5 / 37
#10 世界に吹く風(追跡編)
#10.1 憂える風
しおりを挟む
えー、ここは迷子救出本部になります。この本部の目的は、世界のどこかで泣いている迷子を助けだすことにあります。そして、そのために特別に設置された組織なのです。
では早速、その活動を覗いてみましょう。まずは迷子さんの紹介です。
友達を迎えに行ったまま行方不明となり、現在は世界のどこかを彷徨っていると推測される、自称「ケイコ」さんです。その「ケイコ」さんは右も左も西も東も分からないアホの子です。もし見かけた方がいらっしゃいましたら迷子救出本部までご連絡ください。友達のマチコさんが心配していますよ、では。
◇
「ヨシコぉ、今、あの子のはどこにいるのよぉ」
迷子救出本部であるケイコの家で、捜索方針を練るマチコと相談役のヨシコです。そこでマチコが『わざわざ』ケイコを探している訳とは。
その前に、風の子の便利な機能を説明しておきましょう。実はケイコに限らず、風の子は『家に帰る』と思うだけで、どこに居ようとも家に帰ることが出来るのです、便利ですね。因みに『家』というのは、殆どが寝るだけの場所となっています。
では逆に家から外に出る時は、『何時もの場所』から外に出るか、『家に帰る』と思った場所に戻ることが出来ます。どちらを選ぶかは本人次第です。
ということで、陽が暮れるのを待てば、それぞれの家に帰って来ますので、どこに居ようとも会うことは出来るのです。それが今回の件では、外出後、一度も家に戻っていない、ということになります。
そう云えばケイコは夜に移動し、風に乗りながら寝込んでいました。よって、家に帰る、という行為をしていないので、家が空っぽのままということになります。しかし、そんな事情など知る由もないマチコです。
因みに、マチコが留守にしていた三日間、夜はスヤスヤと葉っぱベッドで眠ていたケイコですが、同時にマチコも自分の部屋で寝ていたのです。もしケイコが夜な夜な起きてマチコの部屋を覗くことがあったなら、そこにマチコの姿を確認できたことでしょう。
さて、話は戻って、マチコの問いに答えるヨシコです。
「そうくると思ってたさ。なんだかんだ言って、心配なんだね~あの子のことがさ~」
ヨシコの返答に難しい顔をするマチコです。そして、
「別にぃ、そういう訳じゃないわよぉ。私はねぇ、気が短いだけよ。どうせどっかで遊んでるだけなんだからぁ、全くぅ」と目を逸らしてしまいます。そんなマチコに、
「はいはい」と答えながら、何やら大きな紙を丸めたものを持ち出し、その端を掴むように催促するヨシコです。
「なによ、これぇ」とマチコが広げていくと、小さな黒板くらいの大きさになったでしょうか。
「地図さね」と、どこかエヘン顔のヨシコです。
「地図?」
「そう、今ケイコがいる場所が分かる便利な地図だよ」
「そうは言ってもねぇ、見えないわよぉ」
地図の端を持っているため見えにくいマチコです。それに何時も暗いケイコの家では尚更です。月明かりだけでボンヤリとしか見えません。
「注文の多い子だね~。じゃあ、手を離してもいいよ」と言っているヨシコは既に手を離していました。それを見たマチコは、
「もうぉ」と手を離しましたが、大きな地図は下に落ちることなく、プカプカと浮かんでいるのでした。しかしまだ暗くて、よく見えないマチコです。地図にグッと顔を近づけましたが、何が何だか、「ヨシコぉぉぉ」です。
「贅沢だね~。ほれ」
ヨシコが手を上げて指パッチンをすると、あら不思議。今まで夜だった景色が一転、昼間のように明るくなりました。これに、
「もうぉ、最初っからそうすればいいのにぃ」とホッとしたマチコに、また指パッチンで夜に戻してしまうヨシコです。「なんでよぉぉぉ」です。
「まあまあ、そう慌てなさんなって。ほれ、見てみれ」と地図を指差すヨシコです。それにウンザリするマチコが地図を見ると——あら不思議。地図の模様が輝き出し、ある一転が赤く点滅していました。そこがケイコの現在位置です。
「はあ? 何でこんなところに居るのよぉ」
