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八章 王二人

ちゃぶ台会談

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「父上、見た目の面妖さに騙されてはなりませぬ。初めての感覚なれど、この深い味わいは病みつきとなる美味しさです。それだけではありませぬ。乗せられている精進揚げに似た物も香ばしく、それでいて口の中に甘みが広がりまする。一層米が欲しくなるのは必定。是非臆せず召し上がりください」

「うむ。儂も香りに負けて一口食べてみたが、驚いておる。細川殿が自信たっぷりに出した理由が良く分かった」

長慶ながよし様、義長よしなが様、お二人共毒見が終わっていないというのに、何ゆえ勝手な振る舞いをされるのですか!」

 一月後、本願寺の貝塚かいづか道場……から程近い建物内で食事会が開催された。やはり料理が料理だけに、道場内で行うのは不適当として断られてしまう。その代わりとして、空き地に急遽作られた掘っ立て小屋が会場となった。

 つまりは食事のみ施設から切り離し、それ以外が貝塚道場預かりとなった形だ。当家と三好宗家との関係を鑑み、中立の立場で間に入ってくれたという訳である。これも当家が普段から貝塚道場とは良い付き合いをしている賜物と言えよう。

 仏教関係者は誰もが権威主義ではない。関係が良好であれば多少の融通は利かせてくれる。そんな当たり前の話であった。

 但し慈善事業ではないため、後日しっかりと必要経費その他を請求されてしまうが。

 そんな事情で始まった食事会に参加した三好みよし宗家側の人数は七人。三好 長慶みよし ながよしの参加は当然として、その横には長男の畠山 義長はたけやま よしなが、重臣の松永 久秀まつなが ひさひで三好 長逸みよし ながやす、毒見役が並ぶ。残りの二人は護衛として後ろに控えていた。

 加えて貝塚道場の施設外では、石成 友通いわなり ともみち率いる兵一〇〇〇が待機している。
 
 こちらは俺を含めて五人。料理番その他裏方の総責任者として参加させた杉谷 与藤次すぎたに よとじに、歓待役の山田 元義やまだ もとよし殿と玄徳げんとく和尚、護衛の大野 直昌おおの なおしげとなる。

 更に貝塚道場近くの港周辺には、松山 重治まつやま しげはる率いる兵一〇〇〇。護衛の兵の数は三好 長慶との間で取り決めをした。

 本当ならここで、義父となった細川 氏綱ほそかわ うじつな殿や元総州畠山そうしゅうはたけやま家当主の畠山 在氏はけたやま ありうじ、家臣であり親友の津田 算長つだ かずなが達にも参加してもらいたかったのだが、如何せん皆三好宗家や尾州畠山びしゅうはたけやま家との因縁があるために声を掛けられなかったという事情がある。

 こう思うと俺の関係者は、畿内勢力と相性が悪い者ばかりだ。今後を考えれば、公家を客将待遇で招くのも良いかと考えてしまう。

 そんな面々の食事会は、ピリピリとした雰囲気で始まった。三好宗家側が俺を親の仇のように睨んでいるのだから当然とも言えよう。そのお陰か、こちらの歓待役も三好陣営と会話に花を咲かせようともしない。何かの切っ掛けがあれば、つかみ合いの喧嘩となりそうな危険な状態である。

 ──三好 長慶と畠山 義長の二人を除いて。

 何故このような事態になったかは簡単な理由だ。俺が食事会にカレーライスを出したからに他ならない。それもトッピングにトンカツ、ソーセージ、チーズを使用するという、上品さの欠片も無い形であった。

 仮にも三好 長慶は畿内一の勢力を誇る大大名の当主であり、幕府相伴衆しょうばんしゅうの一員でもある。またその息子の畠山 義長は現管領だ。二人は幕府要人の中でも特別な存在と言って良い。

 そのような重要な人物に満を持して出す料理が、白いご飯に得体の知れない赤みがかった液体をぶっかけて謎の物体が乗っかった物なのだから、怒って当然である。この食事会を外交交渉の延長の場とするなら、全く相応しくない選択だ。

