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子は鎹

195 恨み

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ロンテ先輩の案内を元に進んでいくと、あちこちから黒服達が飛び出してくる。

 出てくる度に殴り飛ばして、魔法を放って蹴散らしていく。

 狭いけど、ロンテ先輩のおと魔法でどこから来ているのか察知できるので特段こちらが不利になることはなかった。

 それでも黒服達の波はおさまることはなく、次から次に現れる。

「きりねえな!?なんだのこの数!」

「雑兵だが数だけはいっちょ前だな……!」

 多分、今出てきている黒服達は雇われているのか、それとも忠誠心の高いだけの下っぱかは捨て駒のようなものだろう。

「そういえば、二人とも着て良かったんですか?ロンテ先輩は監視がついているし、ビーグル先輩は卒業してるし」

 この二人、誘いはかけたものの来てくれるとは思っていなかった。

 ロンテ先輩は冬の件で監視がついていて、あまり好き勝手できないし、ビーグル先輩は魔法学校を卒業したばかりで実家に帰ってるはずだ。

 貴族で、時期当主である二人が、こんな危ないことに手を出すのは立場を考えると難しいと思っていたのだ。

「は?こんな時にそれか?」

「いいでしょ。今じゃないと聞く機会なくなりそうだし、気をまぎらわせたいんですよ」

 先生達を信じているし簡単に負けるとも思っていない。

 だけどローシュテールのようなタフで簡単に倒れないような相手が出たら?

