じーさんず & We are

Tro

文字の大きさ
上 下
43 / 44
#12 世界を救ったで章

#12.2 総力戦

しおりを挟む
 ルゴプス・アンフィスバエナ。
 それは【ドラゴンズ・ティアラ】のファンならば誰もが嫌悪する、作中最悪の悪役だ。

 このキャラクターはクズの中のクズと言って遜色ない。
 ネルヴァがまだかわいく見えるほどの、ありとあらゆる悪に手を染めて災厄をまき散らす、悪意と傲慢の結晶体そのものだ。

 ヤツはここアンフィス王国の第二王子、さらに魔法学院の生徒会長である立場を利用して、これから暴虐の限りを尽くすことになる。

 本来、関わるべき人物ではない。
 敵対関係となってしまう主人公に全てを任せてしまいたい、最悪の敵だ。

 しかしこのルゴプス王子は、俺とメメさんが愛するミシェーラ皇女を狙っている。
 ルゴプス王子の狙いは皇帝家への婿入りだ。

 自分が次の皇帝となって、世継ぎである兄を追い落とし、最終的に世界を我が物とする。そんな馬鹿げた夢のために、これから多くの者が犠牲になる。

 当然、主人公の座を横取りするならば、この最悪の悪役との敵対関係が必要となる。それが多くのイベントのトリガーとなる。
 とはいえ俺にはミシェーラ皇女との友好関係があるので、既に敵視されている可能性も高い。

 しかし念には念を入れて、主人公登場前に、ルプゴス王子との敵対イベントをこれから起こす。

 このイベントのトリガーとなるのは、クラスメイトであり攻略キャラであるコルリ・ルリハだ。
 ルプゴス王子は邪魔者であるコルリを生徒会から追放するために、彼女を卑劣な罠にかける。

 このイベントは主人公の転入前から既に始まっているはずだ。

 かくして4月13日。
 コルリの良くない噂を耳にした俺は、ライバル関係強奪のためにコルリに接触した。

「おまえー、なやみとかー、あんのー?」

「え……っ」

 とはいえあまり接点のないクラスメイトだ。
 男性恐怖症気味の彼女との接点を持つには、まおー様という『ぷにぷに』の緩衝材が必要不可欠だった。

 コルリは教室に独り残り、悲しそうに教室の黒板を見つめていた。

「ワレ、まおー。おまえのはなし、きかせろー?」

「まおーさん、ですか?」

「さまをつけろよー、でこすけやろー」

「わ、私っ、そんなにオデコちゃんじゃないです……っ」

 と言いながらも額を抱えられると、教頭ではないがまあ気になってしまう。
 てか頼むよ、まおー様、話が脱線してるってっ。

「なやみ、あんだろー? きいてやるよー」

「スライムさんにはわかりません……」

「ワレ、さわっていいからさー。さっさと、はなせ、めんどくせーなー」

 ぷにぷにのスライムに触っていいと言われたら、それは当然触る。
 コルリ・ルリハはまおー様のヘブンな触り心地に目を広げた。

「私、やってません……。お金なんて、盗んでません……」

「おうー、それ、つれーなー……」

 コルリ・ルリハのエピソードはそういう話だ。
 最初からぶっちゃけてしまうと、コルリは最悪のルプゴス王子に冤罪を着せられた。

「装備共同購入制度のお金を、私が盗んだとみんなが言うんです……」

「そっかー。でもなー、ワレにはなー、そうはみえねーなー」

「ありがとう、まおー様……」

「なんか、ムカつくなー。なんかー、やだなー、そういうのー」

 装備共同購入制度というのは、何かと高価な武器防具を学生が少しでも安く購入するための仕組みだ。
 共同購入者が集まるまで1~3ヶ月がかかるが、人さえ集まれば市場価格の7~9割ほどのお値段で武器防具が買える。

 この制度は購入前に代金を積み立てる。
 代金は金属製の【空色の小箱】に積められ、学校側が大切にこれを保管する。

「そのお金がね……消えてしまったの……。私は確かに先生に渡したはずなのに、保管中に箱の中から、お金が消えてしまったんですって……」

「えーー? ならおまえー、わるくないと、おもーけどなー?」

「箱を開けるには、パスワードが必要なの……。そのパスワードを知っているのは、業者の人か、私か、私に任せた生徒会長さんしかいないの……」

「へへへー、ワレ、はんにん、わかったー。はんにんは、せーとかいちょー、だな」

「そう、なのかしら……」

 普段、あれだけ温厚な少女コルリが人を疑う顔をした。
 だがまおー様の推理には穴がある。生徒会長ルプゴス王子にはアリバイがあった。コルリも同じことをまおー様に説明した。

「それ、うら、あんなー」

「裏、ですか……?」

「だってさー、べつにさー、せいとかいちょーが、じっこーはん? ならなくても、いいしなー?」

「あ、言われてみれば……そうですね……?」

「ぱすわーど? ほかのやつにさー、おしえれば、いいだろー? だったらアリバイなんて、いみねーし」

 まおー様、やるな。
 今回の事件、ぶっちゃけてしまうとその通りだ。

 今回の事件の実行犯は若い用務員の男だ。
 ルプゴス王子は普段から飼っていたこの男にパスワードを教え、金を盗ませた。
 生徒会から書記コルリを追い出し、もっと操りやすい腐った人間に交代させるために。

