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#2 魔導師で章

#2.2 誕生秘話

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楽しい昼食の時間になりました。何か人が増えたような。まあ、良いでしょう。食事は大勢の方がきっと楽しいでしょう。

大魔王を含めて敗者二人、計三人が食べ物にがっついています。どいつもこいつもロクなジジイではありません。そんなに食って、どこに吐き出すというのでしょうか。私の御前ですよ。

「なあ、アッ君。何時まで此処にいるつもりなんだい。俺はいいんだけどさ、その、アレがさ」
「そんな口の利き方をしていると、また吹き飛ばされるぞ」

大魔王とアッ君の会話に、当然のように「何の話だ」と、シロちゃんが割り込んできました。

「シロちゃんはさ、これ食ったら帰るだろう?」
「何を! この怪我で帰れというのか、この人でなしが」

どいつもこいつもジジイは大して怪我なんてしてませんよ。ちょっと数十メートル吹き飛んで壁にブチ当たっただけですから。そして跳ね返ってきたアッ君が、

「大魔王よ、何故そんなに俺達を帰したがるんだ? もっと持て成しても良かろう」と、さも当然な顔をしてのたまっております。それに大魔王が、

「何で俺がお前達を持て成さないといけないんだ? その訳を10文字以内で答えよ」と反発、それにアッ君が、

「何でそんな非情なことが言えるんだ? 5文字以内で答えよ」と反発すると、シロちゃんは呑気に、

「おい、お代わりはあるのか? 直ぐに答えよ」と平常運転です。

食卓をみんなで囲んでワイワイするのって、とっても素敵ですね。素敵すぎてイラついてきちゃいました。

「何だ? 地震か? テーブルが小刻みに揺れているぞ」

アッ君が何やら感づいたようですが、もう遅いのです。それでも何とかしようと大魔王は、

「アッ君、シロちゃん。皿を持って俺に続け!」と、急いで席を立ち上がりました。

あらあら、大魔王を先頭にぞろぞろと、どこに行くのでしょうか。全く、テーブルマナーがなっていませんわ、食事中に席を立つなんて。子供でもそんなこと、しませんことよ。でも、どうしてもとおっしゃるのなら笑顔で送って差し上げましょう、ニコリ。そして、お別れの挨拶をしなければなりませんね。

「ジジイども、一度死んで来い」

マナー違反の三人は懺悔し、その場を吹き飛んで行かれました。これで一つ、罪が浄化され、これで二度と同じ過ちは犯さないことでしょう。しかしまた、一人ぼっちの食卓になってしまいました。これは、再教育が必要ですね。まあ、生きて再会できれば、の話ですけど。



生死を彷徨っている大魔王は、その境界でシロちゃんとの出会いを思い出したようです。ちょっと覗いてみましょう。

「先生、まだですか?」

白衣を着たシロちゃんにスーツ姿の若い大魔王がヘイコラと頭を下げているようです。シロちゃんは昔から白い服装が好きだったんですね。ただ、シロちゃんは今と、さほど見た目が変わっていません。昔から老け顔だったのでしょうか。ところでここ、どこかの研究室のようです。

「納得がいかん。実験は失敗したようだ。すまんが出直して来てくれ」

何やら、いろんな機材を弄りながら白衣のシロちゃんが大魔王を足蹴にしています。それに食い下がる大魔王です。

「先生、困りますよ。納期はとっくに過ぎてるんですよ」
「しつこいぞ、君。出来ないものは出来なのだ」

何やら開き直るシロちゃんです。さっさと大魔王に背中を向けて無視しています。

「先生、はいそうですかって、子供の使いじゃないんだから、このまま手ぶらで帰れる訳ないでしょう。せめて何時頃できるか、それだけでも言ってくださいよ」

大魔王のしつこさは今も昔も変わらないようです。うん? これって昔のことですか? 何か変です。

「私に預言者になれと。良かろう、3年3ヶ月3日と3時間待て」
「何だとー、ふざけるな。そんなに待てないぞ、このジジイ」
「怒鳴って物事が進むのなら怒鳴るが良い。だが今は忙しいのだ。出て行きたまえ」
「帰れる訳がない。よーし。出来るまで此処にいさせてもらう」
「好きにしたまえ」

こうして大魔王とシロちゃんは三日三晩を共に暮らし、時にはドツキあったり励ましたりで、ようやく何かが出来たようです。

「オーホホホ、完成だい」
「先生、やっと出来ましたか」
「うむ、まず、わしが試してみよう」

シロちゃんの手には白い液体の入ったビーカーが。それを一気に飲み干します。

「うーむ、やっぱり疲れた時に飲む牛乳は最高だ」
「何だって?」

大魔王から殺気のようなものが立ち昇ってきます。それを察知したのか、シロちゃんの顔から笑顔が消えていきます。

「冗談だ。これは魔法の薬だ。ほら、君も飲んでみたまえ」

ほっとした大魔王が黒い液体の入ったビーカーをシロちゃんから受け取ります。

「何で俺のは黒いんだ?」
「炭酸入りだからな」
「そうか」

納得した大魔王は一気にそれを飲み干しました。よくそんな得体の知れないものを飲めるものです。昔から大魔王はアホだったようです。

「うっぷ」

炭酸を吐き出した大魔王です。それを見ていたシロちゃんが笑い出します。何故かそれにつられて大魔王も笑い出しました。

「「アーハハハ」」
「「うえぇ」」

二人は同時に悶え苦しみ始めました。まずシロちゃんの頭髪が白く……いいえ、これは最初からです。顔面蒼白とはこのことでしょうか。大魔王も顔を真っ赤にして苦しんでいます。その赤みが次第に黒く、黒く、小汚い黒色に変わっていきます。そして同時に倒れた二人は床をのたうち回っています。ああ、なんて醜い光景なのでしょうか。鼻から口から泡のようなものが。

シロちゃんはオナラを連発、大魔王もゲップを連発、とても、人が居て良い場所ではなくなりました。狭い研究室という密閉された空間、見ているだけオエェとなります。

気が触れた二人は数十分後、すっきりした顔で起き上がってきました。出るものは全て出し切ったようです。

「我こそは魔王なり」
「我こそは魔導師なり」

二人はお互いの顔を見合っては、睨み、蔑み、そして笑いあっています。どうやら完璧なアホーが出来上がったようです。これはどうも昔のことではなく、ただの夢だったようです。こんなことが現実に起こっていたら、たまりません。何てものを見てしまったのでしょうか、後悔です。

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