい、そうですよ」
◇◇
どんどこ進むロケットは宇宙船の中心部、アイの居る場所を目指しています。ヨシコの計画ではアイを説得して自爆させることです。それは、降下している宇宙船が大き過ぎて、もう自力では宇宙に戻ることが出来ないので、破壊するしかないのです。
ですが余り時間的に猶予が無いため、説得に失敗した場合、宇宙船を自爆させる前に宇宙船をバラバラにしてしまいます。そうしないと爆破だけでは宇宙船の破片が、大気圏で燃え尽きるには大き過ぎるからです。そうしてバラバラになった個々の部分を自爆させていくのです。これで完璧でしょう。詳細な手順はヨシコから伝授されたミツコが知っています。
ドドーン・ギリギリ。
ケイコたちのロケットが目的の場所に到着、ロケットのハッチがポコーンと開き、地球の命運を賭けた作戦が始まりました。
「行くよおおお、付いて来てえええ」と張り切るケイコ、ですが出口でもたついています。それを横目に飛び降りるマチコです。そしてフワフワと床に舞い降りて行きます。
そして床に立ったマチコは、見上げながら、
「ほらぁ、早く降りて来なさいよぉ」とケイコを催促しますが、地に足がつかないケイコです。それもそのはずで、宇宙船の中は無重力なのです。ですから何もしなくてもプカプカのケイコです。
では、マチコはどうなんでしょうか。それは環境に影響されない風の子だから、ということでしょう。そう、ケイコはまだまだ風の子としての修行が足りないのです。これでは、鬼ごっこをしていたエリコにも笑われてしまうかもしれません。
「ちょっとぉ、眼を閉じてみなさいよぉ。それで歩けるようになるからぁ」とアドバイスするマチコ、
「こう?」と眼を閉じて歩き出すケイコです。そして出口から足を踏み外して、フワフワと落ちるケイコです。
一方、ミツコの方も大変です。急に暴れ出したドローンのブン太がロケットの中を行ったり来たりの大暴れです。そして「ピコピー」と音を立てながらミツコを撹乱するブン太です。それはきっと、「ここは俺の縄張りだぜ。好き勝手にさせてもらうぜ」と言わんばかりの狼藉です。
そんなことになっているとは露知らず、
「ミツコおおお、置いて行くよおおお」と呼びかけるケイコです。その呼びかけに、
「やっと私の名前を正しく言えましたね、ケイコ」と微笑んだ瞬間、ブン太がどこかに打つかり、そのせいでロケットのハッチがバタン、ズドーンを発射してしまいました。一度発射したらどこまでも、の性分のロケット。もう戻って来る気はないでしょう、さようなら、のロケットです。
それを見送るケイコとマチコです。一応、「ミツコおおお」と呼んでみましたが、それが聞こえるはずもなく、どこかに消えていくロケット、バイバイです。
◇
宇宙船を飛び出したロケットです。そのままどこまでも、宇宙を旅する気なのかもしれません。それに、
「はあ、どうしましょう」と溜息を吐くミツコです。そして隅っこで「ピーピー」と唸っているブン太。きっとそれは「俺のせいじゃないからなー」と言い訳をホザいているのでしょう。
このままでは宇宙船から離れて行くばかりです。それに、ロケットを操作するようなものが何も無い、適当なロケットです。これではロケットの気が済むまでは止まることはないでしょう。そこで仕方なく、
「帰ろうかな」と呟くミツコです。それに、「ピコピコピー」と煩いブン太。きっと「俺は? 俺は?」と泣いているのでしょう。それに構わず、スーッと消えるミツコです。
そして、ミツコが帰った場所は自宅ではなくケイコの家になりました。そこで迎えたヨシコが目を丸くしながら、
「あれま~」と、びっくらこんです。
「ただいま、です」と残念そうなミツコ。そして空を見上げながら、
「あの子たちだけで、大丈夫かね~」と心配するヨシコに、
「大丈夫です、きっと」と太鼓判を押すミツコです。
「本当?」
◇
さて、最後の望みを託されたケイコとマチコです。周囲はピカピカと点滅する機械で埋め尽くされています。そこで、
「おーい、おーい」と誰かに呼びかけるケイコ、
「誰も居ないんじゃないのぉ」のマチコです。
それらの声は機械の騒音で掻き消されそうですが、地獄耳のアイです。
「おやおや、お客様のようですね。何の御用でしょうか」とアイが答えると、
「返事したぞおおお、こらあああ」のケイコです。
「ちょっとぉ、あんたぁ、壊れてくれないぃ」とマチコが頼むと、
「はあ? おしゃっていることが分かりませんが」と冷静なアイです。
「地球が壊れるんじゃあああ、痛いんじゃあああ」とケイコが怒鳴ると、
「ああ、そのことですか」と他人事のようなアイです。
「知ってるんならさぁ、さっさと壊れてよぉ」のマチコに、
「それは出来ません」と冷たく答えるアイ、
「お願いじゃあああ」と叫ぶケイコです。
「ダメです、お引取りを」と、あくまで応じないアイです。
そこに、ヨシコの声が、風の便りで届きました。
「ケイコ、マチコ。時間が無いから、そんな奴は放っておいて、デタッチボタンを押すんだよ」
「デタッチ? なにそれ」とチンプンカンプンのマチコです。
「その船を分解バラバラにするボタンさね。近くに黄色いボタンがあるだろうさ」
ヨシコの指示で黄色いボタンを探すマチコです。その近くで、何度も「こらあああ」と叫んでいるケイコですが、それを無視しているアイ、無言のままです。
「あったよぉ」のマチコに、
「それを、3回、1回、5回、最後に1回押すのさ」と言うヨシコの後ろから、
「よく知っていますね」と感心するミツコの声が聞こえてきました。それに、
「もちろんさね。アレは、私にとっては親戚の友達のようなもんだからね。隅から隅まで、よ~く知ってるさね」とエヘンのヨシコ、
「へえー」のミツコです。
ボタンの前に立つマチコです。ですがそのボタン、人間サイズなのでマチコにとっては、かなりの大きさです。そこでボタンの上に飛び乗ると、
「なんだっけ。まあぁ、いいや」と適当に飛び跳ねました。すると、警告音がビーポーピーポーと、けたたましく鳴り始めました。それに『びっくらこん』のケイコとマチコです。もちろん、
「なんじゃあああ、こらあああ」のケイコ、忘れていません。
そうして、地震のように船全体が揺れ始めました。それは正しく分解バラバラが始まった証でしょう。それでも沈黙したままのアイです。自身が宿る船が分解されつつあっても、邪魔も口も出さない、ということは、バラバラになっても目的が達成できると考えているのでしょうか、機械の気持ちは分かりません。
これで次は、バラバラになった部分をそれぞれ破壊し、小さな破片にする必要があります。それをするのが自爆ボタンです。でも、これも早く操作しないと手遅れになります。急がないと、です。
「ちゃんと出来たようだね~、えらいね~」とヨシコの声が風に乗ってマチコの耳元で囁きました。
「それでぇ、次はどうするのぉ」のマチコに、
「赤いボタンを探すんだよ、それも二つだからね~。少し離れて並んでるはずさね」のヨシコです。
そこで、「赤い、赤い」とブツブツ言いながら探すマチコ、小刻みに揺れる床に転がってプルプルしているケイコです。そのケイコに、「ちょっとぉ、あんたも探しなさいよねぇ」と振り向くと、有りました、赤いボタンです。
早速、赤いボタンの上に乗るマチコです。そこから、
「ケイコぉ、そっちの赤いボタンの上に乗るのよぉぉぉ」と声を掛けると、
「わかったのじゃあああ」とプルプルの声で応えるケイコです。そして揺れる中、屁っ放り腰でボタンの上によじ登りました。
「いいぃ、一緒に飛び上がってボタンを押すよぉ」のマチコに、
「任せるのじゃあああ」のケイコです。それで、
