苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

189 万事休す

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永華視点

形勢が逆転しだし、ネシャが強欲の薬を飲んだ十分程度後の事、三人は軍人達と教師達が戦うという事情を知らなければ何が起こっているのかわからない光景を唖然と見ていた。

 何が、起こっている?

 私たちが黒服達から逃げ回っている間に何が起こった?

 わからない、わからないが言えることは一つだけだ。

 マーマリア先生とジャーニー先生は、まだいいとしてだ。

 このままだとザベル先生が負けてしまう。

 大柄の軍人は理性をなくしているのか、いつぞやのビーグル先輩やシマシマベアーのように理性をなくした獣のようになっている。

 混乱が頭のなかを埋めつくし、迫りくる新たな的に気がつくのが遅れた。

 迫りくる弓矢、気がついたのは佐之助さんの眼前に迫ったときだった。

「あぶっ、なっ……!」

 佐之助さんの首筋に一筋の赤い線が出来上がる。

 なんとか避けたは良いものの、足を踏み外して屋根から転げ落ちてしまう。

 佐之助さんが転げ落ちたときにララと私も空中に放り出されることになり、私以外の二人は無事着地できたが私は受け身を取りつつも足が動かせないことで着地に失敗してしまった。

 使えない状態の足から着地して、しまいには背中を強打っていう形になったが、どこかしたの骨が折れるよりもましだろう。

「永華!!」

 起き上がったララが私の元に駆け寄ってくる。

「怪我は?」

「打撲以外ないと思う」

 足の激痛のせいで、骨が折れたくらいじゃ気づけない気もするけど……。

「わりい、気ぃ取られてた」

 佐之助さんは脇腹を押さえている。

「いや、あれは誰だって驚くわよ。なんで……」

「多分、ヘラクレスが言ってた、妨害工作をするために潜入しているやつらがいるって。きっとソイツらだよ」

 そうじゃないと、軍とメルリス魔法学校の教師が敵対する理由が見当たらない。

 あの人たちは火事の方に行ったはずなのに、ここにいて先生達と戦っているってことは、あの三人が潜入しているやつら?

 もしかしたら唆された人もいるかもしれないけど、どっちにしろ同じか。

 でも、妨害工作したいた人たちがこうも派手に動き出したんなら、もう終わりにするつもりなんだろうな……。

 ヘラクレスの冤罪は……私を魔法学校から引っ張り出すのと、ヘラクレスをよく思っていない人たちを唆のかす口実?

 先生と軍人さん達が戦っているのは、多分ララが打ち上げた魔法を見た先生がいて来てくれたのを、私たちを追いかけようとしている軍人さん達にあって戦いになった?

 いや、でも軍人さんの数が少ないけど……もしかして計画になんの関係もない邪魔な軍人を消した?

 あ、それでその場面を見られて戦闘になってる?

 それなら先生達が戦っているのも頷ける。

 でもここまで派手にしているのなら自分達の存在がばれかねないんじゃ……。

 全部ヘラクレスに被せるつもりなのかな……。

 いや、ヘラクレスは襲撃犯の三人が死んだ事件の容疑者になっているから簡単に外に出られないはず……。

 監視がつけられてるだろうし、これ以上何かあったら軍の沽券に関わるだろうからね。

 だからヘラクレスに罪を被せるのは無理があるだろう。

 だったら、ここまでの騒動を誰が被ることになる?

 ヘラクレスをよく思ってない者に被せるのか?

 そんな捨て駒みたいな使い方したら……・

 いや、前の事を思えば使い捨てにするのも変じゃないし、お互いわかってるところあるのかも……。

 なら唆したものをぶつけるつもりなのかな?

 だったら最初の誘導は一体なんのために?

 先生達との合流をさせないため?

「おわ!?」

 佐之助さんに抱えられ、先生達と合流しようと動き出したとき、佐之助さんがフラりと倒れて、私も巻き込まれてしまう。

「あてて……佐之助さん?」

 呼び掛けても返事はない。

「ちょっと!どうしたのよ!?」

「わ、かん、ねぇ……」

 佐之助さんは体が力が入らないのか、起き上がろうとしても腕が振るえて、そのうちベシャッと崩れてしまった。

「な、んで……」

 まさか、佐之助さんも私のように鈍いでも抱えられているのだろうか?

