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六章 大寧寺ショック
東奔西走
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さすがと言うべきか、俺達が庄内に到着した頃には日向伊東家の布陣が完成していた。しかも、既に石山城は占拠済みという状態。大淀川を挟み、その対岸に俺達の部隊も布陣する。
当然ながら敵はそれだけではない。城の後方には遊撃部隊らしき集団もいる。俺達が主力と激突している間に、回り込んで後背を突かんとする意図が見て取れた。全て合わせて約一〇〇〇〇の兵。こちらの兵力の倍以上はある。
到着して全てを理解する。宣戦布告や挙兵と言いつつ、その時には既に進軍が開始されていたと。電撃的に城を奪い取り、俺達に籠城してくださいと言わんばかりの待ちの姿勢を取る。
つまり敵は、戦力の分断を仕掛けてきた。
おいそれと野戦による短期決戦をさせないためと言うべきか。この地に兵を釘付けにさせて、加治木方面へと向かわせない。もしくは、仮に俺達の部隊が加治木方面に向かっても庄内方面から後背を突く。そんな二段構えの策を感じさせた。
この調子なら、津田 算長率いる根来衆も似たような状況だろう。肥後相良家は根来衆の動きを止めさせるのが主な役割ではなかろうか。そうなれば本命は、加治木方面の可能性が高い。
島津宗家は加治木城を突破して大隅半島へと雪崩れ込む。そこから日向伊東家や肥後相良家と共に前後から挟み撃ちにしようという考えなのだろう。当然ながらそれは逆になっても良い。まるで、かの有名なキツツキ戦法を模しているかのようである。
何から何まで全てお見通しであるかのような見事な手腕に、ただ舌を巻くしかなかった。
しかし蟻の一穴という言葉にある通り、完璧な計画ほどほんの些細な切っ掛けで崩れ去ってしまうというのもままある。
そう。俺達がこの兵力差を物ともしないとは決して考えていない。そこにこの策の大きな隙があった。
「最初から全開で飛ばすぞ! 化学忍法火の鳥だ!!」
対島津用にと大量に持ってきた新兵器を初っ端から惜しみなく使う。元々は、この頃から実戦配備され始める種子島銃に対抗するために用意した火器であった。目には目を、火器には火器を。火器の扱いには一日の長がある当家には、種子島銃を上回る新兵器の開発など朝飯前である。
松明に灯った火が導火線へと移り、木で作られた簡易発射台から次々と死を知らせるカラスが敵陣へと飛び立っていく。
「神火飛鴉」──明の時代に作られたトンデモ兵器の一つだ。原理的には、手榴弾に推進用のロケット花火が取り付けられただけの代物である。それがどうしてこうなったのか分からないが、手榴弾が鳥の模型の中に内蔵されている。分類的には羽の付いたロケット弾という扱いだろうか。羽は羽でも、その羽ではない。
何故神火飛鴉がトンデモ兵器となるか? ほぼ見た目が全てである。オリジナルはとても可愛らしく、兵器という印象がまるでない。そのつぶらな瞳は何かを訴えかけてくるように感じてしまう。
当然ながら兵器としてもさっぱりで、当たらない所かそもそもが真っすぐ飛ばない。
そこで俺達は発射台を用意する。この程度では焼け石に水だが、それでもある程度は真っすぐに飛ぶようになる。
次がその見た目だ。戦場に可愛らしさは似合わない。ならばと姿を死の使いとも言われるカラスに模した。普通にロケット弾の形にしろよという野暮を言ってはいけない。
最後に中身を低性能ナパームに変更する。これで当たらなくとも周囲に炎が燃え広がり、敵陣営に恐怖を与えられるようになる。新居猛太でもそうだが、この手の兵器に命中率を期待するだけ無駄だ。
こうして誕生した改良型神火飛鴉。それが新兵器火の鳥であった。
実はこの火の鳥の飛距離は、一〇〇間 (一八〇メートル)を軽く超える。焙烙玉の届く距離よりも、種子島銃の射程よりも大きいのが利点だ。何より新居猛太改を作るより安くできるのが良い。
当たらないまでも、歩兵用の支援火器として考えるなら十分に役立つ。
「続いては北川村弓兵部隊の出番だ。敵に反撃能力は無い。思う存分射抜いてやれ!」
連続して起こる爆発に広がる炎。断末魔が響き渡る日向伊東家の陣に、音も無く飛来する矢の数々。何が起こったのかも分からずに、バタバタと人が倒れていく姿を敵はどう感じるか?