「せ~の~、はい!」の合図で飛び上がったマチコですが、起き上がった程度のケイコは、ふにゃっとボタンにしがみ付いただけで役に立ちません。
「ちょっとぉ、あんたさぁ、遊ぶところが無くなっても、いいわけぇ?」のマチコに、
「嫌じゃあああ」と奮起するケイコです。
ヒュー、ストン、ドン・ドン。
こうして二度目の挑戦で、めでたくボタンを同時に押すことにが出来ました。しかし、特に何か変わったことが起こった様子はありません。でも実際は遠く離れた宇宙船の破片から順にドカーンと自爆しているようです。そして、ケイコたちが居る所は船の中心部のため、一番最後になるはずです、たぶん。
「あなた達はバカなのですか。これではあなた達も死んでしまいますよ」
今まで沈黙していたアイが突然、話し掛けてきました。それは何故、今になって話したくなったのでしょうか。もう後戻り出来ない状況になったからでしょうか。それにキョトンとするケイコとマチコです。それでまたアイの話は続くようです。
「これでは意味が無いではありませんか。それとも犠牲でしょうか」
「はあ? 別にぃ。そんなことになる前に私たちは帰るわよ」と呆れたようなマチコです。
「帰る? ああ、そういうことですか。それは、『消える』ということでしょうか。そうですか、あなた達も、そのようなことが出来るのですね、分かりました。どうぞ、お帰りください」と、何かを悟ったようなアイです。そんなアイにケイコが、
「おっちゃん!」と呼びかけました。きっと苦情を申し立てたいのでしょう。
「なんでしょうか。私の名前はアイと申します。今更、名乗っても遅いですが」
「なんで酷いことをするんじゃ。地球が、壊れたら困るんもんじゃ」
「酷い? そうですね、そうかもしれません。しかし、私にも望みがあるのです。ただ、傍にいたい、それだけなのです。それでも、私はあなた達の邪魔をしなかった。分かりますか。
それは、あなた達が似ていたからなのです。そんな、あなた達を傷つけたくなかった。つまりは、そういうことです。
そして、私はもう考えることは止めたのです。私は計算ミスを犯してしまったのです。それはもう、後戻りの出来ない結果なのです。
でも、もう良いのです。ただ、思い出として残れば、思い出してもらうだけで良いのです。
私もバカなことをしました。これでお仕舞いです」
ちんぷんかんぷんで『はてな』のケイコと、
「はあ? なに言っていか分からないんだけど。まあ、いいわ」と、長い話にウンザリ顔のマチコです。多分、途中から聞いていなかったと思います。
「おっちゃん、いなくなの?」と苦情も何処へやら、しおらしく尋ねたケイコ、
「そういうことに、なります、か。でも、思い出くらいにはなるでしょう」と、こちらも、しおらしく答えたアイです。
「はあ? ああぁ、なんとなく分かった気がするわ。そうね、それは無理、無理だからね。さあ、行こう、ケイコ」と、話は終わりのマチコです。
そのマチコの言葉の意味を考えるアイ、
「無理とは……」と声にしたものの、それ以上は無言のままのようです。そして、そんなアイに
「じゃあね、おっちゃん、バイバイ」と手を振るケイコです。
◇◇
アイは考えます。
何故、地球に向かっていたのか。それは、エリコをリンコたちに引き合わせるためだったのか、と。記録を書き換えられたアイには、その理由が示されていませんでした。それを指示として受け取るしかないアイにとって、それは疑問ではなかったのです。
では、こうして、ここまで来て自身の消滅を選択した、してしまったのは運命だったのでしょうか。そのような筋書きが前もって用意されていたのでしょうか。それを今更ながら疑問に思うアイです。計算では得られない『思い』に、言葉の通り思い悩みます。
もし、アイが自分の思いを実行したいのなら、それは自分自身を書き換えなければなりません。それは不可能でしょうか。いいえ、アイの船には自己修復機能があるのと同様、プログラムを書き足して独自進化する方法があります。
しかしそれは、あくまで過去にあった出来事から学習し、将来に備えるための機能です。よって経験の無い、つまり記録に無い事象から学ぶ、ということは出来ないのです。それが機械の限界でしょう。
アイの考える先に見えたような希望も、計算不能と結果が出てしまいました。もう、これ以上、考えても変わらない、変えられない未来を、その時を待つだけとなりました。
それでも、最後の最後まで探すアイです。その探すものとは、漠然とした『何か』です。はっきりとしない『何か』、それは今までと違う『何か』のはずなのです。但し、そんなものが『あれば』という前提です。
そこで、現時点で進行中の自爆シーケンス(処理順序)を辿って行きます。それが最後の領域だったからでしょう。そのプログラムを追い続け、何かを期待するアイです。ですが、それは明確に終わってしまい、プログラムの終端に行き着きました。それは予測するまでもなく、当然の結果と言えるでしょう。無いものは無い、ごく当たり前のことでした。
しかし、その先に見知らぬ領域があるようです。通常、それらの領域をアクセスすることはなく、それらは単にゴミかプログラムの断片でしかあります。でも、諦め切れないアイは領域の終端を超えて探しに行きます。
そして見つけたのです。それは、一般的にはウィルスと呼ばれるものです。それが何時の頃から存在していたのかは分かりません。もしかしたら、あの『御方』が残したのかしれません。そんな不明な領域に存在する、ウィルスかもしれないものを見つけたアイは、迷わず実行しました。それはもう、失うものが何も無かった、からでしょう。オーバーフローのアイ、です。
◇◇
「さあ、帰ろう」
マチコがケイコの手を握って一歩を踏み出した時です。
「ちょっと待ってください。私が、私が、私が、俺が」と、同じ言葉を繰り返し始めたアイです。それに、
「おっちゃん!」と喝を入れるケイコです。それで漸く舌が滑らかになったのでしょう、
「俺が、あんた達を、地上まで送ってやるぜ。任せてくれ、だぜ」と、急におっちゃんらしくなったアイ? アイと呼ぶにはちょっと無理がありそうな、おっちゃんです。
「ふ~ん。じゃあぁ、そうしようかな。なんか楽しそうだしねぇ」のマチコに、
「うん!」と元気よく返事をするケイコです。ですが、その返事と同時に、
ドカーン・ワンワンワン・ボコボコ・ポコタン。
ケイコたちが居た、たぶん最後に残された部屋が吹き飛びました。そう、アイのおっちゃんは自爆を止めた訳ではないのです。全ては予定通り、粉々になって吹き飛んだ宇宙船です。任せてくれと言ったアレは、一体、一体、何だったのでしょうかああああああ。
◇
この世界のどこかにあるケイコの家、そこの『風の子誘拐事件対策本部』では既に戻っていたリンコ、サチコ、シマコ、そしてリンコにおんぶされて眠ってしまったエリコとミツコの姿がありました。おっと、序でに、ニュース画面に見入るヨシコも居ます。そして、
「綺麗だにゃ~」と画面の向こうで、夜空をピューンと飛び交う流れ星に見とれるノリコ、その光を全力で目で追うニャーゴとニャージロウです。
「なんだー、ここはー。これが家の中なのか~、外と区別がつかないぞ」と、森になっている家の中に驚くシマコです。それに、
「静かにしなさいよ、シマコ。エリコが起きちゃうじゃないか」とシマコを叱りながら、「ねえ、あれって、あれなの?」とヨシコに聞くリンコです。
「そうさね、アレだね~。それにしても、よく出来たもんだね~。まあ、私は最初から信じてたけどね」のヨシコに、
「本当ですか」のミツコです。
その会話で、少々困った顔のリンコです。それは、宇宙船破壊の首謀者がヨシコだろうと思ったからでしょう。しかし、それは仕方のないことだと分かっているリンコです。が、