 そう考えたとき、屋根から転げ落ちる原因になった弓矢でおっただろう首筋の怪我が目に入る。

 そういえば、最初に飛んできた弓矢二本、あれの矢じりにはなにかが塗られていたのを覚えている。

 佐之助さんがかすった弓矢の矢じりにも、何かが塗られていて、それが体が動かなくなるような体が麻痺するタイプの毒だったとしたら?

 そうだったら佐之助さんが動けなくなっていることにも納得だ。

 動けない人間が二人は、小柄で到底動けない二人を運べるとは思えないララ、この状態で黒服達が追い付いてきたらどうなるか。

 それは明白だ。

 カツン__

 あぁ、最悪だ。

 藁人形を持った黒服が、仲間を引き連れて現れた。

「あぁ、やっと望んだ状態になった」

 ニタリと笑う黒服。

 先生達との合流は、今も聞こえてくる戦闘音を考えれば無理があるだろう。

 援軍も、見込めないと思う。

「ど、どうしよう……」

 私も佐之助さんも動けない。

 佐之助さんが魔法を使えるかわからないが、今の状態を考えると使えないと考えた方がいいかもしれない。

 事故魔法は痛みのせいでうまく使えなかったけど、詠唱アリの魔法なら流石に使えるでしょ。

 流石に使わないとヤバイ……。

「ララ、私達を置いていっていいから誰か呼んできてくれる?先生でも、いつメンでも誰もでもいいから」

「え?お、置いていけって……。この状態で置いていったらどうなるかわかっていってるの!?」

「だからって共倒れもできないでしょ!」

「近くにいる先生達を呼べばいいじゃない!」

 私の悪い勘が当たってるんだったら、先生達は私達の方にこれないと思うんだ。

 あの時に見た軍人さんの一人が正気を失っていそうなのを見たが、やっぱりあれは強欲の薬を打たれたときの様子と似ている気がする。

 あっているのだったら……下手したらローシュテールの時のようになっているかもしれない。

 ビーグル先輩の時は症状が出始めたときだったし、魔法を乱発するだけで、わりと簡単に気絶させられたからわからないけど……。

 今回は軍人だし、精神的にも肉体的にも強い人だろう。

 あの薬がうまい具合に作用したら?

 一等タフで一等強い暴力人形の出来上がりだ。

「無理だと思うよ。ザベル先生と戦ってた軍人、あの人はローシュテールと同じ状態なんじゃないかと思うんだ」

「……そ、れは」

 ララは私と同じように、似ていると感じているのか、黙ってしまう。

 黒服達がよってくる。

「はやく!佐之助さんなら私が守るから、適当な箒でも使って!」

「……わ、わか__」

 ドォン!!__

 ララが返事をしようとしたとき、黒服のうちの一人が魔法を放った。

 とっさに頭を庇うが上から小さい瓦礫が落ちてきた。

「君にいなくなられたら困るな。君は計画の要なんだから」

「は?」

 ララが計画の要?

 一体、どういう……。

 上から、また足音が聞こえた。

 さっきの魔法は、時間稼ぎの一貫だったらしい。

 どうも、少しだけでも私達の動きを止められればよかったらしく、周囲を黒服達に囲まれてしまった。

 これは、ララが逃げるのも困難かもしれない。

 箒で空を飛んで逃げるのなら、一縷の希望はあっても……。

 いや、空を飛んで人なんて格好の的になりかねないか。

 走って逃げようにも、この人数をどうやってかわすか……。

 魔法で範囲攻撃を仕掛ければワンチャンあるかな。

 私がやって、うまい具合に黒服達にあてられるかはわからないけど……。

 それをしたとしても、どこかで取りこぼしがあったら即捕まえられるかもしれないし、ララが逃げられたとしても私と佐之助さんを殺せるだけの黒服を残して追いかけていきそうだな。

 まさしく万事休す、か。
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