「ここで敵を正気にさせるな。北川村弓兵部隊はどんどん前に出ろ! 面制圧攻撃を徹底させろ!」
「申し上げます。敵の後方部隊に動きがありました。恐らく回り込んで、当家の側面を突くものと思われます」
「報告ご苦労。よし、敵後方部隊は山田 元氏の隊と大野 利直の久万衆が対処に当たれ。多分追撃戦になると思うぞ」
「国虎様、もしやこの戦はこれで終わりですか?」
「そうじゃないか。無傷な者から逃げ始めるのは鉄則だぞ。とは言え、油断はするなと伝えてくれ」
「はっ。かしこまりました」
ここが面白い点だろう。前線を預かる将は、怪我を押してでも必至で建て直そうとその場に踏み止まる場合が多いというのに、戦に参加していない者から逃げ出していく。そこから崩壊に至るという流れだ。逆にその場にいないからこそ、戦況がある程度掴めてしまう。
誰もが好き好んで怪我をしたくない。ましてやそれが消えない炎に体を焼かれるのだとしたら、尚更である。
また人は、緊張が高まり過ぎればじっとしていられなくなる。
その場にも留まりたくもない。前にも進みたくない。そこから導かれる答えはただ一つしかない。
そう、必勝の構えとして揃えた約一〇〇〇〇の兵は、この短時間にあっさりと崩壊してしまった。前線が壊滅し、後方から離脱して本陣のみが残る。これでは大将の身さえ危うくなるのも時間の問題だ。敵が回れ右をして撤退をするのに時間は掛からなかった。
呆気ない結末のような気もするが、初見で火の鳥対策を見つけようとするのがそもそも無理である。粘った所で未来は何も変わりはしない。
こうして俺達はあっさりと勝ちを拾う。
「さて、それじゃあ俺達も突撃の準備をするか。ただ今回はちとやり過ぎたかもな。この炎、消えるまでに後どれくらい掛かるかさっぱり分からん」
「確かに」
「ここの戦線はここからが本番だ。日向伊東家の封じ込めをできるかどうかが肝になる。要衝を奪いに行くぞ!」
本音を言えば、今すぐにでも加治木に取って返したい。ただ、それでは後方の安全が確保できず、結局は元の木阿弥となってしまう。急がば回れの言葉の通り、こんな時こそ焦らず日向伊東家に対して冷静に対処する。それがこの戦の勝ちへの道筋だ。
これが完了するまでの間だけで良い。元明、何とか踏ん張ってくれよ。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「待て、それは本当の話か?」
「はっ。畑山 元明様の率いる雑賀衆が島津宗家の軍と激突。壊滅的な被害を受けました。現在は加治木城で敗残兵を纏めた紀伊鈴木党の鈴木 重意様と紀伊太田党の太田 定久様が籠城し、時を稼いでおります。至急援軍をお願い致します」
「他はどうなった? 畑山 元明は生きているか?」
「他の方に付きましては、現状は行方知れずです。恥ずかしい話ですが、皆加治木城に逃げ込むのが精一杯でした。それ以外は何も分かりません」
「……そうか。よくぞ生きて報せてくれた。感謝する」
「……はっ」
日向伊東家の軍を撃退し、追撃の中で順調に城を接収していた所でまさかの報せを受ける。それは、加治木方面に展開していた雑賀衆が島津宗家に大敗したというものであった。
まさかの出来事である。
島津宗家が加治木方面の戦線で中央突破を図り、戦局をひっくり返そうとしていたのは明白だ。だが、こちらも五〇〇〇の兵で対抗している。加治木城攻めも火器を用いて攻略しているだろうから、損害も大きくない。それがこうも簡単に敗れるものなのか。
もし、島津宗家が五〇〇〇の兵を鎧袖一触できるような兵力を簡単に動員できるなら、早い段階で当家に戦を仕掛けていた筈だ。時期的には俺達が大隅国南部を手にする過程で南下していただろう。戦いを避けるように桑原郡から撤退するなど、まず選択しなかったと考える。
