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七章 鞆の浦幕府の誕生

被害者意識

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 目の前に不機嫌そうな顔をした男がいる。名は毛利 隆元もうりたかもと。言わずと知れた安芸毛利あきもうり家の当主だ。年齢は俺よりも多少上と思うのだが、どうにも落ち着きがない。胡坐状態の膝を小刻みに動かす姿が妙に目に付く。

 とは言え、そうしたくなる気持ちは俺も理解できた。

 事の起こりは備中庄びっちゅうしょう家の猿掛さるかけ城の攻略を始めた頃だろうか。その時、城の南西方面からやって来る一団を確認する。当初は備中庄家の援軍かと思い急いで迎撃態勢を整えようとしたが、どうやらそうではない。むしろ当家の味方として、猿掛城攻めに参加したいと駆け付けた。

 この一団の正体は備中国に残っていた細川野州ほそかわやしゅう家の旧臣達、いや残党と言った方が良いだろう。備中国での細川野州家自体は完全に落ちぶれていたが、辛うじて備後びんご国国境近くの南西部に領地を残していた。いつか細川 通董ほそかわみちただ殿の捲土重来があると信じて必死に守っていたそうだ。

 その思いがついに届いたのか、遠州細川家という協力者を引き連れて細川 通董殿が戻ってきた。しかも、憎き備中庄家を滅ぼそうと早速城攻めを始める。

 これは急いで手伝わなければならないと考えたそうだ。

 さて問題はここからとなる。細川野州家の旧臣達が駆け付けてくれたのは良いが、その中には良く分からない集団がいると気付く。残党が急遽駆け付けたというのに兵が一〇〇〇近くあるのがおかしい上、細川野州家とは無関係の武士が紛れていた。

 その者達は安芸毛利家から派遣された駐留軍となる。聞けば旧臣達がこれまで生き残れたのは、この軍のお陰だという。要は生き残りのために旧臣達は、安芸毛利家の傘下に入っていたのだ。

 この時点で両者は相容れない。備中国は細川 通董殿に任せるというのに、その家臣が安芸毛利家に従っているというのは間違いだ。下手をすれば、新生細川野州家そのものが安芸毛利家に取り込まれてしまう。

 そうなれば対応はただ一つ。旧臣達には安芸毛利家と手を切るか、それともこのまま安芸毛利家の傘下でいるかを選択させる。勿論、安芸毛利家と手を切って細川 通董殿に仕えるのを選択したとしても、一度は領地を没収とする。繋がりを断たなければ、安芸毛利家の影響が残ったままとなる。仮に今一度細川 通董殿が領地を与えるとしても、元の領地とは無関係な場所にしなければならない。

 この対応が良かったのか、旧臣達の殆どが安芸毛利家側に付いてくれた。やはり武家として領地没収に耐えられなかったのだろう。領地を没収されても細川 通董殿に仕えると決断したのは、細川 通董殿の側近と同じ一族の赤澤あかざわ家のみとなる。

 そこからは慣れたものだ。旧臣達は俺の言葉に怒り心頭となりながらも、こちらの兵数にビビったのか野戦を挑む度胸も無い。捨て台詞を残して自らの領地へと逃げ帰る。後は別動隊を派遣して城を一つずつ潰していく。それで終わりだ。

 駐留していた安芸毛利軍諸共、旧臣達を備中国から追い出すのに多くの日数は必要無かった。

 それから安芸毛利家からの書状が届くようになる。現在の俺は備中庄家との戦いに忙しい。内容は読まなくとも分かる。抗議だ。書状を読まずに放置をしていると、今度は使者がやって来るようになった。

 使者は当然ながら会わずに追い返す。備中石川いしかわ家が備中松山まつやま城攻略に失敗して潰走したため、今度は当家が担当する形となったからだ。猿掛さるかけ城、鬼身きのみ城と主要な拠点を落としたのに、肝心の備中松山城を残せば画竜点睛に欠く。ここで一気に決めてしまおうという判断だ。

