苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
上 下
189 / 234
子は鎹

187 軍も

しおりを挟む
倒れた軍人を中心に血が広がっていく。

 軍人が、軍人を攻撃した?

「一体、何をしているんだ」

「何って、ゴミ処理?」

 そう平然と言ってのけると、血を流し倒れている軍人の腹部に強烈な蹴りをいれ、蹴りを入れられた軍人は呻き声をあげて壁に激突して動かなくなった。

 それを見たザベルは間髪いれずに魔法を打ち込むが優男風の軍人の後ろから鞭が飛んできて、ザベルが放った魔法は叩き落とされた。

「あぶな……」

「お前ら、軍人さま相手に魔法使ったんだからどうなるかわかるよな?」

 レイピアを持った軍人の後ろから出てきたのは鞭を持った小柄な軍人と血塗れになった大柄の軍人だった。

「あんたらこそ、これがばれたらどうなると思ってんだよ」

「ばれる?バレるわきゃねえだろ?全部アイツらに被って死んでもらうんだからよ」

「余計なこと言うな」

「おっと、わりい」

 誰かに冤罪を吹っ掛けてやろうと言う魂胆らしい。

「貴方達……。軍で妨害工作をしている人ね?」

 永華が言っていた“警察に妨害工作を行っているものがいるかもしれない”と言う言葉を聞いたとき、マーマリアはもしかしたら軍も同じ状態になっているのではないかと考えたが、当たっていたらしい。

 肯定も否定も帰ってこないが大柄な軍人がニヤリと笑い、小柄な軍人がマーマリアを睨み付け、優男はニコニコと笑っている。

「沈黙は行程と取るわよ」

「はっはは、俺は違えよ」

 大柄な軍人が答えた。

「俺はカンツァーネに誘われたんだよ」

 カンツァーネ、そう呼ばれたレイピアを持った軍人は仕方がないとでも言いたげに肩をすくめる。

「ヘラクレスの野郎、俺よりもあとからは言ったのに俺よりも出世するからなあ。しかも、アイツはスラム出身なんだって?汚れた底辺の人間が俺よりも上にいるのが気にくわねんだよ」

 大柄の軍人がつらつらと妬みにまみれた、見当違いなヘラクレスへの恨みの言葉を並べ立てていき、その言葉の羅列は聞いているだけで気分が悪くなりそうだ。

 ヘラクレスが自分より出世していることが気に入らない、ヘラクレスがスラム出身だと言うことを隠して軍に所属していることが気に入らない、ヘラクレスがスラム出身なのに自分上に立っているのが気に入らない。

 ダラダラと続けられるそれは理不尽につきる。

「ヘラクレスのことをよく思ってない奴が何人も協力してるんだ」

 魔導警察のように、黒服達が潜入しているだけならまだましだっただろうに、軍ではヘラクレスを利用してヘラクレスを気に入らない者達を率いれて戦力を確保しているとは……。

 ヘラクレスが襲撃事件の犯人三人が殺害された事件で容疑者にあがったのは、黒服達が考えた作戦だったんだろう。

 嫌なことが当たってしまうものか……。

「あ~……うちも、警察も、軍も入り込まれてるってことか」

「これならばアスロンテ軍学校も入り込まれているかもしれないな」

 アスロンテ軍学校どころか、こうも王都の主要な施設に入り込まれているのならば国中に散らばっている可能性もあるな。

「さて、あのチビッ子、邪魔でしかたがねえヘラクレスのやろうに犯罪者になってもらわねえとな。ダチと知り合いを目の前で殺されて錯乱して教師を殺しちまった生徒って、な」

「ネシャ!」

「別にいいだろう、ベルド。コイツらは死ぬんだから」

 チビッ子って、もしやヘラクレスの妹のララのことだろうか?