俺の読みでは島津宗家の兵の動員力は低い。だからこそ桑原郡に詰めていた兵を戻して本拠地に集めたと踏んでいる。
幕府を動かしたのも、包囲網を築いたのも同じ理由だ。単独では当家には勝てない。臣従している豪族も、二の足を踏んで積極的に兵を出そうとしない。そういった内部事情があるからだと思っていた。
それ以前に万の兵を動かせる力を持っているなら、蒲生家や渋谷一族が反乱などせずに大人しくしている。
畑山 元明へ加治木城攻略や周辺の平定をを命じたのも、これが背景となる。だからこそ、蒲生家や渋谷一族が掌を返して包囲網形成の一翼に加わっても、十分に対抗できると考えていた。
もしや、敵に回った蒲生家や渋谷一族が異常に強かったのだろうか? それならこの事態も納得できる。
「いえ、畑山様の指揮によって加治木城もあっという間に落としましたし、渋谷一族共は打ち倒しました。戦を始める前は我等を田舎者の猿だと罵りながら、すぐに尻尾を巻いて逃げ出す。威勢が良いのは口だけでした」
「そうだろう。元明の用兵は手堅いからな。あんなチンピラ相手に負ける筈がない。ならその後、何があったんだ?」
「それに付きましては……」
ここで雑賀衆のいつもの悪い癖が出る。
加治木城の攻略と蒲生家や渋谷一族の撃退の後、戦場となった姶良郡で略奪が始まった。いつ島津宗家がやって来るとも限らないという状況下でだ。当然ながら元明は対島津宗家への準備に忙しく、雑賀衆の監督ができなかったという話である。
そんな気の緩んだ中でついに島津宗家が姿を現す。ただ、岩剣城から出陣した兵は一〇〇〇と、とてもではないが雑賀衆と渡り合える数ではなかったそうだ。
「……そういう事か。分かった。蒲生家や渋谷一族を餌にして増長させた所を、伏兵で袋叩きにしたんだな。元明には事前に伏兵に気を付けるよう言っていたが、ここまで用意周到だと逆に引っ掛からない方が難しいか」
そこからは俺の予想通りとなる。一〇〇〇しかいない島津宗家の軍は、雑賀衆に一当てするもすぐに撤退。何も考えずに追撃に移ったのは良いが、そこに伏兵が出現して横合いから痛撃されたというものであった。この時代、人の手の入っていない場所は雑草が生い茂っているために、隠れようと思えば幾らでも隠れられる。そこを上手く利用された。
一度目は加治木城。二度目は渋谷一族達。三度目が略奪。そして最後が本命。しかもそれがたった一〇〇〇の兵だとすれば、我先にと手柄を争い、指揮官の言葉など聞かずに突撃するのは明白だ。完全にしてやられた形となる。
問題はここからだ。命令も聞かない者が勝手に命落としただけなら、それは数字上の出来事となる。大した被害は出ない。しかし、戦というのは人が行うものである以上、恐怖が全体へと広がってしまう。目の前で腹を抉られる。気が付けば体から矢が生えている。あちこちから絶叫がこだまする。これで平静でいろというのが無理だ。
そう、雑賀衆は伏兵が現れた途端、今度は我先にと逃げ出した。その場に隊列を守って撤退するという殊勝な考えは無い。押し合いへし合い行く手を遮る者が全て敵となる。中には地面に倒れ伏したが最後、味方に踏まれて絶命した者もいただろう。人は狩る側になると、そこに秩序が無くとも意外にすんなりできるものだが、いざ狩られる側になると、秩序が無ければあっさりと崩れ去るものだ。
つまり元明を含む多くの将が、この惨劇に巻き込まれた。鈴木 重意や太田 定久殿が加治木城に逃げ込めたのは、部隊が後ろに配置されていたために追撃に加われなかったという単純な理由となる。手柄を立て損なったという運の悪さが幸いして命拾いをするのだから、世の中というのは本当に分からない。
「国虎様、これからどうされるのですか? 此度の目標である宮崎城はもう目と鼻の先です。鈴木殿や太田殿が加治木城で踏ん張っているなら、救援は宮崎城を落としてからでも良いのではないでしょうか?」