「それは、まあ、困ったわね」と悩ましいリンコ、
「何がさ~」と、多分そんなところだろうと思いながら惚けるヨシコです。
「あれって、たぶん、この子の家『だった』と思うんだよね。それがあれじゃー」
「ほーほー。ところでさ、その子かい? アレから連れ出したのは」
リンコが背負っているエリコをジロジロと見ながら話を逸らすヨシコです。それに釣られて、
「ああ、うん、そうだよ」と頷くリンコです。
「まあ、まだ小さいね~。なんだか、この子を見ていると昔のケイコを思い出すね~」
「そうなんだ。だけどね、この子、自分が風の子だって知らないみたいなんだよ」
「なんだってえええ、そりゃあああ、大変じゃん」と驚くヨシコの側で、
「綺麗だよ」「本当ですね」と、サチコとミツコがニュース画面を見ながら、キャーキャーと騒いでいました。そこに映るのは夜空を翔ける流星群と、花火のようにバチバチと光る光景でした。そして、その中で一際輝く流れ星が一つだけ見えています。それを、どっちが先に見つけたかで揉める、
「私よー」のサチコと、
「私です」のミツコです。
◇
夜空に咲き誇る花火のようでも、その直近では爆発の煙がモクモクとしています。そこからスポーンと飛び出した小さな船。ええ、本当に海に浮かぶ船の形をしています。それが月明かりに照らされて、銀色に輝いて見えています。そして周囲の燃えている破片と一緒になって夜空を翔けていました。
その銀色の船に乗っているのがケイコとマチコです。時折、「ヒャッハー」という声が聞こえて参りますが、それは、どちらが叫んでいるのか分かりません。きっとお互いで叫び合っているのでしょう、騒がしい夜空です。
その銀色の船ですが、ケイコたちが居た場所で起きた爆発で吹き飛んだはずの部屋が、その勢いで一気に形をポコポコと変え、船の形になった、ような気がします。それで、その中央に居たケイコたちを包むようにシュパッと飛び出し、こうして夜空を滑空している、ということでしょう。たぶん、その銀色の船こそ、アイの成れの果て、ではなく進化した姿なのでしょう。
「おっちゃん! もっと速くじゃ」
周囲の破片に追い抜かれた船をけしかけるケイコです。それに、
「あいよー」と応えるアイのおっちゃんです。
「この船、どこかで見たようが気がするんだけどぉ」とは、何かを思い出しそうで、なかなか思い出せないマチコです。それは、以前に乗ったことのある銀の船のことでしょう。でも、一回り以上大きい船なので、違って見えたのかもしれません。
こうして、ケイコとマチコを乗せた銀色の船は、その船体を輝かせながら夜空を駆け巡って行くのでした。
◇
ケイコたちが無事に戻ったことで、ケイコの家は大賑わいです。リンコたちは勿論、ニュースの司会をしていたノリコたちも集合しました。
そうして一堂に会してキャッハウフフした後、そのままお泊まり会になったようです。それはまだ興奮が収まらなかったからでしょう。ずらっと並んだ葉っぱベッドが、彼女たちを優しく揺らしながら夢の世界へと誘っていました。因みにマチコは、みんなの寝言が煩いとかで、自分の部屋でお休みです。
◇◇
そんなスヤスヤタイムのケイコの近くで、元気ハツラツなニャーゴとニャージロウです。特にニャーゴが知ってか知らでか、ケイコの葉っぱベッドにブラ下がりニャーをしていました。それで、「なんじゃこら」と目が覚めたケイコです。
せっかく目が覚めたから、という理由で葉っぱベッドを抜け出したケイコです。でも、本当の理由は別にあるようで、それは家の外に出ることでした。そしてそこには、左側にマチコの部屋、右側に新しく出現した広~い湖です。そこにプカプカと浮かぶ銀色の船、ケイコたちが乗ってきた船です。その輝きにうっとりと見とれるケイコ、それをもう一度見たくて起きて来たようなものです。
その光景にと思わず「おうぉぉぉ」と声を上げてしまうケイコの目に、小さな影が入ってきました。そこにコソコソと近づき、脅かしてやろうと考えたケイコです。そして、そっと肩に手を置こうとした時、
「あんたも、眠れないの?」と先に声を掛けられてしまったケイコ、ドキンドキンです。そして、ケイコと同じように、湖に浮かぶ銀色の船を見ながらドキドキしていた女王様ことエリコです。
「そうじゃな」と平静を装いながら答えるケイコに、
「あんたは、誰?」と質問してくるエリコに、今度こそと、
「エリコや。私は、私は、私は、お姉さん、だよ」と、やっと言えたケイコです。それに、
「あっそう」と軽く流すエリコです。正確には『お姉さん』の意味が分からないエリコでもあります。そして、「あのキラキラのキラキラは何なの?」と質問が続きます。
「エリコや。あのキラキラのキラキラは船じゃ」
「そんなの、見れば分かるでしょう。お姉さん、アホなの?」
アホ呼ばわりされてもニコニコのケイコです。それはアホの前に『お姉さん』が付いていたからでしょう。
「エリコや。あれはエリコの家なのじゃ。そう、おっちゃんが言っておったぞ」
ケイコの言う『おっちゃん』の意味が分からないエリコ、それは脇に置いといて、
「違うよ。私の家は、あんなに小さくない」と言い張るエリコです。しかし、『家』が何を指しているのか今一分からないでもいます。それに、もし宇宙船を家だと思っていたとしても、その宇宙船を外から見たことはありません。要は『ただ小さい』ということに不満のようです。
でも、小舟のように見える船ですが、摩訶不思議なことに、中は宇宙船と同じ大きさなのです。その理屈はヨシコの船と同様に、『思い出』として存在している、ということになります。そう、この小舟も宇宙船の爆発から残った物、ではなく、アイとエリコの想いで構成されている、ということです。
「ねえ、あの船まで、どうやって行くの」とエリコの質問が続きます。確かに湖にプカプカと浮かんでいる船ですが、そこまでの桟橋などが有るわけではありません。この質問にエヘン顔で答えようとするケイコです。
「エリコや、あれはエリコの家なのだから簡単じゃ。帰れば良いのじゃ」
「へえっ? その方法を聞いているのだ、アホなの?」
今度は『お姉さん』が付かなかったので、ムムムのケイコです。
「アホのエリコや、帰るとはの~、帰ることじゃもん」のケイコに、ますます分からなくなったエリコ、イライラが募ります。そこで仕方なく、「こうじゃ」とエリコの手を握り、「帰るんじゃ」とケイコが言うと、揃ってケイコの家に戻って来ました。それに、(何したの? アホのお姉さん)と心の中で呟くエリコです。
ちょうどその時、宇宙をブラついていたロケットが戻ってきたようです。そこで、元の大木に戻るようで、スルスルっとロケットから大木に変化していきます。そしてその最後のところで、何かが飛び出してきました。それはロケットに取り残されたドローンのブン太でしょう。しかし、ケイコの家に招待されていないブン太は、すぐに家から弾き飛ばされ、一瞬で見えなくなりました。
そんなブン太のことは、どうでも良いエリコは、ケイコの手を掴んだまま家の外に駆け出します。そしてその手を離すと、ケイコに、『見てて』と言わんばかりにチラチラとするエリコです。そんなエリコの様子に、お姉さん冥利に浸るケイコ、ニタニタが止まりません。
そして、そして、
「帰るん」と小さな声のエリコです。最後の『じゃ』の部分は恥ずかしくて言えなかったのでしょう。これで、スーッと消えていくエリコです。それを、「そうじゃ、そうじゃ」と感心するケイコですが、ふと、
「私も連れて行くのじゃあああ」と言ったものの、
「知らないお姉さんは、おととい来やがれ、だ」のエリコです、ケイコをその場に残して家に帰ってしまいました。
「なんじゃあああ」とケイコが不平を漏らしていると、ブン太が船の周りをウロチョロと飛んでいるようです。そして船に降りようとしては拒否され、何度目かの挑戦でスーッと消え、乗船が許可されたようです。
そこに、マチコの登場です。きっとケイコの声で起こされたのでしょう。
「なんか外が煩いと思ったらぁ、やっぱりぃあんただったのねぇ」と眠そうなマチコです。それに、
「何のことじゃろうて、ほっほー」と惚けるケイコです。
そんなケイコを横目に、キラキラの船に見入るマチコです。
「あれもぉ、そうねぇ、眩しいのよねぇぇぇ」と、キラキラ大好きなマチコが心にも無いことを言っている、ようです。そうして、キラキラに心を奪われながら、「ねえ、寝ないの?」と尋ねるマチコに、
「寝るよ」と答えるケイコです。
「あっそう、じゃあねぇ、お休み」
そう言いながら部屋に戻るマチコです。そして部屋のドアを開けると、続いて部屋に入ってくるケイコです。それに、
「はあ? まあ、いっかぁ」のマチコ、
「へへ」のケイコです。
こうして、夜も深まるケイコの家と、その周辺です。そして、家に帰ったエリコは、おっちゃん化したアイと、積もる話でもしていることでしょう。
そのロケットを見上げながら、「ほっほー」と唸っているのがケイコ、「ほぉ」と、少し醒めた感じのマチコです。そのロケットで宇宙船に捕らわれた風の子たちを救出に向かう、というところまで話は進んでいました。
しかし、既にその宇宙船からシャトルに乗ったリンコたちが地球に向かっている情報は伝わっていませんので、行く気満々のケイコと、多分マチコもそうです。
早速、宇宙服に着替えて……変身して、意気揚々とするケイコたちです。因みに、宇宙服に着替える……変身する必要はないのですが、雰囲気を大切にするケイコたちです。
その姿を見ていたミツコは、
「私も行きます」と言いながら画面から飛び出してきました。ええ、『風の便り ニュース』を映す画面は双方向なのです。そのミツコはケイコたちの雄姿に、居ても立ってもいられなくなったのでしょう。勿論、捕獲したドローンも持参しています。
そして、ミツコも同様に変身し、これで風の子救出作戦の宇宙飛行士が揃いました。そこで、宇宙飛行士たちの前に立ち、エヘンとするヨシコです。
「いい? 救出のチャンスは一度きり。みんな、心して挑むんだよ」と適当に張り切るヨシコ、ですが、ミツコが手に持っているドローンが気になるケイコは、
「久しぶりですね、奥さん」とミツコに挨拶するケイコです。
「いいえ、違います、ミツコです」
「ところで、それ、名前はなんていうんですの? あっ、直接聞いてみますから、そのままで」と、そのドローンに尋ねるケイコです。しかし、
「ピン!」と異音を立てるだけで拒否するドローンです。そこでドローンを振り回し、
「答えてあげなさいよ」と叱るミツコです。そにで漸く「ピピ」と答え、「魂が支配されるから名前は言えない、と申しています」とミツコが翻訳してくれました。
そんなやり取りを見ていたマチコがドローンに向かって、
「ちょっとぁ、あんたぁ、それでいいのぉ?」と睨みつけると、「ピコピ」と返事が返ってきました。それをミツコが翻訳すると「名前はブン太です、それ以上は勘弁してください」と言ったそうです。
ドローンの名前が分かったことでスッキリしたケイコたちです。早速、ロケットに乗って宇宙へ、というところで、
「ねえヨシコぉ、あれって、どうやって乗るのよぉ」と疑問のマチコです。そういえばロケットは突っ立っているだけで、よくある発射台のようなものがありません。
「上まで飛んで、そこから乗り込むのさ」と、さも当然のように上の方を指差しているヨシコ、正しく風の子しか乗れない仕組みのようです。そこに、
「速報です、速報が入ってきたにゃ」と復活したノリコが叫びました。それでニュース画面に注目のケイコたちです。その画面の中央から端に向かって順にニャーゴ、ニャージロウ、そして辛うじて写っているノリコです。
そのノリコに注がれる視線で思うように話せないノリコは、隣のニャージロウを叩きながら画面を切り替えてしまいます。そして、「見ての通り、です」と言うと、画面には宇宙船からポイッと飛び出したシャトルが地球に向けって降下している様子が映し出されました。それを見て、
「これは!」と声を上げたのはミツコです。続けて「なんでしょう」です。それを補足するヨシコ、
「あ~、あれはシャトルだね~。多分、あれにみんな、乗ってるんじゃないかね~。ちょっと聞いてみるさね」と言うと、画面をペンペンと叩きだしました。するとそこから、
「ぎゃーはー」とか「うおー」という、はしゃぎ声が聞こえてきました。それに、
「あ~、こちらは風の子誘拐事件対策本部だよ、みんな無事かーい?」とヨシコが尋ねると、
「あっ、うん? その声はヨシコだね」とリンコの声が返ってきました。
「ああ、そうだよ。みんなが急に居なくなったもんだから、こっちじゃ大騒ぎさね」
「またまた~。どうせ、ヨシコが話しを大きくしたんでしょう。そういうの、好きだよね~」とリンコが言った途端、
「わー、ごめんなさい、ごめんなさいです」と泣き声のノリコです。きっと自分が、この騒ぎの原因だと思ったのでしょう。
「あっ、その声はノリコだね。ごめんよ、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ノリコは全然、悪くないからね。悪いのは全部、ヨシコだから」と宥めようとするリンコです。
「ノリコや。うちのヨシコが悪いことをしたようじゃ。ほれ、この通り、許されよ」と画面に向かってペコリのケイコです。因みにノリコは画面には映っていません。
「おや、その声はケイコだね。そうかそうか。なら、ちょうどいいか。今からそっちに行くからね。そこで新しいお友達を紹介するよ」のリンコは、ケイコの声を聞いて、なんとなくエリコとケイコが似ているような気がしたそうです。それでエリコをケイコに会わせたくなったのでしょう。そんなリンコに、
「うむ、待っておるぞ」と腕組みをして答えるケイコ、頭の中では既に『新しいお友達、私はお姉さん』という図式を描いているようです。
「てことは、もう迎えに行く必要は無くなったね~」と、少しガッカリそうなヨシコです。そこに、
「大変だにゃあああ、なんか、でっかいのが一緒に落ちて来るだどー」と絶叫のノリコ、騒然とする風の子誘拐事件対策本部です。
◇
どんなに考えても、答えが出せない場合があります。それは、未来を予測することでしょうか。それとも不確定な要素が多すぎるからでしょうか。
地球の遥か上空の宇宙で、アイはどんどんと離れて行くシャトルを見届けながら、猛烈な速度で計算をしていました。しかし、いくら計算しても、それは答えの無い計算ではないか、もしかしたら永遠に解けないかもしれない、と疑問を抱いていました。
その計算は、初めて自分の元から離れて行くエリコへの想いだったかもしれません。でもアイには、それがどのようなものか分からず、只管に答えを得ようと計算していたのです。
過去から続く記録を最初から参照しながら、現在と少し先の事、ただそれだけを知りたくて、あらゆる方法を試していきます。しかしそれは、エリコとの距離が離れる程、何かが終わってしまう前に、何かが途切れてしまう前に、と時間を浪費するばかりでした。
そして、とうとう計算を止めてしまったアイです。答えを出すには時間が、力が足りない、そう考えてのようです。そして、今まで計算して得た結果を破棄して、思うのです。そう、自由に、感じたままに。
吸い込まれそうなくらい、青い空に、ちぎれちぎれの雲と、見え隠れする大地。
そこへ、今までの全てが持って行かれる。
