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#6 私はこうして魔王になったで章 天職編
#6.3 桃組編入
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私達は長いテーブルの前に案内されました。そこには大量の封筒とチラシが。その周辺で諸先輩方が一糸不乱に封入作業をこなしています。
「組長、今日からあなたの組に編入する子達です」
「はい」
班長様はそう言い残して私達を置き去りにしていきました。その後ろ姿を目で追う私達に組長が優しく声をかけてきます。
「私は桃組の組長です。さあ、ボサっとしてないで、あなた達も仕事をしてください」
「あの」
私は勇気を出して名前のことを組長に相談してみました。間違ったまま覚えられてはこの先、支障があるかもしれませんから。
「何ですか良子さん、早く仕事をしてください。でなければ私が困るのです。さあ、早く」
「あの、その良子というのは私の名前ではないのですが」
「はあ? あなたは良子です。さあ、早く」
「え? でも」
「仕事をしないのですか? なら部屋から出て行ってください。その後はどうなっても知りませんよ」
「え、はあ、分かりました、やります」
仕方ありません。取り敢えず目の前の仕事を頑張るだけです。ただの作業ですけど。皆さん、黙々と作業を続けています。無駄口もなく、紙の擦れる音だけが唯一のBGMでした。
「痛っ」
隣の冬子さんが紙で指を切ってしまったようです。私は咄嗟に絆創膏を……それは取り上げられたバッグの中でした。せめて声でもと、冬子さんに声をかけます。
「冬子さん、大丈夫ですか、血が」
「大丈夫です、小さいですから。それと、私、冬子ではないです……」
「そこ! 口を閉じで手を動かして」
組長の注意が飛んできました。でも怪我をしては作業が滞ります。ここでも勇気を出して発言します。
「組長、この方が指を切ってしまったのですが」
「冬子さん」
組長は冬子さんに向かって少し怒ったようです。私は余計な事をしてしまったのでしょうか、組長が冬子さんの隣に立ちました。一体組長は何をするのでしょうか。まさか手を上げたり、しないですよね。
「冬子さん、手を見せなさい」
冬子さんの顔から血の気が引いていくのが分かります。その隣に座る私にまで、その絶望が伝わってくるのです。冬子さんは怪我をした右手を振るえながら組長に差し出しました。まさか、まさかですよね。
「この位、舐めておけば大丈夫です」
組長は冬子さんの怪我をした指のある手を、ご自分の口元に引き寄せると、その切り傷を舐め始めたではありませんか。これは冬子さんも、それを目撃した私達一同、ドン引き状態となりました。比喩的に言ったのではく、本当に舐めています。それも舌を出してペロペロです。どうやら私達は、とんでもない世界に迷い込んでしまったようです。
◇◇
お腹が空いて参りました。もう午後の1時を過ぎています。思えば午前中に面接してから直ぐの労働です。とても効率の良いやり方だとは思いますが、お腹が鳴って仕方がありません。
ちらほらと他所のテーブルの方々が黙って席を離れて行くのが視界の隅っこに見えてきます。あれはきっとお昼に行っているのでしょう。とういうことは組ごとにお昼、と推測しました。私達、桃組の順番は果たして回ってくるのでしょうか。お腹が鳴ります。
トントン。組長がテーブルを軽く叩きました。
「お前達に15分間の休憩を与える。新人の5人は私に付いて来て」
組長の、それは小さい声で休憩が宣言されました。皆さん静かに席を立って忍者のように部屋を出て行きます。時刻は午後4時を過ぎた頃です。お腹がグーです。
私達は組長に連れられ食堂に来ました。これでやっと遅い昼食にありつけます。しかし食券の購入に些か問題が。そう、お金を持っていないのです。
「食券は、あなた達のしている腕時計で購入することが出来ます。それを使いなさい」
支給された時計はスマートウォッチになっているようです。流石はお国一番の企業のことはあります。ですが今日初めて受け取った物です。チャージされていないはずです。それでは既にお金が振り込まれている、ということですね。何という気前の良い会社なのでしょうか。
食堂のメニューを見てまたまた驚きです。それは品揃え豊富なことではなく、その金額にありました。かけそば七千、カレーライス九千、カツ丼に至っては一万九千です。私の国と比べても10倍以上高価です。ですが初日ですので目を瞑りましょう。その分、お給料が高い、はずです。
ピィ。「え?」
食券販売機の先頭に並ぶ春子さんが変な声を上げました。それが順々に私のところまで伝達されてきました。何と注文した額がマイナスで時計に表示されたようです。どうやら残額はゼロだったようです。そこからのマイナス。それでも購入出来るだけ幸運なのかもしれません。とにかく今は空腹です。難しいことは後で考えましょう。私はカツ丼を選びました。
私達同志5人が食事を持ってテーブルにつきました。そういえばお水を用意していませんでした。一番端に座った私がお水を取りに行こうとすると遅れて組長が皆さんの分のお水を持って席に着きました。
「さあ、食べましょう、時間がありません。その水は私からのお祝いです。遠慮せずに飲んでください。それでは頂きましょう」
組長さんは意外と良い方と改めました。さあ、頂きましょう。
カシャホン、スースス、ウエシタ、ペロリンコ、です。
食事の最後に組長さんから一言ありました。
「あなた達新人は一日の借用限度額が二万までと決まっています。良子さん、あなたは夕食が食べられませんね。気をつけて下さい」
夕食のことまでは考えていませんでした。でも大丈夫です。ここでの夕食は無理でも外のコンビニで何か買えるでしょう。心配はありません。