「相政、その気持ちは分かる。俺も最初は同じように考えた。だが、それは却下しなければならない」
「何ゆえですか?」
「いや、今思えばこれまでの城の接収が順調過ぎた。満足な抵抗一つなかったからな。日向伊東家は力を温存していると思え。俺達は深入りし過ぎたようだな。宮崎城を手に入れた後では、多分救援に向かえないと思うぞ。こちらが救援に向かうと同時に追撃を受けると考えた方が良い」
「ならばどうされるのですか?」
「悔しいが日向伊東家と和睦、いや停戦するしかない。とは言え、今の状態ではこちらから停戦を申し出ても相手にされないからな。その仕掛けをしておこう。杉谷 善住坊、手間を掛けるが新居猛太改で宮崎城の無力化を頼む。今回は大筒仕様の弾も使えよ」
「了解」
「馬路党、馬路 長政はいるか?」
「押忍! ここにいます」
「こき使って悪いが、先に馬路党だけで加治木城の救援に向かってくれ。それが一番早い。現場に到着しても、まともに戦おうとは思うなよ。遠距離から攻撃してすぐに逃げるのを繰り返せ。敵を加治木城攻略に専念させないのが目的だ」
「押忍! かしこまりました。ならそれに、夜襲も加えます」
「頼んだぞ。横山 紀伊は日向伊東家の現在の本城である佐土原城に停戦の交渉に向かってくれ。賠償金で五〇〇〇貫 (約五億円)払う用意があるとも伝えてくれよ。それと奪った城は一部返還するとも伝えてくれ」
『国虎様!!』
「皆の気持ちは分かるが堪えてくれ。ここは損切りする場面だ。新居猛太改による脅しと銭による懐柔、それと城の一部返還で何としてでも停戦をもぎ取る。島津宗家との戦いに集中するにはこれしかない。勝てば後で何倍にもなって取り返せるから心配するな」
今回の包囲網に日向伊東家が参加した理由はただ一つ。それは利だと考えている。領土問題を巡り島津宗家と衝突していたのだから、それ以外は考えられない。だからこそ揺さぶりを掛けるなら、島津宗家が出した以上の利を提示する。今の島津宗家にこれを出す余裕はほぼ無いだろう。
勿論それだけでは駄目だ。絶対に足元を見られる。それが宮崎城の無力化であった。宮崎城は一時期日向伊東家の本拠地となった程だ。大事な城であるのは間違いない。ならばと今回当家が手にして対日向伊東家への最前線にしようと考えていたが、ここに来て無力化へと舵を切る。
佐土原城も同じ目に合いたくなければ、素直に停戦に応じろと。しかも面目も立ててやるのだから、応じない理由は無いぞと。
日向伊東家には島津宗家に果たす義理など無い。そこが停戦を仕掛けられる大きな要素であろう。
「それは分かりますが、何ゆえそこまでしなければならぬのですか」
「相政、今回は島津宗家が一枚も二枚も上手だった。それを素直に認めなければならない。だからな、そんな一枚も二枚も上手な相手が考えもしないような方法で出し抜く。まともな武家なら絶対にこんなやり方はしない。そこまでして初めて、俺達は島津宗家に勝てると思え。島津宗家さえ倒せれば、日向伊東家など可愛いものだ」
やはり島津宗家は一筋縄ではいかなかった。ここに来てついにその真骨頂を垣間見た気がする。押さば引き、引けば押す。その隙に自分達の有利な状況を着実に築き上げる。これまでは外交交渉や謀略が得意なのだと考えていたが、なかなかどうして。さすがは九州の覇者となっただけの家だと言える。
戦にも強く、大きな視点で絵を描ける戦略眼を持つその実力は相当なものがある。俺のような並の能力では太刀打ちできないというのが、今回身に染みて分かった。
そんな相手に勝つにはどうすれば良いか? それにはこの時代の有名人の言葉が最も当て嵌まる。
──武士は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候
この場面で形振り構っていられるかよ。
