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#9 出張はバカンスで章

#9.1 初めてのお使い

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むかしむかし、あるところに、ひとりの少女がいました。真面目で働き者の少女は気立ても良く周囲から褒められる大変良い子でした。おまけにその美貌に憧れる者が後を絶たず、それを断るのに小さな胸を痛めたと聞いています。

そんなある日、世間を騒がせる魔王に苦しむ民衆のため、その少女は立ち上がりました。そうして見事、魔王の野望を打ち砕いた少女は勇者と呼ばれるようになりました。それが私、今は栄子と呼ばれています。

日頃の実績を認められた私に、出張の依頼が舞い込んできました。面倒ですが頼まれたら嫌と言えない性格の私です。何やら昔お世話になった恩師から話を聞くだけの簡単な依頼でしたが、これはちょっとした旅行を兼ねた、私へのご褒美として快く引き受けたのです。

そうです、日々頑張る私にささやかな休息を取りなさい、という気遣いだということは直ぐに分かりました。今回はお供として次郎、以前、少年Bと呼ばれた青年を引き連れての旅となります。仕事の方は彼に任せて、私は十二分にこの出張を楽しみたいと思っています。

どんぶらこ・どんぶらこ、と船に乗って南の島に向かいます。船の名はスイート・ポテト号。乗船はこれで2度目となります。夜に出港して到着は明日の朝です。それまでは食事でもして、のんびりと行きましょう。

「次郎、あなた仕事頑張ってる? 私のように評価される人になりなさいよね」

お腹を空かした次郎のために食堂に来ています。テーブルを挟んで旧知の次郎に気遣います。早く私のようにエリート街道を突っ走って貰いたいものです。

「栄子、随分と変わったよね。弁当を買いに行かせれていたのが嘘のようだよ」と冗談を飛ばす舐めた次郎です。

「何時、誰がそんなことを言ったのよ。そんな酷いことを言ったり、思ったこともないわよ」と過去をどんなに振り返ってもシミ一つない私です。

「うん、そうだね、ごめん」
「まあ、いいから、食べましょう。一杯食べて私のように偉くなってね」
「そうするよ」

ガシャポン、キーキキ、ウエぇ、ペロリンコ、スー。

旅先での食事は、どうしてこうも美味しのでしょうか。それも経費で食べらるなんて、美味しさに拍車がかかるといものです。もう一回行こう。

ガシャポン、キーキキ、ウエぇ、ペロリンコ、ズー。

食後に次郎の携帯が鳴りました。それに大急ぎで席を離れて応答する次郎です。その慌てぶりからして、きっと相手は太郎でしょう。仲の良いことです。



翌朝、船が港に着きました。私は次郎を引き連れて、とある老人ホームに向かいます。そこに教授(巷ではシロちゃんと呼ばれている)がお世話になっているそうです。もう結構な歳ですからね。きっとそこで余生を送るのでしょう。

老人ホームの受付で入居者の教授を確認します。地元の人でしょうか、気の良いおばちゃん風です。

「入居者の白金泰造さんに面会したいのですが」とクールな私です。

「少しお待ちください」と私に憧れと羨望の眼差しを向ける、気の良いおばちゃんこと受付の人が名簿で教授を探しています。白金泰造は教授の本名です。生きているといいですね、折角来たのだから。ですが、「白金泰造さんは入居者では居ませんね」との返答です。

「そうですか」

居ないのなら仕方ありません。二、三日遊んでから帰りますか。さあ行こう、次郎。

「あの、入居者ではということは、他に居るのですか」

ああ、やだ。次郎が私のようになりたくて、無理して聞いています。居ないものは居ないのよ。さっさと帰りましょう。

「ええ、臨時雇いでその名前の方はいますが」と既に次郎の虜になってしまったような、気の良いおばちゃんです。

「背の高い、ちょっとエッチな人ですが」よくそんなことが真顔で言えるわね、の次郎。

「ああ、それなら間違いないわね、居るわよシロちゃんなら」と何だか嬉しそうに答える、気の良いおばちゃんに、(ええー、居るの? 今のは聞かなかったことにして帰ろうよ、次郎。あんたは次、頑張ればいいのよ)と助言を念じる私。

「仕事に差支えなければ呼んで貰えないでしょうか」と私の念を払い退ける次郎。

「いいですよ。仕事と言っても大して役に立ってないから何時でもどうぞ。それでは呼んでみますね」と気が良すぎるおばちゃん。

「お願いします」

うんもー、次郎ったら仕事作ってどうすんのよー。おバカなの? アホなの? これだから私のように出世できないのよー。

「業務連絡、シロちゃん、居たら受付まで来てください。面会ですよ」

早速、おばちゃんが館内放送でシロちゃんを呼んでいます。ああ、仕事、しなくちゃ、ですね。

ところがです、呼べど暮らせど一向にシロちゃんは現れる気配がありません。なんだ、居ない様です。居ないものは仕方、ないよね。シロちゃんが来ないので諦めたおばちゃん、ため息をしています。でも、でも。

「業務連絡、シロちゃん、女の子が会いに来てるわよー」と奥の手を行使するおばちゃんに、
「呼んだか~」と突然、シロちゃんが出現しました。なんだ、いたの。

「呼んだら直ぐに来て! こっちは暇じゃないんだからね」世話の焼けるジジイだよ全く、のおばちゃんに、
「なんだ、お主らか」と平常運転シロちゃんです。

出現したシロちゃんが私達を見た途端、逃げ出しました。それも、何度も転びそうになりながらです。逃げるのなら地の果てまで逃げてください。中途半端は嫌いです。
その逃げた先で何やら叫んでいるようです。

「わしを捕まえに来たのかー、この政府の犬がー」
「違いますよー、僕達は魔王国の者ですからー、安心してくださーい」

次郎が余計なことを言っています。だからー、さっきから言ってないけどー、逃げてんのに追いかけたりしないでよー、面倒じゃんかよー。

「魔王の使いで来たのかー」と老人の割には大声のシロちゃんに、
「そーでーす」と答える次郎。それに、

「なら許そう」と安心したシロちゃんが、またこっちに走ってきます。途中で○○しないかなー。

「シロちゃん、そっちの部屋、空いてるから使っていいわよ」

受付のおばちゃんが気を利かせてくれました。一応、ありがとうございます。

「魔王の使いで来たってかー」

今度はアッ君さんが叫びながら飛んできました。

「おい、お前ら。俺を迎えに来たんだろう。さっさと行こう、ここには飽き飽きしてたんだ、おい、行くぞ」

一人で外に出ようと歩いていくアッ君さんです。それを私達は見送っています。

「なんだ? 違うのか。明日か、ならそう言え」

がっかりしているアッ君さんに気を取られている隙に、シロちゃんが何時かの時のように、床に這いつくばって私をジロジロとエロい視線で注視しています。でも大丈夫。大学で散々経験していますので、その対策もバッチリです。肩から下げているシュルダーバッグをこう振り回し、最大加速でシロちゃんの頭に、当てます。序でに手を踏みつければベストな対応です。

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