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#9 約束した場所
#9.2 小さな世界
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車を走らせ、港を後にする俺達である。そして今度こそ間違いなく北上するのである。今はもう一人ではないので大丈夫だろう。そのことに、特に根拠がある訳ではないが、心のゆとり、とでも言うのだろうか。俺の心は真っ直ぐに北を目指しているはずである。今は左後方に見えている光の柱が左前方に見えてきたら正解だ。
「リンダ、ジョンは先に帰ってしまったよ」
「あら、そう」
と素っ気ないリンダである、のような雰囲気である。リンダの次にジョンとも出会えるだろうか。いいや、そんな予感も無ければ約束もしていない。俺達の運命の糸はプッツンと切れたままである。ああ見えて結構ジョンは薄情な奴である。誰かに攫われたか異次元ポケットにでも落ちたにせよ、別れの挨拶なしに突然居なくなる奴だ。もし俺であれば、そう、俺であれば、やはり同じこと、かな。
「俺達は北に向かう。今度は途中下車は無しだ。いいな、リンダ」
行き先と注意事項を伝達する俺である、が、リンダはもう目を閉じている。それはお休みなのか、それとも充電中なのか。どちらでも良いが、独り言は恥ずかしいではないか。しかし起きていたところで反応の薄いリンダである。なら、起きていても大差ないと言えなくもないだろう。
◇◇
殆ど、ゴーストタウンならぬ無人の国になりつつあるようだが、一日で北上するには無理がある。しかし外は熱風吹き荒れる灼熱地獄だ。立ち止まればどうなるか予想も出来ないが、さりとてこのまま北上しても状況が好転するとも思えない。さて、どうしたものかと考えても良い案は浮かんではこないので、このまま行けるところまで行くしかないという結論だ。
道の状況は、ガラガラのスキスキである。よくある廃墟のように乗り捨てられた車やゴミなどが散乱しているわけではない。ただそれらが無いだけの、余りにもスッキリした状態である。それでは、ここで暮らしていた人達はどこに行ってしまったのであろうか。宇宙人が根こそぎ連れ去ったと誰かが言えば納得してしまいそうな雰囲気だ。
宇宙人説が浮かんだことで、この異常な状況や馬鹿でかい光の柱等々を考慮すると、宇宙人襲撃説が思い浮かぶ。現状は既に人智を超えた不思議で不可解なことばかりだ。これは光の柱という大きな囲いで三つの国を閉じ込め、あらゆる生命を略奪している。その後はどうするのかは知らないが、まさしく宇宙戦争が勃発したと言えるだろうし、そう考えるのが妥当な気がする。
更に三ヶ国同士が戦争を始めたように見せ掛けて、その実、宇宙人が裏で暗躍していたのかもしれない。そしてジョンは帰還命令によって突然、姿を消した。つまりジョンは宇宙人であるという説である。そのジョンが俺に近づいてきたのは、俺を人類代表として観察するためだったのかしれない。勿論、俺は人類代表として恥ずかしくない振る舞いをしてきたはずだ。ならば人類と宇宙人は友好関係を結んでもおかしくはないだろう。人類を代表して俺が保証しよう。
ジョン=宇宙人説とすると、リンダが消えたのはどう説明するのか。それは簡単である。宇宙人がリンダを拉致した後、人ではないことが判明したので解放した。そうであれば俺の説は完璧である。多分、間違えて拉致した宇宙人は、何がしらの処罰を受けたことであろう。ミスは全宇宙で共通した理念である。
俺が人類の代表であれば、隣でグースカのリンダはアンドロイドの代表であろうか。しかし、これでは俺もお付き合いで寝てしまいたくなるものであろる。そこでテレビかラジオのボタンを操作してみるが、俺の期待に反して何も映らず何も聞こえない、ただのジージーザーザーである。ナビは相変わらず真っさらな海を航海し、あたかも、ここが道だよと言わんばかりの態度だ。