 対策はある、だけど不安に思わずにはいられないのだ。

「そりゃお前、オレに変な薬盛りやがった報復だよ」

「先輩はチンピラでしたっけ?」

「貴族だよ。くそ後輩」

「ははは」

 やっぱり、この一口悪い。

 貴族の癖に言動がチンピラじみてるから、初見じゃ貴族だなんて思いもしないだろう。

 これでパーティーとか、貴族関係の人が多い場所だとおもいっきり猫をかぶるのだから面白い。

「ロンテ先輩は?」

「うちを壊した復讐」

「うわ、目に光がない」

「気持ちはわかるけど、落ち着けよ」

「そう言うローくんも目が怖いですわよ……」

 これは触れない方が良かったのかもしれない。

 ロンテ先輩とローレスの目に一切の光がないのが怖い、深淵を除いている気分になる。

 憤怒の薬が原因で家庭崩壊に陥ってしまったから、ロンテ先輩とローレスの言っていることもわかるが真顔で光のない目なのが怖い。

 内心、大荒れで、ブチギレてるんだろうな……。

 心中察するにあまりある。

 ローシュテールとモカノフが行っていた取引は十中八九、憤怒の薬関連だろうし、今向かっている研究施設も関わりがありそうなんだよね。

「ん?開けたところに出るぞ」

 ロンテ先輩がそう言って数分後、綺麗な四角形の形をした開けた場所に出た。

 まるで私達がくることがわかっていたから用意された、まさしく“おあつらえ向き”な空間のようで、どこか不気味さすら感じる。

「とっとと進みましょう。こんなところだと、いつ襲われるかわからないわ」

「そうですねえ。まるで、そのために作った、みたいな場所ですしい」

「入ってわかったことだけど、ここ方向感覚おかしくなるな」

「狭いのと、回りが建物にか困れてるせいで自分がどこにいるのかすらわからなくなっちまうぜ……」

「先輩さまさまですわ」

「よくもまあ、この辺りアジトにしようと思ったな……」

「ここだからこそ、だろ。侵入は容易じゃねえんだからよ」

「なんか似たような光景ばっかで酔ってきたッス……」

「しっかりしてくださいよ。多聞さん……」

「空を見ていたらどう?落ち着くと思うよ」

「カリヤ先輩達大丈夫かしら……。ロンテ先輩?さっきから黙って、どうし__あれ?」

 皆が口々に喋っているとミューがロンテ先輩の様子がおかしいことに気がついたと同時に首をかしげた。

 ロンテ先輩は額から汗を流し、誰もいないはずの向かい側を睨んでいる。

「誰か隠れてるだろ。うっすらと心音が聞こえんだよ」

 一瞬にして皆が黙り、開けた周囲に静寂が訪れる。

 なにも心音らしきものは聞こえない、聞こえてくる音といえば先生達が戦っている音ぐらいだ。

 恐らくはロンテ先輩の得意な音魔法で誰かの心音を検知したんだろう。

 カツン__

 誰もいなかったはずの、そこにはピエロの面を被って燕尾服を着ているモカノフがいた。

 モカノフはロンテ先輩を褒め称えるように、拍手をする。

「よくぞ、見抜きましたね。流石はブレイブ家の時期当主です」

「……」

「魔法で姿も匂いも消していたのですがね」

 ピエロの面を被っているから表情は読み取れないが、声だけで判断すると状態的に一対多数なのに焦りもなにも感じさせない。

 演技なのかもしれないけど、侮れないだろう。

「モカノフだ……」

「あのピエロがモカノフでいいんだな?」

「はい、私を襲ってきたやつらの筆頭ですよ」

 ロンテ先輩とローレスの表情は険しいものになり、ギロリとモカノフを睨み付けている。

「そう、私こそが虚飾の幹部であるキャシー・ミシー様に支えるモカノフと申します。あぁ、とある方がまんまと作戦に引っ掛かったからしっている人が多そうですね。ここまで大勢で要らしたことはなかったので驚きです」

 モカノフはそう言うとうやうやうしく礼をして、私達を煽るような発言をしたが私達はそれに食いつかなかった。

 それを見てつまらないとでも言いたげにひとつ舌打ちをする。

「そこら辺どうでもいいわ。ローシュテールと取引したのはお前だな?憤怒の薬を飲ませたのも、お前か?」

「確かに取引はいたしました。ですがローシュテール様に一番最初に薬を飲ませたのは私どもではありません」

「ブレイブ家に憤怒の薬を流してお父様やお母様に薬を盛ったのはお前達か?」

「薬も、私達がローシュテール様に売らせていただきました。ですが、盛ったことはありません」

 取引もしてたし、売りはしてたけど、ローシュテールを唆したのは別人ってことか……。

 こんな薬を布教してるやつがいるのなら早いこと捕まえないと大変なことになるな。

 アジトに資料あるかな?

「売ったんだな?あのろくでもねえ薬を」

「効果を知っていて、お父様に売ったんだな?」

「はい」

 モカノフが二人の質問に肯定で返したとたん、ズドンと周囲一体の空気が重たくなる。

 まるで威嚇する野生動物のように、二人の魔力が膨れ上がった。

 二人がキレた。

 二人は家族を、幸せな家庭を壊された被害者である。

 二人とも、起こっていたことは別だが酷いことをされても、酷いことをされる原因になっていたとしても、親は親で子は子のようだ。

 大事なものを壊すきっかけになった人物を目の前にして、情が深いような、家族の愛に餓えているような者に制止など意味はない。

「覚悟しろ」

「地獄見せてやる」

 私達が止める隙もなく、二人はモカノフに猛攻をしかけた。

 怒りに振りきっている二人を見ると不安とかどこかに消えてしまった。

 自分よりも荒れてる人間がいると落ち着くって本当なんだね。

「どうする?」

「いや、止められないし止めれないわよ……。それに、流石にこの人数相手だと何人か別れて先に行った方がいいわね」

 ミューが匂いで察知したらし、モカノフの合図と共にあちこちから黒服達が現れてきた。

 これは、いつぞやのパーティー会場襲撃事件以上の人数だし、薬を使っている者もいる。

 本当におあつらえ向きだな……。

「じゃあ、予定どおりに……。散解!」

 先に進めないように固まっていた黒服達を多聞さんが盾で吹き飛ばす。

 その隙に私とメメ、ベイノット、ビーグル先輩、皇さん、柴くんが先に進む。

 ロンテ先輩とローレス、ララ、多聞さん、ミューは残留だ。

 後ろを確認するが、別れたそばから各個撃破していく腹積もりなのか、追ってきてはいない。

 親玉らしい者も出てきていないし、もしかしてこのまま出てくるきないとか?

 いや、流石にないか。

「メメ、いけるか?」

「大丈夫ですわ!」

 ロンテ先輩の道案内がなくなった今、代わりに目的地に向かって案内役になってくれるのはメメ。

 メメの傀儡魔法で上から道を確認して、メメが先導をきって進んでいくと言う感じ。

 隣に皇さんがついているので、危ないと言うこともさほどない。

 それはそうと、ぶちギレていた二人が気になる。

 流石に、殺さない……よな?
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