当然ながら敵はそれだけではない。城の後方には遊撃部隊らしき集団もいる。俺達が主力と激突している間に、回り込んで後背を突かんとする意図が見て取れた。全て合わせて約一〇〇〇〇の兵。こちらの兵力の倍以上はある。
到着して全てを理解する。宣戦布告や挙兵と言いつつ、その時には既に進軍が開始されていたと。電撃的に城を奪い取り、俺達に籠城してくださいと言わんばかりの待ちの姿勢を取る。
つまり敵は、戦力の分断を仕掛けてきた。
おいそれと野戦による短期決戦をさせないためと言うべきか。この地に兵を釘付けにさせて、加治木方面へと向かわせない。もしくは、仮に俺達の部隊が加治木方面に向かっても庄内方面から後背を突く。そんな二段構えの策を感じさせた。
この調子なら、津田 算長率いる根来衆も似たような状況だろう。肥後相良家は根来衆の動きを止めさせるのが主な役割ではなかろうか。そうなれば本命は、加治木方面の可能性が高い。
島津宗家は加治木城を突破して大隅半島へと雪崩れ込む。そこから日向伊東家や肥後相良家と共に前後から挟み撃ちにしようという考えなのだろう。当然ながらそれは逆になっても良い。まるで、かの有名なキツツキ戦法を模しているかのようである。
何から何まで全てお見通しであるかのような見事な手腕に、ただ舌を巻くしかなかった。
しかし蟻の一穴という言葉にある通り、完璧な計画ほどほんの些細な切っ掛けで崩れ去ってしまうというのもままある。
そう。俺達がこの兵力差を物ともしないとは決して考えていない。そこにこの策の大きな隙があった。
「最初から全開で飛ばすぞ! 化学忍法火の鳥だ!!」
対島津用にと大量に持ってきた新兵器を初っ端から惜しみなく使う。元々は、この頃から実戦配備され始める種子島銃に対抗するために用意した火器であった。目には目を、火器には火器を。火器の扱いには一日の長がある当家には、種子島銃を上回る新兵器の開発など朝飯前である。
松明に灯った火が導火線へと移り、木で作られた簡易発射台から次々と死を知らせるカラスが敵陣へと飛び立っていく。
「神火飛鴉」──明の時代に作られたトンデモ兵器の一つだ。原理的には、手榴弾に推進用のロケット花火が取り付けられただけの代物である。それがどうしてこうなったのか分からないが、手榴弾が鳥の模型の中に内蔵されている。分類的には羽の付いたロケット弾という扱いだろうか。羽は羽でも、その羽ではない。
何故神火飛鴉がトンデモ兵器となるか? ほぼ見た目が全てである。オリジナルはとても可愛らしく、兵器という印象がまるでない。そのつぶらな瞳は何かを訴えかけてくるように感じてしまう。
当然ながら兵器としてもさっぱりで、当たらない所かそもそもが真っすぐ飛ばない。
そこで俺達は発射台を用意する。この程度では焼け石に水だが、それでもある程度は真っすぐに飛ぶようになる。
次がその見た目だ。戦場に可愛らしさは似合わない。ならばと姿を死の使いとも言われるカラスに模した。普通にロケット弾の形にしろよという野暮を言ってはいけない。
最後に中身を低性能ナパームに変更する。これで当たらなくとも周囲に炎が燃え広がり、敵陣営に恐怖を与えられるようになる。新居猛太でもそうだが、この手の兵器に命中率を期待するだけ無駄だ。
こうして誕生した改良型神火飛鴉。それが新兵器火の鳥であった。
実はこの火の鳥の飛距離は、一〇〇間 (一八〇メートル)を軽く超える。焙烙玉の届く距離よりも、種子島銃の射程よりも大きいのが利点だ。何より新居猛太改を作るより安くできるのが良い。
当たらないまでも、歩兵用の支援火器として考えるなら十分に役立つ。
「続いては北川村弓兵部隊の出番だ。敵に反撃能力は無い。思う存分射抜いてやれ!」
連続して起こる爆発に広がる炎。断末魔が響き渡る日向伊東家の陣に、音も無く飛来する矢の数々。何が起こったのかも分からずに、バタバタと人が倒れていく姿を敵はどう感じるか?