その不貞腐れた態度を考えれば、ナビは壊れているのか、それとも衛星の電波を掴めないのか分かりそうだ。可能性でいえば後者であろう。例の柱は天井も封鎖しているに違いない。テレビ・ラジオが機能しなのも同じ理由と思われる。序でに外の高温も奴のせいだろう。これでは鳥籠と言うより水槽に蓋をされたような状態、若くは温室状態だ。
「なあ、リンダ。俺が寝ないように歌でも歌ってくれないか」
呆れてしまって言葉もないリンダ、のように無言の無表情である。そのリアクションは呆れるほど受けてきた俺である。そのぐらいで諦める俺ではない。
「あ~、歌います。ラーララ、なんとか、ほーほほ、うっふん」
美声である。誰かに聞かれたら恥ずかしくて死にそうだ。その原因は歌にある。別に歌でなくても効果音でも良いはずである。
「あ~、ドンドコトコトコ、スーハラ、ボヨヨーン、キッ」
我ながら何かの音とそっくりである。聞き分けが出来ない程だ。そこで車を自動運転に切り替え、手拍子とステップと加える。
「アイヤー、ほらほら、どすこいのヤー、あらあらホー、イエイ!」
どうだ、リンダ。お前もやってみるか? 意外と楽しいぞ、ほら。
「……」
何故かリンダが目を覚ましている。そして俺を不思議そうに見ている、気がするが。更に「今のはなに? 壊れた、の?」と言いたげな表情に変わったようにも見える。
自動運転を解除しハンドルを握りしめ、真っ直ぐに前を向いて安全運転を心がける俺である。
◇◇
道をどんどん進んで行くと、いつの間にか坂道を登っていることになっていたようだ。余りにも緩やかな坂のため、気がついてみれば結構な高さまで登っていたことが、遠くの景色で分かる程である。
景色といえば時間はまだお昼頃だというのに、何やら薄暗くなってきたようである。空は相変わらず一面雲で覆われているが、雨が降る前兆なのかもしれない。時間的に昼食といきたいが、外の暑さを思うと先延ばしにしたいものだ。
いや、思わず良からぬ事を考えてしまった。それはリンダに料理してもらうというものだ。調理には最低限、お湯を沸かさなければならないので、車内で行う事は出来ない。そこでリンダの登場なのだが、この暑い外で、それも火を扱わせるのは気がひける。多分、大汗をかくことだろう。いや、汗はかかないだろうが、髪に引火でもしたら大事である。
あれこれと悩んでいると、あっという間に暗くなってしまった外界である。早すぎる夜に、もしやと窓を開けると、シメシメである。お日様がどうなったかは知らないが、一気に温度が下がり、活動可能となったようである。
思えば登山経験のおかげで自炊には困らなくなったが、そもそも何処かで食事をしようという発想が抜けていたようだ。どの道それは人がいなくなった街では不可能ではあるが、思い付かなかったこと自体が問題である。発想は柔軟に。それはこの先、もっと必要になってくる気がしてならない。
平らな空き地に車を停めると、2人とも登山用ヘッドライトを装着しての出陣である。俺自身はともかく、この暗闇でリンダが行方不明になられては困るからだ。そのリンダにはテーブルの用意を、俺は調理の準備に取り掛かる。これから昼食ではあるが真っ暗なので、そんな気がしない。食べたらそのまま寝てしまいそうな予感である。
東の方角は早速、遠くだが人工的な灯りがチラつき始めたようだ。どこかで誰かが懸命に生きているのだろう。俺の方はフリーズドライの達人にでもなったようだ。直ぐに出来上がるので気の短い俺には適しているといえよう。
テーブルの上にランタンを置くが、これも今時のLEDである。そして調理したものもテーブルに置いて椅子に座る。リンダも一緒に座れれば良いのだが、支えられる程、頑丈な椅子ではない。仕方ないが立たせたままにしている。