 粘りを見せていた備中松山城も、当家の軍の前には呆気なく開城をする。自慢の長距離砲で矢の届かない地点から昼夜問わずに撃ちまくったのが余程堪えたようだ。攻撃を開始してから三日後に使者がやって来る。夜間に城主が逃亡したため城は明け渡すと。こうして備中庄家は事実上滅亡した。

 残った支城は細川 通董殿や石川 久智いしかわひさともに任せ、最後の仕上げとばかりに俺達は南西に軍を進めて備中三村びっちゅうみむら家の領地へと雪崩れ込む。ここまで来れば乗り掛かった船という思いがそこにあった。

 厳密に言えば、備中国北部にはゆずりは城を本拠地とする備中新見びっちゅうにいみ家が残っている。しかしこの地は、出雲尼子いずもあまご家が支配する出雲国や伯耆ほうき国との国境線に近い。下手にちょっかいを出すと出雲尼子家を本気にさせてしまう。ならば備中新見家は緩衝地帯として利用する方が賢いというもの。中立、もしくは友好関係を築くのが正しい対処法である。

 備中三村家との戦いも激闘とは程遠いものだった。そもそも約二か月前まで備前びぜん国で戦をしていたのだから、万全の迎撃態勢を整えられる筈がない。尚且つ援軍は来な……いや、親切な俺達が備中三村家との戦の前に、従属元である安芸毛利家が援軍を出せない理由を声を大にして伝えた。

 結果として本拠地の鶴首かくしゅ城はあっさりと開城する。安芸毛利家に見捨てられた現状では、城を守り続けようにも兵の士気が保てなかったのだと思われる。

 そもそもが攻城戦に於いての守り手側は、想像以上のストレスに耐えなければいけない。些細な切っ掛けで喧嘩が起こるのは日常茶飯事だ。だからこそ高い士気が必要となる。

 絶望的な状況で籠城戦を行うと多くの場合地獄絵図が待っているものだ。

 こういった時、優秀な指揮官ほど見切りが早い。同じ負けるなら傷の浅い内に。そういった考えが根底にある。但し大きな戦略目標があり、絶望的な状況でも城を死守しなければならないという場合はその限りではない。

 そう考えると鶴首城の開城は英断だったのではなかろうか。開城を決めた備中三村家の当主は臆病風に吹かれたのではなく、無駄に兵達の命が失われるのを嫌った可能性が高い。もし本気で腰抜けだったのなら、何は無くとも一目散に逃げだした筈だ。

 事実、開城するに当たって出した条件は兵達の無事を保障し、略奪や城にいる女子供への乱暴を禁止して欲しいというものであった。それも自らの命を引き換えとしてである。

 この条件が、自らの家族や家の存続のための打算も含まれているとは分かっている。だがここまで潔いと殺してしまうのは逆に勿体無く感じた。新生細川野州家はこれからの家である。本人が望むなら、細川野州家でやり直しをさせても良いのではないだろうかと。先日備中国から追放した細川野州家旧臣達に比べれば、気持ちの良い人物であるのは間違いない。

 そんな思いから俺は、当主 三村 家親みむらいえちかを含めた関係者を備中松山城へと送る際に助命の書状を添えた。どう判断するかは細川 通董殿次第となるが、きっと良い決断をすると期待している。

 これにて備中国を舞台とした戦いも一件落着。後は各々の故郷に帰るだけ……とはならないのがこの世の中。まだ延長戦が待っていた。

 それが安芸毛利家当主との面会となる。

 毛利 隆元殿が苛立ちを隠そうともしない態度を取り続けているのは、全て俺が原因だった。


▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


「細川殿、当家に対する数々の非礼、最早見過ごせるものではござらぬ。謝罪と賠償を要求致す。また、当家から奪った領土に付いては速やかな返還を行ってくだされ。此度遠州細川家が行った行為は賊と変わらぬものですぞ」

 こうなるのは最初から分かっていた。当家の備中国での行為は何の大義名分も無い。全て不当なものだというのが毛利 隆元殿の主張である。

 例え今が戦国時代とは言え、何をしても良いという訳ではない。寺社や公家の領地を横領する例がごまんとあるとしても、そこには必ず訴えが起こっている。ただ裁定が賄賂によって歪んだり、裁定に従わないであったり、訴えそのものを受け付けないというだけだ。訴えという手段はこの時代でも存在する。

 特に領主間の領土問題となれば、こうした当事者間の解決となる。幕府に依頼しても良いが、時間も掛かる上に強制力はまるで無い。するだけ無駄というもの。

 なお、厳密に言えば俺は当事者ではない。領土問題である以上、本来の当事者は備中国を預かる細川 通董殿となる。だが事を起こしたのが俺であるため、今回はその判断に従うと委任され面会に至ったという流れである。要するに責任を取れという意味だ。

 安芸毛利家は大事な戦の最中だというのに当主まで出てきている。そうである以上、安芸毛利家の目が細川野州家に向けられるのを避けたかったのであろう。

 良い性格をしているよ。全く。

 とは言え現実的に考えるなら、この問題が俺の方に回ってくるのは間違いではない。こちらには手札があるからだ。細川 通董殿ならこの局面を乗り切れなかっただろう。

 ならばと最初から強気の姿勢で対応する。

「何を言っているのか理解に苦しみますね。謝罪と賠償なら、まず当家に対して安芸毛利家が行うべきでしょう。それを無視して当家の行為だけを非難するのというのは、むしろ安芸毛利家の方こそ賊と変わらないかと思われます」

「そのような根拠のない話をよく言えますな! 大義名分も無いというのに当家の兵が駐留していた鴨山かもやま城を攻め、備中南西部から追い出した事実を知らぬと言うのですか! これまで当家が何度確認の書状を出しても返事は来ない。使者を派遣しても忙しいから会えないと追い返し、あろう事か次は傘下の備中三村家までをも滅ぼす。これだけの罪を重ねておいて当家が悪いとはどういう了見か。その存念をお聞かせ願いたい」

「何を勘違いしているか分かりませんが、当家に大義名分はあります。当家には元安芸武田たけだ家当主の武田 信実たけだのぶざねがいるのを御存じでしょうか?  安芸武田家を滅ぼしたのは安芸毛利家です。開戦をするには十分過ぎる理由です」

「な、何を……」

「また、当家は井上 利宅いのうえとしいえを保護しております。粛清された井上一族の生き残りの一人です。本人も安芸毛利家へ一矢報いようとしている気持ちを持っています。これも開戦をするには十分過ぎる理由です」

「井上一族には粛清される十分な理由があり申した」

「それは井上一族の貢献を無視した一方的な断罪です。情状酌量の余地は十分にあった筈です。まあ良いでしょう。何より一番の罪は、やはり大寧たいねい寺の変ですね。当家は亡くなられた大内おおうち卿の妹だけでなく甥や姪を保護しております。反逆者安芸毛利家を敵視するには十分過ぎる理由でしょう。これで当家に大義名分が無いというのはおかしな話です」

「待たれよ。大内卿を自害に追い込んだのはあくまでも陶 晴賢すえはるかた殿であって……」

「その陶 晴賢殿に協力して佐東銀山さとうかなやま城攻めを行ったのが安芸毛利家です。変後に陶 晴賢殿から褒美をもらったのが協力の証拠となります。ですので、本来であれば謝罪と賠償をするのは安芸毛利家側ではないですか? 毛利 隆元殿は当家から詰問の書状を出していれば、素直に応じましたか? 使者を派遣すれば素直に対応しましたか? それ所ではないと突っぱねるのが関の山ではないでしょうか」

 この三つがこちらの切り札となる。その中でも特に大寧寺の変への協力は大きい。

 確かに朝廷が一丸となって周防すおう大内家の上洛を後押ししたというのに、それに応えようとしなかった当主 大内 義隆おおうちよしたか殿が無責任なのは分かる。上洛する気が無いのなら、官位等は受け取らなければ良かっただけだ。

 しかし、だからと言って殺すのは明らかにやり過ぎである。説得をして考えを改めさせるか、考えが変わらないなら当主から降ろすだけで良かった。また、陶 晴賢が先代公方の足利 義晴あしかがよしはるから何らかの命を受けていたとしても、周りが暴走を止められた筈である。
 
 だと言うのに誰もが何もしない。安芸毛利家に至っては大内 義隆派閥の籠る佐東銀山城を攻めて、変を後押ししている。これで罪を陶 晴賢に擦り付けるのはそれこそ無責任としか言いようがない。安芸毛利家は大寧寺の変の当事者だ。

 当家にいる大内 義隆殿の甥である足利 義栄あしかがよしひでの気持ちを考えれば、決して仲良くできる相手ではない。

「言っておきます。当家と安芸毛利家との和睦は以ての外です。当家は賊にかける慈悲はありません。ですので謝罪も賠償もありません。理解されましたら、どうぞお帰りください」

「わ、分かり申した。こちらの勘違いであったようだ。備中での件は不問に致す。また、後日改めて武田殿や井上殿の他、大内卿の縁者の方にも謝罪と賠償をしよう。これで良かろう」

 さすがとしか言いようがない。幾ら俺の言い分に嘘が無いとしても、探せば穴は幾らでもある。そこをこじ開けて有利に立とうとするよりも、損切りを行いこれ以上傷口が広がるのを防ごうとしてきたのだ。

 本来、従属した豪族を見捨てるのは盟主としては失格である。だが陶 晴賢との戦いという有事の前には、そうした原理原則さえも無視できる上、こちらを立てる事も忘れない。

 例えこの場での方便だとしても、それを平然と言ってのける者はそうそういないだろう。ここまで言われたなら、通常なら矛を収めざる得ない。

 いや待て。方便か……。

「では後日というのは、一体いつでしょうか?」

「細川殿も知っておろう。当家は現在陶 晴賢殿と争っている最中だ。この争いを勝利で飾るまで時が欲しい。終わり次第使いを出そう」

「なるほど。では陶 晴賢殿との争いが終わるまでは、当家が何をしても良いと捉えさせて頂きます」

「もしや陶 晴賢殿と盟約を結ぶつもりか。それだけは止めて欲しい」

「ご安心ください。当家は陶 晴賢殿とは相容れませんので協力はしません。当家が好きに安芸毛利領に侵攻するだけです」

「それは詭弁であろう。実質的に協力するのと同じではないか!」

「先ほど私が言った言葉を覚えていないのでしょうか? 当家は安芸毛利家とは和睦をしません。なら侵攻をした所で何の問題もないと思いますが?」

「そのような真似をされれば、陶 晴賢殿に負けてしまうではないか。味方が次々と離反してしまうであろう」

「それがどうかしましたか? 正直に話しましょう。安芸毛利家は陶 晴賢殿との対決の前に安芸国内の要衝を制圧しましたが、その際『大内 義長おおうちよしなが』殿の命を受けて挙兵したと嘘の大義名分を掲げました。このように息をするように嘘をつく安芸毛利家の言葉は信用できません」

 そう、方便と言えばこれがある。実は安芸毛利家には陶 晴賢に宣戦を布告する明確な大義名分は無い。決別をしたのは陶 晴賢が安芸毛利家傘下の豪族に使者を送ったのが直接の要因だ。それも安芸毛利家を裏切れといったものではなく、石見いわみ国で起きている争いへの援軍派遣に応じない安芸毛利家に業を煮やして越権行為を行った事による。

 確かに広義の意味では陶 晴賢の行いは離間工作になるだろう。しかし、その切っ掛けは安芸毛利家側にある。それを棚に上げて陶 晴賢を非難するのは無理筋ではないのか?

 だからこそ挙兵を正当化するには、嘘でも良いから別の大義名分が必要であった。

「細川殿、それは儂を愚弄し過ぎだ。言葉を訂正してもらおう!」

「そうですか。お断りします。そもそも今の安芸毛利家と陶 晴賢殿との争いは、私から見れば賊同士が奪ったお宝の分け前で揉めたのと変わりません。どうなろうと……いや、陶 晴賢殿が勝ってくれた方がその後が扱い易いでしょうね。備前びぜん・備中・備後戦線を見る限り、安芸毛利家にはこの機会に退場してもらった方が良いかもしれません」

「細川殿!」

「自業自得でしょう。大方陶 晴賢殿が安芸毛利家の力を削ぎにきたから挙兵したのではないですか? 陶 晴賢殿からすれば行き過ぎた力を持つ配下を弱らせるのは当たり前ですからね。誰だって寝首を掻かれたくない訳ですから」

 安芸毛利家は周防大内すおうおおうち家内で長く優遇を受けていた。出雲尼子家の矢面に立っていたというのがその理由となるだろう。しかし幸か不幸かその優遇の中で安芸毛利家は安芸国内の盟主となり、備後国では大きな勢力を持ち、備中国にも影響を及ぼした。ここまで大きくなったのに、今後も優遇を続けろというのは陶 晴賢でなくとも「調子に乗るな」と思うのも当然である。

 そうなれば、勢力の大きさに応じた責務を果たせとなるのはそう間違ったやり方ではない。力を減衰さそうとしたのだろう。

 陶 晴賢は謀反によって周防大内家を掌握した。ならば今度はいつ自分自身が謀反によって追い落とされるかと疑心暗鬼になるのは、自然とも言える。

 そういった考えが分からなかったのだろうな。井上党の一件と言い、どうも安芸毛利家は被害者意識が強いように思われる。安芸毛利家側にも事情はあるのだろうが。

「……」

「では頑張ってください。次は戦場でお会いしましょう。謝罪も賠償も結構です。どうぞお帰りください」

 とは言え、どのような事情があろうと当家には関係は無い。

「……待たれよ。和睦が叶わぬなら、当家が遠州細川家に臣従するというのはどうであろう? これならば当家と因縁のある方々も留飲を下げよう」

「お断りします。嘘の大義名分で周防大内すおうおおうち家から離反した安芸毛利家は信用なりません。我が身可愛さでとっさに出た方便と判断します」

「……では、当家と遠州細川家が戦を回避するにはどうすれば良い?」

 そんな俺の冷ややかな態度に恐怖を感じたのか、毛利 隆元殿は取り繕うように当家への臣従を提案してきた。気持ちは分からんでもないが、この流れで俺がその提案を受ける筈がない。完全な悪手と言えよう。一度持ち帰り、条件を整えた上で打診するのが無難なやり方だ。
 
 また、交渉は戦いの場でもある。相手が弱みを見せたなら更に追い詰めるのが常道というもの。無理難題を吹っ掛ける位で丁度良い。

「できないと思いますが、土地を捨て当家に降伏するというなら考えましょう。それ以外は拒否しま……」

「分かった! それに乗ろう!! 我等が生き残るにはこれ以外方法は無い。隆元、此度は相手が悪かったと思って諦めろ。細川殿はあの尼子 経久あまご つねひさ殿より性質が悪いぞ」

 それが良くなかったのだろう。ここが攻め時だと感じた時、毛利 隆元の後ろに控えていた老齢間近の男が突然声を上げる。それも、最悪の内容でだ。

「ち、父上!!」

「えっ? 毛利 隆元殿の父上? もしかして毛利 元就もうりもとなり殿がここにいたのか?」

 稀代の謀将毛利 元就。だからこそ俺の言葉が諸刃の剣だと瞬時に判断した。死なばもろとも。どうせ全てを無くすなら、当家を引き込んでやるという強い意思がそこにある。

 尼子 経久殿より性質が悪いのは、そっちの方じゃないか。
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