マチコが不思議がるのも無理はありません。赤い点滅がマチコたちが居るところから、ずっと東の方にあったからです。それは則ち、逆の方向に移動していることを意味します。何故ならマチコが里帰りした都会は西の方にあるのです。
「さあ、どうしてでしょうね~。ちゃんと、西って教えたのにね~」
そうボヤくヨシコに、「だからよぉ。あの子に西だ東って言っても分かるわけないわよぉ」と嘆くマチコです。
「まあまあ、そこまでアホじゃないでしょう。ほれ、見てみなよ~」とヨシコが地図を指差すと、移動した軌跡が表示されました。「ほれ、最初はちゃんと西に向かってるじゃん」と、漁港から真っ直ぐ線が延びているのを指でなぞっていきます。そして、どんどん指を動かしていくと、急に反転、ドーンと東に向かって真っしぐらです。思はず「あれれ」と声が漏れてしまいました。そして「とにかく、今はここにいるのよー」と指で線を追ってくのを止めてしまったヨシコです。
「そうよねぇ。途中はどうあれ、今から行って追いつくかしら」と悩むマチコに、
「待ってれば、そのうち一周して戻ってくるよ。それに……」と何かを思いついたようなヨシコです。
「それに? で、なによぉ」
「ほら、ここが変なんだよえ。夜の間だけ異様に移動スピードが速いのよねー」
地図上では風で移動したのと、そうでないものとの見分けがつくようになっている、とても優れた地図のようです。
「それって、どういうこと?」
「たぶんだけど、おそらく、とっても速い風に乗ってるはずなんよ。てーことは、あれだね。早く地球を一周させようって魂胆なのかも、しれないねー」
「それって、誰の?」
「誰って、さあ、誰だろうね~」と知らない風で知っていそうなヨシコです。
「まあぁ、いいわ。とにかく、行ってくるわぁ」
「ちょい待ち」
「まだ、なんかあるのぉ?」
マチコを引き止めたヨシコは、分厚い本のような時刻表を取り出し、ページを素早く捲っていきます。そうして見つけたのは『追い風』です。その箇所を指差しながらマチコに見せています。
「これに乗って行くといいよ」
「はあ? まあ、いっかぁ」
こうして、マチコを迎えに行って迷子になったケイコを迎えに行くことになったマチコです。
◇
では早速、その活動を覗いてみましょう。まずは迷子さんの紹介です。
友達を迎えに行ったまま行方不明となり、現在は世界のどこかを彷徨っていると推測される、自称「ケイコ」さんです。その「ケイコ」さんは右も左も西も東も分からないアホの子です。もし見かけた方がいらっしゃいましたら迷子救出本部までご連絡ください。友達のマチコさんが心配していますよ、では。
◇
「ヨシコぉ、今、あの子のはどこにいるのよぉ」
迷子救出本部であるケイコの家で、捜索方針を練るマチコと相談役のヨシコです。そこでマチコが『わざわざ』ケイコを探している訳とは。
その前に、風の子の便利な機能を説明しておきましょう。実はケイコに限らず、風の子は『家に帰る』と思うだけで、どこに居ようとも家に帰ることが出来るのです、便利ですね。因みに『家』というのは、殆どが寝るだけの場所となっています。
では逆に家から外に出る時は、『何時もの場所』から外に出るか、『家に帰る』と思った場所に戻ることが出来ます。どちらを選ぶかは本人次第です。
ということで、陽が暮れるのを待てば、それぞれの家に帰って来ますので、どこに居ようとも会うことは出来るのです。それが今回の件では、外出後、一度も家に戻っていない、ということになります。
そう云えばケイコは夜に移動し、風に乗りながら寝込んでいました。よって、家に帰る、という行為をしていないので、家が空っぽのままということになります。しかし、そんな事情など知る由もないマチコです。
因みに、マチコが留守にしていた三日間、夜はスヤスヤと葉っぱベッドで眠ていたケイコですが、同時にマチコも自分の部屋で寝ていたのです。もしケイコが夜な夜な起きてマチコの部屋を覗くことがあったなら、そこにマチコの姿を確認できたことでしょう。
さて、話は戻って、マチコの問いに答えるヨシコです。
「そうくると思ってたさ。なんだかんだ言って、心配なんだね~あの子のことがさ~」
ヨシコの返答に難しい顔をするマチコです。そして、
