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#12 世界を救ったで章

#12.1 悪夢の始まり

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スヤスヤと眠っていると明け方近くに目を覚ましてしまいました。それは悪夢を見たせいでしょう。ですがどんな夢を見たのか覚えていません。それでベットから起きあがり部屋のカーテンを開けました。まだ夜明け前ですが、空がほんの少し明るいような気がします、静かな朝です。

ところで先程から強い力、思念といった方が良いでしょうか、それを感じるのです。それも南の方角からです。南といえば何があるでしょうか、南、南、南、ああ、思い出しました。マオです。すっかり記憶から抜け落ちていました。今頃はどうしているのでしょうか。そう思った時、突然、夢の記憶が蘇ってきました。それはやはり悪夢だったようです。その夢にはマオが出て来たのです。

そうですね、せっかく思い出しましたので、その悪夢のお話でもしましょうか。怖いですよ~。



南の島で星空を見上げるマオです。膝を抱え地面に座っています。

「今日も星が綺麗だな~、手が届きそうだよ」

まるで子供のようなマオです。こんな風になっているとは夢にも、いいえ、これは夢でした。マオの前に見知らぬ男が立っています。どこから湧いてきたのでしょうか。

「おいマオ、正気に戻れ」と男がマオに話し掛けています。
「だ~れ~、おじちゃんは」と子供のようなマオが男を見上げながら答えています。
「俺はマオ、お前だ」
「俺はお前~、分かんないよ」
「俺は俺に会いに来たんだ」
「俺に~」
「そうだ、俺にだ。全てを失くし漂うだけのお前に会いに来た」
「漂う~」
「そうだ、お前にはまだ力が残っているんだ、というより最初から持ってたんだよ」
「最初から~」
「そうだ、お前はまだ何も失くしちゃいないんだ。勘違いするな」
「勘違い~」
「そうだ、お前の力を見えせてみろ」
「ちから~、そんなの、そんなの、取られちゃったよ~」
「やっと思い出したか。いいか、取られてなんかいないんだ」
「うそだー、僕には力なんて無いんだよー」
「誰に取られたか思い出せ」
「誰って、ああ、ああ、あのバカ女が」

いくら夢とはいえ私をバカ呼ばわりするなんて、ムカッです。

「そうだ、そのバカ女が何て言った」
「取り上げるって」
「そうだ。だがな、そんなことが出来る訳が無いんだ、そうだろう」
「だって、だって、だってさー、取られちゃったんだよ」
「思い出せ、お前は何も取られたりなんかしてないんだ」
「そうかな~」
「そうだ、お前の物はお前の物だ。誰にも取ったり出来ないんだ」
「うっ、お前の物はお前の物、僕の物は?」
「お前の物だ、全部お前の物だ。誰にも奪えないんだ」
「僕の物」
「奪われたと思うんなら、奪え返せ。それがお前だ、全部、お前の物だ」
「あはは、俺の物は俺の物、全部、俺の物」
「そうだ、もっと言ったれ」

確かに「取り上げる」と私は言いました。でもそれは言っただけ、言葉の綾です。それを信じたマオです。せっかく大人しくなったマオをそそのかしているのは誰ですか? ほら、もうその気になったようですよ。

「何だよ、そうかよ、そうなのかよ、全部、俺の物だ。俺の物を誰が奪えるんだよ、バカか、バカ? バカ女、あのバカが俺を騙したのかよ、あのバカが」

「そうだ、あのバカだ」

マオの目つきが変わりました。今まで自分のことを『僕』と言っていたお爺さんから邪悪なジジイに変わった? 元に戻った瞬間です。その証拠に騒ぎ始めました。

「何だよ、何だよ、馬鹿野郎。ああ、この力、俺を騙しやがって、こんな目に合わせやっがって。なんて酷い悪魔なんだ。バカで間抜けでおたんこなすでブスでアホでコンチクショウじゃないか、なあ」

「そうだ、もっと言ったれ」
「復讐したる。うんでもって全部返してもらうだぞ、あんにゃろー」
「そうだ、もっと言ったれ」
「あーははは、あーははは、かかか、ききき。おいお前、飯食ったら行くぞ」
「おう、行こう、俺」
「そうだ、俺は俺だー」

悪夢はここで終わりです。何という夢だったのでしょう。一瞬でも可哀想と思った私が優し過ぎるのです、油断です、愚かです。さあ、また寝て良い夢を見て悪夢を上書きしてしまいましょう。



けたたましいサイレンの音で目を覚ました私です。急いで着替え対策本部に急行します。本部では既に全員が集合していました。一体、何が起こったのでしょうか。

「津波の発生です」

春子が地図を見ながら叫んでいます。海底地震があったのでしょうか。

「皆さん、落ち着いて。情報を整理しましょう。春子、お願いします」

夏子が皆んなを落ち着かせます。慌てても良いことはありませんからね。それよりも正確な情報です。

「津波の発生場所は南の島付近。津波の高さはおよそ20m、移動速度は時速……800km。こちらに真っ直ぐ向かっています」と春子が報告します。それに、

「「ええー」」と一同、びっくらこんです。

時速800kmといえばジェット機なみです、ビューンです、どえらいことです。

「津波の到達時刻は90分後、到達時に予想される波の高さは200mを超えそうです」と春子の報告が続くと、

「「ええー」」と一同再び、びっくらこんです。

「上階への非難を行っていますが、この高さですと難しいです」
「政府の返答、ありません」
「政府側は非難で大混乱しています」
「避難命令が全域で発令されています」

様々な情報が飛び交い、一気に緊張が高まります。そして誰かの、
「津波発生時の映像、入ります」でテレビに釘付けになる私達です。

大まかな画像からズンズン拡大していきます。そこに小さな点が二つ。更にズームアップしていくと、見えました。人です、波の上に浮かぶように立っています。一体、誰でしょうか。更にズームアップしていきます。見えました、マオ? です。マオらしき人物が波の先端で、腕組みをしながら進んでいます。そのバカ笑いが聞こえてきそうです。

もう一人、これもマオ? いいえ、ケンジです、マオとは体型が全然違います。ケンジもまた腕組みをして波の先端にいます。二人の距離は50m位は離れているでしょうか。世界を跨いで魔王が揃ってオイタをしています。

「私、行きます」

私は名乗りを上げました。魔王の狼藉には私が対処するのが筋というものです。

「私も、行きます」

秋子も名乗りを上げました。魔王の力を覚醒させた秋子がいれば鬼に金棒です。そこに夏子がやってきました。いいえ、止めても私は行きます、私が何とかしなければ、です。

「お願い、できるかしら」と言いながらも少し困った顔の夏子ですが、
「「はい」」とそれを打ち消すように答えた秋子と私です。

私達だけに頼るのは心苦しいのは分かっています。ですがここは私達に任せてください。

◇◇
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