一口、二口と食べるが昨夜よりも味わいがあるような気がする。それは多分、一人ではないからだろう。やはり食卓には人数が多い方が良いようだ。但し、食べているのは俺だけだが。
「リンダ、たまには食べてみるか」
「口に合いませんので遠慮しておきます、ね」
とリンダが言ったような気がしたが、それよりも俺を見るリンダのヘッドライトが眩しい。負けじと俺もリンダに顔を向け、照り返したのは言うまでもない。それを見て笑い出してしまう俺である。勿論、リンダは表情を変えないが、その口元は緩んでいる、ようにも見えた。
久しぶりに笑った俺は、何かしら気が楽になった気分である。目を細め大口を開け、何がそんなにおかしいのか不思議だが、心地よい気分であることには違いない。できれば順調に物事が進み、解決すれば御の字だ。
その笑いが静まった頃、少し異変に気が付いた俺である。もう何が起きても怖くはないぞと言いたいが、予測を超える出来事には無防備だ。何かがおかしいと思っても、その何かが分からない。そこで周囲を見渡しても闇が広がっているばかりである。そう、闇が。
「リンダ、頭のライトを消してくれ」
テーブルのランタンも消し、自分のライトも消した。これで真っ暗闇になったのだが、それで体を回転させると。
東の街の灯りが消えている。誰かが電気料金の支払いをケチったのか。そんな冗談を言ってみても何かが分かることはない。ただ、街の灯りが消えたことで、本当の暗闇が世界を支配し始めたということだろう。それも宙に浮かんで見えた光の柱も見えなくなっている。それは雲か何かが邪魔をしているのか。とにもかくにも、俺達が持つ小さな光以外、世界から光が失われたことには間違いはなさそうだ。
気がつけば周囲の音も、何も聞こえてはこない。本当に世界はこのまま終わってしまい、二度と明るくはならないのではないか。そう思わずにはいられないが、俺は今、一人ではない、ないはずだ。
「リンダ、ライトを点けてくれ」
少しの間をおいてリンダのヘッドライトが点灯した。それを見て安心している自分が、酷く小心者であることを教えてくれたようだ。リンダがライトを点けなければ、そこに居ないことになる。それはこの暗闇以上に恐ろしいことだったろう。
リンダの点けた明かりを頼りにテーブルのランタンを点けると、それで照らされる俺達である。それはそれは小さな世界ではあるが、確かに存在している証でもある。例えこの世界に俺達だけになろうとも、何とかなりそうな、そんな根拠のない自信がどこかに残っている、そんな気がするのは、やはり気のせいだろうか。
昼とも夜ともつかない世界。それを囲むように聳えていた光の柱が消えたのは、もう俺達を囲む必要が無くなったからなのか、それとも本気で暗闇に閉じ込めておきたくなったのか。光らなくなった柱は道標にもならないと、あれを設置した者に苦情でも言いたいぐらいである。
アレコレと考え込んでいると不安そうな顔で俺を見るリンダ、のように見えるが、そのリンダが付けているライトもいずれ電池が切れてしまうことだろう。それが訪れるのは数日か数時間後か。そして車が故障してしまえば、かなりアウトのような気がする。
そう、そんな気がするばかりで未来の事は何も分からない。しかし何にもしなければ確実に訪れるであろう未来は分かる。結局、行動あるのみ、突き進むしかないという選択しか余地がなさそうだ。
「リンダ、なんかこう、目からビームとか出ないのか」
それが出来れば何かの役に立ちそうである。得体の知れない獣や、ゾンビに襲われそうになった時とか。それとも何かの下敷きになって、その上の物を粉砕できるとか。そんな便利機能の一つや二つ、装備していてもおかしくなないだろう。最低限、俺なら隠し機能程度には準備するはずである。
「はあ? 頭、大丈夫なの?」