「別にぃ、そういう訳じゃないわよぉ。私はねぇ、気が短いだけよ。どうせどっかで遊んでるだけなんだからぁ、全くぅ」と目を逸らしてしまいます。そんなマチコに、
「はいはい」と答えながら、何やら大きな紙を丸めたものを持ち出し、その端を掴むように催促するヨシコです。
「なによ、これぇ」とマチコが広げていくと、小さな黒板くらいの大きさになったでしょうか。
「地図さね」と、どこかエヘン顔のヨシコです。
「地図?」
「そう、今ケイコがいる場所が分かる便利な地図だよ」
「そうは言ってもねぇ、見えないわよぉ」
地図の端を持っているため見えにくいマチコです。それに何時も暗いケイコの家では尚更です。月明かりだけでボンヤリとしか見えません。
「注文の多い子だね~。じゃあ、手を離してもいいよ」と言っているヨシコは既に手を離していました。それを見たマチコは、
「もうぉ」と手を離しましたが、大きな地図は下に落ちることなく、プカプカと浮かんでいるのでした。しかしまだ暗くて、よく見えないマチコです。地図にグッと顔を近づけましたが、何が何だか、「ヨシコぉぉぉ」です。
「贅沢だね~。ほれ」
ヨシコが手を上げて指パッチンをすると、あら不思議。今まで夜だった景色が一転、昼間のように明るくなりました。これに、
「もうぉ、最初っからそうすればいいのにぃ」とホッとしたマチコに、また指パッチンで夜に戻してしまうヨシコです。「なんでよぉぉぉ」です。
「まあまあ、そう慌てなさんなって。ほれ、見てみれ」と地図を指差すヨシコです。それにウンザリするマチコが地図を見ると——あら不思議。地図の模様が輝き出し、ある一転が赤く点滅していました。そこがケイコの現在位置です。
「はあ? 何でこんなところに居るのよぉ」
マチコが不思議がるのも無理はありません。赤い点滅がマチコたちが居るところから、ずっと東の方にあったからです。それは則ち、逆の方向に移動していることを意味します。何故ならマチコが里帰りした都会は西の方にあるのです。
「さあ、どうしてでしょうね~。ちゃんと、西って教えたのにね~」
そうボヤくヨシコに、「だからよぉ。あの子に西だ東って言っても分かるわけないわよぉ」と嘆くマチコです。
「まあまあ、そこまでアホじゃないでしょう。ほれ、見てみなよ~」とヨシコが地図を指差すと、移動した軌跡が表示されました。「ほれ、最初はちゃんと西に向かってるじゃん」と、漁港から真っ直ぐ線が延びているのを指でなぞっていきます。そして、どんどん指を動かしていくと、急に反転、ドーンと東に向かって真っしぐらです。思はず「あれれ」と声が漏れてしまいました。そして「とにかく、今はここにいるのよー」と指で線を追ってくのを止めてしまったヨシコです。
「そうよねぇ。途中はどうあれ、今から行って追いつくかしら」と悩むマチコに、
「待ってれば、そのうち一周して戻ってくるよ。それに……」と何かを思いついたようなヨシコです。
「それに? で、なによぉ」
「ほら、ここが変なんだよえ。夜の間だけ異様に移動スピードが速いのよねー」
地図上では風で移動したのと、そうでないものとの見分けがつくようになっている、とても優れた地図のようです。
「それって、どういうこと?」
「たぶんだけど、おそらく、とっても速い風に乗ってるはずなんよ。てーことは、あれだね。早く地球を一周させようって魂胆なのかも、しれないねー」
「それって、誰の?」
「誰って、さあ、誰だろうね~」と知らない風で知っていそうなヨシコです。
「まあぁ、いいわ。とにかく、行ってくるわぁ」
「ちょい待ち」
「まだ、なんかあるのぉ?」
マチコを引き止めたヨシコは、分厚い本のような時刻表を取り出し、ページを素早く捲っていきます。そうして見つけたのは『追い風』です。その箇所を指差しながらマチコに見せています。
「これに乗って行くといいよ」
「はあ? まあ、いっかぁ」
こうして、マチコを迎えに行って迷子になったケイコを迎えに行くことになったマチコです。
◇
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔女は小鳥を慈しむ
石河 翠
児童書・童話
