苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

179 道化のピンバッチ

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走ってきたミューが勢いのままに私に掴みかかり、激しく揺さぶる。

「ねぇ!なんで怪我しているの!この前、怒ったわよね!?」

「おごごごごごご」

 激しく揺さぶられるせいで、まともに喋ることもできずにミューの質問に答えられることもなくて、だんだんと目が回ってくる。

「ミューさん!?永華さんの顔色ひどいことになっているからやめましょう!?」

 レーピオが混乱しているミューを私から引き離し、私はなんとか吐くこともなく、グワングワンと揺れ続ける視界に酔っただけだけになった。

「気持ち悪い……」

「大丈夫?」

「だいじょぶ……」

 ローレスが背中を撫でてくれた。

 だんだんと酔いは覚めてきて、ミューの混乱もだんだんと覚めていったらしく、乱暴に揺さぶったことを謝罪してくれた。

 どうもミューは獣人、しかもネコ科であることもあって匂いと音に敏感らしく、安全地帯と認識していた魔法学校の内部で決闘もないのに戦闘をしているような音と複数の血の匂いがしたことに混乱したそうだ。

 しかも血の匂いの片方は、何度も嗅いだことのある私の血の匂いだったことから更に困惑、しかも本当に私が怪我していたものだから動揺して揺さぶるに至ったのだ。

「あの、ほんとにごめん……」

 最近、色々と起こりっぱなしで精神的な負担欠けまくってるせいでこうなってしまったんだろうなと、何となく察しはつく。

 本当に申し訳ない。

「とりあえず、手当てしますのでそこに座ってくださいねえ」

「あ、うん」

 あちこちにできている傷をレーピオに手当てしてもらいながら、先生達の事情聴取を受けることになった。

「それで、この二人は一体?一命はうちの生徒のようですが……?」

「多分、二学期始まってすぐにあった襲撃事件の犯人のうちの二人だと思います」

「それって、ロンテに俺宛の手紙を渡されてた頃か?」

「それくらいだったかな」

 あの後、本当に色々なことが起こったから、ちょっと記憶がおぼろげなんだけどね。

 ことの経緯を順番に説明していく。

「行動の既視感があって、“あ、こいつだ”って思って話してみたら本人が認めたんです。多分、勝って連れていけると思ってたから言ったんでしょうね」

 けど、私が前よりも強くなっていたことと、最初に私が避けたときに鉄パイプが頭にあったていたこと、私が仕込む武器で攻撃されても怯まなかったこと、前のように逃げなかったこと何かが原因だろう。

