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その人は、誰? 熊田side
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お盆前の週末。静かな店内で、熊田は在庫のチェックをしていた。
田舎の実家の両親は顔を見るなり『早く結婚して、孫を見せろ』と口煩く言われるし、集まった親戚にも『いい子がいるから、お見合いしない?』と勧められる。
四十手前で未だ独身……両親には申し訳ないと思うが、恋愛に対して興味がないのだ。
恋愛対象は女性で、何度かお付き合いをした経験もある。このまま結婚して、家庭を築いていくのだろうと思っていたが、共に歩く未来を描くことが出来なかった。
そんなこんなで、気付けば四十手前まで独り身という状況。一人でカフェを経営するのも悪くはないし、誰にも邪魔されない時間は大切だ。
「…………」
サラサラとメモ帳にペンを走らせていた熊田の手が、ピタリと止まる。気になる子はいるが、特別な感情ではない。
とある冬の日。迷子になった彼を見て、助けてあげないと、そんな庇護欲に駆られた。
田舎の純朴な少年……二度と会う事はないだろうと思っていた。大学の最寄り駅から、熊田の経営しているカフェとは真逆の方向だ。
試験の結果はどうなったのか? 元気でやっているだろうか? 珍しく、他人に興味を持った自分に驚いたものだ。
大型連休が明け、あの少年がドアを開けた時は幻を見てるかと思った。相手も覚えていたのか、あの時の顔は未だに忘れられない。
頬を膨らませ、美味しそうに食べる顔を見たくて、試作品とか、こっそりサービスしている。相手が男の子だから、変な気は起こさないだろうと思っての事だ。
ふと、彼が『お盆は実家に帰ります』と言っていた事を思い出す。明日から休みに入るから、今日辺り来店するだろうか……
一週間と少し、会えなくなる事に少しだけ寂しさを感じる。
口いっぱい詰め込んで、ご飯を食べる姿を見れなくなることへの寂しさだろう。勝手に解釈して来店してくれるといいな、なんて考えながら在庫のチェックを再開する。
カラン……控えめに鳴らされるドアベルに「いらっしゃいませ」顔を上げると、Tシャツにジーンズ姿の彼……楓が小さく頭を下げる。
その後にはスラリとした高身長の女性が立っていて……別のお客さんと同時に入ってきたのか? 珍しい。
「素敵な雰囲気のお店ね。楓の気に入るのも分かるわ」
「でしょ! 俺のお気に入りのカフェなんだ」
「あたしも近かったら、毎日通うわ」
話をしながらボックス席に着席する。随分、親しいようだけど、彼女との関係は……? そこまで考え、ダメだと小さく頭を振った。
水とメニューを持っていき、背を向ける。どんな会話をしているのか気になってしまうが、勝手に聞くのは申し訳ない。……と思うが、在庫確認をしながらも意識は二人に向けられてしまう。
「マスター格好良いね。渋めの大人の魅力があって、素敵」
「……うん。それに凄く優しいんだよ。センターの時、迷子の俺を駅まで送ってくれて」
「そうだったの!? そんな人と再会できるなんて、運命じゃないの?」
キャッキャッと騒ぐ彼女の声は、熊田の耳には届いていない。楓に格好良いと思われていた事に、一人動揺していた。
四十手前のおじさんに対して、格好良いと思ってもらえていたのかと。嬉しくて噛み締めていると「注文良いですか?」呼ばれて、席へと向かったのだった。
田舎の実家の両親は顔を見るなり『早く結婚して、孫を見せろ』と口煩く言われるし、集まった親戚にも『いい子がいるから、お見合いしない?』と勧められる。
四十手前で未だ独身……両親には申し訳ないと思うが、恋愛に対して興味がないのだ。
恋愛対象は女性で、何度かお付き合いをした経験もある。このまま結婚して、家庭を築いていくのだろうと思っていたが、共に歩く未来を描くことが出来なかった。
そんなこんなで、気付けば四十手前まで独り身という状況。一人でカフェを経営するのも悪くはないし、誰にも邪魔されない時間は大切だ。
「…………」
サラサラとメモ帳にペンを走らせていた熊田の手が、ピタリと止まる。気になる子はいるが、特別な感情ではない。
とある冬の日。迷子になった彼を見て、助けてあげないと、そんな庇護欲に駆られた。
田舎の純朴な少年……二度と会う事はないだろうと思っていた。大学の最寄り駅から、熊田の経営しているカフェとは真逆の方向だ。
試験の結果はどうなったのか? 元気でやっているだろうか? 珍しく、他人に興味を持った自分に驚いたものだ。
大型連休が明け、あの少年がドアを開けた時は幻を見てるかと思った。相手も覚えていたのか、あの時の顔は未だに忘れられない。
頬を膨らませ、美味しそうに食べる顔を見たくて、試作品とか、こっそりサービスしている。相手が男の子だから、変な気は起こさないだろうと思っての事だ。
ふと、彼が『お盆は実家に帰ります』と言っていた事を思い出す。明日から休みに入るから、今日辺り来店するだろうか……
一週間と少し、会えなくなる事に少しだけ寂しさを感じる。
口いっぱい詰め込んで、ご飯を食べる姿を見れなくなることへの寂しさだろう。勝手に解釈して来店してくれるといいな、なんて考えながら在庫のチェックを再開する。
カラン……控えめに鳴らされるドアベルに「いらっしゃいませ」顔を上げると、Tシャツにジーンズ姿の彼……楓が小さく頭を下げる。
その後にはスラリとした高身長の女性が立っていて……別のお客さんと同時に入ってきたのか? 珍しい。
「素敵な雰囲気のお店ね。楓の気に入るのも分かるわ」
「でしょ! 俺のお気に入りのカフェなんだ」
「あたしも近かったら、毎日通うわ」
話をしながらボックス席に着席する。随分、親しいようだけど、彼女との関係は……? そこまで考え、ダメだと小さく頭を振った。
水とメニューを持っていき、背を向ける。どんな会話をしているのか気になってしまうが、勝手に聞くのは申し訳ない。……と思うが、在庫確認をしながらも意識は二人に向けられてしまう。
「マスター格好良いね。渋めの大人の魅力があって、素敵」
「……うん。それに凄く優しいんだよ。センターの時、迷子の俺を駅まで送ってくれて」
「そうだったの!? そんな人と再会できるなんて、運命じゃないの?」
キャッキャッと騒ぐ彼女の声は、熊田の耳には届いていない。楓に格好良いと思われていた事に、一人動揺していた。
四十手前のおじさんに対して、格好良いと思ってもらえていたのかと。嬉しくて噛み締めていると「注文良いですか?」呼ばれて、席へと向かったのだった。
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