 また食事会そのものの場所も、三好宗家側は失礼だと感じているだろう。急遽作られた掘っ立て小屋内に折り畳み式の長机と椅子を並べただけの殺風景な空間である。野点で茶を飲むのとは訳が違う。どちらかと言えば、屋台でご飯を食べる感覚に近い。

 だが俺達五人はカレーライスの美味しさを知っている。しかもトッピングもある豪華仕様だ。そうした考えが根底にあるだけに、「うだうだ言わずに一口食ってみろ。全てはそれからだ」という態度がはっきりと出ている有様である。

 この時代でもカレーを作る事自体はそう難しい訳ではない。必要な材料はスパイスではターメリック、クミン、コリアンダー、赤唐辛子の四種類だ。これらが入手さえできればカレーの基本形は調合可能である。

 それ以外で必要なのは、ニンニク、生姜、玉ねぎ、トマトの四種類。ニンニクと生姜は問題無く手に入る。玉ねぎは早い段階から手に入れており、土佐で栽培を行っている。懸念となるトマトは、ようやくイエズス会経由で手に入れて、現在は試験栽培を行っている所だ。そのため、まだまだ収穫量は少ない。

 カレーライスの調理は、スパイス調合より材料を如何にして手に入れるかが問題と言えよう。

 要するに両陣営でこの食事会に対する考え方が違うのだ。これで和気藹々とした雰囲気になる筈がない。

 しかしながら三好 長慶・義長親子だけは違っていた。毒見役が木さじに手を伸ばすのを躊躇う中で、平気でパクパクと食べていく。口の周りにカレーが残っているのもお構いなし。行儀など関係無いとばかりにフォークでソーセージをぶっ刺し、当たり前のように口に運んでいた。見事な食べっぷりである。

 更には俺がお代わりもあると伝えると、満面の笑みで欲しがる始末。この大胆不敵さが他の者と一線を画していると言えよう。

 それだけではない。

「長逸叔父上、久秀、まずはこの料理に使われておる皿や、香り付きの水が入っている湯呑が白磁であるのを気付いておるか。場所は安普請なれど、それ以外に手抜きは無い。そう考えれば、この場での食事会には何か理由があるのだろう」

「ま、まさか……」

「儂は此度の料理を食べてみて理由が分かった。肉料理ゆえ、貝塚道場が建物の使用を拒んだに違いない。後それとな、机の下にはこのような札が張り付けられておったぞ。久秀、これを何だと思う?」

「いえ、分かりませぬ」

「諏訪大社が売っておる『鹿食免かじきめん』だ。この札があれば、獣の肉を食べても許される。細川殿がこれだけの配慮をしておるのだ。とにかく一口食べてみよ。話はそれからでも遅くはあるまい」

 三好 長慶には俺の仕掛けが全て見抜かれていた。

 この調子だと今回使用した机や椅子も、とても珍しい物だと気付かれているだろう。幾ら明国では椅子が既に普及しているとは言え、背もたれ付きの折り畳み式となれば中々お目に掛かれはしない。

 会場が会場だけに、それを取り戻そうと精一杯頑張った形だ。

 ともあれ三好 長慶の鶴の一声によって、三好宗家側の残り四名もカレーを食べ始める。護衛の二名は役目上椅子には座ろうとしなかったが、それでもワンプレートに全てが収まったカレーであれば問題は無い。立った状態で黙々と食べていた。

 片や三好 長慶・義長親子は相変わらずだ。二皿目であろうが食欲が落ちる気配がない。このままの勢いなら、ペロリと食べてしまいそうだ。

 こうして紆余曲折ありながらも、食事会は恙なく進行していた。

 男というのは実に悲しい生き物で、下品な料理を好む。高級志向が嫌いという意味ではない。俗に言うB級グルメに近いだろう。

 その証拠に三ツ星レストランが潰れた所でどうとも思わないが、近所の安くて美味いラーメン屋が閉店の憂き目に合えば、それだけで発狂するものだ。

 また今回の食事会に参加した面々は日々接待で上品な料理を食べているとしても、本質的には武士である。彼らの生きる場所が戦場である以上、食べ慣れた料理は凡そ高級志向からはかけ離れているというもの。