 ただ、なにも知らない他人からしたら捕まえられると思っていたからアッサリと情報を渡してしまったのに結果的に負けてしまったのだから滑稽である。

「なるほど、我が校の生徒だったとは……。きちんと背景は調べていたんですが、こうなったら再調査が必要ですね」

「ですが、一体どうやって魔法学校に侵入したのでしょう?結界は反応しておりませんでしたよね?」

「前は魔導師もいたはずなんですけど見当たらないんですよね。たぶん、この転移魔方陣が関係あると思うんです」

 なも知らぬ先輩の懐から回収した転移魔方陣が書かれた折りたたまれた紙を取り出し、先生に渡す。

「それの先にもう一人がいるかもしれません。ペアになってるもののようですから」

 私が見つけた転移魔方陣はゲームで見るようなマーキングした場所からマーキングした場所への移動ではなく、対になる転移魔方陣のもとにしか飛べないものである。

 つまり、襲撃犯が持っていた転移魔方陣の先に、襲撃犯に関する何かしらの動かぬ証拠がある可能性が高いのだ。

「後で、数人で突撃してみましょうか。この二人は情報を引き出した後に魔導警察に引き渡しましょう」

 魔導警察に引き渡して、その後はどうなるんだろうか。

 情報は出てこない気もするから、魔法学校で情報を引き出すのには賛成だけど引き渡した後が気がかりでしかない。

 妨害こうさくをしている者がいる可能性を考えると何かしらの事件を起こして護送のと気に取り逃すとか、証言を偽造するとかやりだしそうだ。

 いっそのこと騎士に放り投げた方が襲撃犯的にも私たち的にも、ある意味?安全な気がするような気がする……。

 いっそのこと先生に騎士側に連絡をいれるように頼んでみるのもあるかもしれない。

「ん?先生、この人たち、恐らくですが魔具持っているかと」

 自分の身と、襲撃犯の身を心配しているとララが何かを見つけたらしい。

「このピンバッチ、親戚の人が見せてくれた魔具の資料に乗っていた覚えがあります」

 ララが指差したピンバッチには青いと赤い硝子のような物が、それぞれ嵌め込まれた小さな物で、傍目からみると普通のピンバッチに見える。

「どんな効果だったか、覚えていますか?」

「そこまではちょっと……。ただ、親戚からは自分の管轄で保管しているところから盗まれたので見つけたら知らせろと言われているんです。だから覚えていたんですよ」

 保管している場所はダンジョンから出てきた魔具を管理する施設であり、冒険者から買い取ったものや危険性があるがゆえに表に出せないものを保管している。

 盗み出されたのは数年前の出来事で、犯人は未だに捕まっていないことから、この襲撃犯か襲撃犯の仲間が犯人なんだろう。

 そしてララ曰く、ピンバッチは二つセットの物であり、それぞれがつけている今のような状態でないと効果を発揮しない代物らしい。

「もしかしたら、効果が判明する目に見た目ゆえにみきりをつけた冒険者が売ったから効果を覚えてないのかもしれません。物が物なら覚えているでしょうから」

 ララの説明を聞いた先生が何かあってからでは困るからと、ピンバッチを外せば激しくベルを叩くような音が辺りに響き渡たっていた。

「なっ!」

「何々何!?」

 いきなり鳴り響いた音に生徒達の表情を共学の色に染め上げて、何が起こったのか把握しようと周囲を見回す。

 音の発生源は先生達の胸元に付けられたネームプレートで、ネームプレートから吊るされているベルが激しく揺れていたのだ。

 しかもネームプレートは白色に黒い文字で名前が書かれていたものであったはずなのに、色が変わっていた。

「これは……。魔法結界が登録外の魔力を感知したと言う知らせですね」

「ピンバッチを外した途端にこれですから、ピンバッチは魔力をごまかすような効果を持ったものなんでしょうね」

「マーマリア先生、そんなのってあるんですか?こんなのがあるんだったら、魔法結界なんて意味がないのでは?」

 メメがマーマリア先生に問いかけると、マーマリア先生は苦い顔をする。

「いえ、こういう魔具はララさん言う通りに往々にして管理されているものです。ダンジョンから入手したものは効果不明なことが多いために鑑定に出されて、効果次第では効果も知らせず、管理している施設が高額で買い取るのです」

 その買い取られるものが宿す効果は今回のピンバッチのようなものなどの、国に対する“不都合”が多いものである。

「買い取られ、誰の手にも渡らないように管理されるものです。大体は、存在も知らずに生活するでしょうね」

「対抗策などのはないのでしょうか?」

「人の作った魔具ならば、簡単に弱点や対抗策を見つけられるが、ダンジョンから見つかった魔具に関してはわからない部分が大半で、弱点や対抗策を見つけるのは至難の技と言われています」

「だから、見つけた者にも効果は知らされずに、管理している施設が高額で買い取るのですね。色々と、安全のために」

「えぇ、これはあえて効果を伏せてララさんに見た目だけ教えたのかもしれませんね」

「なきにしもあらずですね。使える範囲は限られているけれど、魔力をごまかすような効果であるのならば今回のような使い方をして暗殺なんかもできそうですし」

 う~ん、物騒。

 でも本当に、言ってる通りの使い方されてるし音と匂いに敏感な獣人がいたこと、私が勝ったことで事態が発覚したけど、ミューがいなくて私が負けていたら襲撃犯達の狙いどおりの展開になっていただろうね。

 この後、ピンバッチを外したことにより各教師に知らせがいったことにより教師大集合になった。

 事情を説明した後、ララの親戚に連絡をいれてピンバッチを引き渡した。

 その後に転移魔方陣の先について確認することになったのだが、転移先には王都の郊外にある小屋に繋がったらしい。

 そこには襲撃犯二人がいつでも転移魔方陣を発動できるよう、補助員として小屋に残っていたらしくアッサリと突入した教師に捕まったそうだ。

 やっぱり、先生達よりは強く直らしい。
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