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1話 学園へ向かう馬車で

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あの後は大変だったわ。
興味もない王都の貴族令嬢令息の顔とお名前を覚え込み、
今までやらなかったダンスレッスンに加え王都でも通用するマナーを詰め込まれ。
そういった準備は時間がかかるものなのに、お父様も驚くほどにトントン拍子に進んでしまった。
本当に嫌だったわ。
侍女のエリーナに何度愚痴をこぼしたことか。
エリーナも最初のうちは励ましてくれていたものの、あまりにも往生際の悪い私に嫌気が差したのでしょうね。
最近は返事の内容に容赦がなくなっていったもの。

「もう嫌だわ。全てが面倒。ずっと領地にいたかったのに」
「いい加減諦めてくださいませお嬢様」
「替え玉を用意できないかしら」
「入学初日の魔力検査でバレてしまいます」
「そうよね~分身作ろうかしら?」
「分身の生成は禁呪の類にございます」

王都へ向かう馬車の中で、今尚ぐちぐち言う私に対して鮸膠にべも無いエリーナ。
そういうところ、とってもいいと思うわ。

自称神が現れたのはあの1回きり。
もう一度会ったら文句の1つでも言おうと思っていたのにとっても残念。
どうせ逃れられないし、暇だから、この世界について、ざっくりおさらいしておきましょうか。
「恋マキ」は王立学園を舞台にした乙女ゲーム。
王立学園は魔法科・錬金術科・普通科の3つから成り、魔法科は主に貴族、錬金術科は商家、普通科は平民がそれぞれ大半を占めております。もちろん例外もあって、魔力量の多い平民や商家の子息が魔法科に所属することもありますわ。その逆もまた然り。
私はもちろん魔法科。モカ嬢やロースト殿下も魔法科。せめて錬金術科に移りたかったのですが叶いませんでしたわ。錬金術科も攻略対象がおりますがモカ嬢との接点が一番少なそうでしたのに。
自称神は本当に憎いですわ。
ちなみに、科目選択で他科の授業の一部を選ぶことも可能です。
面白いのは部活のようなものがあること。「アスーム」と呼ばれるそれは、元は騎士を目指す方々の自主練習の場を設ける為に作られたシステムのようですわ。ゲーム内では所属するアスームに応じて、伸ばせるスキルが変わっておりました。ここに関しては生徒本人の意思で自由に選べますの。もちろん所属しないという選択も可能です。そこら辺は学園に着いてから考えましょう。

攻略対象は隠しキャラ含め6人。
第二王子のロースト殿下、宰相のご子息ヴィエンナ・ベルビット様、大商人の次男ラシアン・エッグノッグ様、騎士団長の三男ターキッシュ・オウフロア様、新任教師のボルジア・コレット先生。
そして隠しキャラの留学生エラド・コン・エスペシャス様。
隠しキャラの留学は置いといて他ですわよね。
ロースト殿下、ベルビット様は魔法科。
殿下は毛先が煌めく茶色の金髪に、瞳はブルーグレー。美形とはまさにこのことを言うというような顔でいらっしゃいます。
ベルビット様はアッシュグレーのうねる髪が特徴。アーモンド色の瞳はいつも不機嫌そうな色を宿しておりますが、本人はいたって普通です。
このお2人は親友に当たるから、だいたい一緒にいると思って構いませんわ。
モカ嬢がこのお2人を攻略した場合、私は婚約破棄程度で済むわ。ただその後爵位を剥奪されてしまうのよね。
後から路頭に迷うのは嫌だわ。
まぁ、どちらかを発見したらさりげなく逃げれはいいですわ。幸い私は婚約者ではないんだもの!
エッグノッグ様は錬金術科。オレンジ色の髪にグリーンの瞳。甘いマスクが特徴的ですが、ゲームの通りなら、この方相当頭がキレる方でございます。たしかゲーム上だとお兄様に代わって家を継ぐはず。だからこそ今から殿下にとり入る動きをしますわね。なるべく敵に回してはいけません。いえ、目をつけられてはいけませんわ。
なぜならこの方、敵方には全く容赦がありませんの。ラシアンルートの場合他貴族が行なった悪行を押し付けられて、私は処刑。彼は弱みを握ることで貴族の手下を増やし、商会の地位を確固たるものとする。今思うと、この国にとっても最悪なルートですわね......
オウフロア様は普通科。赤みを帯びた茶髪に金の瞳が特徴的。知能も確か低めでしたわ。
ターキッシュルートも婚約破棄と爵位剥奪。我が領地はオウフロア家のものとなるんでしたっけ。
基本的に関わらないはずと思いきや、なんとこの方頻繁に魔法科に顔を出すんですの。殿下やベルビット様と幼馴染。魔力量の兼ね合いで1人普通科になったことが寂しいからと、休み時間ごとに顔を出しますの。うまくかち合わないようにしなければ。
コレット先生はミストグリーンの髪にブルーグレーの瞳。王族の遠縁に当たる方なのよね。
なんでかわからないけどこのルートでも私は婚約破棄される。このルートでは修道院行きだったわね。
魔法薬学を受け持つ先生で、この学園の卒業生でもあるコレット先生。魔法薬学は必修科目なのよねー憂鬱だわ。

どうしよう、ざっとおさらいをしたら攻略対象と同じ空間にいることが多すぎでは?
いや、大丈夫。大丈夫よ。とりあえず第二王子の婚約者ではないないんだもの。
あ、待って。学園通っている間に婚約者にされたらダメだわ。

「そういえば第二王子殿下って婚約者決まったのかしら?」
「特にそういった噂はお聞きしておりませんよ」
「そう……」

やばい。これはやばいわ。あの神ならやりかねないわ。

「気になるんですか?」
「ええ、昔私が候補だったと聞いたものだから。第二王子殿下に決まった婚約者がいるなら安心だと思ったのよ」
「なるほど。お嬢様は卒業後は領地に帰りたいんですもんね」
「そうなのよ」
「そんなお嬢様に残念なお知らせです」
「なに?これ以上私を憂鬱にさせないでエリーナ」
「第二王子殿下の婚約者は学園で見つける、という噂がございます」
「……帰るわ」
「無理です」

こんな時ぐらい慰めてよエリーナ!本当に容赦ないわね!
待てよ、でも考えようによってはこれはチャンスだわ。
最初からモカ嬢を婚約者にさせればいいのよ!
悪役なんかいなくても恋は実るものよ。見てなさい自称神。
悪役令嬢のいない乙女ゲームの世界、見せてやるわ!
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