と言い返すリンダである、のような気がする。更に「目からビームが出たら今頃、天下を取ってるわ、よ」と言いたげだ。だが、そのビームで夜空を突き刺すように照らしたら、それはそれで格好良いかもしれない。頼んでも無駄だろうか。
◇◇
「リンダ、ジョンは先に帰ってしまったよ」
「あら、そう」
と素っ気ないリンダである、のような雰囲気である。リンダの次にジョンとも出会えるだろうか。いいや、そんな予感も無ければ約束もしていない。俺達の運命の糸はプッツンと切れたままである。ああ見えて結構ジョンは薄情な奴である。誰かに攫われたか異次元ポケットにでも落ちたにせよ、別れの挨拶なしに突然居なくなる奴だ。もし俺であれば、そう、俺であれば、やはり同じこと、かな。
「俺達は北に向かう。今度は途中下車は無しだ。いいな、リンダ」
行き先と注意事項を伝達する俺である、が、リンダはもう目を閉じている。それはお休みなのか、それとも充電中なのか。どちらでも良いが、独り言は恥ずかしいではないか。しかし起きていたところで反応の薄いリンダである。なら、起きていても大差ないと言えなくもないだろう。
◇◇
殆ど、ゴーストタウンならぬ無人の国になりつつあるようだが、一日で北上するには無理がある。しかし外は熱風吹き荒れる灼熱地獄だ。立ち止まればどうなるか予想も出来ないが、さりとてこのまま北上しても状況が好転するとも思えない。さて、どうしたものかと考えても良い案は浮かんではこないので、このまま行けるところまで行くしかないという結論だ。
道の状況は、ガラガラのスキスキである。よくある廃墟のように乗り捨てられた車やゴミなどが散乱しているわけではない。ただそれらが無いだけの、余りにもスッキリした状態である。それでは、ここで暮らしていた人達はどこに行ってしまったのであろうか。宇宙人が根こそぎ連れ去ったと誰かが言えば納得してしまいそうな雰囲気だ。
宇宙人説が浮かんだことで、この異常な状況や馬鹿でかい光の柱等々を考慮すると、宇宙人襲撃説が思い浮かぶ。現状は既に人智を超えた不思議で不可解なことばかりだ。これは光の柱という大きな囲いで三つの国を閉じ込め、あらゆる生命を略奪している。その後はどうするのかは知らないが、まさしく宇宙戦争が勃発したと言えるだろうし、そう考えるのが妥当な気がする。
更に三ヶ国同士が戦争を始めたように見せ掛けて、その実、宇宙人が裏で暗躍していたのかもしれない。そしてジョンは帰還命令によって突然、姿を消した。つまりジョンは宇宙人であるという説である。そのジョンが俺に近づいてきたのは、俺を人類代表として観察するためだったのかしれない。勿論、俺は人類代表として恥ずかしくない振る舞いをしてきたはずだ。ならば人類と宇宙人は友好関係を結んでもおかしくはないだろう。人類を代表して俺が保証しよう。
ジョン=宇宙人説とすると、リンダが消えたのはどう説明するのか。それは簡単である。宇宙人がリンダを拉致した後、人ではないことが判明したので解放した。そうであれば俺の説は完璧である。多分、間違えて拉致した宇宙人は、何がしらの処罰を受けたことであろう。ミスは全宇宙で共通した理念である。
俺が人類の代表であれば、隣でグースカのリンダはアンドロイドの代表であろうか。しかし、これでは俺もお付き合いで寝てしまいたくなるものであろる。そこでテレビかラジオのボタンを操作してみるが、俺の期待に反して何も映らず何も聞こえない、ただのジージーザーザーである。ナビは相変わらず真っさらな海を航海し、あたかも、ここが道だよと言わんばかりの態度だ。
その不貞腐れた態度を考えれば、ナビは壊れているのか、それとも衛星の電波を掴めないのか分かりそうだ。可能性でいえば後者であろう。例の柱は天井も封鎖しているに違いない。テレビ・ラジオが機能しなのも同じ理由と思われる。序でに外の高温も奴のせいだろう。これでは鳥籠と言うより水槽に蓋をされたような状態、若くは温室状態だ。
