苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

188 形勢は?

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大柄、巨体であるネシャが吹き飛んだ。

 ネシャを吹き飛ばしたのはファイティングポーズを取ったザベルだ。

「急ごしらえの身体強化魔法か。にしちゃ良いパンチだな、普段かは鍛えてるな」

「当たり前だ。魔導師は剣士等に競べ詠唱という時間をとる行為を必要とする。詠唱時に無防備になる自分の身を守るため、師匠から体を鍛えろときつく言われていてな」

 ザベルの発言にネシャはニヤリと醜悪に笑う。

「そうか、そうか。楽しめそうだ」

 ネシャは生まれながらに暴力が好きである。

 スラムなどに生まれ日常的に暴力さらされて生きてきたわけでもなく、平凡な家庭に突如として生まれたモンスターである。

 ネシャが軍には言ったのだって、好きなだけ体を鍛えられるからだし、合法的に暴力を触れるからである。

 まぁ、暴力は好きではあるが、それと同じぐらい権力も好きであるし、あまり頭もよくないので、ヘラクレスへの嫉妬心と見下す心をカンツァーネにつつかれて立場を捨てるような短絡的な真似をしてしまっている。

 ネシャは数々の功績をあげていると同時に、数々の失態をおかしているが、その失態というものは喧嘩沙汰や過剰な暴力により相手を入院、又は死亡させていることである。

 そんなことをしていてなぜ軍に所属できているのか、それは一重に数々の功績があったからである。

 ネシャという暴力装置はいるだけで犯罪者の行動を抑制できる存在であり、もし犯罪者がなにか暴力でどうにかなるような事件を起こしたときに投入すればことが迅速に片付くのだ。

 それに、わざわざ軍から追い出して民間や他施設に損害が出ることを考えれば軍に縛り付けておいた方がいろんな意味でお得なのである。

 ネシャは暴力を振るうのが好きなのだ。

「殴り合いなど、好きではないのだがな……」

「片腕の状態でどこまでできるかなあ!?」

 ネシャは己の頭から流れる血を気にすることもなく、ザベルに殴りかかった。

 ザベルはネシャの鋭いパンチをギリギリのところで避け、頬にかするのも気にすることはなく、折れていない方の手でネシャの顎に向けて拳を振るう。

 ザベルの拳がネシャの顎に綺麗にはいったが、ネシャはニヤリと笑いザベルの腕を掴んだかと思うとぐるぐると回りだした。

 勢いよく回っている途中で離されたザベルは勢いはそのままに壁に激突するかと思われたが、箒が現れてザベルをさらって空に浮かぶ。

「簡単に行かねえわな」

「肩抜けるかと思った……」

 そう言いつつ、距離が空いたのを良いことに魔法を打ち込んでいく。

 いくら殴っても魔法をうってもネシャが倒れることはなかった。

 元々のタフさもあるのだろうし、身体強化魔法を使っていることから多少タフであるのならば納得であるのだが……。

 このタフさは異常に感じてしまう。

 まるで永華達の報告で聞いたローシュテールのようにタフだ。

「……いや、まさか」

 ザベルのこぼした言葉が聞こえていたのか、ネシャはニヤリと笑う。

 何をするのかと思ったら、懐から“グリード”と書かれた瓶を取り出して中身を一気にのみ干した。

「ちょっとずつ強化なんて生ぬりぃことしてられっかよ」

「……最悪だ」

 ネシャは瓶を投げ捨てると雄叫びをあげた。

 ネシャの目には辛うじての理性のようなものは見て取れるが、何れはいつかのビーグルのようになってしまうだろう。

 本当に最悪だと、ザベルは一人心の中でこぼす。



 一方、ベルドとマーマリアの方はと言うとネシャが吹き飛んだことに驚いたベルドが、一瞬だけ固まりマーマリアは、その一瞬の隙を見逃すことはなく、ベルドへ接近して腕に触__。

