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再会した幼馴染が殺し屋になっていて、僕の命が狙われています。
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夏休み後半になると、体調が優れない日が続いていた。
倦怠感があり、思考が働かずボンヤリとする。脳みそに霧が掛かっていて、自分が自分ではなくなってしまうような、嫌な感覚を覚えていた。
それでも瀬戸から貰ったラムネ菓子を食べると、症状が一時的に落ち着くので、徐々に食べる量が増えている。食べた後に勉強をすると集中力が上がるので、食べないと落ち着かない。
夏休みが明け、学校に登校するとクラスメイトには「随分痩せたな。大丈夫か?」と心配されて声を掛けられる。
ずっと入院してたから、運動もしてなかったから。適当に誤魔化していたが、教室から出て行きトイレへ向かう。
覚束無い足取り、視界がぼやける。少し動いただけで息切れがしてしまい、自分の身体はどうなってしまったんだろう? と不安が過ぎる。
「……い、おい! 遊佐っ!」
「――――っ!?」
声を掛けられている事に気付かず、フラフラ歩いていると、後ろから肩を掴まれる。グラリと身体が傾くと、その場にペタンと床に座り込んでしまった。
「きっぺー、くん?」
「……保健室行くぞ」
そっと耳元で囁いた後、伊織の身体を軽々と持ち上げられる。周囲の声が上がるが、伊織は表情を変える事無く桔平の顔をボンヤリと見上げた。
険しい表情をして足早に保健室へと向かい、保険医に「ベッド借ります」と断りを入れて、伊織の身体をベッドに横たわらせた。
「遊佐。夏休み中に何があった?」
「……なに、か?」
「何か変なもんとか、飲まされたり、食わされたりしてないか?」
思い当たる節はない。だけど、普通に食事をして、遊んで、勉強をしていただけで変わった事はしていない。食べ過ぎて、胃腸薬を飲んだくらいだ。
(あ、頭スッキリさせたいから……ラムネ食べよう)
ボンヤリしながら制服のポケットに手を入れて、緑色の容器を取り出す。手の平に取って、口に入れようとした瞬間、桔平が伊織の手首を掴み阻止する。
意味がわからず、首を傾げて見つめると「これ誰からもらった?」低い声で問われた。
「……瀬戸さん、だけど」
「もしかして夏休み中、ずっと食ってた?」
「うん。ラムネ菓子を食べると、集中出来るから」
「…………そうか。他に変わった事は?」
「…………?」
桔平の言葉の意味がわからず、曖昧に笑って首を傾げる。変わったことは何もない。
瀬戸も変わらず警護してくれているし、祖父母も元気だ。何もないよと笑いながら答えたのに、桔平は眉間にシワを寄せている。
「お前さ、自分が笑ってないって気付いてないのか?」
「え……?」
指摘されて、自分の頬に手を触れる。今だって笑っているはずなのに、口角が上がっておらず、表情筋が動いていなかった事に触れて気付いた。
「桔平君、僕……どうなるのかな?」
ずっと漠然とした不安が胸の奥にあった。このまま自分ではなくなっていく恐怖を感じていて、不安を払拭するように貰ったラムネ菓子を食べて消していた。
途中でおかしいと気付いたけど、食べる事で不安が解消されて、集中力が上がる。気付かない振りをしていたのも自分自身の責任なのはわかっている。
「ずっと怖かった。僕が僕じゃなくなっていく。……だけど、これを食べないと不安で仕方がないんだ」
「まさか、長期間の休みの間にやられるとはな。本当、厄介なことばっかりしやがって」
苛立ちながら悪態とついて、ため息をついた後に伊織に背を向ける。保険医がいる状態で、普通に会話していたが、良かったのだろうか? 頭の片隅で考えるが、いいやと軽く頭を振った。
「……駿河さん。薬剤耐性のやつって、今ありますか?」
ジッと伊織を見つめた後、保険医の名を呼ぶ。今年度から新しく入った保険医がいたな、とボンヤリしながら桔平を見つめた。