「なあ、リンダ。俺が寝ないように歌でも歌ってくれないか」
呆れてしまって言葉もないリンダ、のように無言の無表情である。そのリアクションは呆れるほど受けてきた俺である。そのぐらいで諦める俺ではない。
「あ~、歌います。ラーララ、なんとか、ほーほほ、うっふん」
美声である。誰かに聞かれたら恥ずかしくて死にそうだ。その原因は歌にある。別に歌でなくても効果音でも良いはずである。
「あ~、ドンドコトコトコ、スーハラ、ボヨヨーン、キッ」
我ながら何かの音とそっくりである。聞き分けが出来ない程だ。そこで車を自動運転に切り替え、手拍子とステップと加える。
「アイヤー、ほらほら、どすこいのヤー、あらあらホー、イエイ!」
どうだ、リンダ。お前もやってみるか? 意外と楽しいぞ、ほら。
「……」
何故かリンダが目を覚ましている。そして俺を不思議そうに見ている、気がするが。更に「今のはなに? 壊れた、の?」と言いたげな表情に変わったようにも見える。
自動運転を解除しハンドルを握りしめ、真っ直ぐに前を向いて安全運転を心がける俺である。
◇◇
道をどんどん進んで行くと、いつの間にか坂道を登っていることになっていたようだ。余りにも緩やかな坂のため、気がついてみれば結構な高さまで登っていたことが、遠くの景色で分かる程である。
景色といえば時間はまだお昼頃だというのに、何やら薄暗くなってきたようである。空は相変わらず一面雲で覆われているが、雨が降る前兆なのかもしれない。時間的に昼食といきたいが、外の暑さを思うと先延ばしにしたいものだ。
いや、思わず良からぬ事を考えてしまった。それはリンダに料理してもらうというものだ。調理には最低限、お湯を沸かさなければならないので、車内で行う事は出来ない。そこでリンダの登場なのだが、この暑い外で、それも火を扱わせるのは気がひける。多分、大汗をかくことだろう。いや、汗はかかないだろうが、髪に引火でもしたら大事である。
あれこれと悩んでいると、あっという間に暗くなってしまった外界である。早すぎる夜に、もしやと窓を開けると、シメシメである。お日様がどうなったかは知らないが、一気に温度が下がり、活動可能となったようである。
思えば登山経験のおかげで自炊には困らなくなったが、そもそも何処かで食事をしようという発想が抜けていたようだ。どの道それは人がいなくなった街では不可能ではあるが、思い付かなかったこと自体が問題である。発想は柔軟に。それはこの先、もっと必要になってくる気がしてならない。
平らな空き地に車を停めると、2人とも登山用ヘッドライトを装着しての出陣である。俺自身はともかく、この暗闇でリンダが行方不明になられては困るからだ。そのリンダにはテーブルの用意を、俺は調理の準備に取り掛かる。これから昼食ではあるが真っ暗なので、そんな気がしない。食べたらそのまま寝てしまいそうな予感である。
東の方角は早速、遠くだが人工的な灯りがチラつき始めたようだ。どこかで誰かが懸命に生きているのだろう。俺の方はフリーズドライの達人にでもなったようだ。直ぐに出来上がるので気の短い俺には適しているといえよう。
テーブルの上にランタンを置くが、これも今時のLEDである。そして調理したものもテーブルに置いて椅子に座る。リンダも一緒に座れれば良いのだが、支えられる程、頑丈な椅子ではない。仕方ないが立たせたままにしている。
一口、二口と食べるが昨夜よりも味わいがあるような気がする。それは多分、一人ではないからだろう。やはり食卓には人数が多い方が良いようだ。但し、食べているのは俺だけだが。
「リンダ、たまには食べてみるか」
「口に合いませんので遠慮しておきます、ね」