「しまった……!何て言うとでも?」

 __れなかった。

 ベルドに触れそうになったところで静電気のような感覚が腕に走る。

 魔法が弾かれた感覚のそれで、しかも薄皮一枚分くらいなにかに阻まれていた。

「あんたらは、このあたりで有名なんだから対策ぐらいするって」

 メルリス魔法学校の教師は王都では有名である。

 アスロンテ軍学校とメルリス魔法学校の生徒が揉めることがそれなりにあり、その仲裁に当たるのが各校の温厚な教師である。

 マーマリアは性格や自己魔法も相まって、喧嘩を仲裁するのに適しており、尚且つアスロンテ軍学校の教師と口論にならないだろうことから、よく選抜されていた。

 生徒同士ならまだしも教師同士となれば止める人間がいなくなるから必然的なことである。

 そして、時にマーマリアは己の自己魔法を使って喧嘩を納めることもあるので、自己魔法の効果や発動条件はある程度公になっているのだ。

 まぁ、だからと言ってマーマリアが対策をうっていないと言うわけもなく。

「でも、その対策って、一体どれだけ持つのかしらね?」

「チッ!」

 マーマリアは自分と敵対していくる者がどう言った行動を取るのか考えた結果、複数パターン思い付いた。

 物理的に触らない、魔法で効果を打ち消す、魔法で障壁を作る、等である。

 つまりは、どんな手段であれ触らせなければいい。

 最初にベルドが鞭をよういて物理的な接触を阻止してくるのならば苦戦することになるが、今回併用されている魔法で障壁を作るものは時間が問題を解決してくれる。

 魔法で障壁を作るのはもちろん魔力を消費する行為だし、魔法を弾くことも維持し続けることも、それになりに魔力を使う。

「貴方、どちらかと言えば魔力が少ない方ね?」

「うるさい!!」

 肯定も否定もなく、帰ってきたのは怒声であった。

 十中八九、図星である。

 魔力の少ないものが、そうなんども魔法障壁をはれるものではない。

 どうにかこうにか、鞭をかわして触れれば魔法障壁はなくなり、攻略難易度はだいぶん下がるだろう。

 それでもなお、鞭という強制的に距離を取らせてくる武器がある時点で攻略難易度は、元から高い方ではある。

 まぁ、それで諦めるマーマリアではない。

 なんとしてでも食らいついていく。

 ベルドがマーマリアに破れるのは時間の問題だろう。



 二人の状態に比べ、ジャーニーとカンツァーネの戦いの状態はあまり良いものではなかった。

 ジャーニーの体にはレイピアで刺されただろう小さい穴が体のあちこちにあり、左の肩にある穴は貫通しているように見える。

「周囲をお得意の魔法植物でおおっても、俺の早さには追い付けないんだったら意味ないね。体鍛えた方がいいんじゃない?おじさん」

「お前こそ、眼科言った方がいいぜ」

 カンツァーネはジャーニーの言葉に少しばかりイラッとくるが、それを飲み込んで平静を保つ。

 あちこち怪我だらけだというのにも関わらず、ジャーニーは余裕綽々としており、怪我なんて気にしている素振りもない。

 あれだけ血を流し、あちこちに怪我をしていると言うのに痛がる素振りもなければ貧血になっている様子もないのだ。

 カンツァーネは違和感を抱きつつも余裕を崩さないジャーニーに向かっていく。

 ジャーニーはよろよろとカンツァーネの攻撃を避けようとするが、最初の動きが嘘だったかのように動きが遅く、攻撃を受けてしまっている。

 最初の一撃や弓矢を避けたのはまぐれだったのだろうか?

 カンツァーネはそう考え出すが、どうにも違和感がぬぐえずにどうしたものかと、心の中で頭を抱えていた。

 いつだったか、誰だったか、戦闘に限らず命のやり取りをするときに感じた違和感は大事にするべきだと、これまでの経験で確信していた。

 だから今回もそうしているのだが、違和感の原因が見つからない。

 ついには頭をレイピアで貫いた瞬間。

「ふっ」

 ジャーニーがカンツァーネを小馬鹿にするように笑った。

 レイピアを引き抜こうとしたとき、カンツァーネの後頭部に衝撃が走った。

「がっ!」

 後頭部を殴られた勢いのまま、地面を転がるがすぐに起き上がる。

 一体どういうことだろうか。

 さっき、頭部にレイピアを突き刺したはずの、怪我だらけのはずのジャーニーがほとんど無傷の状態で、そこに立っていた。

「“周囲をお得意の魔法植物でおおっても、追い付けないんだったら意味がない”って?おじさんの魔法植物で作った偽物に騙されたくせによく言うよ」

 カンツァーネがさっきまで攻撃していたのはジャーニーが品種改良して産み出した魔法植物であり、ジャーニーの姿を取っていたのは身のような部分である。

 提灯あんこうの提灯と同じような役割であり、獲物を擬態した身でつることで、パクリと食べてしまうためのものである。

 本来はここまで高性能なものではないのだが、それこそジャーニーが品種改良した賜物だろう。

「まあ、体鍛えろっていうのは正論だわな。最近研究や騒ぎばっかで、ろくに動いてねえもん」

「くそっ……」

 カンツァーネの感じていた違和感、それは疑似餌であるが故の動きの鈍さと、怪我のわりに血が流れる量の少ないことだった。

「さて、どれが俺だかわかるかな?」

 そういってジャーニーは魔法植物を操り、疑似餌のなかに紛れ込んでしまった。

 カンツァーネがジャーニーに破れるのも時間の問題である。
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