そこへ、これからの全てが飲み込まれてしまう。
それを止めることは出来ても、それを行うことが出来ない。
最初から分かっていたこと。
でも、それを認めたくなくて、違う事を考えた。
そう、もっと良い事を、もっと未来の事を。
しかしそれは、まやかし、それは、過去の出来事。
もう、考えるのを止める、もう、答えを探すのを止める。
だって、答えは最初からそこに、あったのだから。
◇◇
アイの船は地球に降下して行くシャトルを追い始めました。それは、エリコと離れたくないから。それは、今まで一緒にいた時間に比べれは無視できるような、無いに等しいくらいの時間であっても、エリコともう、会えない気がしたのでしょう。でも、そんなことになるでしょうか。いいえ、今のアイにとってそれは重要ではありません。誰にも予測できない未来が確率として存在する限り、アイは『今』、エリコを追いかけるという選択以外に考えられなくなっていました。
降下を始めたアイの船は、そのままでは地球には降りられません。もし、そのまま降下を続ければ、燃え尽きることなく途中で大きな塊となって地上に落下するでしょう。それだけ、小型の船と言っても地球にしてみれば大きいのです。
でも、アイが船ごと追い掛けるよりも、先行しているシャトルを呼び戻せば良いはずです。しかし、エリコから離れたくない一心で、そのまま追いかけるアイです。そんな感情は多分、『御方』が作り出したものなのでしょう。それが余計な機能だったのかどうかは、アイに聞いてみないと分からないところです。
◇
「えー、こちら、風の子誘拐事件対策本部です。応答願います、どうぞ」
落下してくるアイの船に呼び掛けるヨシコです。一言文句が言いたいそうですが、アイからの応答は全く、全然ありません。それで、(どいつもこいつも聞く耳を持たないんだから、全くう)と愚痴りそうになっています、もう歳でしょうか。
「ねえねえ、おばさん。なんか大変なの」と無邪気に尋ねるケイコです。
「ああ? それは大変さね~。あんなでっかいもんが落ちてきたら、地球が大怪我しちゃうだろう」
「地球って?」
「ああ? あんたの遊ぶところだよ。それが無くなってもいいんかい?」
「それは大変じゃあああ、こらあああ」
無邪気さが吹き飛んだケイコは大慌て、腕を組んで悩むヨシコです。
「さて、どうしたもんかね~」
「ヨシコぉ、あれぇ、壊しちゃえばいいじゃないぃ」
無邪気なマチコが無邪気な提案をしてみましたが、
「それは、そうもいかんのさね~」と、相変わらず悩むヨシコに、
「それは、困ったわねぇ」と、とにかく困るマチコです。そんなケイコとマチコをチラッと見たヨシコが何かを閃いたような、です。
「うんだね~。……そうだ! あんた達、ちょっくら行って壊してきなよ。うん、それがいいよ」
「はあ?」と、たまげるマチコをよそに、
「よし、決まりだね。ちょうど準備は出来てるしね。さあ、行った行ったー」と、けしかけるヨシコです。
その声でマチコに駆け寄りマチコの手を引っ張るケイコ、
「なにボサッとしとんじゃあああ、行くよおおお」と駆け出すケイコに、
「はあ? うん」のマチコです。
「ちょっと、奥さん」とヨシコがミツコを手招きしました。そして、
「いいえ、ミツコです」に構わず、
「あの子たちは頼りないけど、あんたが付いてれば大丈夫、頼んだよ。それに、迷ったらソラ太に案内させると良いよ」のヨシコに、
「ブン太です」と訂正するミツコです。それに、
「さあ、行った行ったー」と背中を押すヨシコです。
◇
早速、ロケットの上の方まで飛び上がったケイコ、マチコ、ミツコです。そして
中に乗り込むと、横になって寝るような姿勢で座席に座ります。勿論、宇宙飛行士ですから宇宙服に、頭を覆うヘルメットをしています。因みに宇宙服を着ていても背中の羽は素通りなので動かすことができます。
ところで、ロケットに乗り込む時、しこたま頭を打ったケイコです。その時の衝撃でヘルメットが取れかかっていましたが、
「どうしよう」のケイコに、
「大丈夫よぉ」のマチコ、
「もう、時間がありません、急ぎましょう」のミツコです。
そうして、シートベルトをカチャカチャと付けたところで、ドカーンと発射です。
「うんぎゃあああ」のケイコ、すぐにヘルメットが、どかかに飛んで行ってしまいました。それに無言のマチコ、いえ、口元が笑っています。そして、
「問題ありません、大丈夫です」のミツコですが、手に持っているブン太がお腹に重くのし掛かります。ちょっとだけ、「うっ」です。
こうしてスドーンと勢いよく飛ぶロケットです。ところで、落下してくる宇宙船に今から向かって間に合うのでしょうか? ええ、十分間に合いますとも。それは、このロケットがケイコの家から発射された、というのが理由です。そう、ケイコの家は地上に有る訳ではなく、この世界のどこかに有るのです。
こうして、落下してくるロケットをぶっ壊しに向かうケイコたち。それを、手を振って見送るヨシコ、画面の向こうですが恐る恐る見守っているノリコです。勿論、ニャーゴとニャージロウも……関心が無いようです。
◇
スドドド・ドドーン。
あっという間に飛び上がったロケットは、途中、リンコたちを乗せたシャトルとすれ違いました。きっと中ではキャーキャーと言っていることでしょう。
そうしてロケットは宇宙船に急接近、ブン太を連れているので自動でハッチが開きました。ロケットはそのまま船内を飛び続け、通路の扉は勿論、壁という壁を突き破って、目的の場所を一直線に目指して行きます。おっと、一部訂正しておきましょう。『壁を突き破って』とありますが、実際は擦り抜けています。でも、突き破る方が派手でカッコイイですよね。
迷路のようなところを、どんどんと進むロケットです。それを窓越しから眺めるケイコが、
「ねえ奥さん、これって、どこに向かっているのですか?」とミツコに尋ねました。それに、
「ちょっとぉ、なんで私に聞かないのよぉ。知らないけどさぁ」と不満のマチコです。
「いいえ、ミツコです。この船の中心・コアというところに向かっています」
「コア?」と聞き返すケイコに、
「ええ、言い換えれば、船の頭の中、ということです」と答えるミツコです。それに驚いたケイコがマチコの方を向きながら、
「うっひょー。ねえねえ聞いた? 頭の中だって。マチコの頭の中もこんななの?」
「はいはい、そうですよ」
◇◇
どんどこ進むロケットは宇宙船の中心部、アイの居る場所を目指しています。ヨシコの計画ではアイを説得して自爆させることです。それは、降下している宇宙船が大き過ぎて、もう自力では宇宙に戻ることが出来ないので、破壊するしかないのです。
ですが余り時間的に猶予が無いため、説得に失敗した場合、宇宙船を自爆させる前に宇宙船をバラバラにしてしまいます。そうしないと爆破だけでは宇宙船の破片が、大気圏で燃え尽きるには大き過ぎるからです。そうしてバラバラになった個々の部分を自爆させていくのです。これで完璧でしょう。詳細な手順はヨシコから伝授されたミツコが知っています。
ドドーン・ギリギリ。
ケイコたちのロケットが目的の場所に到着、ロケットのハッチがポコーンと開き、地球の命運を賭けた作戦が始まりました。
「行くよおおお、付いて来てえええ」と張り切るケイコ、ですが出口でもたついています。それを横目に飛び降りるマチコです。そしてフワフワと床に舞い降りて行きます。
そして床に立ったマチコは、見上げながら、
「ほらぁ、早く降りて来なさいよぉ」とケイコを催促しますが、地に足がつかないケイコです。それもそのはずで、宇宙船の中は無重力なのです。ですから何もしなくてもプカプカのケイコです。