「あんたねぇ、休み前に頭領に怒られたでしょ。その子を助けるつもりなの?」
「……お願いします。手遅れだった場合、責任は全て俺が持ちます」
「はぁ、分かった。私は一切関わってない。全て最上の独断って事にしておくからね。それと遊佐君が持ってるラムネ菓子、私が貰ってもいいかしら?」
カーテンを開けて透明な液体を手にした保険医・駿河が入ってくる。ふくよかな体型で、優しそうな笑顔を浮かべている姿は母のような暖かさがある。
伊織が手にしているラムネ菓子を渡すよう、手を差し出され、小さく頷いて手の平に載せた。
「これが本物なら、解毒薬もできると思うわ。これ使って副作用が出た人は初めてだから、元々耐性があったかもしれないわね」
ラムネ菓子をしげしげと見つめて、独り言のように呟く。何の話をしているのだろう? 不思議に思いながら見つめていると「その薬、早めに飲んじゃって」笑われてしまった。
何の疑いも無く透明な液体を飲み干すと「警戒心も無くなってるのか」桔平の呆れた声が聞こえてきた。
「そういえば、そうだね。桔平君、僕の命狙ってるのに」
「毒だったら、どうしよう。とか考えなかったのか? 本当、お前は昔から抜けてるよな」
「……最近は特にね、言われた事を受動的に行うだけになってたんだ。疑いも無く、普通に飲んじゃったけど」
力なく笑うと「今はそれでいい」とポンポンと頭を撫でられる。幼い頃の自分達に戻れたような気がして、ぎこちなく伊織も笑みを浮かべた。
三日後。
桔平から「効果が出るか分からないけど、代わりのこれ食ってろ」渡されたのは、お馴染みの緑色の容器だった。
言われるまま頷き、ラムネ菓子を食べ始めた。1週間もすれば、脳みその中の霧のようなものも晴れて、不安も解消されていった。
一ヶ月が経った頃には、元の伊織に戻っていて、瀬戸からは「ラムネ菓子食ってるか?」疑問をもたれたが、同じ容器と白いラムネ菓子を見せて納得してもらった。
週末には登山行事が待っている。以前のように身体が動くようになっていた伊織は、登山が楽しみで心躍らせていたのだった。
倦怠感があり、思考が働かずボンヤリとする。脳みそに霧が掛かっていて、自分が自分ではなくなってしまうような、嫌な感覚を覚えていた。
それでも瀬戸から貰ったラムネ菓子を食べると、症状が一時的に落ち着くので、徐々に食べる量が増えている。食べた後に勉強をすると集中力が上がるので、食べないと落ち着かない。
夏休みが明け、学校に登校するとクラスメイトには「随分痩せたな。大丈夫か?」と心配されて声を掛けられる。
ずっと入院してたから、運動もしてなかったから。適当に誤魔化していたが、教室から出て行きトイレへ向かう。
覚束無い足取り、視界がぼやける。少し動いただけで息切れがしてしまい、自分の身体はどうなってしまったんだろう? と不安が過ぎる。
「……い、おい! 遊佐っ!」
「――――っ!?」
声を掛けられている事に気付かず、フラフラ歩いていると、後ろから肩を掴まれる。グラリと身体が傾くと、その場にペタンと床に座り込んでしまった。
「きっぺー、くん?」
「……保健室行くぞ」
そっと耳元で囁いた後、伊織の身体を軽々と持ち上げられる。周囲の声が上がるが、伊織は表情を変える事無く桔平の顔をボンヤリと見上げた。
険しい表情をして足早に保健室へと向かい、保険医に「ベッド借ります」と断りを入れて、伊織の身体をベッドに横たわらせた。
「遊佐。夏休み中に何があった?」
「……なに、か?」
「何か変なもんとか、飲まされたり、食わされたりしてないか?」
思い当たる節はない。だけど、普通に食事をして、遊んで、勉強をしていただけで変わった事はしていない。食べ過ぎて、胃腸薬を飲んだくらいだ。
(あ、頭スッキリさせたいから……ラムネ食べよう)
ボンヤリしながら制服のポケットに手を入れて、緑色の容器を取り出す。手の平に取って、口に入れようとした瞬間、桔平が伊織の手首を掴み阻止する。