「ここで敵を正気にさせるな。北川村弓兵部隊はどんどん前に出ろ! 面制圧攻撃を徹底させろ!」
「申し上げます。敵の後方部隊に動きがありました。恐らく回り込んで、当家の側面を突くものと思われます」
「報告ご苦労。よし、敵後方部隊は山田 元氏の隊と大野 利直の久万衆が対処に当たれ。多分追撃戦になると思うぞ」
「国虎様、もしやこの戦はこれで終わりですか?」
「そうじゃないか。無傷な者から逃げ始めるのは鉄則だぞ。とは言え、油断はするなと伝えてくれ」
「はっ。かしこまりました」
ここが面白い点だろう。前線を預かる将は、怪我を押してでも必至で建て直そうとその場に踏み止まる場合が多いというのに、戦に参加していない者から逃げ出していく。そこから崩壊に至るという流れだ。逆にその場にいないからこそ、戦況がある程度掴めてしまう。
誰もが好き好んで怪我をしたくない。ましてやそれが消えない炎に体を焼かれるのだとしたら、尚更である。
また人は、緊張が高まり過ぎればじっとしていられなくなる。
その場にも留まりたくもない。前にも進みたくない。そこから導かれる答えはただ一つしかない。
そう、必勝の構えとして揃えた約一〇〇〇〇の兵は、この短時間にあっさりと崩壊してしまった。前線が壊滅し、後方から離脱して本陣のみが残る。これでは大将の身さえ危うくなるのも時間の問題だ。敵が回れ右をして撤退をするのに時間は掛からなかった。
呆気ない結末のような気もするが、初見で火の鳥対策を見つけようとするのがそもそも無理である。粘った所で未来は何も変わりはしない。
こうして俺達はあっさりと勝ちを拾う。
「さて、それじゃあ俺達も突撃の準備をするか。ただ今回はちとやり過ぎたかもな。この炎、消えるまでに後どれくらい掛かるかさっぱり分からん」
「確かに」
「ここの戦線はここからが本番だ。日向伊東家の封じ込めをできるかどうかが肝になる。要衝を奪いに行くぞ!」
本音を言えば、今すぐにでも加治木に取って返したい。ただ、それでは後方の安全が確保できず、結局は元の木阿弥となってしまう。急がば回れの言葉の通り、こんな時こそ焦らず日向伊東家に対して冷静に対処する。それがこの戦の勝ちへの道筋だ。
これが完了するまでの間だけで良い。元明、何とか踏ん張ってくれよ。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「待て、それは本当の話か?」
「はっ。畑山 元明様の率いる雑賀衆が島津宗家の軍と激突。壊滅的な被害を受けました。現在は加治木城で敗残兵を纏めた紀伊鈴木党の鈴木 重意様と紀伊太田党の太田 定久様が籠城し、時を稼いでおります。至急援軍をお願い致します」
「他はどうなった? 畑山 元明は生きているか?」
「他の方に付きましては、現状は行方知れずです。恥ずかしい話ですが、皆加治木城に逃げ込むのが精一杯でした。それ以外は何も分かりません」
「……そうか。よくぞ生きて報せてくれた。感謝する」
「……はっ」
日向伊東家の軍を撃退し、追撃の中で順調に城を接収していた所でまさかの報せを受ける。それは、加治木方面に展開していた雑賀衆が島津宗家に大敗したというものであった。
まさかの出来事である。
島津宗家が加治木方面の戦線で中央突破を図り、戦局をひっくり返そうとしていたのは明白だ。だが、こちらも五〇〇〇の兵で対抗している。加治木城攻めも火器を用いて攻略しているだろうから、損害も大きくない。それがこうも簡単に敗れるものなのか。
もし、島津宗家が五〇〇〇の兵を鎧袖一触できるような兵力を簡単に動員できるなら、早い段階で当家に戦を仕掛けていた筈だ。時期的には俺達が大隅国南部を手にする過程で南下していただろう。戦いを避けるように桑原郡から撤退するなど、まず選択しなかったと考える。