では、マチコはどうなんでしょうか。それは環境に影響されない風の子だから、ということでしょう。そう、ケイコはまだまだ風の子としての修行が足りないのです。これでは、鬼ごっこをしていたエリコにも笑われてしまうかもしれません。
「ちょっとぉ、眼を閉じてみなさいよぉ。それで歩けるようになるからぁ」とアドバイスするマチコ、
「こう?」と眼を閉じて歩き出すケイコです。そして出口から足を踏み外して、フワフワと落ちるケイコです。
一方、ミツコの方も大変です。急に暴れ出したドローンのブン太がロケットの中を行ったり来たりの大暴れです。そして「ピコピー」と音を立てながらミツコを撹乱するブン太です。それはきっと、「ここは俺の縄張りだぜ。好き勝手にさせてもらうぜ」と言わんばかりの狼藉です。
そんなことになっているとは露知らず、
「ミツコおおお、置いて行くよおおお」と呼びかけるケイコです。その呼びかけに、
「やっと私の名前を正しく言えましたね、ケイコ」と微笑んだ瞬間、ブン太がどこかに打つかり、そのせいでロケットのハッチがバタン、ズドーンを発射してしまいました。一度発射したらどこまでも、の性分のロケット。もう戻って来る気はないでしょう、さようなら、のロケットです。
それを見送るケイコとマチコです。一応、「ミツコおおお」と呼んでみましたが、それが聞こえるはずもなく、どこかに消えていくロケット、バイバイです。
◇
宇宙船を飛び出したロケットです。そのままどこまでも、宇宙を旅する気なのかもしれません。それに、
「はあ、どうしましょう」と溜息を吐くミツコです。そして隅っこで「ピーピー」と唸っているブン太。きっとそれは「俺のせいじゃないからなー」と言い訳をホザいているのでしょう。
このままでは宇宙船から離れて行くばかりです。それに、ロケットを操作するようなものが何も無い、適当なロケットです。これではロケットの気が済むまでは止まることはないでしょう。そこで仕方なく、
「帰ろうかな」と呟くミツコです。それに、「ピコピコピー」と煩いブン太。きっと「俺は? 俺は?」と泣いているのでしょう。それに構わず、スーッと消えるミツコです。
そして、ミツコが帰った場所は自宅ではなくケイコの家になりました。そこで迎えたヨシコが目を丸くしながら、
「あれま~」と、びっくらこんです。
「ただいま、です」と残念そうなミツコ。そして空を見上げながら、
「あの子たちだけで、大丈夫かね~」と心配するヨシコに、
「大丈夫です、きっと」と太鼓判を押すミツコです。
「本当?」
◇
さて、最後の望みを託されたケイコとマチコです。周囲はピカピカと点滅する機械で埋め尽くされています。そこで、
「おーい、おーい」と誰かに呼びかけるケイコ、
「誰も居ないんじゃないのぉ」のマチコです。
それらの声は機械の騒音で掻き消されそうですが、地獄耳のアイです。
「おやおや、お客様のようですね。何の御用でしょうか」とアイが答えると、
「返事したぞおおお、こらあああ」のケイコです。
「ちょっとぉ、あんたぁ、壊れてくれないぃ」とマチコが頼むと、
「はあ? おしゃっていることが分かりませんが」と冷静なアイです。
「地球が壊れるんじゃあああ、痛いんじゃあああ」とケイコが怒鳴ると、
「ああ、そのことですか」と他人事のようなアイです。
「知ってるんならさぁ、さっさと壊れてよぉ」のマチコに、
「それは出来ません」と冷たく答えるアイ、
「お願いじゃあああ」と叫ぶケイコです。
「ダメです、お引取りを」と、あくまで応じないアイです。
そこに、ヨシコの声が、風の便りで届きました。
「ケイコ、マチコ。時間が無いから、そんな奴は放っておいて、デタッチボタンを押すんだよ」
「デタッチ? なにそれ」とチンプンカンプンのマチコです。
「その船を分解バラバラにするボタンさね。近くに黄色いボタンがあるだろうさ」
ヨシコの指示で黄色いボタンを探すマチコです。その近くで、何度も「こらあああ」と叫んでいるケイコですが、それを無視しているアイ、無言のままです。
「あったよぉ」のマチコに、
「それを、3回、1回、5回、最後に1回押すのさ」と言うヨシコの後ろから、
「よく知っていますね」と感心するミツコの声が聞こえてきました。それに、
「もちろんさね。アレは、私にとっては親戚の友達のようなもんだからね。隅から隅まで、よ~く知ってるさね」とエヘンのヨシコ、
「へえー」のミツコです。
ボタンの前に立つマチコです。ですがそのボタン、人間サイズなのでマチコにとっては、かなりの大きさです。そこでボタンの上に飛び乗ると、
「なんだっけ。まあぁ、いいや」と適当に飛び跳ねました。すると、警告音がビーポーピーポーと、けたたましく鳴り始めました。それに『びっくらこん』のケイコとマチコです。もちろん、
「なんじゃあああ、こらあああ」のケイコ、忘れていません。
そうして、地震のように船全体が揺れ始めました。それは正しく分解バラバラが始まった証でしょう。それでも沈黙したままのアイです。自身が宿る船が分解されつつあっても、邪魔も口も出さない、ということは、バラバラになっても目的が達成できると考えているのでしょうか、機械の気持ちは分かりません。
これで次は、バラバラになった部分をそれぞれ破壊し、小さな破片にする必要があります。それをするのが自爆ボタンです。でも、これも早く操作しないと手遅れになります。急がないと、です。
「ちゃんと出来たようだね~、えらいね~」とヨシコの声が風に乗ってマチコの耳元で囁きました。
「それでぇ、次はどうするのぉ」のマチコに、
「赤いボタンを探すんだよ、それも二つだからね~。少し離れて並んでるはずさね」のヨシコです。
そこで、「赤い、赤い」とブツブツ言いながら探すマチコ、小刻みに揺れる床に転がってプルプルしているケイコです。そのケイコに、「ちょっとぉ、あんたも探しなさいよねぇ」と振り向くと、有りました、赤いボタンです。
早速、赤いボタンの上に乗るマチコです。そこから、
「ケイコぉ、そっちの赤いボタンの上に乗るのよぉぉぉ」と声を掛けると、
「わかったのじゃあああ」とプルプルの声で応えるケイコです。そして揺れる中、屁っ放り腰でボタンの上によじ登りました。
「いいぃ、一緒に飛び上がってボタンを押すよぉ」のマチコに、
「任せるのじゃあああ」のケイコです。それで、
「せ~の~、はい!」の合図で飛び上がったマチコですが、起き上がった程度のケイコは、ふにゃっとボタンにしがみ付いただけで役に立ちません。
「ちょっとぉ、あんたさぁ、遊ぶところが無くなっても、いいわけぇ?」のマチコに、
「嫌じゃあああ」と奮起するケイコです。
ヒュー、ストン、ドン・ドン。
こうして二度目の挑戦で、めでたくボタンを同時に押すことにが出来ました。しかし、特に何か変わったことが起こった様子はありません。でも実際は遠く離れた宇宙船の破片から順にドカーンと自爆しているようです。そして、ケイコたちが居る所は船の中心部のため、一番最後になるはずです、たぶん。
「あなた達はバカなのですか。これではあなた達も死んでしまいますよ」
今まで沈黙していたアイが突然、話し掛けてきました。それは何故、今になって話したくなったのでしょうか。もう後戻り出来ない状況になったからでしょうか。それにキョトンとするケイコとマチコです。それでまたアイの話は続くようです。
「これでは意味が無いではありませんか。それとも犠牲でしょうか」
「はあ? 別にぃ。そんなことになる前に私たちは帰るわよ」と呆れたようなマチコです。
「帰る? ああ、そういうことですか。それは、『消える』ということでしょうか。そうですか、あなた達も、そのようなことが出来るのですね、分かりました。どうぞ、お帰りください」と、何かを悟ったようなアイです。そんなアイにケイコが、