 そう考えると、カレーライスを嫌いになれる筈がない。現代日本では国民食としてその地位を得ているだけではなく、元々は軍用食として普及した料理だ。惜しむらくは、この時代に於いてはまだまだ香辛料の面で高級品扱いとなる点であろうか。

 加えてトッピングは、敢えて品が無いようにした。トンカツ、ソーセージ、チーズ、どれもが定番でありながらも、それを全て乗せるのは滅多とない。けれども、誰しもが一度は実現したいと妄想する。

 纏めると、好きな物を全乗っけしたカレーライスは男の夢である。いや、さすがに誇張し過ぎか。

 雰囲気最悪の食事会が笑顔に包まれるまでに、それ程の時は必要としなかった。


▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


「悪いな。こういう時でもないと、サシで話をする機会が無くてな。付き合ってくれて感謝する」

「構わん。儂も細川殿とは一度じっくりと話をしたいと思うておった。こちらにとっても渡りに船だ」

 同日夕刻、俺と三好 長慶は貝塚道場の一室で話し合いをする運びとなった。それも互いに護衛も従者も無しの一対一となる。呼び掛けた俺もどうかと思うが、応じた三好 長慶も大概と言えよう。

「国虎で良い。敬称も要らない。堅苦しいのは嫌いだ」

「なら儂の事も長慶と呼んでくれて構わぬ。その方が親近感が沸くであろう」

「次会う時には戦場なのにか?」

「ははっ。そう言えばそうであったな」

 夕日が差し込む部屋に机を挟んで二人が向かい合う。互いに襲撃に対する警戒心は無い。どちらもが敵大将を討ち取る絶好の機会だと分かっていても、今この瞬間だけは立場を忘れて純粋に会話を楽しもうという気持ちであった。

 腰に差していた刀を二人共が無造作に放り出しているのが、その証拠と言えよう。

「それにしても国虎、この丸型の机には何か意味があるのか?」

「特には無いな。様式美と思ってくれ。夕刻に狭い一室で敵と二人で話し合いをする時は、ちゃぶ台を使用すると昔から決まっている」

「『ちゃぶ台』に『昔から』、相変わらず国虎は良く分からない事を言う」

「気にするな。気にするな。あっ、このちゃぶ台が気に入ったなら、持って帰ってくれて良いぞ」

「ありがたく頂こう。今日は食事会の筈が、満載の土産となってしまったな。いや、あのかれいとやらも大変美味であったぞ」

「その辺はお互い様だ。こちらも長慶から祝いの品を大量に貰ったからな。それよりも、こんな機会でもなければ聞けない事がある」

「奇遇だな。儂も国虎には聞きたい事がある」

「なら俺からで良いか? ずっと気掛かりだったんだ。どうして現公方と二度目の和睦したのかと思ってな。一度目は分かる。だが二度目は、あそこまで追い詰めていたんだぞ。今の三好宗家の力なら、足利 義維あしかが よしつな様の公方就任が実現できると俺は見ていたからな」

「国虎、それは当家の力を買い被り過ぎている。外から見るより京の統治は神経をすり減らすものだ。手放して公方様にお任せする潮時だったというのが正直な所だぞ」

「……なるほど。俺との対決に集中するためか。なら納得だ。そう言えば、当家を倒した後に室町幕府と手切れして、足利 義維様や足利 義栄あしかが よしひで様を推戴する手が残されていたな。今気付いたよ」