母親に「あなたのことが大好きだよ」と言ってもらいたい少女は、森の魔女を訪ねます。
本当の気持ちを知るために、魔法をかけて欲しいと願ったからです。
当たり前の普通の幸せが欲しかったのなら、魔法なんて使うべきではなかったのに。
こちらの作品は、小説家になろうとエブリスタにも投稿しております。

蒸気都市『碧霞傀儡技師高等学園』潜入調査報告書
yolu
児童書・童話
【スチパン×スパイ】
彼女の物語は、いつも“絶望”から始まる──
今年16歳となるコードネーム・梟(きょう)は、蒸気国家・倭国が設立した秘匿組織・朧月会からの任務により、蒸気国家・倭国の最上級高校である、碧霞(あおがすみ)蒸気技巧高等学園の1年生として潜入する。
しかし、彼女が得意とする話術を用いれば容易に任務などクリアできるが、一つの出来事から声を失った梟は、どう任務をクリアしていくのか──
──絶望すら武器にする、彼女の物語をご覧ください。
キコのおつかい
紅粉 藍
児童書・童話
絵本風のやさしい文体で、主人公の女の子・キコのおつかいが描かれています。冬支度のために木の実をとってくるようにお母さんに言いつけられたキコ。初めてのひとりでのおつかいはきちんとできるのでしょうか?秋という季節特有の寒さと温かさと彩りを感じながら、キコといっしょにドキドキしたりほんわかしたりしてみてください。

ようこそ、ミステリーツアーへ
田中 慈
児童書・童話
とある豪邸のポストに1枚のチラシが入っていた。
それは奇妙な旅行店からのツアー広告であった。
その広告を手にした豪邸の主である蔵持は興味本位でツアーに参加することにした。
旅にまつわる魔訶不思議なお話。
猫神学園 ~おちこぼれだって猫神様になれる~
景綱
児童書・童話
「お母さん、どこへ行っちゃったの」
ひとりぼっちになってしまった子猫の心寧(ここね)。
そんなときに出会った黒白猫のムムタ。そして、猫神様の園音。
この出会いがきっかけで猫神様になろうと決意する。
心寧は猫神様になるため、猫神学園に入学することに。
そこで出会った先生と生徒たち。
一年いわし組担任・マネキ先生。
生徒は、サバトラ猫の心寧、黒猫のノワール、サビ猫のミヤビ、ロシアンブルーのムサシ、ブチ猫のマル、ラグドールのルナ、キジトラのコマチ、キジ白のサクラ、サバ白のワサビ、茶白のココの十人。
(猫だから十匹というべきだけどここは、十人ということで)
はたしてダメダメな心寧は猫神様になることができるのか。
(挿絵もあります!!)

化石の鳴き声
崎田毅駿
児童書・童話
小学四年生の純子は、転校して来てまだ間がない。友達たくさんできる前に夏休みに突入し、少し退屈気味。登校日に久しぶりに会えた友達と遊んだあと、帰る途中、クラスの男子数人が何か夢中になっているのを見掛け、気になった。好奇心に負けて覗いてみると、彼らは化石を探しているという。前から化石に興味のあった純子は、男子達と一緒に探すようになる。長い夏休みの楽しみができた、と思ったら、いつの間にか事件に巻き込まれることに!?
輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル
ひろみ透夏
児童書・童話
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★
巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか?
死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。
終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。
壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。
相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。
軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる