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二章 奈半利細腕繁盛記
焦土作戦
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親信が帰った後、忙しかった今日一日の疲れを取るために俺達は早い時間から横になっていた。
四畳半程度の小さな部屋で一羽、和葉と俺が仲良く川の字となる。余計な物が何も無い殺風景な部屋。灯りも消し、カエルの合唱を子守唄として寝るべきなのだが……こんな時ほど目が冴えてしまうのはもうお約束だろう。羊を数えても一切効果が無い。
「そう言えば一羽さ……三人で寝るのは初めてじゃないか?」
「くだらない事言ってないで早く寝てください。疲れが取れませんよ」
一羽は随分と変わってしまった。まだ二年しか経っていないというのに、出会った頃のあの生意気な言動は何処に行ったのだろう。髪の毛と共に消え去ってしまったのだろうか?
「そんな事ないよ。浄貞寺で何回か一緒にお昼寝した事があったから」
「薄情な兄と違って和葉は今も同じなのが嬉しいな。これからもそのままで俺と一緒にいてくれよ」
「……」
たった二年、されど二年。時代が時代だけに仕方がないが、この二年で俺を取り巻く環境は大きく変化していた。モラトリアムの時間が終わったような感覚。俺の表面上の行動が変化した事も理由だと思われるが、兄上の健康問題からか次代の当主候補というレッテルが常に付き纏うようになっていた。気付けば使用人達の態度も様変わりする。
乳母からは「ご立派になられて」と褒められはしたが、本来の俺は単なる小市民だ。人から傅かれるなんて似合わない。お陰で安芸城では息の詰まるような日々が増えていた。今回の奈半利行きはそこからの解放も目論んでおり、親信や一羽、和葉とは身分を気にしない関係でいられると思っていたのだが……時間とは残酷なものである。
「国虎様はもう少し周囲の評価を気にしてください。私達兄妹は浄貞寺では結構やっかまれたんですよ」
「んー? 何か嫌な事されたりしたか?」
「それはないですけど……」
「なら良かった。……それにしてもよく分からないな、小坊主達の態度。俺達と一緒にこっちに来て仕事でもしたかったのか? まあ良いや。一羽、長屋が建って人の受け入れができるようになってからで良いから、浄貞寺に手紙書いてくれ。『こっちで仕事したいなら、幾らでもあるぞ』と」
「かしこまりました」
この時代はまだまだ識字率も低く、文字の読み書きができるならいくらでも仕事がある。寺の関係者はまさにうってつけと言える。子供だろうと関係無い。労働基準法なんかクソ喰らえだ。その上で四則計算ができるなら、喉から手が出るほどの欲しい人材と言える。本気でここに来たいならこき使ってやろう。
ただ、往々にしてこういった場合は、いざ自ら動くとなると何もしない奴が多かったりする。当てにしてはいけない。誰か来てくれれば運が良かった程度に思うのが良いだろう。
「……それにしても俺の評価か……」
元親お爺様の俺への評価がこれほどまで高かったとは思わなかった。単なる孫可愛さだけかと考えていた。今日の話を聞くと、何となくではあるが「俺はずっとお爺様に期待を寄せられ守られていたのではないか」とそんな考えが出てきても変ではない。これは少しでも恩を返さないといけないな。どこまでできるかは分からないが、やれるだけ……
「クシュン!」
つらつらと余計な考えを巡らせていると、となりで寝ている和葉のくしゃみが聞こえてくる。寝具は俺だけ特製ウサギ毛皮のブランケットだが、二人は板間に夜着を重ねただけの寒空仕様である。二人の分までは手が回らなかった。
「何だ和葉、寒いのか? この部屋、隙間風が結構入ってくるからな。寒かったら俺のブランケット貸すぞ。いずれは二人にも作ってやるから楽しみにしておいてくれ」
親信といる時もそうだが、一羽や和葉といる時は俺自身言葉選びを全く気にしていない。今も平気で「ブランケット」という単語を使っている。こんな事で二人は騒がないという安心感がある。この時代にそぐわない奇行を何も言わずに受け入れてくれるのが嬉しい。
「それは良くないよ。今度は国虎が寒い思いするよ」
「気にするな。俺もきちんと鍛えてるから。多少の寒さで病気にならないくらいには頑丈になってきてるぞ。……と、それか俺のブランケットで二人して寝るか? 和葉にはもう寒い思いさせたくないからな」
多分我儘なのだと思う。この二人には、あのテントでの暮らしを思い出させたくはなかった。今の俺には大した事はできないが、せめてもの……という思いだ。まだまだ子供だから、これ位なら許されるだろう。大丈夫だ。お巡りさんへの通報は無い。
「……良いの?」
「和葉!」
「一羽も寒かったらいつでもこっち来いよ。大きめに作ってもらったから、三人でも何とかなると思うぞ」
「いえ……私は……」
「ま、無理強いはしないさ。和葉、こっちおいで。風邪引かないように一緒に寝よう」
「うんっ」
こういう時、和葉はとても素直である。変に遠慮されると提案したこちらが悲しくなるが、受け入れてくれるのでこちらも気軽に言える。逆に一羽はこういう時、いつも頑ななので少し寂しい思いをしていた。もう少し頼ってくれても良いんだが……。
「えへへ、暖かい」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。それじゃあお休み」
無邪気に俺のブランケットに潜り込んで喜ぶ和葉に癒されつつも、疲れのせいか俺もそろそろウトウトとしてきた。少しずつ意識が遠のき始める。
今日は本当に色々とあったな……ああ、そうか。和葉も今は髪の毛が無いから寒いのか……。
眠る直前に気付くような内容ではない。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
あれから三日後、今一度の安田城の一室。今回も安岡道清、姫倉右京、安田益信の奈半利三人衆に集まってもらう。相変わらず末席には親信の姿があった。
前回の集まりで既に前向きに検討すると伝えていたので、今日は正式な受託の返事と今後の奈半利周辺をどのようにするか話し合う場となる。とは言え「船頭多くして船山に登る」の格言にもある通り、無秩序に話し合っても実のある話にはならない。だから、まず俺が大まかな展望を話すのだが……多分誰も付いてこられないだろう。そう確信できる。
「色々と思う所はあったが、三人の提案を受け入れようと思う。これから三人は俺の重臣だ。宜しく頼むぞ!」
『はっ!』
こうして主従としての立ち位置が決まった。俺の言葉に異を唱える事なく、皆受け入れてくれる。
面倒なので奈半利三人衆と纏めているが、実際にはこの三人は安芸郡にある安田城、奈半利城、岡城の三城の城主である。そこら辺のゴロツキとは違い立場のある者達だ。今、どんな心境だろうか? よく俺の家臣になる事を選んだなと思わざるを得ない。
だが、この三城は東西で五キロメートルもない距離にあり、治める地域も狭い。この三日間で色々と見て回る事ができた程だ。こうした現実から未来を見据えて一蓮托生になる気持ちも何となく分かるような気もした。
「それでだな……諸々の実務の部分は現場の人間と話をして少しずつすり合わせるとして……三人が今知りたいのは、今後この一帯をどうやって俺が発展させようと考えているかだろう」
「正にその通りです」
「分かった。では聞いてくれ。俺はこの一帯で焦土作戦を行なおうと思っている」
『…………』
けれども、残念ながら頼る相手が間違っている。俺なりにじっくり考えたプランではあるが、彼らが望むような都合の良い話が出てくる筈がない。その辺を何故思いつかなかったのか? もう諦めてもらうしかないと思いつつも、言葉を続ける。
「どうやら分からないようだな。それならこれでどうだ。『村を荒廃させ、人が住まない地域にしてしまう』 これでこの一帯が発展する」
『………………』
インパクトを重視した俺も悪いのだが、三人は目が点となり、思考停止の状態に陥っていた。胡坐を組んだ状態で体が固まり微動だにしない。この時代にそぐわない言葉に狂った発言に、こんな事をする人物だとは思っていなかったろう。普通に考えれば殴られても文句も言えない内容である。
どうして人が住まない地域が発展するのか? どんな馬鹿でもあり得ないの一言で終了だ。
視線を親信に向けると必死になって笑いを堪えているが、この辺は無視をした。
「さすがは俺の重臣だけあって短慮はないな。優秀さが良く分かった。試すような事をして悪かったな」
効果があったかどうか分からないが、一度落として上げ、相手にこれからの話を頭ごなしに否定できない雰囲気を作る。この話は三人の常識外の内容になるので、まずは聞く態勢になってもらう必要があった。
「それでは今の言葉の真意を説明しよう……」
特に何の反応もなかったのでそのまま話を続けたが、予想通り内容をほぼ理解されないままに終わってしまった。
今回俺が伝えたプランは、いわゆる「選択と集中」である。もしくは産業の特化と言っても良い。本来なら領主という立場であれば、地域に住む皆の生活を考え、混乱を起こさないように底上げするというのが筋である。けれども、それが実を結ぶには一体どれ程の時間と資金、そして労働力が必要となるのか? ましてや耕作面積の少ないこの地域だ。肥料、品種、農法等々、トライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ歩みを進めていく。こんな事は考えれば考えるほど嫌になってくる。
それならば、これまでのやり方には見切りを付けて新しい産業を興し、そこに集中的に投資する方が効率的となる。ドラスティックな改革だ。
そうすると今度は何に投資すれば良いかとなるが……現状なら「造船」の一択となる。紀貫之の「土佐日記」にも登場した奈半利の港、豊富な木材のある土佐という地域的利点、そして陸上交通が未発達の時代とくればここで「造船」を選択しない理由は無い。その上で木造船の設計が出来る親信までいる。
また、造船のような産業は単純な物作りに終わらず多くの副次的な効果が期待できる。単純に考えても素材の調達でその生産者が潤い、新たな雇用となる。船を停泊させる港の整備や造船所の設置等々、インフラの整備や建設にも繋がり、これも雇用を生む。つまり波及効果が高い。鍋でコトコト煮れば「はい出来上がり」となる代物とは違う。
更にこの狭い地域でこうした巨大産業に力を入れるとどうなるか? 地域全体を巻き込むので、まず間違い無く村から人がいなくなる。
農業はある意味ギャンブル的な側面があり、予測できない理由で派手に大負けする。この土佐で言うなら野分 (台風)というキ〇グボンビーとどう付き合うか? 時には作物に病気が発生する事もあるだろう。そうしたリスクが常に付き纏う。収穫というか収入が大きくは年一回というのも不安要素の一つだ。
しかし製造業は違う。多少手にする金が少なくなろうとも仕事をクビにならない限りは安定した生活が送れる。作業が天候に大きく左右されないので、生活リズムが不規則になる事は無い。農業中心の村の人々からすればきっと魅力的に見えるだろう。
なお、漁業は特殊な産業になるのでここでは割愛する。
「国虎様の言いたい事は何となく分かってきましたが……そうなると食料は一体どうやって確保するんですか? 百姓がいなくなるのですぞ」
さすがは親信の父親だ。必死で俺の話に付いてこようとしている。早速このプランの問題点を見つけたか。
だが甘い。この点はきちんと考えている。
「その点は問題無い。買えば良いだけだ。収穫時期である秋に大量にな。この土佐内で考えなければ食料が余っている所はいくらでもある。難しく考えるな」
「なっ」
こういう時、奈半利が港町という利点を活かさなければ勿体無い。今は木材の販売や水食料の補給がメインとなっているが、商いを広げる意味でももっと有効活用するべきだ。とにかく港に人を集める。その点においては食料の購入はうってつけである。
そうこうする内に独演会は終わり、部屋は静まり返っていた。奈半利三人衆は俺の話の半分も理解していないだろう。顔を見れば「何か言いたいけれどもどう言えば良いのか分からない」というのが分かる程であった。
対称的なのはやはり親信だ。普段の薄ら笑いが影を潜め、珍しく真剣な表情になっている。自分がこのプロジェクトにおいてのキーマンである事を理解しているのだろう。当然キリキリ働いてもらおう。
……と本来なら、質疑応答もなさそうなのでそのまま解散の流れになるのだが、ここで最後のフォローを入れておく。
「今回の話は今日明日にいきなり実現できる訳ではない。五年、一〇年と長い期間の中でじっくりと進めていくつもりだ。最初の内は戸惑うかもしれないが、その内俺の目指している改革が分かるようになるだろう。まずは一年で良い。俺を信じて付いてきてくれないか? 成果が出なければ、来年は俺を放り出してくれて良い」
「……そういう事でしたら……」
表立って反対できないのは無理に俺に押し付けたという罪悪感もあると思う。だから「一年間限定」という言葉を使って逃げ道を用意した。向こうからすれば「一年間我慢すればクビにできる」と考えてくれる筈。逆に言えばこの一年間は何をしても許してくれるという意味だ。やりたい放題できる免罪符が確保できた。後は成果を出すだけである。
さあこれからどうしようと考えていると、またも親信の父親から素晴らしい質問を投げ掛けてくれた。
「最後にお聞きしたいのですが、その造船を行なう銭の工面はどうするんですか? 我らに融通をしてくれる商人はもうおりませんが」
この問題、元々はお爺様等の伝手を利用してこちらの方で何とかしようと思っていたのだが……うん、どうやら一枚噛みたいらしい。悪事に巻き込む犠牲者を見つけた心境と言えば良いのだろうか? その嬉しさからかついつい口角が上がっていた事に気付く。
きっと今の俺は子供とは思えないような悪い顔をしているだろう。質問をした益信が「しまった」という顔でたじろいでいた。まさに術中に嵌めた気分となる。
そう、普通のやり方で発展させないなら、資金も普通のやり方で得る必要は無い。蛇の道は蛇。毒を食らうなら皿まで。俺のする事は知らなければ良かったと絶対に後悔させる自信がある。折角の申し出だ、地獄の一丁目に一緒に引きずりこんでやろう。
「それも気にするな。策はある。そして三人とも喜べ。ここからが最も楽しい宴の時間だ」
四畳半程度の小さな部屋で一羽、和葉と俺が仲良く川の字となる。余計な物が何も無い殺風景な部屋。灯りも消し、カエルの合唱を子守唄として寝るべきなのだが……こんな時ほど目が冴えてしまうのはもうお約束だろう。羊を数えても一切効果が無い。
「そう言えば一羽さ……三人で寝るのは初めてじゃないか?」
「くだらない事言ってないで早く寝てください。疲れが取れませんよ」
一羽は随分と変わってしまった。まだ二年しか経っていないというのに、出会った頃のあの生意気な言動は何処に行ったのだろう。髪の毛と共に消え去ってしまったのだろうか?
「そんな事ないよ。浄貞寺で何回か一緒にお昼寝した事があったから」
「薄情な兄と違って和葉は今も同じなのが嬉しいな。これからもそのままで俺と一緒にいてくれよ」
「……」
たった二年、されど二年。時代が時代だけに仕方がないが、この二年で俺を取り巻く環境は大きく変化していた。モラトリアムの時間が終わったような感覚。俺の表面上の行動が変化した事も理由だと思われるが、兄上の健康問題からか次代の当主候補というレッテルが常に付き纏うようになっていた。気付けば使用人達の態度も様変わりする。
乳母からは「ご立派になられて」と褒められはしたが、本来の俺は単なる小市民だ。人から傅かれるなんて似合わない。お陰で安芸城では息の詰まるような日々が増えていた。今回の奈半利行きはそこからの解放も目論んでおり、親信や一羽、和葉とは身分を気にしない関係でいられると思っていたのだが……時間とは残酷なものである。
「国虎様はもう少し周囲の評価を気にしてください。私達兄妹は浄貞寺では結構やっかまれたんですよ」
「んー? 何か嫌な事されたりしたか?」
「それはないですけど……」
「なら良かった。……それにしてもよく分からないな、小坊主達の態度。俺達と一緒にこっちに来て仕事でもしたかったのか? まあ良いや。一羽、長屋が建って人の受け入れができるようになってからで良いから、浄貞寺に手紙書いてくれ。『こっちで仕事したいなら、幾らでもあるぞ』と」
「かしこまりました」