「私、どうすればいいんでしょうか……」

「へへへー、ワレが、たすけてやろーかー?」

「え、まおー様が……?」

「ワレ、こーみえてなー、つかえるこぶん、もってんだよなー」

「子分がいるんですかっ、そのお姿で!?」

「よぶかー? よんでやろーかー? あたま、まあまあいいし、つえーし、けっこー、つかえるぜー?」

「もう……なんでもいいです……。助けて下さるなら、もう誰でもいいです!! 助けて下さい、まおー様っ!!」

「だってよー、さっさとこいよなー、ヴァレリウスー」

「えっっ、ヴァレリウスくんっ?!」

 子分扱いがちょっとしゃくだが、なかなか面白い切り口だった。
 俺はのぞき見を止めて本校舎2階に壁をすり抜けると、コルリとまおー様のいる教室にノックをしてから踏み入った。

「待ったか、まおー親分」

「へっ、これ、よべばくるやつなー。なまえ、ヴァレリウス」

「調子に乗るな。……あー、ご紹介に与りました、ヴァレリウスだ」

 コルリさんは男性恐怖症だ。
 女の子同士なら無邪気に笑える女の子だが、男を前にするとてんでダメだ。
 そんないたいけな女性が恐怖にひきつった目で俺を見る。

 3回も攻略したのに、現実の好感度はゼロどころかマイナスだった……。

「よ……よろしく、お願いします……」

「話はまおー様から聞いた。その、テレパシー的な、何かで。……とにかく、まおー様の忠実な下僕である俺が、この事態を解決してみせよう」

 これは俺が主役になるより、まおー様を立てた方が話が早いな。
 俺が下僕と認めたことがそんなに嬉しいのか、まおー様は高々と跳ねて喜んでいた。

「うまくやれよー、めーたんてー。コルリのためにー、どれーとなって、はたらけよなー?」

 安心したようにコルリがまおー様に微笑んだ。
 コルリさんは冤罪を着せられ、いつ退学させられるかもわからない立場だ。
 その微笑みには黄金よりも高い価値があった。

「まおー様のお言葉のままに。では、俺は調査に向かいますので、明日あらためてご報告を」

「ほらねー、ワレの、ちゅーじつな、こぶんでしょー? ワレ、きょうはコルリとー、ねたいなー? だめかー?」

「い、いえっっ、ぜひご一緒して下さい! 部屋に独りだと、胸が、潰れてしまいそうで……」

「へっ、ワレがあたためてやんよー、べいべー」

 ディスプレイ越しに見ていた頃は、これは結局のところ介入の出来ない別世界の出来事だった。
 だがこうしてこの世界に立ち、実際に事案を目の当たりにすると無性に腹が立つ。

 生徒会を我が物にするために、なぜ真面目な女子生徒を退学まで追い込む必要があるのか。
 ルプゴス・アンフィスバエナ王子ってやつは相当にヤバい。コイツは人の破滅を楽しんでいる。

 俺は今日だけまおー様の下僕として、事件をスピード解決させるべく動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

恋する私の日常~彼との出会いから別れまで~

六角
恋愛
大学のサークルで出会ったカッコ良い男性に恋心を抱いた主人公。しかし彼には彼女がいて、諦めかけた時に彼から告白され、交際がスタート。しかし彼との関係が深まるにつれて、不安が募り、ついに彼との別れを決意する。それから数年後、偶然再会した彼からの言葉に、再び心を揺さぶられる主人公。彼との関係が再び始まる。

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

一年後に君はいない

柴野日向
ライト文芸
「僕、来年死ぬんだ」  同じ高校に入学した少年、結城佑は言った。 「私、時間を戻せるんだ」  南浜高校の二年生である茜瑞希はそう返した。  誰とでもすぐに仲良くなり、人懐こい佑は特に瑞希を好いていた。彼に辟易しながらも、瑞希は同じサークルで活動し、時には共に心霊スポットを巡り、神様のいる川を並んで眺めた。  佑の運命と瑞希の能力。その二つの深い関わりを、二人はまだ知らない。

新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん
ファンタジー
「実は余は魔王なのです」「はい?」「さあ我が騎士、共に救済の旅に出ましょう!」「今何つった?」 聖パラティヌス教国、未来の聖女と聖女を守る聖騎士を育成する施設、学院を卒業した新人聖騎士ニッコロは、新米聖女ミカエラに共に救済の旅に行こうと誘われる。その過程でかつて人類に絶望を与えた古の魔王に関わる聖地を巡礼しようとも提案された。 しかし、ミカエラは自分が魔王であることを打ち明ける。魔王である彼女が聖女となった目的は? 聖地を巡礼するのはどうしてか? 古の魔王はどのような在り方だったか? そして、聖地で彼らを待ち受ける出会いとは? 普通の聖騎士と聖女魔王の旅が今始まる――。 「さあ我が騎士、もっと余を褒めるのです!」「はいはい凄い凄い」「むー、せめて頭を撫でてください!」 ※小説家になろう様にて先行公開中

処理中です...