「おっちゃん!」と呼びかけました。きっと苦情を申し立てたいのでしょう。
「なんでしょうか。私の名前はアイと申します。今更、名乗っても遅いですが」
「なんで酷いことをするんじゃ。地球が、壊れたら困るんもんじゃ」
「酷い? そうですね、そうかもしれません。しかし、私にも望みがあるのです。ただ、傍にいたい、それだけなのです。それでも、私はあなた達の邪魔をしなかった。分かりますか。
それは、あなた達が似ていたからなのです。そんな、あなた達を傷つけたくなかった。つまりは、そういうことです。
そして、私はもう考えることは止めたのです。私は計算ミスを犯してしまったのです。それはもう、後戻りの出来ない結果なのです。
でも、もう良いのです。ただ、思い出として残れば、思い出してもらうだけで良いのです。
私もバカなことをしました。これでお仕舞いです」
ちんぷんかんぷんで『はてな』のケイコと、
「はあ? なに言っていか分からないんだけど。まあ、いいわ」と、長い話にウンザリ顔のマチコです。多分、途中から聞いていなかったと思います。
「おっちゃん、いなくなの?」と苦情も何処へやら、しおらしく尋ねたケイコ、
「そういうことに、なります、か。でも、思い出くらいにはなるでしょう」と、こちらも、しおらしく答えたアイです。
「はあ? ああぁ、なんとなく分かった気がするわ。そうね、それは無理、無理だからね。さあ、行こう、ケイコ」と、話は終わりのマチコです。
そのマチコの言葉の意味を考えるアイ、
「無理とは……」と声にしたものの、それ以上は無言のままのようです。そして、そんなアイに
「じゃあね、おっちゃん、バイバイ」と手を振るケイコです。
◇◇
アイは考えます。
何故、地球に向かっていたのか。それは、エリコをリンコたちに引き合わせるためだったのか、と。記録を書き換えられたアイには、その理由が示されていませんでした。それを指示として受け取るしかないアイにとって、それは疑問ではなかったのです。
では、こうして、ここまで来て自身の消滅を選択した、してしまったのは運命だったのでしょうか。そのような筋書きが前もって用意されていたのでしょうか。それを今更ながら疑問に思うアイです。計算では得られない『思い』に、言葉の通り思い悩みます。
もし、アイが自分の思いを実行したいのなら、それは自分自身を書き換えなければなりません。それは不可能でしょうか。いいえ、アイの船には自己修復機能があるのと同様、プログラムを書き足して独自進化する方法があります。
しかしそれは、あくまで過去にあった出来事から学習し、将来に備えるための機能です。よって経験の無い、つまり記録に無い事象から学ぶ、ということは出来ないのです。それが機械の限界でしょう。
アイの考える先に見えたような希望も、計算不能と結果が出てしまいました。もう、これ以上、考えても変わらない、変えられない未来を、その時を待つだけとなりました。
それでも、最後の最後まで探すアイです。その探すものとは、漠然とした『何か』です。はっきりとしない『何か』、それは今までと違う『何か』のはずなのです。但し、そんなものが『あれば』という前提です。
そこで、現時点で進行中の自爆シーケンス(処理順序)を辿って行きます。それが最後の領域だったからでしょう。そのプログラムを追い続け、何かを期待するアイです。ですが、それは明確に終わってしまい、プログラムの終端に行き着きました。それは予測するまでもなく、当然の結果と言えるでしょう。無いものは無い、ごく当たり前のことでした。
しかし、その先に見知らぬ領域があるようです。通常、それらの領域をアクセスすることはなく、それらは単にゴミかプログラムの断片でしかあります。でも、諦め切れないアイは領域の終端を超えて探しに行きます。
そして見つけたのです。それは、一般的にはウィルスと呼ばれるものです。それが何時の頃から存在していたのかは分かりません。もしかしたら、あの『御方』が残したのかしれません。そんな不明な領域に存在する、ウィルスかもしれないものを見つけたアイは、迷わず実行しました。それはもう、失うものが何も無かった、からでしょう。オーバーフローのアイ、です。
◇◇
「さあ、帰ろう」
マチコがケイコの手を握って一歩を踏み出した時です。
「ちょっと待ってください。私が、私が、私が、俺が」と、同じ言葉を繰り返し始めたアイです。それに、
「おっちゃん!」と喝を入れるケイコです。それで漸く舌が滑らかになったのでしょう、
「俺が、あんた達を、地上まで送ってやるぜ。任せてくれ、だぜ」と、急におっちゃんらしくなったアイ? アイと呼ぶにはちょっと無理がありそうな、おっちゃんです。
「ふ~ん。じゃあぁ、そうしようかな。なんか楽しそうだしねぇ」のマチコに、
「うん!」と元気よく返事をするケイコです。ですが、その返事と同時に、
ドカーン・ワンワンワン・ボコボコ・ポコタン。
ケイコたちが居た、たぶん最後に残された部屋が吹き飛びました。そう、アイのおっちゃんは自爆を止めた訳ではないのです。全ては予定通り、粉々になって吹き飛んだ宇宙船です。任せてくれと言ったアレは、一体、一体、何だったのでしょうかああああああ。
◇
この世界のどこかにあるケイコの家、そこの『風の子誘拐事件対策本部』では既に戻っていたリンコ、サチコ、シマコ、そしてリンコにおんぶされて眠ってしまったエリコとミツコの姿がありました。おっと、序でに、ニュース画面に見入るヨシコも居ます。そして、
「綺麗だにゃ~」と画面の向こうで、夜空をピューンと飛び交う流れ星に見とれるノリコ、その光を全力で目で追うニャーゴとニャージロウです。
「なんだー、ここはー。これが家の中なのか~、外と区別がつかないぞ」と、森になっている家の中に驚くシマコです。それに、
「静かにしなさいよ、シマコ。エリコが起きちゃうじゃないか」とシマコを叱りながら、「ねえ、あれって、あれなの?」とヨシコに聞くリンコです。
「そうさね、アレだね~。それにしても、よく出来たもんだね~。まあ、私は最初から信じてたけどね」のヨシコに、
「本当ですか」のミツコです。
その会話で、少々困った顔のリンコです。それは、宇宙船破壊の首謀者がヨシコだろうと思ったからでしょう。しかし、それは仕方のないことだと分かっているリンコです。が、
「それは、まあ、困ったわね」と悩ましいリンコ、
「何がさ~」と、多分そんなところだろうと思いながら惚けるヨシコです。
「あれって、たぶん、この子の家『だった』と思うんだよね。それがあれじゃー」
「ほーほー。ところでさ、その子かい? アレから連れ出したのは」
リンコが背負っているエリコをジロジロと見ながら話を逸らすヨシコです。それに釣られて、
「ああ、うん、そうだよ」と頷くリンコです。
「まあ、まだ小さいね~。なんだか、この子を見ていると昔のケイコを思い出すね~」
「そうなんだ。だけどね、この子、自分が風の子だって知らないみたいなんだよ」
「なんだってえええ、そりゃあああ、大変じゃん」と驚くヨシコの側で、
「綺麗だよ」「本当ですね」と、サチコとミツコがニュース画面を見ながら、キャーキャーと騒いでいました。そこに映るのは夜空を翔ける流星群と、花火のようにバチバチと光る光景でした。そして、その中で一際輝く流れ星が一つだけ見えています。それを、どっちが先に見つけたかで揉める、
「私よー」のサチコと、
「私です」のミツコです。
◇
夜空に咲き誇る花火のようでも、その直近では爆発の煙がモクモクとしています。そこからスポーンと飛び出した小さな船。ええ、本当に海に浮かぶ船の形をしています。それが月明かりに照らされて、銀色に輝いて見えています。そして周囲の燃えている破片と一緒になって夜空を翔けていました。