 あぁ、趣味が悪い……。

 ジャーニーの背後から弓矢が飛んできて、戦闘が始まった。

 メルリス魔法学校の教師は下手な軍人よりも強いが、今マーマリア達の前にいるのは犯罪組織から潜入している者が二人と、数々の功績をあげていると同時に数々の失態をおかしている男だった。

 数の有利は向こうにあり、援護してくるものを除くと一対一のか達になっているだけましと考えるべきか……。

 そこかしこから飛んでくる魔法を避け、戦っているが犯罪組織に属している者だからか、一筋縄では行かなかった。

 大柄の軍人、ネシャの手にはナックルがはめられており、大柄のわりに素早く動きザベルとの間合いを一気に摘めて鋭い左フックをザベルの顔面に叩き込もうとする。

 ギリギリの所で腕を挟むがナックルをつけているパンチをもろに受けたせいでバキッと不穏な音がなった。

「グッ……」

「あんまり受けてばっかだとボロボロになって死ぬぞ?」

 確実に骨の一本は折れているだろう。

 優男風の軍人、カンツァーネはレイピアを杖の代わりにしてバカスカと魔力の減りなんて一切気にしていない様子で魔法を打ち続け、ジャーニーはお得意の植物を操る魔法で魔法をしのぐ。

 だが魔法に気を取られて一瞬だけカンツァーネから目を離した隙にジャーニーの魔法植物の攻撃をすさまじいスピードで掻い潜り、一気に接近したカンツァーネはレイピアでジャーニーの目を狙う。

 ジャーニーは咄嗟に魔法植物を操作して紙一重で避ける。

「あっぶな……」

「あら、避けるくらいの判断はできるんだな。おじさん」

 狙われた左目、その少しずれたこめかみの部分に赤い線が一筋できて血が垂れた。

 小柄な軍人、ベルドは魔法を発動させ自分と距離を詰めようとしているマーマリアに鞭を振るい、マーマリアは避けようとしたものの腕に鞭が絡み付く。

 その小柄な体躯に見合わぬ豪腕で鞭を振るい、マーマリアが空を舞うことになる。

 このままでは地面や壁に叩きつけられる未来がい見えているマーマリアは、なんとか腕に絡み付いた鞭をどうにか外そうと思いあがく。

 鞭が外れないことを確信すると地面に叩きつけられる寸前に魔法で極めて短距離の転移魔法を使って、地面との激突を回避した。

「危ないわね」

「殺すつもりなんだから危なくて同然だろ」

 だが転移魔法と言う高度な魔法を使ったことで魔力が大幅に削られてしまったあげく、鞭が絡み付いた手首は皮がベロンと捲れてしまっている。

 実力は教師陣と軍人達は互角か、お互い攻守譲らぬ激しい戦いになっていく。

 ここまで騒がしくなっているのに魔導警察や軍がやってこない理由、周囲に通報するような人間がいないこともそうだが、少し前に発生した家事が原因になっている。

 日が次から次へと隣家に燃え移っていき、今は四件を巻き込む大火事になっているのだ。

 軍も魔導警察もそっちの対処で手一杯で、カンツァーネ達が事前にこちら側の事件に対処するといって連絡をいれていたことも原因のうち一つである。

「本当は馬鹿正直な正義野郎みたいに後ろから刺してやるはずだったんだけどな」

「へえ、仮にも自分の仲間である者を闇討ちしたのね」

「そうだよ。まぁ、ネシャが逃してしまって、こんな真正面から戦うはめになっているんだけどね」

 弱いはずがないだろう軍人を、あんなに一方的にボコボコになっているのに疑問を持っていたが、闇討ちを行っていたのならば納得だ。

 あのボロボロになった軍人達のようにマーマリア達が闇討ちされていたら、あのボロボロになった軍人のように簡単にボロボロになっていたかもしれないと思うと寒気がした。

 マーマリアが自分の自己魔法を使えれば形勢を逆転できるかもしれないと、なんどもベルドとの距離を詰めようとするがベルドはマーマリアの自己魔法を知っているのか鞭を振るい距離を詰められないようにしている。

 なにか距離を詰めるきっかけを、そう考えてるとザベルと戦っていたネシャが吹き飛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...