「先ほどの一言で、何ゆえそうした考えができるのか分からぬ。だが……」

「間違ってはないだろう?」

「此度の和睦で儂は幕府相伴衆しょうばんしゅうの地位を手に入れ、義長は管領職を手に入れたとだけ言っておこう」

 例えば波多野 秀忠はたの ひでただという人物がいる。当初は晴元派であったが、一時細川 晴国ほそかわ はるくに様の誘いに応じて高国たかくに派残党に所属していた経緯がある。

 何のためにそのような真似をしたかと言えば、自身の価値を高めるためだ。高国派残党として丹波たんば国で勢力を伸ばし、時価総額が最高値を示した所で元の晴元派に売りつける。高国派残党との戦が続く晴元派陣営にとっては、好待遇で波多野 秀忠を迎えざるを得なかった。

 三好 長慶と足利 義輝との二度目の和睦は、この例と同じ考えと言って良い。例え足利 義輝が三好 長慶の存在を無視して各地の大名に上洛命令を出したり、朝廷をないがしろにする行為を続けようと、三好宗家や尾州畠山びしゅうはたけやま家の地位向上という実利は手にした。

 三好宗家は元々、阿波細川あわほそかわ家の家臣である。それを考えれば、公方を直接支える存在にまでのし上がった現在は、大きな躍進と言っても過言ではない。

 こうなれば、当家を倒した後は自身の都合に良い公方を選び放題となるだろう。仮に義輝派に属し続けるとしても、義栄派への転向をちらつかせれば更なる実利を得るのも可能だ。ロマンチストの遊佐 実休ゆざ じっきゅうとは違い、現実的な考えをする三好 長慶らしい一手である。

 こうした離れ業を当たり前にできる事に改めて恐ろしさを感じてしまう。

「ははっ。これなら、俺が勝っても長慶が勝っても、足利 義栄様の公方就任の道は残される訳だな。なら長慶が勝った時は俺の代わりに支えてやってくれ。頼むぞ。後ついでに俺の息子も頼む」

「勝つ気でいるのによく言うな。まあ良い。そうなった時は任せておけ。これで気が済んだか?」

「ああっ。個人的には他にも氏綱うじつな派に鞍替えした理由も知りたい所ではあるが、この辺は込み入った事情もあるだろうから、聞くだけ野暮だと思っている」

「それは助かる。あの時は儂も相当悩んだ。ただ今にして思えば、あのまま細川 晴元ほそかわ はるもと様の元にいれば、国虎の力がここまで大きくはならなかったろう。結果的に儂自身が化け物を生んでしまった後悔があるな」

「それは言い得て妙だな。つまり今の俺の地位は、長慶のお陰でもある訳か」

「なら国虎は、儂にもっと感謝しなければならぬな。今この場で頭を下げれば、和睦を認めようぞ」

「とても魅力的な提案だ。だが残念ながら、それだけはない。悪いな」

「そうであろうな。この期に及んで儂も和睦になるとは考えていない。ただ、儂は気になるのだ。氏綱派と晴元派との争いが終わり、今度は義輝派と義栄派との争いが本格化していく中、国虎は何を目指しているのかと。やはり管領職なのか?」

「どうしたんだ、いきなり? 俺の細川京兆家当主就任がそんなに意外だったか?」

「まさに。国虎はこれまで畿内進出をしようとしなかったであろう。それなのに細川 氏綱ほそかわ うじつな様を拉致したかと思えば、今度は細川京兆家の当主にまで就任した。どういう風の吹き回しだ?」

「なるほど。それが俺に聞きたかった内容だな」

「そうだ」

「正直に言うと、管領職への野心は無い。京兆家当主就任は成り行きだ。細川 氏綱様は、旗頭として欲したに過ぎない」

「旗頭なら足利 義栄様がいるではないか」

「それだけでは俺が細川京兆家に対する反逆者になる。そうなると俺の存在が、足利 義栄様の大義名分に傷を付けてしまうからな。だから、拉致をしてでも細川 氏綱様の身柄を確保する必要があった」