この時代はまだまだ識字率も低く、文字の読み書きができるならいくらでも仕事がある。寺の関係者はまさにうってつけと言える。子供だろうと関係無い。労働基準法なんかクソ喰らえだ。その上で四則計算ができるなら、喉から手が出るほどの欲しい人材と言える。本気でここに来たいならこき使ってやろう。
ただ、往々にしてこういった場合は、いざ自ら動くとなると何もしない奴が多かったりする。当てにしてはいけない。誰か来てくれれば運が良かった程度に思うのが良いだろう。
「……それにしても俺の評価か……」
元親お爺様の俺への評価がこれほどまで高かったとは思わなかった。単なる孫可愛さだけかと考えていた。今日の話を聞くと、何となくではあるが「俺はずっとお爺様に期待を寄せられ守られていたのではないか」とそんな考えが出てきても変ではない。これは少しでも恩を返さないといけないな。どこまでできるかは分からないが、やれるだけ……
「クシュン!」
つらつらと余計な考えを巡らせていると、となりで寝ている和葉のくしゃみが聞こえてくる。寝具は俺だけ特製ウサギ毛皮のブランケットだが、二人は板間に夜着を重ねただけの寒空仕様である。二人の分までは手が回らなかった。
「何だ和葉、寒いのか? この部屋、隙間風が結構入ってくるからな。寒かったら俺のブランケット貸すぞ。いずれは二人にも作ってやるから楽しみにしておいてくれ」
親信といる時もそうだが、一羽や和葉といる時は俺自身言葉選びを全く気にしていない。今も平気で「ブランケット」という単語を使っている。こんな事で二人は騒がないという安心感がある。この時代にそぐわない奇行を何も言わずに受け入れてくれるのが嬉しい。
「それは良くないよ。今度は国虎が寒い思いするよ」
「気にするな。俺もきちんと鍛えてるから。多少の寒さで病気にならないくらいには頑丈になってきてるぞ。……と、それか俺のブランケットで二人して寝るか? 和葉にはもう寒い思いさせたくないからな」
多分我儘なのだと思う。この二人には、あのテントでの暮らしを思い出させたくはなかった。今の俺には大した事はできないが、せめてもの……という思いだ。まだまだ子供だから、これ位なら許されるだろう。大丈夫だ。お巡りさんへの通報は無い。
「……良いの?」
「和葉!」
「一羽も寒かったらいつでもこっち来いよ。大きめに作ってもらったから、三人でも何とかなると思うぞ」
「いえ……私は……」
「ま、無理強いはしないさ。和葉、こっちおいで。風邪引かないように一緒に寝よう」
「うんっ」
こういう時、和葉はとても素直である。変に遠慮されると提案したこちらが悲しくなるが、受け入れてくれるのでこちらも気軽に言える。逆に一羽はこういう時、いつも頑ななので少し寂しい思いをしていた。もう少し頼ってくれても良いんだが……。
「えへへ、暖かい」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。それじゃあお休み」
無邪気に俺のブランケットに潜り込んで喜ぶ和葉に癒されつつも、疲れのせいか俺もそろそろウトウトとしてきた。少しずつ意識が遠のき始める。
今日は本当に色々とあったな……ああ、そうか。和葉も今は髪の毛が無いから寒いのか……。
眠る直前に気付くような内容ではない。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
あれから三日後、今一度の安田城の一室。今回も安岡道清、姫倉右京、安田益信の奈半利三人衆に集まってもらう。相変わらず末席には親信の姿があった。
前回の集まりで既に前向きに検討すると伝えていたので、今日は正式な受託の返事と今後の奈半利周辺をどのようにするか話し合う場となる。とは言え「船頭多くして船山に登る」の格言にもある通り、無秩序に話し合っても実のある話にはならない。だから、まず俺が大まかな展望を話すのだが……多分誰も付いてこられないだろう。そう確信できる。
「色々と思う所はあったが、三人の提案を受け入れようと思う。これから三人は俺の重臣だ。宜しく頼むぞ!」
『はっ!』
こうして主従としての立ち位置が決まった。俺の言葉に異を唱える事なく、皆受け入れてくれる。