食堂を後にする時、ふっと見てしまいました。お水コップ一杯、千とあります。ということは組長さんの出費は五千です。太っ腹な方です。
◇◇
「組長、今日からあなたの組に編入する子達です」
「はい」
班長様はそう言い残して私達を置き去りにしていきました。その後ろ姿を目で追う私達に組長が優しく声をかけてきます。
「私は桃組の組長です。さあ、ボサっとしてないで、あなた達も仕事をしてください」
「あの」
私は勇気を出して名前のことを組長に相談してみました。間違ったまま覚えられてはこの先、支障があるかもしれませんから。
「何ですか良子さん、早く仕事をしてください。でなければ私が困るのです。さあ、早く」
「あの、その良子というのは私の名前ではないのですが」
「はあ? あなたは良子です。さあ、早く」
「え? でも」
「仕事をしないのですか? なら部屋から出て行ってください。その後はどうなっても知りませんよ」
「え、はあ、分かりました、やります」
仕方ありません。取り敢えず目の前の仕事を頑張るだけです。ただの作業ですけど。皆さん、黙々と作業を続けています。無駄口もなく、紙の擦れる音だけが唯一のBGMでした。
「痛っ」
隣の冬子さんが紙で指を切ってしまったようです。私は咄嗟に絆創膏を……それは取り上げられたバッグの中でした。せめて声でもと、冬子さんに声をかけます。
「冬子さん、大丈夫ですか、血が」
「大丈夫です、小さいですから。それと、私、冬子ではないです……」
「そこ! 口を閉じで手を動かして」
組長の注意が飛んできました。でも怪我をしては作業が滞ります。ここでも勇気を出して発言します。
「組長、この方が指を切ってしまったのですが」
「冬子さん」
組長は冬子さんに向かって少し怒ったようです。私は余計な事をしてしまったのでしょうか、組長が冬子さんの隣に立ちました。一体組長は何をするのでしょうか。まさか手を上げたり、しないですよね。
「冬子さん、手を見せなさい」
冬子さんの顔から血の気が引いていくのが分かります。その隣に座る私にまで、その絶望が伝わってくるのです。冬子さんは怪我をした右手を振るえながら組長に差し出しました。まさか、まさかですよね。
「この位、舐めておけば大丈夫です」
組長は冬子さんの怪我をした指のある手を、ご自分の口元に引き寄せると、その切り傷を舐め始めたではありませんか。これは冬子さんも、それを目撃した私達一同、ドン引き状態となりました。比喩的に言ったのではく、本当に舐めています。それも舌を出してペロペロです。どうやら私達は、とんでもない世界に迷い込んでしまったようです。
◇◇
お腹が空いて参りました。もう午後の1時を過ぎています。思えば午前中に面接してから直ぐの労働です。とても効率の良いやり方だとは思いますが、お腹が鳴って仕方がありません。
ちらほらと他所のテーブルの方々が黙って席を離れて行くのが視界の隅っこに見えてきます。あれはきっとお昼に行っているのでしょう。とういうことは組ごとにお昼、と推測しました。私達、桃組の順番は果たして回ってくるのでしょうか。お腹が鳴ります。
トントン。組長がテーブルを軽く叩きました。
「お前達に15分間の休憩を与える。新人の5人は私に付いて来て」
組長の、それは小さい声で休憩が宣言されました。皆さん静かに席を立って忍者のように部屋を出て行きます。時刻は午後4時を過ぎた頃です。お腹がグーです。
私達は組長に連れられ食堂に来ました。これでやっと遅い昼食にありつけます。しかし食券の購入に些か問題が。そう、お金を持っていないのです。
「食券は、あなた達のしている腕時計で購入することが出来ます。それを使いなさい」
支給された時計はスマートウォッチになっているようです。流石はお国一番の企業のことはあります。ですが今日初めて受け取った物です。チャージされていないはずです。それでは既にお金が振り込まれている、ということですね。何という気前の良い会社なのでしょうか。
食堂のメニューを見てまたまた驚きです。それは品揃え豊富なことではなく、その金額にありました。かけそば七千、カレーライス九千、カツ丼に至っては一万九千です。私の国と比べても10倍以上高価です。ですが初日ですので目を瞑りましょう。その分、お給料が高い、はずです。
ピィ。「え?」
食券販売機の先頭に並ぶ春子さんが変な声を上げました。それが順々に私のところまで伝達されてきました。何と注文した額がマイナスで時計に表示されたようです。どうやら残額はゼロだったようです。そこからのマイナス。それでも購入出来るだけ幸運なのかもしれません。とにかく今は空腹です。難しいことは後で考えましょう。私はカツ丼を選びました。
私達同志5人が食事を持ってテーブルにつきました。そういえばお水を用意していませんでした。一番端に座った私がお水を取りに行こうとすると遅れて組長が皆さんの分のお水を持って席に着きました。
「さあ、食べましょう、時間がありません。その水は私からのお祝いです。遠慮せずに飲んでください。それでは頂きましょう」
組長さんは意外と良い方と改めました。さあ、頂きましょう。
カシャホン、スースス、ウエシタ、ペロリンコ、です。
食事の最後に組長さんから一言ありました。
「あなた達新人は一日の借用限度額が二万までと決まっています。良子さん、あなたは夕食が食べられませんね。気をつけて下さい」
夕食のことまでは考えていませんでした。でも大丈夫です。ここでの夕食は無理でも外のコンビニで何か買えるでしょう。心配はありません。
食堂を後にする時、ふっと見てしまいました。お水コップ一杯、千とあります。ということは組長さんの出費は五千です。太っ腹な方です。
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