「なるほど。筋は通っているな」

「足利 義栄様の大義名分が、今の幕府の暴走を止めるというものだからな。俺も体裁を整える必要があった。これで納得できるだろう。後、俺にも思う所があってな。義輝派と義栄派との争いに勝利して、富の畿内一極集中を終わらせようと考えている」

 そう言った直後に三好 長慶が「詳しく話せ」と顔を近づけてきた。織田 信長殿だけではなく、三好 長慶も今の室町幕府に対して思う所があるのだろう。しかしながら三好宗家は、経緯が経緯だけに俺を倒すまでは室町幕府と二人三脚で歩まざるを得ない。

 今回俺が富の畿内一極集中打破を目的に掲げたのは、日の本の発展のためと言うよりは、中央で政に関わる者の意識を改めさせるためだ。室町幕府が地方での下克上にお墨付きを与えているのも、元を辿れば経済が畿内に偏重しているからに他ならない。

 勿論、博多や山口、直江津なおえつ駿府すんぷ他、地方でも発展を遂げている地域はある。だがそれは一部であり、畿内の経済力には遠く及ばない。束になった所で、中央に居る者にとっては痛くも痒くもないと見えてしまうのもまた事実だ。

 だからこそ、それを改めなければならない。畿内と地方との経済力の差が縮まれば、嫌でも地方の動向に目を向ける必要が出てくる。これまでのように小遣い稼ぎをして下克上を認めようものなら、即中央政府を脅かす存在となるからだ。

 思えば徳川 家康とくがわ いえやすが江戸に幕府を開いたのも、畿内以外の経済圏を作ろうとしたからではないか。畿内だけでは日の本は纏まらない。地方の発展こそが統治の安定に繋がると考えるのは、至極まっとうな結論である。

「待て待て。富の畿内偏重を終わらせるのが目的なら、各国が独自に発展すれば良いだけであろう。それこそ国虎が阿波国や土佐国で行っている延長で事足りる」

「それだと地方が力を持った時に暴走するだけだぞ」

「そうなると国虎は、地方と中央が相互に監視する体制を目指しているのか。中央が暴走すれば地方がそれを止め、地方が暴走せぬよう中央がしっかりと手綱を握る。確かに今の幕府には無理な相談ではあるな」

「今の幕府はいずれ限界を迎える。そうなってからでは遅い」

「今、国虎がどういう人物か分かった気がする。国虎の本質は武家ではない。それでいて、ただ銭を追うだけの商家でもなければ、僧とも違う捉え所のない存在だ。だからこそ、これほど新鮮で面白き人物なのであろう」

「そもそもが俺は武家に向いてなくてね」

「もっと国虎の話を聞かせてくれ。儂も聞いてもらいたい話が山ほどある。今日だけ、今日だけで良い。とことんまで話し合わぬか?」

「随分と酔狂だな。とは言え俺も、ここで席を立つのは勿体無いと感じている。そうだ。折角だから、長慶お気に入りのタオルの作り方を教えるとするか。だから、もう二度と返礼品に『タオルが欲しい』とか書かないでくれよ」

 もしかすると、夕日を背景に一対一の決闘があるかもと期待をしたが、そんな筈も無く。

 三好 長慶は俺のズレた考えに拒否反応を示す所か、逆に興味を示す。全てを飲み込めるこの器の大きさが、その真骨頂なのだと改めて感じさせた。
 
 こうなれば、例え宿敵であってもその人柄に触れてみたいと思うのも当然だ。二人は嫌い合って敵対している訳ではない。互いに背負っている事情によって敵同士となっているだけなのだから。

 そうであるなら、今日くらいは茶でも飲みながら一人の人間として向かい合うのもまた一興である。

 ただこういう時ほど、綺麗な終わり方ができないのは何故なのか。

「時に国虎、次の食事会は何時になる? 何が出てくるのか今から楽しみにしておるぞ」

「長慶、調子に乗り過ぎだ」

 「次にご馳走するのは弾丸だ」と言わずに踏み止まった俺を、誰か褒めて欲しい。
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