面倒なので奈半利三人衆と纏めているが、実際にはこの三人は安芸郡にある安田城、奈半利城、岡城の三城の城主である。そこら辺のゴロツキとは違い立場のある者達だ。今、どんな心境だろうか? よく俺の家臣になる事を選んだなと思わざるを得ない。
だが、この三城は東西で五キロメートルもない距離にあり、治める地域も狭い。この三日間で色々と見て回る事ができた程だ。こうした現実から未来を見据えて一蓮托生になる気持ちも何となく分かるような気もした。
「それでだな……諸々の実務の部分は現場の人間と話をして少しずつすり合わせるとして……三人が今知りたいのは、今後この一帯をどうやって俺が発展させようと考えているかだろう」
「正にその通りです」
「分かった。では聞いてくれ。俺はこの一帯で焦土作戦を行なおうと思っている」
『…………』
けれども、残念ながら頼る相手が間違っている。俺なりにじっくり考えたプランではあるが、彼らが望むような都合の良い話が出てくる筈がない。その辺を何故思いつかなかったのか? もう諦めてもらうしかないと思いつつも、言葉を続ける。
「どうやら分からないようだな。それならこれでどうだ。『村を荒廃させ、人が住まない地域にしてしまう』 これでこの一帯が発展する」
『………………』
インパクトを重視した俺も悪いのだが、三人は目が点となり、思考停止の状態に陥っていた。胡坐を組んだ状態で体が固まり微動だにしない。この時代にそぐわない言葉に狂った発言に、こんな事をする人物だとは思っていなかったろう。普通に考えれば殴られても文句も言えない内容である。
どうして人が住まない地域が発展するのか? どんな馬鹿でもあり得ないの一言で終了だ。
視線を親信に向けると必死になって笑いを堪えているが、この辺は無視をした。
「さすがは俺の重臣だけあって短慮はないな。優秀さが良く分かった。試すような事をして悪かったな」
効果があったかどうか分からないが、一度落として上げ、相手にこれからの話を頭ごなしに否定できない雰囲気を作る。この話は三人の常識外の内容になるので、まずは聞く態勢になってもらう必要があった。
「それでは今の言葉の真意を説明しよう……」
特に何の反応もなかったのでそのまま話を続けたが、予想通り内容をほぼ理解されないままに終わってしまった。
今回俺が伝えたプランは、いわゆる「選択と集中」である。もしくは産業の特化と言っても良い。本来なら領主という立場であれば、地域に住む皆の生活を考え、混乱を起こさないように底上げするというのが筋である。けれども、それが実を結ぶには一体どれ程の時間と資金、そして労働力が必要となるのか? ましてや耕作面積の少ないこの地域だ。肥料、品種、農法等々、トライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ歩みを進めていく。こんな事は考えれば考えるほど嫌になってくる。
それならば、これまでのやり方には見切りを付けて新しい産業を興し、そこに集中的に投資する方が効率的となる。ドラスティックな改革だ。
そうすると今度は何に投資すれば良いかとなるが……現状なら「造船」の一択となる。紀貫之の「土佐日記」にも登場した奈半利の港、豊富な木材のある土佐という地域的利点、そして陸上交通が未発達の時代とくればここで「造船」を選択しない理由は無い。その上で木造船の設計が出来る親信までいる。
また、造船のような産業は単純な物作りに終わらず多くの副次的な効果が期待できる。単純に考えても素材の調達でその生産者が潤い、新たな雇用となる。船を停泊させる港の整備や造船所の設置等々、インフラの整備や建設にも繋がり、これも雇用を生む。つまり波及効果が高い。鍋でコトコト煮れば「はい出来上がり」となる代物とは違う。
更にこの狭い地域でこうした巨大産業に力を入れるとどうなるか? 地域全体を巻き込むので、まず間違い無く村から人がいなくなる。
農業はある意味ギャンブル的な側面があり、予測できない理由で派手に大負けする。この土佐で言うなら野分 (台風)というキ〇グボンビーとどう付き合うか? 時には作物に病気が発生する事もあるだろう。そうしたリスクが常に付き纏う。収穫というか収入が大きくは年一回というのも不安要素の一つだ。
