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その人は、誰?2 熊田side
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注文の品を運んだ後、在庫のチェックを再開する。気を抜くと、すぐ手が止まってしまい、意識は楓達のテーブルへと向けられてしまう。
お客様のプライベートを盗み聞きするなんて、合ってはいけない。頭では分かっているのに困ったものだ、こっそりとため息をついた。
随分と親しげに会話している楓を見て、付き合っているのだろうか? と、勝手に想像してしまう。
ちょっと……いや、かなり抜けているし、駅で迷子になるレベルの極度の方向音痴。悪い大人に騙されそうだな、なんて他人である熊田も心配してしまう程だ。
お付き合いしている人が、しっかりしていれば安心出来る。はずなのに、何となくモヤッとしたものが心に残ってしまう。
もしかしたら年上の女性に騙されている? 常連客のOL達に対して、戸惑う様子を見せていたから楓を思い出す。
すんなりと楓の心の中に入り込んで、親しげに会話している姿。会話は耐える事無く、ずっと笑顔だ。
「楓、何かデザート食べる?」
「沙織ちゃんは何か食べる?」
「そうねぇ……フルーツタルトにしようかな。決まった?」
「俺はイチゴのタルト」
「やっぱりイチゴかぁ。楓、イチゴ大好きだもんね~」
「そ、そうだよ。変わってないって笑うんでしょ?」
「笑わないよ。逆に変わってなくて安心してる」
「どういう意味だよ、それ……」
「変に染まってなくてホッとしてるのよ。アンタ、昔から騙されやすかったし。あ、すみませーん」
彼女……沙織が軽く手を挙げて熊田を呼ぶ。声に気付いた振りをして、カウンターから出て向かう。
「お待たせ致しました」
「フルーツタルトと、イチゴのタルトを一個ずつお願いします」
「かしこまりました」
注文を受けて下がろうとした所で「あの、熊田さん」と声を掛けられ、ピタリと足が止まる。どうして彼女が自分の名前を知っているんだろう? なんて思うが、楓から聞いたのだろう。
顔に出さないよう、いつも通りの笑顔を向けて頷く。
ホッとした表情の沙織が「楓がお世話になっております」深々と頭を下げてきた。
え? と思う間も無く「沙織ちゃん!」慌てて止めに入る楓が椅子から飛ぶように駆け寄るが……つまずいて転びそうになる。
咄嗟に身体を支えると、随分と軽い事に驚いてしまう。
キチンとご飯は食べているのか、違う心配をしてしまった。
「楓君、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。すみません……」
慌てて離れて、席に着く楓。見た目通り、細いけど……想像以上に軽かった。無意識に楓を支えた感触を反芻して、チラリと顔を見やる。
よほど恥ずかしかったのか、小さく縮こまっていた。
「ここはお姉ちゃんとして、お礼しておかないとね」
「お姉ちゃんじゃなくて、従姉でしょ!」
「センター試験の時、送ってくれたんでしょ? …その節はありがとうございました。この子、極度の方向音痴ですから」
あはは、なんて笑う沙織を見てホッとしている自分がいた。
「僕としても、困ってる楓君を放っておけなかったんです。近くに住んでいる事には驚きましたけどね」
連休明けの出来事を思い出し、ふふっと笑みが零れる。
会う事はないだろうと思っていたのに、近所のアパートに住んでいると聞いた時は驚いたものだ。
「熊田さんのような、頼れる大人が近くにいてくれると、私も安心します」
「僕は何もしてないですよ」
和やかに会話をしていたが、楓が少しだけ不機嫌そうな顔をしている。沙織を取られて、拗ねてしまったのかもしれない。これ以上、待たせるわけにはいかない。
「少々お待ちください。急いでお持ち致しますね」
会釈してカウンターへ戻り、フルーツタルトとイチゴのタルトを持って行った。
会計時、沙織が運転する車で田舎に帰省すると話してくれた。お盆期間は来てくれないのか、と少しばかり残念に思う。
飴玉を渡して「気を付けてね」と送り出した後、客がいなくなった店内は静かだ。
盆期間は来客も殆どない。数年振りに祖父母の家に行ってみるのも悪くはない。
