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#2 魔導師で章
#2.1 誓いの言葉
しおりを挟むむかしむかし、あるところに、お爺さんとお爺さんとお爺さんがいました。
最初のお爺さんは、かつて魔王と呼ばれ、好き放題な人生を送ったと聞いていますが、今はただのジジイです。
その次のお爺さんは、名前をアッ君といいます。元・勇者ですが今はただの厄介者のジジイです。
その次のお爺さんは、かつて勇者と呼ばれ、果敢に魔王に挑んだようですが見事に敗れ、その後、悲惨な人生を送ったと聞いています。今はただのジジイです。
そのクソジジイ二人が私の眼の前で、いちゃついています。アッ君はそのクソジジイ二人を見物しています。そして私は誰かって? 私は魔王です。ですが今はクソジジイの二人が目障りです。
物覚えの悪い大魔王が、また目の前のジジイを誰だと疑っています。とても手の掛かるジジイです。おっと、ここは前回と同じ、魔王城、王の謁見する部屋です。
「お前は誰だ?」
「お前こそ、誰だ?」
「俺は、大魔王だ」
「魔王じゃないのか?」
「元・魔王だ。それより、お前こそ誰だ?」
「わしを忘れたのか? まあいい。わしこそは正真正銘の勇者だ!」
「勇者だと? ハハーン、なんだ、お前、三番目の敗者だな」
この三番目の敗者、このジジイも魔王が隠居したのを聞きつけ、その隙を突くべくやってきた、しょうもないジジイです。ですがその格好、全身白装束です。白い帽子に白いマスク、白衣に白いソックスと白いスニーカ。きっとパンツの色も白でしょう。
アッ君の言うところでは白魔法剣士らしく、白魔法と剣を武器に戦うそうです。しかし、全身白装束。これは、これだけでもかなり怪しいです。いくら白魔法の使い手だろうが、その『全身白』っていうのは通報ものです。勘弁してもらいたいわ~。
「勝負だ、魔王!」
「だから俺は、今は大魔王だって」
「問答無用!」
「その前に名前くらい名乗ったらどうだ?」
「問答無用!」
「じゃあ、シロちゃんでいいな?」
「問答無用!」
シロちゃんはいきなり、白魔法を使うようです。それも奥義中の奥義のアレのようです。
「健やかな時も~、病める時も~その命が尽きるまで~」
「おい、待て! それって」
「アイヤー」
シロちゃん、掛け声と共に何かしたようですが、その攻撃を受けたような大魔王が困っております。どう反応して良いのやらと落ち着きがありません。挙動不審の大魔王です。
「アイヤー」
シロちゃんは魔法を重ねがけしてきます。威力倍増、夢一杯です。その姿はどこぞの神父か牧師か、祈りに祈っています。出来れば自分自身に祈ってあげれば良いのでは、と思っています今日この頃です。
「ううう」
どうやらやっと大魔王に効果があったようです。これで両者とも思い残すことはないでしょう。これで終わってくれれば良いのですが、すっきり顔の大魔王です。
「どうも、肩のあたりが軽くなったような」
「嘘をつくなー。お前の様な邪悪な存在に、この聖なる魔法が効かぬ訳がない!」
「思い出したぞ。お前、前にも同じ様なことをしていたよな」
「何故効かぬ。本来ならイチコロのはずが」
「俺は虫か? そもそもお前なー、根本的に勘違いしているぞ」
「まだ、ボケてはおらんぞ」
「そうじゃなくて、俺って見た目通り、普通の人だろう。悪魔でも何でもないぞ」
「今更それを言うのか! 信じないぞ」
「シロちゃーん、いい加減、目、醒せや」
「信じるものかー、さてはお前、解脱したな」
「何とでも言え。とにかくお前の魔法は俺には効かん。それに何だ? あの呪文は」
「ここまで来て、はい、そうですかと言えるかー」
「どうでもいいから帰ってくれる? もう、用事は済んだでしょう?」
シロちゃんが急に私を見つめてきます。でも私はただの見物人、あなたの宿敵は目の前に居ますよ、見えていないのですか? 気色悪いから止めてください。訴えますよ。
「おい、魔王」
シロちゃんが大魔王を指差しておきながら私を呼んでいるようです。なんというバッチイ行為なのでしょうか、不潔です。
「だから、大魔王だって」
「そこの、後ろにいるのが魔王か?」
「うん? そうだが」
「なら、そっちが相手じゃ。こんな枯れたジジイなぞ用はない。それに、あっちの方が禍禍《まがまが》しい顔をしておる。さすがに魔王だけのことはあるようじゃな」
「え! それ、言っちゃう、かな」
シロちゃんが大魔王を押し退けて私の前に来やがったです。おー怖。
「おい、魔王。大魔王とは勝負にならん。わしと勝負しろ」
「お断りします」
「問答無用!」
「キャーーー、エッチー」
シロちゃんが何やら呪文のようなものを唱えています。その術中にハマった私は……元気です。
「アイヤー」
シロちゃんが魔法を発動しました。しかしシロちゃんの様子がおかしいです。何か、そう、お酒に酔ったような、ヘベレケ状態です。ちょっとシロちゃんの視覚を覗いてみましょう。
シロちゃんの目の前に、すごく可愛い女性が見えます、見えます。重要なので二度言いました。あ、それは私です。まあ、恥ずかしい。
私の周りに光がぼんやりと光り輝いてきました。これは、後光というのでしょうか。とても神聖な感じがします。それに見とれるシロちゃんです。気持ち悪いです。
おっと、私の後ろから女神様のような方がお出ましになられました。なんと神々しいのでしょうか。その方は優雅に、シロちゃんに手を差し伸べています。どんな人でも救済される、そのお心遣い、私にも分かります。その女神様の手を取ろうとシロちゃんが近寄ってきました。嫌! 来ないで!
ああ、私の気持ちが女神様に通じたのでしょうか。女神様はその手でシロちゃんの頬を、ブチます。ブチブチブチブチブチブチブチ。連打です、超高速連打です、クリティカルヒットです。
これでシロちゃんはノックアウトです。遥か彼方まで吹き飛んでいきました。しかしその顔は『幸せ』そのものです。良い冥土の土産が出来ました、良かったですね。
◇
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