俺の読みでは島津宗家の兵の動員力は低い。だからこそ桑原郡に詰めていた兵を戻して本拠地に集めたと踏んでいる。
幕府を動かしたのも、包囲網を築いたのも同じ理由だ。単独では当家には勝てない。臣従している豪族も、二の足を踏んで積極的に兵を出そうとしない。そういった内部事情があるからだと思っていた。
それ以前に万の兵を動かせる力を持っているなら、蒲生家や渋谷一族が反乱などせずに大人しくしている。
畑山 元明へ加治木城攻略や周辺の平定をを命じたのも、これが背景となる。だからこそ、蒲生家や渋谷一族が掌を返して包囲網形成の一翼に加わっても、十分に対抗できると考えていた。
もしや、敵に回った蒲生家や渋谷一族が異常に強かったのだろうか? それならこの事態も納得できる。
「いえ、畑山様の指揮によって加治木城もあっという間に落としましたし、渋谷一族共は打ち倒しました。戦を始める前は我等を田舎者の猿だと罵りながら、すぐに尻尾を巻いて逃げ出す。威勢が良いのは口だけでした」
「そうだろう。元明の用兵は手堅いからな。あんなチンピラ相手に負ける筈がない。ならその後、何があったんだ?」
「それに付きましては……」
ここで雑賀衆のいつもの悪い癖が出る。
加治木城の攻略と蒲生家や渋谷一族の撃退の後、戦場となった姶良郡で略奪が始まった。いつ島津宗家がやって来るとも限らないという状況下でだ。当然ながら元明は対島津宗家への準備に忙しく、雑賀衆の監督ができなかったという話である。
そんな気の緩んだ中でついに島津宗家が姿を現す。ただ、岩剣城から出陣した兵は一〇〇〇と、とてもではないが雑賀衆と渡り合える数ではなかったそうだ。
「……そういう事か。分かった。蒲生家や渋谷一族を餌にして増長させた所を、伏兵で袋叩きにしたんだな。元明には事前に伏兵に気を付けるよう言っていたが、ここまで用意周到だと逆に引っ掛からない方が難しいか」
そこからは俺の予想通りとなる。一〇〇〇しかいない島津宗家の軍は、雑賀衆に一当てするもすぐに撤退。何も考えずに追撃に移ったのは良いが、そこに伏兵が出現して横合いから痛撃されたというものであった。この時代、人の手の入っていない場所は雑草が生い茂っているために、隠れようと思えば幾らでも隠れられる。そこを上手く利用された。
一度目は加治木城。二度目は渋谷一族達。三度目が略奪。そして最後が本命。しかもそれがたった一〇〇〇の兵だとすれば、我先にと手柄を争い、指揮官の言葉など聞かずに突撃するのは明白だ。完全にしてやられた形となる。
問題はここからだ。命令も聞かない者が勝手に命落としただけなら、それは数字上の出来事となる。大した被害は出ない。しかし、戦というのは人が行うものである以上、恐怖が全体へと広がってしまう。目の前で腹を抉られる。気が付けば体から矢が生えている。あちこちから絶叫がこだまする。これで平静でいろというのが無理だ。
そう、雑賀衆は伏兵が現れた途端、今度は我先にと逃げ出した。その場に隊列を守って撤退するという殊勝な考えは無い。押し合いへし合い行く手を遮る者が全て敵となる。中には地面に倒れ伏したが最後、味方に踏まれて絶命した者もいただろう。人は狩る側になると、そこに秩序が無くとも意外にすんなりできるものだが、いざ狩られる側になると、秩序が無ければあっさりと崩れ去るものだ。
つまり元明を含む多くの将が、この惨劇に巻き込まれた。鈴木 重意や太田 定久殿が加治木城に逃げ込めたのは、部隊が後ろに配置されていたために追撃に加われなかったという単純な理由となる。手柄を立て損なったという運の悪さが幸いして命拾いをするのだから、世の中というのは本当に分からない。
「国虎様、これからどうされるのですか? 此度の目標である宮崎城はもう目と鼻の先です。鈴木殿や太田殿が加治木城で踏ん張っているなら、救援は宮崎城を落としてからでも良いのではないでしょうか?」
「相政、その気持ちは分かる。俺も最初は同じように考えた。だが、それは却下しなければならない」
「何ゆえですか?」
「いや、今思えばこれまでの城の接収が順調過ぎた。満足な抵抗一つなかったからな。日向伊東家は力を温存していると思え。俺達は深入りし過ぎたようだな。宮崎城を手に入れた後では、多分救援に向かえないと思うぞ。こちらが救援に向かうと同時に追撃を受けると考えた方が良い」
「ならばどうされるのですか?」
「悔しいが日向伊東家と和睦、いや停戦するしかない。とは言え、今の状態ではこちらから停戦を申し出ても相手にされないからな。その仕掛けをしておこう。杉谷 善住坊、手間を掛けるが新居猛太改で宮崎城の無力化を頼む。今回は大筒仕様の弾も使えよ」
「了解」
「馬路党、馬路 長政はいるか?」
「押忍! ここにいます」
「こき使って悪いが、先に馬路党だけで加治木城の救援に向かってくれ。それが一番早い。現場に到着しても、まともに戦おうとは思うなよ。遠距離から攻撃してすぐに逃げるのを繰り返せ。敵を加治木城攻略に専念させないのが目的だ」
「押忍! かしこまりました。ならそれに、夜襲も加えます」
「頼んだぞ。横山 紀伊は日向伊東家の現在の本城である佐土原城に停戦の交渉に向かってくれ。賠償金で五〇〇〇貫 (約五億円)払う用意があるとも伝えてくれよ。それと奪った城は一部返還するとも伝えてくれ」
『国虎様!!』
「皆の気持ちは分かるが堪えてくれ。ここは損切りする場面だ。新居猛太改による脅しと銭による懐柔、それと城の一部返還で何としてでも停戦をもぎ取る。島津宗家との戦いに集中するにはこれしかない。勝てば後で何倍にもなって取り返せるから心配するな」
今回の包囲網に日向伊東家が参加した理由はただ一つ。それは利だと考えている。領土問題を巡り島津宗家と衝突していたのだから、それ以外は考えられない。だからこそ揺さぶりを掛けるなら、島津宗家が出した以上の利を提示する。今の島津宗家にこれを出す余裕はほぼ無いだろう。
勿論それだけでは駄目だ。絶対に足元を見られる。それが宮崎城の無力化であった。宮崎城は一時期日向伊東家の本拠地となった程だ。大事な城であるのは間違いない。ならばと今回当家が手にして対日向伊東家への最前線にしようと考えていたが、ここに来て無力化へと舵を切る。
佐土原城も同じ目に合いたくなければ、素直に停戦に応じろと。しかも面目も立ててやるのだから、応じない理由は無いぞと。
日向伊東家には島津宗家に果たす義理など無い。そこが停戦を仕掛けられる大きな要素であろう。
「それは分かりますが、何ゆえそこまでしなければならぬのですか」
「相政、今回は島津宗家が一枚も二枚も上手だった。それを素直に認めなければならない。だからな、そんな一枚も二枚も上手な相手が考えもしないような方法で出し抜く。まともな武家なら絶対にこんなやり方はしない。そこまでして初めて、俺達は島津宗家に勝てると思え。島津宗家さえ倒せれば、日向伊東家など可愛いものだ」
やはり島津宗家は一筋縄ではいかなかった。ここに来てついにその真骨頂を垣間見た気がする。押さば引き、引けば押す。その隙に自分達の有利な状況を着実に築き上げる。これまでは外交交渉や謀略が得意なのだと考えていたが、なかなかどうして。さすがは九州の覇者となっただけの家だと言える。
戦にも強く、大きな視点で絵を描ける戦略眼を持つその実力は相当なものがある。俺のような並の能力では太刀打ちできないというのが、今回身に染みて分かった。
そんな相手に勝つにはどうすれば良いか? それにはこの時代の有名人の言葉が最も当て嵌まる。
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