そんな計画を立てながら、スマートフォンを取り出した。画面には《おばあちゃんの家》の番号が表記されていた。
出てくれると良いな、そんな思いを秘めながら、呼び出し音を静かに聞いていた。
お客様のプライベートを盗み聞きするなんて、合ってはいけない。頭では分かっているのに困ったものだ、こっそりとため息をついた。
随分と親しげに会話している楓を見て、付き合っているのだろうか? と、勝手に想像してしまう。
ちょっと……いや、かなり抜けているし、駅で迷子になるレベルの極度の方向音痴。悪い大人に騙されそうだな、なんて他人である熊田も心配してしまう程だ。
お付き合いしている人が、しっかりしていれば安心出来る。はずなのに、何となくモヤッとしたものが心に残ってしまう。
もしかしたら年上の女性に騙されている? 常連客のOL達に対して、戸惑う様子を見せていたから楓を思い出す。
すんなりと楓の心の中に入り込んで、親しげに会話している姿。会話は耐える事無く、ずっと笑顔だ。
「楓、何かデザート食べる?」
「沙織ちゃんは何か食べる?」
「そうねぇ……フルーツタルトにしようかな。決まった?」
「俺はイチゴのタルト」
「やっぱりイチゴかぁ。楓、イチゴ大好きだもんね~」
「そ、そうだよ。変わってないって笑うんでしょ?」
「笑わないよ。逆に変わってなくて安心してる」
「どういう意味だよ、それ……」
「変に染まってなくてホッとしてるのよ。アンタ、昔から騙されやすかったし。あ、すみませーん」
彼女……沙織が軽く手を挙げて熊田を呼ぶ。声に気付いた振りをして、カウンターから出て向かう。
「お待たせ致しました」
「フルーツタルトと、イチゴのタルトを一個ずつお願いします」
「かしこまりました」
注文を受けて下がろうとした所で「あの、熊田さん」と声を掛けられ、ピタリと足が止まる。どうして彼女が自分の名前を知っているんだろう? なんて思うが、楓から聞いたのだろう。
顔に出さないよう、いつも通りの笑顔を向けて頷く。
ホッとした表情の沙織が「楓がお世話になっております」深々と頭を下げてきた。
え? と思う間も無く「沙織ちゃん!」慌てて止めに入る楓が椅子から飛ぶように駆け寄るが……つまずいて転びそうになる。
咄嗟に身体を支えると、随分と軽い事に驚いてしまう。
キチンとご飯は食べているのか、違う心配をしてしまった。
「楓君、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。すみません……」
慌てて離れて、席に着く楓。見た目通り、細いけど……想像以上に軽かった。無意識に楓を支えた感触を反芻して、チラリと顔を見やる。
よほど恥ずかしかったのか、小さく縮こまっていた。
「ここはお姉ちゃんとして、お礼しておかないとね」
「お姉ちゃんじゃなくて、従姉でしょ!」
「センター試験の時、送ってくれたんでしょ? …その節はありがとうございました。この子、極度の方向音痴ですから」
あはは、なんて笑う沙織を見てホッとしている自分がいた。
「僕としても、困ってる楓君を放っておけなかったんです。近くに住んでいる事には驚きましたけどね」
連休明けの出来事を思い出し、ふふっと笑みが零れる。
会う事はないだろうと思っていたのに、近所のアパートに住んでいると聞いた時は驚いたものだ。
「熊田さんのような、頼れる大人が近くにいてくれると、私も安心します」
「僕は何もしてないですよ」
和やかに会話をしていたが、楓が少しだけ不機嫌そうな顔をしている。沙織を取られて、拗ねてしまったのかもしれない。これ以上、待たせるわけにはいかない。
「少々お待ちください。急いでお持ち致しますね」
会釈してカウンターへ戻り、フルーツタルトとイチゴのタルトを持って行った。
会計時、沙織が運転する車で田舎に帰省すると話してくれた。お盆期間は来てくれないのか、と少しばかり残念に思う。
飴玉を渡して「気を付けてね」と送り出した後、客がいなくなった店内は静かだ。
盆期間は来客も殆どない。数年振りに祖父母の家に行ってみるのも悪くはない。
そんな計画を立てながら、スマートフォンを取り出した。画面には《おばあちゃんの家》の番号が表記されていた。
出てくれると良いな、そんな思いを秘めながら、呼び出し音を静かに聞いていた。
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