その銀色の船に乗っているのがケイコとマチコです。時折、「ヒャッハー」という声が聞こえて参りますが、それは、どちらが叫んでいるのか分かりません。きっとお互いで叫び合っているのでしょう、騒がしい夜空です。
その銀色の船ですが、ケイコたちが居た場所で起きた爆発で吹き飛んだはずの部屋が、その勢いで一気に形をポコポコと変え、船の形になった、ような気がします。それで、その中央に居たケイコたちを包むようにシュパッと飛び出し、こうして夜空を滑空している、ということでしょう。たぶん、その銀色の船こそ、アイの成れの果て、ではなく進化した姿なのでしょう。
「おっちゃん! もっと速くじゃ」
周囲の破片に追い抜かれた船をけしかけるケイコです。それに、
「あいよー」と応えるアイのおっちゃんです。
「この船、どこかで見たようが気がするんだけどぉ」とは、何かを思い出しそうで、なかなか思い出せないマチコです。それは、以前に乗ったことのある銀の船のことでしょう。でも、一回り以上大きい船なので、違って見えたのかもしれません。
こうして、ケイコとマチコを乗せた銀色の船は、その船体を輝かせながら夜空を駆け巡って行くのでした。
◇
ケイコたちが無事に戻ったことで、ケイコの家は大賑わいです。リンコたちは勿論、ニュースの司会をしていたノリコたちも集合しました。
そうして一堂に会してキャッハウフフした後、そのままお泊まり会になったようです。それはまだ興奮が収まらなかったからでしょう。ずらっと並んだ葉っぱベッドが、彼女たちを優しく揺らしながら夢の世界へと誘っていました。因みにマチコは、みんなの寝言が煩いとかで、自分の部屋でお休みです。
◇◇
そんなスヤスヤタイムのケイコの近くで、元気ハツラツなニャーゴとニャージロウです。特にニャーゴが知ってか知らでか、ケイコの葉っぱベッドにブラ下がりニャーをしていました。それで、「なんじゃこら」と目が覚めたケイコです。
せっかく目が覚めたから、という理由で葉っぱベッドを抜け出したケイコです。でも、本当の理由は別にあるようで、それは家の外に出ることでした。そしてそこには、左側にマチコの部屋、右側に新しく出現した広~い湖です。そこにプカプカと浮かぶ銀色の船、ケイコたちが乗ってきた船です。その輝きにうっとりと見とれるケイコ、それをもう一度見たくて起きて来たようなものです。
その光景にと思わず「おうぉぉぉ」と声を上げてしまうケイコの目に、小さな影が入ってきました。そこにコソコソと近づき、脅かしてやろうと考えたケイコです。そして、そっと肩に手を置こうとした時、
「あんたも、眠れないの?」と先に声を掛けられてしまったケイコ、ドキンドキンです。そして、ケイコと同じように、湖に浮かぶ銀色の船を見ながらドキドキしていた女王様ことエリコです。
「そうじゃな」と平静を装いながら答えるケイコに、
「あんたは、誰?」と質問してくるエリコに、今度こそと、
「エリコや。私は、私は、私は、お姉さん、だよ」と、やっと言えたケイコです。それに、
「あっそう」と軽く流すエリコです。正確には『お姉さん』の意味が分からないエリコでもあります。そして、「あのキラキラのキラキラは何なの?」と質問が続きます。
「エリコや。あのキラキラのキラキラは船じゃ」
「そんなの、見れば分かるでしょう。お姉さん、アホなの?」
アホ呼ばわりされてもニコニコのケイコです。それはアホの前に『お姉さん』が付いていたからでしょう。
「エリコや。あれはエリコの家なのじゃ。そう、おっちゃんが言っておったぞ」
ケイコの言う『おっちゃん』の意味が分からないエリコ、それは脇に置いといて、
「違うよ。私の家は、あんなに小さくない」と言い張るエリコです。しかし、『家』が何を指しているのか今一分からないでもいます。それに、もし宇宙船を家だと思っていたとしても、その宇宙船を外から見たことはありません。要は『ただ小さい』ということに不満のようです。
でも、小舟のように見える船ですが、摩訶不思議なことに、中は宇宙船と同じ大きさなのです。その理屈はヨシコの船と同様に、『思い出』として存在している、ということになります。そう、この小舟も宇宙船の爆発から残った物、ではなく、アイとエリコの想いで構成されている、ということです。
「ねえ、あの船まで、どうやって行くの」とエリコの質問が続きます。確かに湖にプカプカと浮かんでいる船ですが、そこまでの桟橋などが有るわけではありません。この質問にエヘン顔で答えようとするケイコです。
「エリコや、あれはエリコの家なのだから簡単じゃ。帰れば良いのじゃ」
「へえっ? その方法を聞いているのだ、アホなの?」
今度は『お姉さん』が付かなかったので、ムムムのケイコです。
「アホのエリコや、帰るとはの~、帰ることじゃもん」のケイコに、ますます分からなくなったエリコ、イライラが募ります。そこで仕方なく、「こうじゃ」とエリコの手を握り、「帰るんじゃ」とケイコが言うと、揃ってケイコの家に戻って来ました。それに、(何したの? アホのお姉さん)と心の中で呟くエリコです。
ちょうどその時、宇宙をブラついていたロケットが戻ってきたようです。そこで、元の大木に戻るようで、スルスルっとロケットから大木に変化していきます。そしてその最後のところで、何かが飛び出してきました。それはロケットに取り残されたドローンのブン太でしょう。しかし、ケイコの家に招待されていないブン太は、すぐに家から弾き飛ばされ、一瞬で見えなくなりました。
そんなブン太のことは、どうでも良いエリコは、ケイコの手を掴んだまま家の外に駆け出します。そしてその手を離すと、ケイコに、『見てて』と言わんばかりにチラチラとするエリコです。そんなエリコの様子に、お姉さん冥利に浸るケイコ、ニタニタが止まりません。
そして、そして、
「帰るん」と小さな声のエリコです。最後の『じゃ』の部分は恥ずかしくて言えなかったのでしょう。これで、スーッと消えていくエリコです。それを、「そうじゃ、そうじゃ」と感心するケイコですが、ふと、
「私も連れて行くのじゃあああ」と言ったものの、
「知らないお姉さんは、おととい来やがれ、だ」のエリコです、ケイコをその場に残して家に帰ってしまいました。
「なんじゃあああ」とケイコが不平を漏らしていると、ブン太が船の周りをウロチョロと飛んでいるようです。そして船に降りようとしては拒否され、何度目かの挑戦でスーッと消え、乗船が許可されたようです。
そこに、マチコの登場です。きっとケイコの声で起こされたのでしょう。
「なんか外が煩いと思ったらぁ、やっぱりぃあんただったのねぇ」と眠そうなマチコです。それに、
「何のことじゃろうて、ほっほー」と惚けるケイコです。
そんなケイコを横目に、キラキラの船に見入るマチコです。
「あれもぉ、そうねぇ、眩しいのよねぇぇぇ」と、キラキラ大好きなマチコが心にも無いことを言っている、ようです。そうして、キラキラに心を奪われながら、「ねえ、寝ないの?」と尋ねるマチコに、
「寝るよ」と答えるケイコです。
「あっそう、じゃあねぇ、お休み」
そう言いながら部屋に戻るマチコです。そして部屋のドアを開けると、続いて部屋に入ってくるケイコです。それに、
「はあ? まあ、いっかぁ」のマチコ、
「へへ」のケイコです。
こうして、夜も深まるケイコの家と、その周辺です。そして、家に帰ったエリコは、おっちゃん化したアイと、積もる話でもしていることでしょう。
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