意味がわからず、首を傾げて見つめると「これ誰からもらった?」低い声で問われた。
「……瀬戸さん、だけど」
「もしかして夏休み中、ずっと食ってた?」
「うん。ラムネ菓子を食べると、集中出来るから」
「…………そうか。他に変わった事は?」
「…………?」
桔平の言葉の意味がわからず、曖昧に笑って首を傾げる。変わったことは何もない。
瀬戸も変わらず警護してくれているし、祖父母も元気だ。何もないよと笑いながら答えたのに、桔平は眉間にシワを寄せている。
「お前さ、自分が笑ってないって気付いてないのか?」
「え……?」
指摘されて、自分の頬に手を触れる。今だって笑っているはずなのに、口角が上がっておらず、表情筋が動いていなかった事に触れて気付いた。
「桔平君、僕……どうなるのかな?」
ずっと漠然とした不安が胸の奥にあった。このまま自分ではなくなっていく恐怖を感じていて、不安を払拭するように貰ったラムネ菓子を食べて消していた。
途中でおかしいと気付いたけど、食べる事で不安が解消されて、集中力が上がる。気付かない振りをしていたのも自分自身の責任なのはわかっている。
「ずっと怖かった。僕が僕じゃなくなっていく。……だけど、これを食べないと不安で仕方がないんだ」
「まさか、長期間の休みの間にやられるとはな。本当、厄介なことばっかりしやがって」
苛立ちながら悪態とついて、ため息をついた後に伊織に背を向ける。保険医がいる状態で、普通に会話していたが、良かったのだろうか? 頭の片隅で考えるが、いいやと軽く頭を振った。
「……駿河さん。薬剤耐性のやつって、今ありますか?」
ジッと伊織を見つめた後、保険医の名を呼ぶ。今年度から新しく入った保険医がいたな、とボンヤリしながら桔平を見つめた。
「あんたねぇ、休み前に頭領に怒られたでしょ。その子を助けるつもりなの?」
「……お願いします。手遅れだった場合、責任は全て俺が持ちます」
「はぁ、分かった。私は一切関わってない。全て最上の独断って事にしておくからね。それと遊佐君が持ってるラムネ菓子、私が貰ってもいいかしら?」
カーテンを開けて透明な液体を手にした保険医・駿河が入ってくる。ふくよかな体型で、優しそうな笑顔を浮かべている姿は母のような暖かさがある。
伊織が手にしているラムネ菓子を渡すよう、手を差し出され、小さく頷いて手の平に載せた。
「これが本物なら、解毒薬もできると思うわ。これ使って副作用が出た人は初めてだから、元々耐性があったかもしれないわね」
ラムネ菓子をしげしげと見つめて、独り言のように呟く。何の話をしているのだろう? 不思議に思いながら見つめていると「その薬、早めに飲んじゃって」笑われてしまった。
何の疑いも無く透明な液体を飲み干すと「警戒心も無くなってるのか」桔平の呆れた声が聞こえてきた。
「そういえば、そうだね。桔平君、僕の命狙ってるのに」
「毒だったら、どうしよう。とか考えなかったのか? 本当、お前は昔から抜けてるよな」
「……最近は特にね、言われた事を受動的に行うだけになってたんだ。疑いも無く、普通に飲んじゃったけど」
力なく笑うと「今はそれでいい」とポンポンと頭を撫でられる。幼い頃の自分達に戻れたような気がして、ぎこちなく伊織も笑みを浮かべた。
三日後。
桔平から「効果が出るか分からないけど、代わりのこれ食ってろ」渡されたのは、お馴染みの緑色の容器だった。
言われるまま頷き、ラムネ菓子を食べ始めた。1週間もすれば、脳みその中の霧のようなものも晴れて、不安も解消されていった。
一ヶ月が経った頃には、元の伊織に戻っていて、瀬戸からは「ラムネ菓子食ってるか?」疑問をもたれたが、同じ容器と白いラムネ菓子を見せて納得してもらった。
週末には登山行事が待っている。以前のように身体が動くようになっていた伊織は、登山が楽しみで心躍らせていたのだった。
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