しかし製造業は違う。多少手にする金が少なくなろうとも仕事をクビにならない限りは安定した生活が送れる。作業が天候に大きく左右されないので、生活リズムが不規則になる事は無い。農業中心の村の人々からすればきっと魅力的に見えるだろう。
なお、漁業は特殊な産業になるのでここでは割愛する。
「国虎様の言いたい事は何となく分かってきましたが……そうなると食料は一体どうやって確保するんですか? 百姓がいなくなるのですぞ」
さすがは親信の父親だ。必死で俺の話に付いてこようとしている。早速このプランの問題点を見つけたか。
だが甘い。この点はきちんと考えている。
「その点は問題無い。買えば良いだけだ。収穫時期である秋に大量にな。この土佐内で考えなければ食料が余っている所はいくらでもある。難しく考えるな」
「なっ」
こういう時、奈半利が港町という利点を活かさなければ勿体無い。今は木材の販売や水食料の補給がメインとなっているが、商いを広げる意味でももっと有効活用するべきだ。とにかく港に人を集める。その点においては食料の購入はうってつけである。
そうこうする内に独演会は終わり、部屋は静まり返っていた。奈半利三人衆は俺の話の半分も理解していないだろう。顔を見れば「何か言いたいけれどもどう言えば良いのか分からない」というのが分かる程であった。
対称的なのはやはり親信だ。普段の薄ら笑いが影を潜め、珍しく真剣な表情になっている。自分がこのプロジェクトにおいてのキーマンである事を理解しているのだろう。当然キリキリ働いてもらおう。
……と本来なら、質疑応答もなさそうなのでそのまま解散の流れになるのだが、ここで最後のフォローを入れておく。
「今回の話は今日明日にいきなり実現できる訳ではない。五年、一〇年と長い期間の中でじっくりと進めていくつもりだ。最初の内は戸惑うかもしれないが、その内俺の目指している改革が分かるようになるだろう。まずは一年で良い。俺を信じて付いてきてくれないか? 成果が出なければ、来年は俺を放り出してくれて良い」
「……そういう事でしたら……」
表立って反対できないのは無理に俺に押し付けたという罪悪感もあると思う。だから「一年間限定」という言葉を使って逃げ道を用意した。向こうからすれば「一年間我慢すればクビにできる」と考えてくれる筈。逆に言えばこの一年間は何をしても許してくれるという意味だ。やりたい放題できる免罪符が確保できた。後は成果を出すだけである。
さあこれからどうしようと考えていると、またも親信の父親から素晴らしい質問を投げ掛けてくれた。
「最後にお聞きしたいのですが、その造船を行なう銭の工面はどうするんですか? 我らに融通をしてくれる商人はもうおりませんが」
この問題、元々はお爺様等の伝手を利用してこちらの方で何とかしようと思っていたのだが……うん、どうやら一枚噛みたいらしい。悪事に巻き込む犠牲者を見つけた心境と言えば良いのだろうか? その嬉しさからかついつい口角が上がっていた事に気付く。
きっと今の俺は子供とは思えないような悪い顔をしているだろう。質問をした益信が「しまった」という顔でたじろいでいた。まさに術中に嵌めた気分となる。
そう、普通のやり方で発展させないなら、資金も普通のやり方で得る必要は無い。蛇の道は蛇。毒を食らうなら皿まで。俺のする事は知らなければ良かったと絶対に後悔させる自信がある。折角の申し出だ、地獄の一丁目に一緒に引きずりこんでやろう。
「それも気にするな。策はある。そして三人とも喜べ。ここからが最も楽しい宴の時間だ」
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2023/08/14……連載開始
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三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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