とリンダが言ったような気がしたが、それよりも俺を見るリンダのヘッドライトが眩しい。負けじと俺もリンダに顔を向け、照り返したのは言うまでもない。それを見て笑い出してしまう俺である。勿論、リンダは表情を変えないが、その口元は緩んでいる、ようにも見えた。
久しぶりに笑った俺は、何かしら気が楽になった気分である。目を細め大口を開け、何がそんなにおかしいのか不思議だが、心地よい気分であることには違いない。できれば順調に物事が進み、解決すれば御の字だ。
その笑いが静まった頃、少し異変に気が付いた俺である。もう何が起きても怖くはないぞと言いたいが、予測を超える出来事には無防備だ。何かがおかしいと思っても、その何かが分からない。そこで周囲を見渡しても闇が広がっているばかりである。そう、闇が。
「リンダ、頭のライトを消してくれ」
テーブルのランタンも消し、自分のライトも消した。これで真っ暗闇になったのだが、それで体を回転させると。
東の街の灯りが消えている。誰かが電気料金の支払いをケチったのか。そんな冗談を言ってみても何かが分かることはない。ただ、街の灯りが消えたことで、本当の暗闇が世界を支配し始めたということだろう。それも宙に浮かんで見えた光の柱も見えなくなっている。それは雲か何かが邪魔をしているのか。とにもかくにも、俺達が持つ小さな光以外、世界から光が失われたことには間違いはなさそうだ。
気がつけば周囲の音も、何も聞こえてはこない。本当に世界はこのまま終わってしまい、二度と明るくはならないのではないか。そう思わずにはいられないが、俺は今、一人ではない、ないはずだ。
「リンダ、ライトを点けてくれ」
少しの間をおいてリンダのヘッドライトが点灯した。それを見て安心している自分が、酷く小心者であることを教えてくれたようだ。リンダがライトを点けなければ、そこに居ないことになる。それはこの暗闇以上に恐ろしいことだったろう。
リンダの点けた明かりを頼りにテーブルのランタンを点けると、それで照らされる俺達である。それはそれは小さな世界ではあるが、確かに存在している証でもある。例えこの世界に俺達だけになろうとも、何とかなりそうな、そんな根拠のない自信がどこかに残っている、そんな気がするのは、やはり気のせいだろうか。
昼とも夜ともつかない世界。それを囲むように聳えていた光の柱が消えたのは、もう俺達を囲む必要が無くなったからなのか、それとも本気で暗闇に閉じ込めておきたくなったのか。光らなくなった柱は道標にもならないと、あれを設置した者に苦情でも言いたいぐらいである。
アレコレと考え込んでいると不安そうな顔で俺を見るリンダ、のように見えるが、そのリンダが付けているライトもいずれ電池が切れてしまうことだろう。それが訪れるのは数日か数時間後か。そして車が故障してしまえば、かなりアウトのような気がする。
そう、そんな気がするばかりで未来の事は何も分からない。しかし何にもしなければ確実に訪れるであろう未来は分かる。結局、行動あるのみ、突き進むしかないという選択しか余地がなさそうだ。
「リンダ、なんかこう、目からビームとか出ないのか」
それが出来れば何かの役に立ちそうである。得体の知れない獣や、ゾンビに襲われそうになった時とか。それとも何かの下敷きになって、その上の物を粉砕できるとか。そんな便利機能の一つや二つ、装備していてもおかしくなないだろう。最低限、俺なら隠し機能程度には準備するはずである。
「はあ? 頭、大丈夫なの?」
と言い返すリンダである、のような気がする。更に「目からビームが出たら今頃、天下を取ってるわ、よ」と言いたげだ。だが、そのビームで夜空を突き刺すように照らしたら、それはそれで格好良いかもしれない。頼んでも無駄だろうか。
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